ケチャップ図鑑|各国の規格で見る「トマトケチャップ」の定義

ケチャップ図鑑|各国の規格で見る「トマトケチャップ」の定義

トマトケチャップは、日本の農林規格(JAS)では可溶性固形分25%以上のトマト加工品と定義され[1]、米国では連邦規則21 CFR 155.194が標準規格(standard of identity)を定めるが、その中身は日本のJASとかなり性格が違う[2]。条文が課す数値基準は粘度と内容量だけで、可溶性固形分の下限は定めていない。同じ「ケチャップ」という名称でも、何を基準として測るかが国によって異なり、結果として味の濃さ・甘さ・酸味のバランスに大きな差が生じる。輸入食材店で見かける海外製ケチャップが国産品と違う風味を持つのは、こうした規格の違いが背景にある。家庭で料理を再現する際、どの国の基準に基づく製品かを知れば、レシピの調整や代用の判断がしやすくなる。

トマトケチャップの規格と各国の違い トマトケチャップが日本のJASや米国FDAの規格で定義され、トマト固形分で等級が分かれること、国による味の違いやバナナケチャップなどの変わり種を示した図。 トマトケチャップの規格と各国差 「ケチャップ」は規格で定義される。トマト固形分の量が品質の目安。 規格での定義 ・日本:トマト加工品のJAS ・米国:連邦規則 21 CFR 155.194(Catsup) トマト・糖・酢・食塩・香辛料などから成る 調味料として基準が定められている。 トマト固形分の等級 トマトの可溶性固形分が多いほど上級。 濃厚でうま味・コクが強い。 JASでは固形分により標準・上級などの 区分がある。 国による味と変わり種 甘さ・酸味・スパイスのバランスは国ごとに違う。日本はまろやかな甘みと酸のバランス型。 フィリピンの「バナナケチャップ」はトマト不足を背景にバナナで作られた変わり種。 ▶ ラベルの原材料・固形分表示で、濃厚さと味の系統を見分けられる。 出典: トマト加工品の日本農林規格(JAS・農林水産省)/米国連邦規則 21 CFR 155.194(Catsup) 図解:ajimuse.com
目次

ケチャップとは――各国規格が定める「トマトケチャップ」の正体

日本のJAS規格――可溶性固形分25%以上という線引き

日本では、農林水産省が定めるトマト加工品のJAS規格において、トマトケチャップを「可溶性固形分25%以上」と明示している[1]。可溶性固形分とは、トマトの糖分・有機酸・ペクチンなど水に溶ける成分の総量を指し、この数値が高いほど濃厚な味わいになる。JAS規格では、原材料にトマトまたはトマトペースト、食塩、糖類、食酢、香辛料を使用でき、着色料や保存料の使用には制限がかかる。

この25%という基準は、国際的に見ると中程度の濃度設定だ。欧州の一部では30%を超える製品も珍しくなく、逆に東南アジアでは20%前後の軽い仕上がりが好まれる地域もある。日本の規格は、戦後の食生活の洋風化とともに整備され、1971年のJAS改正で現在の数値が固まった経緯がある。

米国のCatsup標準規格――連邦規則が定める要件

米国では、連邦規則21 CFR 155.194が「Catsup」(ケチャップの別表記)の標準規格を定めている[2]。この規則が定めるのは「Identity(定義・原材料・表示)」「Quality(品質)」「Fill of container(内容量)」の3項目である。使えるトマト由来原料を列挙したうえで、酢類・栄養性糖質甘味料・「スパイス、香料、玉ねぎまたはニンニク」の3カテゴリからそれぞれ1種以上を safe and suitable(安全かつ適切)な範囲で加えることを認める、という書き方をしている。米国の標準規格は「standard of identity」と呼ばれ、製品が特定の名称を名乗るために満たすべき条件を法的に規定する仕組みだ。

米国の規格では、トマト以外の野菜ピューレを混ぜた製品は「Catsup」と表示できず、別の名称を使う必要がある。一方で、スパイスの種類にも玉ねぎ・ニンニクの配合量にも上限や限定は設けられていない。条文にある数値基準は、ボストウィック粘度計で20℃・30秒あたり14cm以下という粘度と、容器容量の90%以上という内容量の2つだけで、基準を下回った製品は「Below Standard in Quality—Low Consistency」と表示すれば販売できる。なお「可溶性固形分8.0%以上/24.0%以上」という数値は完成品ケチャップではなく、原料であるトマト濃縮物を定める21 CFR 155.191の規定である。日本のJASが「品質の目安」として機能するのに対し、米国の連邦規則は「名称の使用資格」を定める点で性格が異なる。

トマト固形分の等級――濃度が決める味の濃さ

固形分25%と30%の違い

可溶性固形分が25%の製品と30%の製品では、トマトの濃縮度が約1.2倍異なる。固形分30%のケチャップは、同じ分量を使っても甘みと酸味が強く出るため、炒め物やソースのベースに向く。一方、25%の製品はさらっとした質感で、ディップや生野菜のトッピングに使いやすい。

家庭で輸入ケチャップを使う際、固形分の違いを意識すると調整がしやすい。たとえば、固形分30%の製品を日本のレシピ通りに使うと味が濃すぎる場合があるため、分量を8割程度に減らし、トマトジュースや水で伸ばすと元のバランスに近づく。逆に、固形分が低い製品を濃厚に仕上げたいときは、鍋で軽く煮詰めて水分を飛ばせばよい。

固形分と保存性の関係

可溶性固形分が高いほど、製品の保存性は向上する。糖分と有機酸が多いと浸透圧が高まり、微生物の繁殖が抑えられるためだ。実際、固形分30%以上の製品は開封後も冷蔵庫で数か月保つものが多く、25%前後の製品は開封後1〜2か月での使い切りが推奨される。

