オリーブオイルはオリーブの果実を機械的または他の物理的手段で搾った油であり[1]、ごま油は日本農林規格上「ごま油」「精製ごま油」「ごまサラダ油」の3区分に分かれる種子の油である[3]。前者は果実そのものの風味を、後者は焙煎工程で生まれる香気成分を主な個性とする[4]。
- オリーブオイルはオリーブの果実を搾った油、ごま油はごまの種子を搾った油で、原料が違う。
- オリーブオイルの風味は果実そのものの成分から、ごま油の香りは種子を焙煎する工程で生まれる成分から来る。
- 日本の規格では、「ごま油」はいりごま特有の香味を残し、「精製ごま油」「ごまサラダ油」は清澄さや舌触りを重視する区分だ。
この記事は「世界の食用油脂図鑑|圧搾・精製・発煙点で油を読む」の各論です。
結論:香りの出どころが違う
オリーブオイルとごま油の違いを一言でまとめると、原料が果実か種子かという違いに尽きる。オリーブオイルは果実(オリーブの実)を搾って得る油であり、EU規則1308/2013の附属書VII第VIII部では、果実から機械的または他の物理的手段で、油に変質を生じない条件で得ることが条件とされている[1]。ごま油は種子(ごまの実)を搾って得る油であり、日本農林規格(JAS)の食用植物油脂では「ごま油」「精製ごま油」「ごまサラダ油」という3つの区分が設けられている[3]。香りの出どころもこの原料差に直結しており、オリーブオイルの風味は果実そのものの成分に由来し、ごま油の香りは種子を焙煎する工程で生まれる揮発性成分に負っている[4][5]。
| 観点 | オリーブオイル | ごま油 |
|---|---|---|
| 原料 | オリーブの果実[1] | ごまの種子[3] |
| 搾油方法の位置付け | 果実から機械的または他の物理的手段で、油に変質を生じない条件で得る[1] | JAS上「ごま油」「精製ごま油」「ごまサラダ油」の3区分に分かれる[3] |
| 香りの主な由来 | 果実そのものの風味成分 | 種子の焙煎工程で生じる揮発性成分[4][5] |
| 発煙点の規定 | 参照した規則には発煙点の規定は見当たらない[1][2] | 参照したJASにも発煙点の規定は見当たらない[3] |
果実を搾る油と種を煎って搾る油
搾油の対象が果実か種子かという差は、加工工程の入り口を分ける。果実を搾る場合は収穫した実をそのまま圧搾する工程が中心になり、種子を搾る場合は焙煎という熱を加える工程が加わる余地がある。この工程の違いが、後述する香りの成り立ちの差につながっている。
家庭での見分け方
買った瓶がどちらに近い性格の油かを見分けたい場合、次の点を確認すると入り口になる。
- ラベルの原材料表示に「オリーブ果実」「ごま」のどちらが書かれているか
- 香りが強く焙煎の匂いがするか、青みのある果実の香りか
- 色が黄緑がかっているか、茶色に近いか
瓶を開けたときに香りの方向性を確かめることは、原料の違いをつかむ手がかりになる。
オリーブオイルの定義(EU規則が定めるもの)
オリーブオイルの定義は、EU規則1308/2013の附属書VII第VIII部に置かれている。ここでは主にヴァージンオリーブオイルの定義と、それに関連するラベル表示の文言について整理する。
EU規則1308/2013が定める「ヴァージンオリーブオイル」
EU規則1308/2013は「ヴァージンオリーブオイル」を、オリーブの果実から機械的または他の物理的手段だけで、油に変質を生じない条件で得られた油であり、洗浄・沈殿・遠心分離・ろ過以外の処理を受けていない油と定義している[1]。溶剤や助剤を使って得た油はこの定義から除外される[1]。この条文が定義そのものであり、果実を圧搾するという工程が定義の中心にある。
2022/2104のラベル表示文言との違い
委任規則2022/2104は、オリーブオイルの販売規格を定めるもので、第6条に関連してラベルに記載するカテゴリー情報の文言を規定している。そこでは、エキストラバージンオリーブオイルについて、オリーブから直接、専ら機械的手段によって得られる上級カテゴリーのオリーブオイルである旨を表示する、といった文言が示されている[2]。この「solely by mechanical means」(専ら機械的手段によって)という語は、1308/2013の定義条文そのものではなく、2022/2104が定めるラベル表示のためのカテゴリー名の文言として登場する点に注意したい。定義の出どころと表示文言の出どころは別の条文にあり、両者を混同しないことが読み解きの起点になる。
