レモングラスとは|原産は南インドとスリランカ、トムヤムクンの香り

レモングラスとは|原産は南インドとスリランカ、トムヤムクンの香り

レモングラスはイネ科の多年草で、キュー植物園のPOWOは自生域を南インドとスリランカとしている[3]。タイではTa kraiと呼ばれ[1]、UNESCOが2024年に無形文化遺産の代表一覧に記載したトムヤムクンの説明では、えびと煮るハーブの最初に挙がる[4]。精油の主な成分はシトラールとされ[6]、タイ農業普及局は使い方として生・加熱調理・加工の3つを挙げている[2]。

この記事の結論
  • レモングラスはイネ科の多年草で、自生域は南インドとスリランカとされる。
  • 精油の主成分はシトラールで、トムヤムクンの材料でもレモングラスが最初に挙げられる。
  • シトラールは単一の物質ではなく、ゲラニアールとネラールの混合物で、精油中ではゲラニアールのほうが多い。
目次

レモングラスとは

タイ農業普及局が示す基本情報

タイ農業・協同組合省の農業普及局(DOAE)は、レモングラスのタイ名をTa krai、学名をCymbopogon citratus (DC.) Stapfとして紹介している[1]。大きさは長さ20〜25cm、色は緑と記録され、季節は通年(Throughout the year)とされる[1]。キュー植物園のPOWOは、このCymbopogon属をイネ科(Poaceae)に置いている[3]。

栄養価と使い方の区分

DOAEは可食部100gあたりの栄養価として、143Kcal、タンパク質1.2g、脂質2.1g、炭水化物29.7g、カルシウム35mg、リン30mg、鉄2.6mg、ビタミンA43mcg、ビタミンC1mgという数値を挙げている[2]。この数値はあくまで可食部100gあたりの基準であり、料理で使う量とは別の指標として扱う必要がある。使い方についてはFresh(生)、Cooked(加熱調理)、Processing(加工)という3区分が並べて示されている[2]。この記事が確認した範囲では、同じ頁にそれぞれの具体的な方法の説明は無い。

原産は南インドとスリランカ

POWOによる自生域の記録

キュー植物園のPlants of the World Online(POWO)は、Cymbopogon citratus (DC.) Stapfの自生域(native range)をS. India, Sri Lanka(南インド、スリランカ)としている[3]。POWOはこの種を、1906年にBull. Misc. Inform. Kewで初めて発表された、受理済みの種(accepted)として扱っている[3]。ここで示されているのは自生域であって、栽培が広がった地域の列挙ではない。

生育環境としての湿潤熱帯

POWOはこの種が多年草(perennial)であり、主に湿潤熱帯(wet tropical biome)で育つとしている[3]。用途については、動物の飼料、毒、医薬、環境用途、社会的用途、そして食用としての利用が挙げられている[3]。これらの用途区分は分類データベースとしての整理であり、この記事では食用としての側面に絞って扱う。この記事が確認したPOWOの記述は自生域を南インドとスリランカとするところまでで、導入先の地域名はここでは挙げない。

トムヤムクンでの役割

UNESCOが記録する無形文化遺産としての位置づけ

UNESCOは2024年(19.COM)に、Tomyum Kungを無形文化遺産の代表一覧(Representative List of the Intangible Cultural Heritage of Humanity)に記載した[4]。UNESCOの説明では、トムヤムクンはタイの伝統的なえびのスープであり、えびをレモングラス、こぶみかんの葉、ガランガル、エシャロットなどのハーブと共に煮て、地元の調味料で味付けするとされている[4]。この説明はハーブと煮る工程と味付けの工程を分けて記述しており、レモングラスはハーブの一つとして最初に名前が挙がっている。

