塩麹・醤油麹の作り方と安全|麹の力を家庭で使う

塩麹・醤油麹の作り方と安全|麹の力を家庭で使う

塩麹は米麹に食塩と水を加えて糖化熟成させた塩味発酵調味料である[2]。麹の酵素(プロテアーゼ・アミラーゼ)がタンパク質とデンプンを分解し、アミノ酸と糖を生成する仕組みは、日本醸造協会の研究で詳細に記録されている[1]。塩は麹の重量の35%が目安で、米麹100gなら塩35g・水110g、常温で約10〜14日置くと仕上がる[3]。醤油麹は塩の代わりに醤油を用いる変形で、比率は米麹100gに醤油100〜120mlが基本となる。市販塩麹14点を分析した調査では、食塩濃度は「米味噌とほぼ同じ11%」だった[2]。醤油麹はこれより塩分が低くなるため、塩麹ともども冷蔵保存し、開封・完成後は1〜2カ月を目安に使い切りたい[5]

目次

塩麹・醤油麹とは(麹の酵素でうま味を作る)

麹がもたらす酵素の働き

麹は蒸した米や麦に麹菌(Aspergillus oryzae)を繁殖させたもので、この過程で生成される酵素が調味料としての機能を支える。主要な酵素はプロテアーゼとアミラーゼの2種類だ。プロテアーゼはタンパク質をアミノ酸に分解し、グルタミン酸などのうま味成分を生む。アミラーゼはデンプンをブドウ糖や麦芽糖に変え、自然な甘味をもたらす[1]。麹菌は菌体外に大量の消化酵素を分泌し、なかでもα-アミラーゼの生産量が著しく、次いで各種プロテアーゼの生産量が高い[2]。この二つの反応が同時進行することで、塩麹は塩だけでは得られない複雑な味わいを獲得する。

ただし塩麹自体のうま味成分は多くない。市販塩麹の分析では、大豆を使う米味噌のグルタミン酸濃度が0.3%であるのに対し、米しか用いていない塩麹はその「およそ1/10」にとどまる一方、還元糖濃度は22%で米味噌のおよそ2倍あった[2]。塩麹が塩以上に料理をおいしくするのは、うま味そのものより甘味と、食材に働く残存酵素の作用によるところが大きい。醤油麹では醤油自体に含まれるアミノ酸が加わるため、うま味の総量は塩麹より高くなる。

塩麹と醤油麹の位置づけ

塩麹は、大分県佐伯市の麹屋が江戸時代の書物に書かれた麹の使われ方を再現して製品化し、2010年ごろから販売したものが起点とされる。これが徐々に広まり、2012年には全国的な塩麹ブームとなった[2]。醤油麹は塩麹の派生形で、醤油のコクと麹の甘味を組み合わせた比較的新しい調味料だ。どちらも発酵食品でありながら、味噌や醤油ほど長期熟成を要さず、1〜2週間程度で使用可能になる点が家庭での扱いやすさにつながっている。

糖化の速度は温度に強く依存する。30℃であれば7日程度、55℃であれば1〜2日で出来上がる[2]。常温発酵では室温の変動が熟成速度に左右されるため、気温の低い時期(20℃以下)では14日以上かかることもある[3]

基本の作り方(麹・塩・水/醤油の比率)

塩麹の標準レシピ

塩麹の基本比率は、米麹100g、塩35g、水110gである。麹屋のレシピは「米麹に対して塩の分量は35%が一番ベスト」とし、「食塩の量を減らすと塩分濃度が低くなるため腐敗や悪臭の原因となります」と注意している[3]。この配合を単純計算すると全体の塩分濃度は約14%となり、味噌と同程度の水準に収まる。手順は次の通りだ。

1. 米麹をボウルに入れ、塊をほぐす(板状の乾燥麹の場合は手で砕く)

2. 塩を加えて全体に混ぜる

3. 水を注ぎ、スプーンで均一に混ぜる

4. 清潔な保存容器に移し、蓋を軽く閉める(密閉しない)

