スペアミントとペパーミントは同じシソ科ハーブだが、香りの主成分が異なる。EFSAが評価した精油の規格表では、スペアミント油はl-カルボンの平均値が68.5%[4]、ペパーミント油はメントールとメントンの平均値が43.42%・21.62%である(いずれも精油の% GC area)[6]。ペパーミントはウォーターミントとスペアミントの交雑種である[5]。二つのミントを見分けるときは、この交雑の由来と精油の主成分の違いが手がかりになる。
- スペアミントとペパーミントは同じシソ科のハーブで、ペパーミントはウォーターミントとスペアミントの交雑種である。
- 精油で比率が最も大きいのは、スペアミントがカルボン、ペパーミントがメントール(次いでメントン)で、葉の成分比とは別である。
- 乾燥した葉の国際規格(ISO)は、スペアミント用とペパーミント用に別々に定められている。
この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。
「ミント」は一つの規格ではない
ISO 2256が対象とする乾燥スペアミント
ISO 2256:1984は「Dried mint (spearmint) (Mentha spicata Linnaeus syn. Mentha viridis Linnaeus) — Specification」という名称の規格で、全形・破砕・揉み砕いた形(whole・broken・rubbed)の葉を対象とする[1]。概要頁では「dried mint」という語に人工的に乾燥させたミント(dehydrated mint)も含まれると書かれている[1]。この規格は乾燥ペパーミントには適用されず、ペパーミントの要件はISO 5563に委ねられている[1]。初版は1984年8月に発行された規格である[1]。
ISO 5563が対象とする乾燥ペパーミント
ISO 5563:1984は「Dried peppermint (Mentha piperita Linnaeus) — Specification」という規格で、ペパーミントの乾燥葉、あるいは破砕した乾燥葉・揉み砕いた乾燥葉(broken or rubbed dried leaves)を対象とする[2]。サンプリング方法、試験方法、包装・表示の方法を定める点ではISO 2256と並行した構成を取る[2]。初版は1984年9月に発行されている[2]。つまり「ミント」は規格の段階で、スペアミントとペパーミントという二つの異なる植物種に分けて扱われている。
交雑の由来で分かれる二つのミント
スペアミントは槍形の葉に由来する名前
スペアミントという名称は、葉の形が槍(spear)に似ていることに由来する[3]。ガーデンミント、コモンミント、ラムミントという別名でも呼ばれる植物である[3]。
スペアミント(Mentha spicata)の別名には、次のようなものがある。
- ガーデンミント(garden mint)
- コモンミント(common mint)
- ラムミント(lamb mint)
這う地下茎から直立した茎(高さ100cmまで)を伸ばし、対生する明るい緑色の葉を持ち、季節には先端の穂状花序に淡紫色の花を咲かせる植物で、料理用のハーブとしても観賞用としても広く栽培されている[3]。
ペパーミントはウォーターミントとスペアミントの不稔の雑種
ペパーミント(Mentha×piperita)はシソ科の多年草で、ウォーターミント(Mentha aquatica)とスペアミント(Mentha spicata)の交雑によって生じた不稔の雑種である[5]。交雑相手であるスペアミント自体も雑種である[5]。両親はいずれもヨーロッパ原産で広く分布しており、ペパーミント(Mentha×piperita)は1696年まで認識されていなかった[5]。
香りの主成分の違い
ペパーミント油はメントールとメントンが主体
EFSAの飼料添加物としての安全性評価では、ペパーミント油の成分がガスクロマトグラフィーの検出面積比(%GC area、全検出ピークの面積合計を100%とする比率)で示されている[6]。この評価における規格上、最も大きい比率を占めるのはメントールで30〜55%(平均43.42%、範囲42.51〜45.54%)、次いでメントンが13〜32%(平均21.62%、範囲17.49〜24.32%)である[6]。
スペアミント油はl-カルボンが主体
同様にEFSAのスペアミント油の評価では、l-カルボンが最も大きい比率を占め、規格上55〜87%(平均68.5%、範囲55.4〜81.1%)である[4]。次いでd-リモネンが2〜25%(平均12.3%、範囲4.19〜22.1%)を占める[4]。
二つの精油の成分比較
| スペアミント油 | ペパーミント油 | |
|---|---|---|
| 比率が最も大きい成分(規格・平均、% GC area) | l-カルボン 55–87%(平均68.5%)[4] | メントール 30–55%(平均43.42%)[6] |
| 次に大きい成分(規格・平均、% GC area) | d-リモネン 2–25%(平均12.3%)[4] | メントン 13–32%(平均21.62%)[6] |
この数値はいずれも、飼料用香料として申請された精油をFEEDAPパネルが評価した際の規格値であり、生葉や乾燥葉そのものの含有量を示すものではない[4][6]。この数値は、精油の分析値(% GC area)として読む範囲にとどまる。
規格の線引きと成分の線引きを並べて読む
ISO 5563附属書AのMentha rubra識別手順
ISO 5563の附属書Aには、Mentha rubra Hudsonの葉を識別するための推奨手順が置かれている[2]。これは乾燥ペパーミントの規格の中に組み込まれた識別作業の一部である[2]。
ISO 5563附属書Bのカルボン検出法
同じ規格の附属書Bには、カルボンの検出方法が示されている[2]。この記事が確認したISOの概要頁から分かるのは、附属書Bにカルボンの検出法が示されていることまでで、その検出法が置かれている理由は概要頁に書かれていない[2]。
二つの出典を並べて読む際の注意
EFSAの成分表ではスペアミント油で最も大きい比率が置かれている成分がl-カルボンであるが[4]、この数値をISO 5563の附属書Bに結びつける記述は、この記事が確認した規格の概要頁には無い[2]。ISOの規格は乾燥葉、EFSAの成分表は飼料用香料として申請された精油を対象とする別々の資料であるため、ISOの検出法とEFSAの精油の成分比は、並べて読む範囲にとどめる。
プレゴンとメントフラン
EMAの公開声明が示す含有植物
EMAのHMPC(Committee on Herbal Medicinal Products)は2016年の公開声明で、プレゴンとメントフランがミント(Mentha)の複数の種とその精油の重要な成分(significant constituents)であると述べている[7]。この声明がその例として挙げる植物は、次の4種である。