DOAEが示す材料構成と香りの組み立て

DOAEのTom Yum Kung(Spicy Prawns Soup)の紹介では、材料の最初にLemongrassが置かれ、続いてleech lime leaves(こぶみかんの葉)、shallots(エシャロット)、galangal(ガランガル)、fresh chillies(または chilli paste、生の唐辛子またはチリペースト)、coriander(コリアンダー)、straw mushrooms(ふくろたけ)、sugar(砂糖)、lime juice(ライム果汁)、fish sauce(魚醤)などが続き、最後にえびが挙がっている[5]。DOAEはこのスープ独特の風味が、レモングラスなどの組み合わせによって生まれると説明している[5]。材料の並びでも風味の説明でも、レモングラスが最初に挙がっている[5]。

出典示されている材料・ハーブ
UNESCO[4]レモングラス、こぶみかんの葉、ガランガル、エシャロットなど
DOAE[5]レモングラス、こぶみかんの葉、エシャロット、ガランガル、唐辛子(またはチリペースト)、コリアンダー、ふくろたけ、砂糖、ライム果汁、魚醤、えびなど

魚醤を使った調味の詳細は、ナンプラー図鑑で扱う範囲である。

香りの正体はシトラール

シトラールの中身は、ゲラニアールのほうが多いレモングラスの精油の主成分シトラールを構成するゲラニアールとネラールの比率の範囲を、帯で並べた図。段階シトラールの中身は、ゲラニアールのほうが多いシトラールは単一の化合物ではなく、2種類の立体異性体の混合物を指す語。ゲラニアール(トランス体)40〜62%ネラール(シス体)25〜38%02562%精油そのものの量総説によれば、精油の含有量は0.2〜0.5%(West Indian lemon grass oil)で、主にシトラールから構成される。出典: Shah G ほか「Scientific basis for the therapeutic use of Cymbopogon citratus, stapf (Lemon grass)」J Adv PharmTechnol Res 2011;2(1):3-8(PMC3217679)図解:ajimuse.com

精油の主成分としてのシトラール

学術総説(J Adv Pharm Technol Res、2011年掲載、PMC3217679)によれば、レモングラスの精油は0.2〜0.5%(West Indian lemon grass oil)の含有量で、主にシトラールから構成されるとされている[6]。シトラールという名称は単一の化合物を指すのではなく、2種類の立体異性体の混合物を指す語として使われている[6]。

ゲラニアールとネラールの比率

同総説は、シトラールを構成する2つの立体異性体のうち、トランス体であるゲラニアールが40〜62%を占め、シス体であるネラールの25〜38%より多いとしている[6]。この比率はあくまで総説が示す精油組成の範囲であり、後述するISO 3217の規格値とは異なる文脈の数値として扱う必要がある。

精油には国際規格がある

国際規格は精油が発行済み、乾燥葉は策定中レモングラスに関わる2つのISO規格、精油のISO 3217:1974と乾燥葉のISO/FDIS 25261を、対象と状態で並べた図。並記国際規格は精油が発行済み、乾燥葉は策定中精油の規格は1974年に発行。乾燥葉の規格案は、正式に発行される前の段階にある。ISO 3217:1974Published(発行済み)対象は精油発行日は1974-08シトラールとして表したカルボニル化合物の含量は最小75%70%(V/V)エタノールへの溶解性にも触れるISO/FDIS 25261Under development(策定中)対象は乾燥レモングラス葉人の消費を意図した、ホールまたは粉の乾燥葉最終国際規格案が正式承認に向けて登録された段階正式な国際規格として発行される前の草案段階規格の対象ISO 3217は精油を対象とする規格で、料理で使う茎や葉の規格ではない。乾燥葉を対象にするのは、策定中のISO/FDIS 25261のほう。出典: ISO 3217:1974「Oil of lemongrass (Cymbopogon citratus)」/ISO/FDIS 25261「Spices and condiments — Whole, cut andground Lemongrass — Specification」図解:ajimuse.com

ISO 3217:1974が定める精油の概要

国際標準化機構(ISO)は、Oil of lemongrass (Cymbopogon citratus)という規格をISO 3217:1974として発行している[7]。iso.orgの規格頁の概要によれば、この規格はシトラールとして表したカルボニル化合物の含量を最小75%と定め、70%(V/V)エタノールへの溶解性についても触れている[7]。規格本文は有償で、この記事は規格頁の概要に書かれた範囲だけを紹介している。この規格は精油を対象とするものであり、料理で使う茎や葉の規格ではない。