5. 常温(20〜25℃)で1日1回かき混ぜながら10〜14日間置く[3]

麹粒が柔らかくなり、全体がとろみを帯びたペースト状になれば完成だ。香りは甘酒に似た芳香があり、酸敗臭などの刺激臭がある場合は雑菌混入の可能性があるので使用しない[6]

醤油麹の配合と注意点

醤油麹は米麹100gに対し、醤油100〜120mlを加える(AJIMUSE Lab が整理した配合例。塩麹と違い、公表された標準比率は確認できていない)。塩を加えず塩分は醤油由来のみである。こいくちしょうゆの食塩相当量は100gあたり14.5gなので[4]、麹と合わさって薄まり、最終的な塩分濃度は計算上おおむね7〜8%にとどまる。塩麹(計算値で約14%)より明確に低いため、醤油麹は仕込み中も完成後も必ず冷蔵で保存し、早めに使い切る。手順は塩麹とほぼ同じだが、水を加えないため麹粒が醤油を吸収するまで時間がかかる。最初の2〜3日は麹が液面上に浮くため、1日2回かき混ぜて全体を湿らせる必要がある。

項目塩麹醤油麹
米麹100g[3]100g
35g[3]
110g[3]
醤油100〜120ml
塩分濃度(計算値)約14%約7〜8%
熟成期間(常温)約10〜14日[3]10〜14日

醤油麹は塩分こそ塩麹より低いが、醤油由来の濃い塩味と色がつくため、料理に使う際は入れすぎに注意する。また、醤油の種類(濃口・薄口・たまり)によって仕上がりの色と風味が変わる点も考慮したい。

麹の種類と選び方

市販の米麹には生麹と乾燥麹がある。生麹は酵素活性が高く発酵が早いが、冷蔵保存が必須で日持ちしない。乾燥麹は常温保存可能で扱いやすいが、水分を吸収するまで時間がかかる。どちらを使っても完成品の品質に大きな差は出ない[1]

板状に固めた乾燥麹(板麹)は、使用前に手でほぐして粒状にする。ほぐし方が粗いと水分の吸収にムラが出るため、指先で丁寧に砕くとよい。

塩分濃度と失敗しない管理

塩分約12%が目安になる理由

市販塩麹14点を分析した調査では、食塩濃度は「米味噌とほぼ同じ11%」だった[2]。麹の重量の35%の塩を使う家庭のレシピも、計算上これに近い水準に収まる[3]。この濃度では浸透圧により雑菌の繁殖が抑えられる一方、麹の酵素は働き続ける。塩の影響は酵素によって差があり、10%の食塩で大幅に活性が落ちるプロテアーゼもあれば、12%でも影響を受けないものもある[2]

厚生労働省は、家庭での食中毒予防として器具・手指の洗浄と低温保存を挙げている[6]。塩麹は加熱工程を経ずに食べることが多いため、容器・スプーン・手指の衛生が品質と安全を左右する。

塩分を減らしたい場合の対処

減塩を希望する場合でも、麹屋のレシピが「食塩の量を減らすと塩分濃度が低くなるため腐敗や悪臭の原因となります」と述べている点は押さえておきたい[3]。どうしても減らすなら常温放置は避け、温度管理のできる機器か冷蔵庫で発酵させ、完成後も冷蔵保存を徹底し、通常より短い期間で使い切る。低温では酵素の働きが緩やかになるぶん、熟成にも時間がかかる。

もう一つの方法は、完成した塩麹を料理に使う際に水や出汁で薄めることだ。塩麹大さじ1(塩分約2g)を水大さじ1で割れば、塩分濃度は半減しつつ酵素の効果は保たれる。

雑菌混入の兆候と対処

異臭(酸っぱい・腐敗臭)、黒や緑のカビ、過剰な泡立ちが見られた場合は、もったいなくても使用を中止して廃棄する[6]。特に夏場は室温が30℃を超えると雑菌が繁殖しやすいため、エアコンの効いた部屋で発酵させるとよい。