等級・IOC規格の詳細は別に委ねる
エキストラバージン・バージンといった等級区分や、国際オリーブ協会(IOC)の規格に関わる詳細な基準値は、この記事で扱う範囲を超える。等級の詳細を掘りたい読者は、オリーブオイルの等級とIOC規格を専門に扱うオリーブオイル基本ガイドを参照するとよい。
ごま油は3つある
日本でごま油というと1種類の油を思い浮かべやすいが、JASの食用植物油脂では品質基準の区分として複数の名称が設けられている。
食用ごま油の3区分
JASの食用植物油脂は、食用ごま油の等級ごとの品質基準として「ごま油」「精製ごま油」「ごまサラダ油」という区分を示している[3]。それぞれの一般状態については、次のような性格が読み取れる。
- ごま油:試験したときいりごま特有の香味を有し、おおむね清澄であること[3]
- 精製ごま油:試験したとき清澄で、香味良好であること[3]
- ごまサラダ油:試験したとき清澄で、舌触りよく、香味良好であること[3]
数値化された基準(比重・屈折率・色の号数など)もこの規格には設けられているが、本記事では数値の引用は行わず、定性的な性格の違いに留める。
精製の有無がもたらす違い
3区分の名称からうかがえるのは、精製の有無と用途の違いである。「ごま油」はいりごま特有の香味を残す方向、「精製ごま油」「ごまサラダ油」は清澄さや舌触りを重視する方向に性格が分かれている[3]。どちらが良い悪いという話ではなく、料理でどの性格を求めるかによって選び方が変わる。
太白ごま油はどこに位置するか
「太白ごま油」という呼称は、生の(焙煎していない)ごま種子から搾った、淡い色と穏やかな香りの油として市場でよく知られている。ただし「太白」という呼称そのものは、本記事の参考資料のなかには現れない。したがって太白ごま油がJASの3区分のどこに正式に位置づけられるかは、本記事の参考資料の範囲では確認できない。購入時にどの区分に該当する製品かを知りたい場合は、個別の商品ラベルの表示を確認するのが確実である。
ごま油の香りは焙煎で作られる
ごま油の香りの由来を掘ると、焙煎という工程そのものに焦点が当たる。日本の学術報告は、この焙煎とごま油の香気成分の関係を長く追い続けてきた分野である。
焙煎方法が香気成分組成を左右する
中田勇二らによる日本油化学会誌の報告は、ごま種子を熱風焙煎した場合と遠赤外線焙煎した場合とで、ごま油に含まれる揮発性香気成分の組成が異なることをガスクロマトグラフィー(GC)とGC-MS分析で確認している[4]。29種類のごま油サンプルの37種類の揮発性成分についてGC定量値を主成分分析にかけたところ、熱風焙煎と遠赤外線焙煎の油は主成分分析の散布図上で識別できるという結果が示されている[4]。焙煎の方式そのものが、できあがる油の香りの個性を左右しているということになる。
焙煎香の主要成分
焙煎で生まれる具体的な香気成分については、竹井瑶子らによる日本農芸化学会誌の報告が古くから手がかりを示している。ごま油を水蒸気蒸留して得た香気濃縮物を分析したところ、グアヤコール、フェノール、フルフリルアルコール、2-アセチルピロール、2-ホルミルピロール、2-アセチル-3-メチルフラン、アセチルピラジンといった物質が新たに同定され、このうちアセチルピラジンがごま油のこうばしい香りの主成分と考えられると報告されている[5]。焙煎という熱処理の工程が、これらの香気成分を生み出す起点になっている。
家庭で焙煎香を生かす考え方
この焙煎香の知見は、ごま油を仕上げに少量たらす使い方の理由付けとして役に立つ。加熱で飛びやすい香気成分を多く含む油だと理解しておくと、仕上げに使う場面が多い理由を説明しやすくなる。焙煎の方式によって香りの個性が変わるという知見[4]は、同じ「ごま油」という名前でも製品によって香りの印象が違う理由の説明にもなる。
発煙点は規格に定めがない
発煙点は、油を加熱調理で使う際にしばしば話題になる指標である。しかし、本記事が参照したEU規則・JASのいずれにも、発煙点についての規定は見当たらない。
EU規則・JASのどちらにも発煙点の記載はない
EU規則1308/2013の附属書VII第VIII部は、ヴァージンオリーブオイルの定義と処理方法の範囲を定めているが、発煙点という語や数値には触れていない[1]。委任規則2022/2104もラベル表示の文言を定めるものであり、発煙点の基準を示す条文ではない[2]。JASの食用植物油脂も、食用ごま油の等級ごとの品質基準として一般状態・色・比重・屈折率・冷却試験といった項目名が読み取れるものの、発煙点という項目は確認できない[3]。したがって、オリーブオイルとごま油のどちらについても、参照した規格に発煙点の数値規定はないと明示するのが正確である。