規格の現在の状態

iso.orgの規格頁によれば、ISO 3217の状態はPublished(発行済み)であり、発行日は1974-08、段階はInternational Standard confirmed(国際規格として確認済み)とされている[7]。この規格はシトラールの含量という数値を扱う点で前の章の総説が示すゲラニアール・ネラールの比率と関連する領域ではあるが、両者は異なる物差し(精油全体のカルボニル化合物含量と、総説が示す2つの異性体の割合)で測定された数値であり、単純に足し合わせたり同一の基準として比較したりすることはできない。

乾燥葉の国際規格は策定中

ISO/FDIS 25261が対象とする範囲

ISOはSpices and condiments — Whole, cut and ground Lemongrass — Specificationという規格案をISO/FDIS 25261として策定中である[8]。iso.orgの規格頁の概要によれば、この規格案は人の消費を意図した、ホールまたは粉の乾燥レモングラス葉(dried lemon grass leaves)を対象とするとされている[8]。

策定中という位置づけ

iso.orgによれば、ISO/FDIS 25261の状態はUnder development(策定中)であり、段階はFinal text received or FDIS registered for formal approval(最終国際規格案が正式承認に向けて登録された段階)とされている[8]。この段階はまだ正式な国際規格として発行される前の草案段階であり、具体的な品位要件や数値基準については、現時点のiso.orgの概要からは確認できない。この規格が正式に発行された場合には、本記事の記述を改めて見直す必要がある。

乾燥ハーブ全般の扱いについては乾燥ハーブ図鑑、スパイスの全体像については世界の単一スパイス完全図鑑に委ねる内容である。

結論

レモングラスは、キュー植物園のPOWOが南インドとスリランカを自生域とする植物であり[3]、DOAEの紹介では長さ20〜25cm・緑、季節は通年と記され、使い方は生・加熱調理・加工の3つが挙げられている[1][2]。トムヤムクンについては、UNESCOとDOAEのいずれの説明でもレモングラスが最初に名前の挙がるハーブであり[4][5]、総説によれば精油の主な成分であるシトラールはゲラニアールとネラールという2つの立体異性体の混合物である[6]。国際規格としては、精油を対象とするISO 3217が1974年に発行され、規格頁の概要によればシトラールとして表したカルボニル化合物の含量を最小75%としている一方[7]、乾燥葉を対象とするISO/FDIS 25261はまだ策定中の草案段階にある[8]。使い方はDOAEの挙げる生・加熱調理・加工の3つ、国際規格の対象になっている形は精油と乾燥葉、というのがこの記事で確認できた範囲である。

参考文献

  1. タイ農業・協同組合省 農業普及局(DOAE)「Lemon Grass」 — 名称・大きさ・季節
    https://www.doae.go.th/en/lemon-grass/
  2. タイ農業・協同組合省 農業普及局(DOAE)「Lemon Grass」 — 栄養価と使い方
    https://www.doae.go.th/en/lemon-grass/
  3. Royal Botanic Gardens, Kew「Plants of the World Online: Cymbopogon citratus (DC.) Stapf」
    https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:396896-1
  4. UNESCO 無形文化遺産「Tomyum Kung」
    https://ich.unesco.org/en/RL/tomyum-kung-01879
  5. タイ農業・協同組合省 農業普及局(DOAE)「Tom Yum Kung (Spicy Prawns Soup)」
    https://www.doae.go.th/en/tom-yum-kung/
  6. Shah G ほか「Scientific basis for the therapeutic use of Cymbopogon citratus, stapf (Lemon grass)」J Adv Pharm Technol Res 2011;2(1):3-8(PMC3217679)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3217679/
  7. ISO 3217:1974「Oil of lemongrass (Cymbopogon citratus)」
    https://www.iso.org/standard/8421.html
  8. ISO/FDIS 25261「Spices and condiments — Whole, cut and ground Lemongrass — Specification」
    https://www.iso.org/standard/89624.html

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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