容器は煮沸消毒またはアルコール消毒し、水気を完全に拭き取ってから使う。木製やプラスチック製の容器は傷に雑菌が残りやすいため、ガラスやホーロー製が望ましい。

熟成の見極めと保存(冷蔵・期間)

完成の目安

塩麹は次の3点が揃えば完成とみなせる。

  • 麹粒が指で簡単につぶれる柔らかさになる
  • 全体がとろみを帯び、液体と固形分が分離しない
  • 甘酒に似た芳香があり、刺激臭がない

発酵が進むと麹粒の角が取れ、表面が滑らかになる。味見をして塩辛さの奥に甘味とうま味を感じれば、酵素が十分に働いている証拠だ[1]

醤油麹は麹粒が醤油を吸って膨らみ、全体が均一なペースト状になれば完成である。塩麹より粘度が高く、スプーンですくうとゆっくり落ちる程度の固さになる。

保存方法と賞味期限

完成した塩麹・醤油麹は冷蔵庫(5℃以下)で保存する。酵素は低温でも活動を続けるため、時間とともに味が変化する。麹調味料メーカーは市販の塩糀・しょうゆ糀について、開封後は冷蔵保存で1〜2カ月を目安に使い切るよう案内している[5]。殺菌工程を経ていない手作り品はこれより条件が悪いため、同じかそれより短い期間で使い切るのが安全側の判断になる。

保存中も1週間に1回は容器を揺すって全体を混ぜ、表面の乾燥を防ぐ。使用後はスプーンに付いた食材を容器に戻さず、清潔な状態を保つ。

塩分が高いため家庭用冷凍庫では完全には凍らず、小分けにして冷凍すれば使うぶんだけ取り出せる。ただし冷凍・解凍を繰り返すと品質が落ちるため、使い切れる単位に分けておくとよい。

発酵の進みすぎを防ぐ

冷蔵庫に入れても酵素反応は緩やかに続き、時間とともに色が濃くなったり酸味が出たりして風味が変わる。味の変化が気になる場合は、加熱調理(炒め物・煮物)に回すと目立ちにくい。ただし異臭やカビなど腐敗の兆候がある場合は「風味の変化」ではないので廃棄する[6]

一度に大量に作らず、数週間で使い切れる量(米麹100〜200g分)を目安にすると、常に新鮮な状態で使える。

使い方(下味・漬け・タンパク質分解のコツ)

肉・魚への下味効果

塩麹の最も得意とする用途は、肉や魚への下味付けである。粕漬けや味噌漬けで魚や肉が柔らかくなりうま味が高まるのは、麹由来の残存酵素が筋肉タンパク質を分解してアミノ酸やペプチドを生じさせるためで、塩麹でも同じことが起きる[2]。生の食材にも酵素はあるが、麹酵素の活性はそれを大きく上回る[2]。鶏むね肉100gに対し塩麹大さじ1(約15g)を塗り、冷蔵庫で30分〜一晩置くと、パサつきが抑えられしっとり仕上がる。

魚の切り身は塩麹を薄く塗って15〜30分置く。長時間漬けると身が崩れやすくなるため、1時間以内が目安だ。漬けた後は表面の塩麹を軽く拭き取ってから焼く。拭き取らずに焼くと焦げやすい。

野菜の漬物と和え物

塩麹は浅漬けにも使える。きゅうり2本(約200g)に対し塩麹大さじ1を揉み込み、冷蔵庫で2〜3時間置けば食べ頃になる。塩だけの浅漬けより甘味が加わるのは、塩麹の還元糖濃度が米味噌のおよそ2倍あり、「食塩と糖の割合が1:2という法則」がみられる組成を持つためだ[2]