数値の代わりに何を見るべきか
発煙点の具体的な数値を規格から引けない以上、この記事では油ごとの発煙点の比較表は作らない。加熱用途で油を選ぶ場面では、規格に定められた等級や品質区分(精製度が高い区分か、風味を残す区分か)を手がかりにする方が、出典のない数値に頼るより確実である。精製ごま油やごまサラダ油のように清澄さ・舌触りを重視する区分は[3]、加熱を伴う調理での扱いやすさを想定して設けられていると読み取れる。
使い分け
原料の違いと規格の区分を踏まえると、料理での使い分けは香りを主役にするか脇役にするかという判断に落ち着く。
香りを残したい料理でどう選ぶか
果実の風味を主役にしたい料理では、ヴァージンオリーブオイルの定義が示す、機械的または他の物理的手段だけで得るという条件[1]がそのまま風味の手がかりになる。加熱を最小限にして仕上げにかける使い方は、この果実の風味を生かす方向に合う。ごま油側では、いりごま特有の香味を有するという「ごま油」区分の性格[3]と、焙煎で生まれるアセチルピラジンなどの香気成分[5]が、香りを主役にする使い方の裏付けになる。
加熱調理での考え方
加熱を前提にする料理では、清澄さや舌触りを重視する区分(精製ごま油・ごまサラダ油)[3]の性格が扱いやすさに直結する。オリーブオイル側でエキストラバージン以外の区分を検討する際は、等級や規格の詳細を扱う専門記事を参照した方が確実である。発煙点の具体的な数値でどちらが加熱に強いかを断定する材料は、この記事が参照した出典の範囲にはない。
産地・製法の詳細は別記事に委ねる
ごま油の産地や焙煎方法ごとの違いをさらに掘りたい場合は、ごま油の基本ガイドで製法の詳細に触れられる。この記事では、原料と規格の区分という骨格を押さえることを優先した。
結論
オリーブオイルとごま油の違いは、突き詰めると「果実を搾るか、種子を煎って搾るか」という一点に収斂する。EU規則1308/2013が定めるヴァージンオリーブオイルの定義[1]と、JASが定めるごま油の3区分[3]は、それぞれ別の所管・別の条文体系に属するものであり、両者を同じ発煙点の数値表で比べようとすると、どちらの規格にもない数値を作る危険がある。実際の使い分けを考えるうえでは、焙煎による香気成分の生成という知見[4][5]の方が、数値の代わりの手がかりになる。手元の瓶のラベルに書かれた原材料と等級表示を確認すると、それがどの規格区分に近い性格の油かを見極められる。
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参考文献
- Regulation (EU) No 1308/2013, Annex VII Part VIII (1) Virgin olive oils
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32013R1308 - Commission Delegated Regulation (EU) 2022/2104 on marketing standards for olive oil
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32022R2104 - 日本農林規格 食用植物油脂(JAS、農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_standard/attach/pdf/index-386.pdf - 中田勇二ほか『ごま油香気成分のGCデータの多変量解析』日本油化学会誌 47巻3号(1998)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jos1996/47/3/47_3_257/_article/-char/ja/ - 竹井瑶子ほか『ごま油の香気成分に関する研究(第2報)中・高沸点物質について』日本農芸化学会誌 43巻9号(1969)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nogeikagaku1924/43/9/43_9_667/_article/-char/ja/