- ペパーミント(Mentha piperita)
- スペアミント(Mentha spicata)
- ヨーロピアンペニーロイヤル(Mentha pulegium)
- アメリカンペニーロイヤル(Hedeoma pulegioides)
声明は、プレゴンがヨーロピアンペニーロイヤルとアメリカンペニーロイヤルの精油の主成分(major component)で、85〜97%(w/v)と約30%(w/v)を占めると記す[7]。声明は「of the respective oil」(それぞれの精油の)と書いており、数値はこの順に、ヨーロピアンペニーロイヤル、アメリカンペニーロイヤルの精油に対応する[7]。
EU規則(EC)No 1334/2008附属書IIIが定める上限値
規則(EC)No 1334/2008(2026年2月16日時点の統合版)の附属書III Part Bには、プレゴンの上限値が食品カテゴリーごとに定められている[8]。単位は表頭に示されたmg/kgである[8]。
| 食品カテゴリー | プレゴンの上限(mg/kg) |
|---|---|
| ミント/ペパーミント入りの菓子(微小な口中清涼菓子を除く) | 250 |
| 微小な口中清涼菓子 | 2 000 |
| チューインガム | 350 |
| ミント/ペパーミント入りの清涼飲料 | 20 |
| ミント/ペパーミント入りのアルコール飲料 | 100 |
メントフランの上限値は、この記事では確認していないため、数値を示さない。
家庭の料理に適用される上限ではない
附属書III Part Bが定める上限は、香料や香りを持つ食品原料を加えた菓子・チューインガム・飲料といった特定の複合食品に対するものである[8]。プレゴンの行に並ぶ食品区分は上の表の5つであり、家庭で生の葉やドライハーブを料理に使う場面は、そこに挙がっていない[8]。シソ科の乾燥ハーブ全般の規格や用途については乾燥ハーブ図鑑で扱っている。同じ附属書IIIで上限が定められるクマリンについては/coumarin-cinnamon-rules/を参照できる。
結論
香りの主成分で選ぶ
この記事が確認した資料のなかで、スペアミントとペパーミントの違いを数値で示しているのは、精油の成分比である。EFSAの規格表では、スペアミント油はl-カルボンの平均値が68.5%である[4]。ペパーミント油はメントールの平均値が43.42%、メントンの平均値が21.62%で、この二つの平均値を足すと約65%になる[6]。いずれも精油の% GC areaであり、葉そのものの含有量ではない[4][6]。スペアミントは甘さ、ペパーミントは清涼感という香りの印象で語られることが多い。
規格と由来を分けて読む
ISO 2256とISO 5563は、同じ「乾燥ミント」という括りの中でスペアミントとペパーミントを別の規格として扱っている[1][2]。ペパーミントがウォーターミントとスペアミントの交雑から生まれた不稔の雑種であり、スペアミント自体も雑種であることは、EFSAの評価書に記されている[5]。プレゴンは、EMAの声明がペパーミントとスペアミントの両方を含むミント数種の精油の成分として挙げており[7]、EU規則の上限は、ミント/ペパーミント入りの菓子や飲料といった食品区分ごとに置かれている[8]。
関連記事
参考文献
- ISO 2256:1984 Dried mint (spearmint) (Mentha spicata Linnaeus syn. Mentha viridis Linnaeus) — Specification
https://www.iso.org/standard/7073.html - ISO 5563:1984 Dried peppermint (Mentha piperita Linnaeus) — Specification
https://www.iso.org/standard/11633.html - EFSA FEEDAP パネル, Safety and efficacy of a feed additive consisting of an essential oil derived from the aerial parts of Mentha spicata L. (spearmint oil) for use in all animal species (FEFANA asbl), EFSA Journal 2025;23(12):e9785
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12712543/ - EFSA FEEDAP パネル, 同意見書(EFSA Journal 2025;23(12):e9785)Table 2
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12712543/ - EFSA FEEDAP パネル, Safety and efficacy of a feed additive consisting of an essential oil derived from the aerial parts of Mentha×piperita L. (peppermint oil) for use in all animal species (FEFANA asbl), EFSA Journal 2025;23(1):e9076
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11733596/ - EFSA FEEDAP パネル, 同意見書(EFSA Journal 2025;23(1):e9076)Table 1
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11733596/ - EMA HMPC, Public statement on the use of herbal medicinal products containing pulegone and menthofuran, EMA/HMPC/138386/2005 Rev. 1, 2016-07-12
https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/public-statement-use-herbal-medicinal-products-containing-pulegone-and-menthofuran-revision-1_en.pdf - 欧州議会・理事会規則 (EC) No 1334/2008 附属書III Part B(2026-02-16時点の統合版)
https://publications.europa.eu/resource/celex/02008R1334-20260216
