本みりん vs みりん風調味料|酒税法とJASが分ける「みりん」の正体

本みりん vs みりん風調味料|酒税法とJASが分ける「みりん」の正体

本みりんは酒税法上の酒類「みりん」に区分され、もち米・米麹・焼酎(またはアルコール)を糖化熟成させた醸造調味料である[1][3]。一方、みりん風調味料はアルコール分1%未満で酒税の対象外となり、糖類を加えて甘みと照りを再現した調味料である[1][6]。両者の違いは法律と製法に由来し、料理における甘み・照り・臭み消しの効果に差が生じる。スーパーの調味料売り場と酒売り場に分かれて陳列される理由も、この法的区分による。酒税法と酒税法施行令が定める3分類の違いを、成分・製法・用途の観点から整理する。

目次

みりんとは何か――もち米・米麹・焼酎の糖化熟成

みりんは中国に起源を持ち、室町から戦国時代にかけて日本へ伝わったとされる。当初は飲用されていたが、江戸時代に調理用として使われるようになった[3]。本みりんの製法は、蒸したもち米に米麹と焼酎(またはアルコール)を加え、40〜60日程度糖化熟成させる工程を経る[4]。この間に米麹の酵素がもち米のデンプンを糖に分解し、複雑な甘みと独特の香りが生まれる。

もち米と米麹が生む糖化のメカニズム

みりんの仕込みは、他の酒類のように酵母で発酵させる工程を持たない。主たる変化は、米麹が持つデンプン分解酵素とタンパク質分解酵素が、アルコール共存下で蒸したもち米のデンプンとタンパク質を低分子化していく糖化と熟成である[3]。このため発酵ではなく糖化熟成と呼ばれる。結果として本みりんの炭水化物は100gあたり43.2gに達し、砂糖とは異なるまろやかな甘みを持つ[5]。同時にアミノ酸も生成され、うま味成分が加わる点が砂糖との大きな違いである[4]

焼酎の役割とアルコール分14%の意味

本みりんに加える焼酎(またはアルコール)は、糖化を進める場を作りつつ雑菌の繁殖を防ぐ役割を果たす。アルコールの配合割合は総米重量に対して60〜70%で、麹歩合は総米重量の10〜15%が目安とされる[3]。最終的なアルコール分は14%前後の製品が多く、成分表では本みりん100gあたりアルコール9.5gが収載されている[4][5]。酒税法上の「みりん」はアルコール分15度未満と定められており、この上限内に収まる[1]。アルコールは調理時に臭みを揮発させ、素材に味を染み込ませる効果を持つ[3]。加熱によってアルコール分は大部分が飛ぶが、糖分とアミノ酸は残り、照りとコクを生む。

法定義と実際の原料の幅

酒税法が定める「みりん」の原料は「米及び米こうじに焼酎又はアルコールを加えて、こしたもの」であり、条文上は「もち米」に限定されていない[1]。実際の製品はもち米を使うのが一般的だが[3][4]、酒税法施行令第5条は、ぶどう糖や水あめを米(こうじ米を含む)の重量の2.5倍以下の範囲で原料に使うことを認めており、とうもろこし・清酒かす・みりんかす・有機酸・アミノ酸塩なども原料として掲げられている[2]。つまり「本みりん=もち米と米麹と焼酎だけ」とは限らない。ラベルの原材料表示を確認すると、製法の違いを読み取ることができる。

本みりん・みりん風調味料・発酵調味料(みりんタイプ)の法的区分

みりん類の分類を決めているのは、第一に酒税法である[1]。ここで酒類にあたる本みりんは、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の5により、容器の見やすい所に品目を表示する義務を負う[7]。なお、しょうゆ・醸造酢・ウスターソース類などと違い、みりんにJAS規格は定められていない[8]。消費者が店頭で目にする製品名や陳列場所は、この法的区分に従って決まる。