アボカド・トマト・豆腐などにそのまま和えてもよい。塩麹大さじ1に対し、ごま油小さじ1を混ぜると中華風のドレッシングになる。

醤油麹の応用

醤油麹は醤油由来の色と香りが濃いため、仕上げの味付けや炒め物の調味料として使う。チャーハンに小さじ1を加えると、醤油だけでは出ない深いコクが生まれる。卵かけご飯に小さじ半分を垂らすと、うま味が増して満足度が上がる。

漬け込みに使う場合は、塩麹の半量を目安にする。豚ロース100gなら醤油麹小さじ2(約10g)で十分だ。

加熱と酵素の失活

酵素活性は温度に敏感だ。塩麹の熟成温度を比較した研究では、50℃程度までなら概ねどの酵素も大きく活性を落とさずに済むのに対し、60℃で加温すると酵素によっては活性が大きく低下する。とくにα-アミラーゼは食塩が存在すると熱安定性が下がり、逆にプロテアーゼは食塩や糖が存在するほうが熱に強い[2]。家庭で炊飯器の保温を使う方法がよく紹介されるが、炊飯器では60℃以下を保つのが難しく残存酵素活性はかなり低下するため、温度設定のできるヨーグルトメーカー等のほうが向く[2]

したがって、柔らかくする効果を得たい場合は加熱前に漬け込む。加熱後に塩麹を加えても酵素の恩恵は受けられない。一方、加熱調理の味付けとして使う場合は、酵素が失活してもアミノ酸と糖は残るため、甘味とコクは保たれる。なお、生の酵素を摂取すること自体に特別な健康効果があるわけではなく、あくまで食材への作用と風味の違いとして捉えるべきだ。

結論

塩麹と醤油麹は、麹・塩(または醤油)・水という3要素の組み合わせで家庭でも再現できる発酵調味料である。塩は麹の重量の35%を守り、清潔な環境で常温10〜14日発酵させれば、酵素の力で甘味とコクを引き出せる。完成後は冷蔵保存し、1〜2カ月を目安に、肉・魚の下味、野菜の浅漬け、炒め物の調味料として使い切りたい。

編集者として塩麹を初めて仕込んだとき、麹粒が日ごとに柔らかくなり香りが変化する様子は、調味料が「生きている」実感を与えてくれた。市販品も便利だが、自分で作ると塩分や熟成度を好みに調整でき、発酵の過程を観察する楽しみも得られる。醤油麹は塩分こそ塩麹より低いが醤油の色と香りが濃く出るため使いすぎに注意が必要で、少量で深いコクを加えられる点は重宝する。

これから作る人は、まず米麹100g・塩35g・水110gの基本レシピ[3]で塩麹を一度仕込み、10日後の変化を確かめてほしい。その経験が、麹を使う他の発酵食品(味噌・甘酒)への理解の土台になる。

参考文献

  1. 椎木敏「米こうじ中の酵素の分析法」日本醸造協会誌 77巻12号(1982)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/77/12/77_12_884/_article/-char/ja/
  2. 前橋健二「塩麹が創る旨み」ソルト・サイエンス研究財団 助成研究報告(東京農業大学応用生物科学部醸造科学科)
    https://www.saltscience.or.jp/images/2023/07/2018_3-maehashi.pdf
  3. マルカワみそ(越前有機味噌蔵)「味噌屋が教える美味しい塩麹の作り方」
    https://marukawamiso.com/recepi/siokouji-recepi.html
  4. 文部科学省 食品成分データベース「<調味料類>(しょうゆ類)こいくちしょうゆ」(日本食品標準成分表2020年版〈八訂〉増補2023年)
    https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=17_17007_7
  5. イチビキ株式会社「塩糀やしょうゆ糀は、開封後どれくらいもちますか?」(よくいただくご質問)
    https://www.ichibiki.co.jp/support/faq/file_69/
  6. 厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01_00006.html

この記事を書いた人

世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く編集部です。数字と固有名詞は本国の公的機関や規格で裏を取り、家庭で「あの国の味」を再現したい人に役立つ形にまとめます。

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