マヨネーズ図鑑|卵黄型と全卵型、各国規格の違い

マヨネーズ図鑑|卵黄型と全卵型、各国規格の違い

マヨネーズは日本農林規格(JAS)で半固体状ドレッシングの一種と定義され、卵黄又は全卵の使用と油脂含有率65%以上が要件となる[1]。日本では卵黄のみを使う卵黄型が主流だが、欧米では全卵を使う全卵型が一般的で、この違いが味わいと用途を大きく分ける。卵黄に含まれるレシチンが油と酢を結びつける乳化剤として機能し[2]、この科学的な仕組みが世界共通のマヨネーズの基盤を成す。輸入食材店で見かける海外製品と日本製品の濃厚さ・色の違いは、この卵の使い分けと各国の規格基準に由来している。

マヨネーズ:卵黄型と全卵型 マヨネーズが卵・油・酢を乳化させた調味料で、日本は卵黄型・欧米は全卵型が主流であること、JASやFDAの規格、乳化の科学を示した図。 マヨネーズ:卵黄型と全卵型 卵・油・酢を乳化させた調味料。日本は卵黄型、欧米は全卵型が主流。 卵黄型(日本に多い) 卵黄だけを使う。 濃厚でコクが強く、色は黄色みが濃い。 日本のマヨネーズはこのタイプが中心。 全卵型(欧米に多い) 卵白ごと全卵を使う。 あっさり軽く、色は淡い。 欧米の製品に多いタイプ。 各国の規格 日本=ドレッシングのJAS(卵・油・酢、 油分の下限を規定)。米FDAにも基準。 乳化の科学 卵黄のレシチンが油と酢(水)をつなぎ、 分離しない安定な乳化状態をつくる。 ※ベルギーのフリッツ、ロシアのオリヴィエなど、世界には多様なマヨ文化がある。 出典: ドレッシングのJAS(農林水産省)/キユーピー公式(マヨネーズの科学) 図解:ajimuse.com
目次

マヨネーズとは――卵・油・酢の三要素

JASが定める半固体状ドレッシングの定義

日本では農林水産省のドレッシング類の日本農林規格(JAS)がマヨネーズを「半固体状ドレッシングの一種」と位置づけ、卵黄又は全卵の使用、油脂含有率65%以上、食酢の使用を必須要件として定めている[1]。この規格により、日本国内で「マヨネーズ」を名乗る製品は一定の品質基準を満たす必要がある。油脂含有率が65%未満の製品は「サラダクリーミードレッシング」など別の分類となり、マヨネーズとは表示できない。

卵黄又は全卵が乳化剤として機能する点が、マヨネーズを他のドレッシングと区別する最大の特徴だ。卵黄に含まれるレシチンは親水基と親油基を持つリン脂質で、水分(酢)と油脂を結びつけて安定した乳化状態を作り出す[2]。この乳化の仕組みがなければ、油と酢は分離したままで、マヨネーズ特有のクリーミーな質感は生まれない。

基本三要素の役割分担

マヨネーズを構成する三要素は、それぞれ明確な役割を担う。卵は乳化剤として油と酢をつなぎ、油脂はコクと滑らかさを生み、食酢は酸味と保存性を与える。この三者のバランスが、製品ごとの味わいと質感を決定する。

要素主な役割典型的な使用量(質量比)
卵(卵黄または全卵)乳化剤(レシチン供給)10〜15%
油脂(植物油)コク・滑らかさ・カロリー源65〜80%
食酢(醸造酢・果実酢)酸味・保存性・風味5〜10%

日本のマヨネーズは油脂含有率が70〜80%に達する製品が多く、欧米の製品(65〜70%程度)と比べて濃厚な味わいになる傾向がある。この差は、後述する卵黄型と全卵型の違いとも連動している。

日本は卵黄型、欧米は全卵型――味と色の分岐点

卵黄型マヨネーズの特徴

日本で主流の卵黄型マヨネーズは、卵黄のみを使用して作られる。卵黄は卵白に比べてレシチン含有量が多く、少量で強力な乳化作用を発揮する[2]。このため、より多くの油脂を安定して乳化でき、結果として濃厚でコクのある味わいと、鮮やかな黄色の外観を実現する。

キユーピーに代表される日本の大手メーカーは、卵黄型を基本として製品を展開してきた[2]。卵黄型は油脂含有率を高めやすく、日本人が好む「まろやかで濃厚」な味わいを作りやすい。ただし、卵黄は卵白に比べてコストが高く、製品価格にも反映される。