固形分(%)味の特徴主な用途開封後の保存目安
20〜24さらっと軽いディップ、サラダ1か月
25〜27標準的な濃さ炒め物、ソース2か月
28〜30濃厚で甘酸っぱい煮込み、ベース3か月
31以上非常に濃厚業務用、希釈前提4か月以上

国による味の違い――甘さ・酸味・スパイスの配合

米国製ケチャップ――砂糖の多さと滑らかな舌触り

米国製ケチャップは、日本製に比べて糖分が多く、甘みが前面に出る。連邦規則[2]はスパイスの種類を限定しないため、製造者はクローブシナモン、オールスパイスなどを自由に配合できる。結果として、メーカーごとに個性的な風味が生まれる一方、全体としては「甘くて滑らか」という共通点がある。

米国の家庭では、ケチャップをハンバーガーやフライドポテトに大量にかける習慣があり、強い甘みが油っぽさを中和する役割を果たす。日本の料理に使う場合、砂糖の量を控えめにするか、酢やレモン汁を足して酸味を補うと、日本人の味覚に馴染みやすくなる。

欧州製ケチャップ――酸味と香辛料の効いた複雑な味

欧州、特にイタリアやスペインで作られるケチャップは、トマトの酸味を生かし、香辛料を効かせた複雑な味わいが特徴だ。オレガノ、バジル、黒胡椒などのハーブ・スパイスを多用し、砂糖の添加量は米国製より少ない。固形分30%を超える製品も多く、濃厚ながら後味がすっきりしている。

欧州の規格では、原産地呼称(DOP、IGP)を取得した製品もあり、使用するトマトの品種や産地が厳格に管理される。たとえば、イタリア南部のサンマルツァーノ種を使ったケチャップは、果肉が厚く酸味が穏やかで、パスタソースのベースに向く。

日本製ケチャップ――バランス重視の万能型

日本のケチャップは、甘み・酸味・うま味のバランスを重視し、和洋中どの料理にも合わせやすい設計になっている。JAS規格[1]の枠内で、製造者は食塩や糖類の配合を調整し、日本人の味覚に最適化した製品を作る。米国製ほど甘くなく、欧州製ほど酸っぱくない「中庸」の味が、日本の家庭料理に定着した理由だ。

近年は、有機トマトや国産トマトを使った高付加価値製品も増えており、固形分28%前後で果肉感を残した製品が人気を集めている。こうした製品は、ナポリタンやオムライスなど、ケチャップが主役になる料理で真価を発揮する。

バナナケチャップ(フィリピン)等の変わり種

バナナケチャップ――第二次大戦が生んだ代用品

フィリピンには、トマトの代わりにバナナを使った「バナナケチャップ」が存在する。第二次世界大戦中、トマトの供給が途絶えたフィリピンで、食品技術者マリア・オロサが考案したとされる。バナナをピューレ状にし、食酢、砂糖、スパイス、着色料(多くは赤色)を加えて、トマトケチャップに似た外観と風味を再現した。

バナナケチャップは、トマト製品よりも甘みが強く、酸味が控えめだ。フィリピンでは、フライドチキンや春巻き(ルンピア)のディップソースとして日常的に使われる。日本では輸入食材店で入手でき、エスニック料理の隠し味や、子ども向けの甘いソースとして活用できる。

その他の変わり種ケチャップ

世界には、トマト以外の野菜や果物を使ったケチャップが複数ある。以下に代表例を挙げる。

  • マッシュルームケチャップ(英国):18世紀から19世紀にかけて英国で作られた、マッシュルームを発酵させた調味料。醤油に似た風味で、肉料理の隠し味に使われた。
  • クルミケチャップ(英国):未熟なクルミを塩漬けにし、スパイスと酢で調味したもの。濃厚なうま味があり、ソースのベースに向く。
  • マンゴーケチャップ(インド):マンゴーをベースに、タマリンド、チリ、スパイスを加えた甘辛いソース。チャツネに近い質感で、カレーやサモサに合う。

これらの変わり種は、トマトが普及する以前の「ケチャップ」が、発酵調味料や果物ベースのソース全般を指していた歴史を反映している。

結論

トマトケチャップの定義は、日本のJAS規格が可溶性固形分25%以上と定め[1]、米国の連邦規則がトマト由来原料と固形分の要件を標準規格として規定する[2]など、国ごとに異なる基準で管理されている。固形分の濃度、糖分と酸味のバランス、スパイスの種類が国によって大きく変わるため、同じ「ケチャップ」でも味わいは多様だ。バナナケチャップのような変わり種は、歴史的経緯や地域の食文化を色濃く反映している。

家庭で世界の料理を再現する際、使うケチャップがどの国の規格に基づくかを知れば、レシピの調整や代用の判断がしやすくなる。輸入食材店で手に取った製品のラベルを確認し、固形分や原材料をチェックする習慣を持つと、料理の幅が広がる。次に海外製ケチャップを見かけたら、ラベルの数値を読み解き、自分の料理に合う一本を選んでほしい。

参考文献

  1. トマト加工品の日本農林規格(JAS、昭和54年農林水産省告示第1419号、最終改正 平成16年農林水産省告示第1968号)(農林水産省)
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_22.pdf
  2. 米国連邦規則 21 CFR 155.194(Catsup)(数値基準は粘度14cm/30秒・内容量90%以上のみ)
    https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-155/subpart-B/section-155.194

この記事を書いた人

世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く編集部です。数字と固有名詞は本国の公的機関や規格で裏を取り、家庭で「あの国の味」を再現したい人に役立つ形にまとめます。

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