本みりんの定義と基準

酒税法第3条第11号は「みりん」を、米及び米こうじに焼酎またはアルコールを加えてこしたもの等で、アルコール分15度未満のものと定義する[1]。エキス分が40度以上であることは酒税法第3条第11号の括弧書きが定めており、エキス分そのものの定義(温度15度のとき原容量100立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数)は同条第2号にある[1]。酒税法施行令第5条が受け持つのは、括弧書きが「その他の政令で定める要件」とした原料等の側である[2]。実際の製品はアルコール分14%前後が多い[4]。酒類にあたるため、販売には酒税法第9条の酒類販売業免許が必要で、スーパーでは酒売り場に陳列される[1]

みりん風調味料の定義と特徴

みりん風調味料はアルコール分1%未満で、酒税法上の酒類にあたらない[1]。成分表の収載値でも100gあたりアルコールは0.3gにとどまる[6]。糖類(ブドウ糖果糖液糖、水あめなど)を主体に、うま味成分や少量の食塩を加えて本みりんに似た甘みと照りを再現する。製造期間が短く、酒税もかからないため価格は本みりんより大幅に安い。アルコールをほとんど含まないため、臭み消しや味の浸透効果は本みりんに劣る[4]。調味料売り場に並び、酒類販売免許なしで販売できる。

発酵調味料(みりんタイプ)の位置づけ

発酵調味料は本みりんに近い製法で作られるが、食塩を加えて飲用に適さない状態にしている。酒税法上の酒類は「アルコール分1度以上の飲料」であり、飲用できない状態にすることで酒類から外れる仕組みである[1]。全国味淋協会は塩みりん(発酵調味料)の食塩含有量をおよそ1.5%としており、本みりんの食塩相当量0gと対照的である[4][5]。塩分が含まれるため、レシピの塩加減を調整する必要がある。価格は本みりんより安く、調味料売り場で販売される。業務用や大容量製品に多い。

分類アルコール分炭水化物(100gあたり)食塩相当量酒税法上の扱い主な販売場所
本みりん15度未満(製品は約14%)[1][4]43.2g[5]0g[5]酒類酒売り場
みりん風調味料1%未満[1]55.7g[6]0.2g[6]非酒類調味料売り場
発酵調味料本みりんに近い本みりんに近い食塩約1.5%[4]非酒類(食塩添加)調味料売り場

酒税法とアルコール分――なぜ酒売り場にあるか

本みりんが酒売り場に陳列される理由は、酒税法上の「酒類」に該当するためである[1]。酒税法第2条は酒類を「アルコール分一度以上の飲料」と定め、これに酒税を課す[1]。本みりんは14%前後のアルコールを含むため[4]、ビールやワインと同じく酒税の対象となる。この法的区分が、製品の価格・流通・販売方法を大きく左右する。

酒税法におけるみりんの分類

酒税法上、みりんは清酒や果実酒と並ぶ独立した品目で、混成酒類に分類される[1]。この定義に当てはまる製品は、酒税法第9条の酒類販売業免許を受けた事業者のみが販売できる[1]。免許を持たない店舗では、本みりんを販売できない。一方、みりん風調味料や発酵調味料は非酒類扱いのため、免許なしで販売可能である。

アルコール分1度未満という境界線

酒税法はアルコール分1度を酒類と非酒類の境界線に設定している[1]。みりん風調味料はこの基準を下回るよう製造され、酒税の対象外となる。ただし、アルコール分が低いと臭み消しや味の浸透効果が弱まるため、料理の仕上がりに差が出る[4]。発酵調味料は食塩添加によって飲用に適さない状態にし、アルコール分が高くても非酒類として扱われる仕組みを利用している。

酒税の価格への影響

酒税法第23条第4項第2号は、みりん(及びその性状がみりんに類似する雑酒)の税率を1キロリットルにつき2万円と定めている[1]。1リットルあたり20円である。参考までに醸造酒類は1キロリットル10万円、蒸留酒類は原則20万円であり、みりんの税率は酒類のなかでかなり低い水準にある[1]。それでも酒類販売免許の取得・維持コストや製造工程の長さが流通価格に上乗せされるため、本みりんの小売価格はみりん風調味料より高くなる。業務用や大容量製品では、この価格差がさらに拡大する。

成分と味の違い――甘み・照り・アルコールの役割

本みりんとみりん風調味料の味の違いは、糖の種類とアミノ酸の有無に由来する。本みりんの主な糖はグルコースだが、イソマルトースやオリゴ糖も含み、まろやかで奥行きのある甘みを持つ[4]。みりん風調味料は添加した糖類(ブドウ糖果糖液糖など)を主体とするため、甘みが単調になりやすい。アミノ酸の有無も、コクと香りの差を生む。

糖化が生む複雑な甘み

本みりんの糖分は、米麹のデンプン分解酵素が蒸したもち米のデンプンを低分子化して生成する[3]。この過程でグルコースだけでなく、イソマルトースやオリゴ糖も生まれる[4]。これらの糖は甘さの強度や後味が異なり、複数が混在することで立体的な甘みを構成する。砂糖やブドウ糖果糖液糖は単一の甘さしか持たないため、本みりんの風味を完全に再現できない。

照りの正体とアミノカルボニル反応

みりんが料理に色と香りを与えるのは、糖分とアミノ酸が加熱によってアミノカルボニル反応(メイラード反応)を起こすためである。本みりんではこの反応に由来する抗酸化性や血圧上昇抑制作用も報告されている[3]。本みりんはグルタミン酸・ロイシン・アスパラギン酸などのアミノ酸を含むため、色づきが良い[4]。みりん風調味料はうま味成分を添加して補うが、糖化と熟成で生じるアミノ酸組成とは異なる。発酵調味料は本みりんに近い照りを持つが、塩分が味の設計に影響する。

アルコールの臭み消し効果

本みりんは糖とアルコールに由来する調理効果を持ち、消臭効果もその一つである[3]。アルコールは臭み物質を溶かし出し、加熱とともに蒸発する。みりん風調味料は100gあたりアルコール0.3gとほとんど含まないため、この効果が期待できない[6]。煮魚や照り焼きで臭みが残りやすい場合、本みりんを使うか、別途酒を加える必要がある。

味の浸透と煮崩れ防止

本みりんの調理効果としては、煮崩れ防止とテクスチャーの改善も挙げられている[3]。糖とアルコールが素材の表面付近に働き、煮込んでも形が保たれやすくなる。みりん風調味料ではアルコール由来の効果が乏しく、長時間煮込むと素材が崩れやすい。この違いは煮物や佃煮で顕著に現れる。

代用の考え方――砂糖と酒での置き換えは可能か

本みりんが手元にない場合、砂糖と酒を組み合わせて代用する方法がよく紹介される。理論上は甘みとアルコールを補えるが、糖の種類とアミノ酸の違いにより、完全な再現は難しい。代用を検討する際は、料理の種類と求める効果に応じて判断する必要がある。

砂糖+酒の代用レシピと限界

一般的な代用比率は、本みりん大さじ1に対して砂糖小さじ1+酒大さじ1とされる。この組み合わせで甘みとアルコールの量は近づくが、砂糖の甘さは本みりんより直線的で、照りの質感も異なる。アミノ酸が含まれないため、コクと香りは再現できない。煮物や照り焼きでは違いが目立ちやすく、特に照りの仕上がりに差が出る。

みりん風調味料を本みりんの代わりに使う場合

みりん風調味料で本みりんを代用すると、甘みは確保できるがアルコールの効果が失われる。臭み消しや味の浸透が必要な料理では、別途酒を加える工夫が有効である。照りは本みりんより弱くなるため、仕上げにみりんを追加で塗る、または砂糖を足して調整する方法がある。価格を抑えたい場合や、アルコールを避けたい場合には実用的な選択肢となる。

発酵調味料を使う際の塩分調整

発酵調味料は風味が本みりんに近いが、食塩を約1.5%含むため、レシピの塩や醤油を減らす必要がある[4]。本みりん大さじ1(約18g)を発酵調味料で代用する場合、食塩約0.3gが加わる計算になる。なおこの大さじ1あたりの重量と食塩量は、[4]の食塩含有量からAJIMUSE Lab が換算した目安であり、規格や一次資料が定める数値ではない。実際の含有量は製品の表示に従ってほしい。煮物や炊き込みご飯では塩分過多になりやすいため、味見をしながら調整する。塩分を気にしない料理(佃煮など)では、本みりんとほぼ同等に使える。

料理別の代用適性

料理本みりんの役割砂糖+酒代用みりん風代用発酵調味料代用
煮魚臭み消し・照り△(照り弱)△(臭み残る)○(塩分注意)
照り焼き照り・香り△(照り弱)△(照り弱)
煮物味浸透・煮崩れ防止△(浸透遅)△(浸透遅)○(塩分注意)
すき焼き甘み・香り○(塩分注意)
炊き込みご飯甘み・香り△(塩分過多)

結論

本みりんは酒税法上の酒類として15度未満のアルコールとエキス分40度以上を満たし、もち米・米麹・焼酎の糖化熟成によって複雑な甘み・照り・臭み消し効果を生む[1][2][3]。みりん風調味料はアルコール分1%未満で酒税の対象外となり、糖類添加により甘みを再現するが、アミノ酸とアルコールの効果は限定的である[1][6]。発酵調味料は食塩添加で非酒類扱いとなり、風味は本みりんに近いが塩分調整が必要である[4]

料理における使い分けは、求める効果とコストのバランスで判断する。煮魚や照り焼きなど臭み消しと照りが重要な料理では、本みりんの優位性が明確である。一方、すき焼きや炊き込みご飯のように甘みが主目的の料理では、みりん風調味料や砂糖+酒の代用でも実用的な結果が得られる。ラベルの原材料表示とアルコール分を確認し、用途に応じた製品を選ぶことが、家庭料理の質を左右する。

編集者として感じるのは、法律と製法が味に直結する点の面白さである。酒税法という一見無関係な制度が、店頭での陳列場所を決め、価格差を生み、最終的に食卓の味を変える。この連鎖を理解すると、調味料選びに一つの軸ができる。次に店頭でみりんを手に取るとき、ラベルのアルコール分表示と原材料欄を確認してみてほしい。そこには法律・製法・味が凝縮されている。

参考文献

  1. 酒税法(昭和28年法律第6号)第2条・第3条第11号・第9条・第23条(e-Gov法令検索)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000006
  2. 酒税法施行令(昭和37年政令第97号)第5条 みりんの原料等(e-Gov法令検索)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/337CO0000000097
  3. 伊藤彰敏「みりん(味淋)醸造について」日本食生活学会誌 31巻4号 207-215(2021)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh/31/4/31_207/_article/-char/ja
  4. 全国味淋協会「本みりんの知識」
    https://www.honmirin.org/knowledge/
  5. 文部科学省 食品成分データベース 16025 本みりん(日本食品標準成分表 八訂 増補2023年)
    https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=16_16025_7
  6. 文部科学省 食品成分データベース 17054 みりん風調味料(日本食品標準成分表 八訂 増補2023年)
    https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=17_17054_7
  7. 酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律 第86条の5 酒類の品目等の表示義務(e-Gov法令検索)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000007
  8. 農林水産省「JASの対象となる品目(規格)は?」
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_standard/

この記事を書いた人

世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く編集部です。数字と固有名詞は本国の公的機関や規格で裏を取り、家庭で「あの国の味」を再現したい人に役立つ形にまとめます。

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