全卵型マヨネーズの特徴

欧米で一般的な全卵型マヨネーズは、卵黄と卵白の両方を使用する。卵白を加えることで卵黄単独よりも乳化力は弱まるが、原料コストを抑えられ、あっさりとした味わいになる。色は卵黄型に比べて淡く、クリーム色に近い外観となる。

全卵型は油脂含有率が65〜70%程度に抑えられることが多く、カロリーも卵黄型より低めになる。欧米では野菜サラダに軽くかける用途が中心で、日本のように揚げ物や焼き魚に添える濃厚なソースとしての使い方は少ない。この用途の違いが、卵の使い分けを定着させた背景にある。

味わいと用途の違い

卵黄型と全卵型の違いは、単なる原料の差にとどまらず、料理文化と結びついている。日本では卵黄型の濃厚さが、醤油ベースの味付けや揚げ物との相性を高め、マヨネーズを「調味料」として多用する食文化を支えてきた。一方、欧米では全卵型のあっさりした味わいが、生野菜やサンドイッチの「ドレッシング」として好まれる。

輸入食材店で海外製マヨネーズを手に取ると、日本製に比べて色が薄く、味も軽やかに感じるのは、この卵の使い分けに起因する。どちらが優れているかではなく、料理のスタイルと好みに応じて選ぶべき違いだと言える。

各国規格の違い――日本のJASと米国のFDA

日本のJAS規格

日本のJAS規格は、マヨネーズを「半固体状ドレッシング」と定義し、以下の要件を定める[1]

  • 卵黄又は全卵の使用(必須)
  • 油脂含有率65%以上
  • 食酢または柑橘果汁の使用
  • 添加物は調味料(アミノ酸等)と香辛料抽出物に限定

この規格により、日本国内で「マヨネーズ」を名乗る製品は一定の品質を保証される。油脂含有率が65%未満の製品は「マヨネーズタイプ」や「サラダクリーミードレッシング」として区別され、消費者が成分を判断しやすくなっている。

国際規格(Codex)は現存しない

マヨネーズについては、かつてCodexに欧州地域規格(CODEX STAN 168-1989)が存在したが、2003年の第26回総会で撤回された。現在、Codexにマヨネーズの規格は存在しない。「Codexが国際基準を定めている」という説明を見かけるが、これは成り立たない。

そのため、マヨネーズの基準は各国の規格に委ねられている。輸出入時の品質判定も、輸入先国のJASやFDAの連邦規則といった国内規格が基準となる。

米国FDA規格

米国食品医薬品局(FDA)は、連邦規則集(CFR)でマヨネーズの定義を定めている。主な要件は次の通りだ。

  • 卵黄含有原料の使用(液状・冷凍・乾燥の卵黄に加え、全卵も認められる)
  • 油脂含有率65%以上
  • 酢または柑橘果汁の使用
  • 塩・砂糖・香辛料の添加を許可

「米国では全卵を使うとマヨネーズと名乗れない」という説明を見かけるが、これは誤りである。21 CFR 169.140 は卵黄含有原料として、液卵黄・冷凍卵黄・乾燥卵黄に加えて液全卵・冷凍全卵・乾燥全卵を明示的に列挙しており、全卵を使ってもマヨネーズである。マヨネーズ(169.140)とサラダドレッシング(169.150)を分けるのは卵の種類ではなく、植物油の割合(65%以上か30%以上か)と澱粉ペーストの有無(サラダドレッシングは澱粉ペーストが必須)である[3]

規格比較表

項目日本(JAS)米国(FDA)
卵の種類卵黄又は全卵卵黄含有原料(全卵も可)
油脂含有率65%以上65%以上
酸味料食酢または柑橘果汁酢または柑橘果汁
添加物JAS基準に準拠CFR基準に準拠

規格の違いは、各国の食文化と産業保護の意図を反映している。日本のJASが定義に「卵黄又は全卵」という二つの選択肢を置くのは、卵黄型と全卵型の両方を「マヨネーズ」として流通させる実態に対応したものだ。卵白そのものは定義の選択肢ではないが、使用してよい原材料としては限定列挙に含まれている[1]

乳化の科学――レシチンが油と酢をつなぐ仕組み

マヨネーズの乳化の科学 卵黄のレシチンが親水基と親油基で油滴を包み、油と酢をつなぐ乳化の仕組みと、製法・保存のポイントを示した図。 乳化の科学──レシチンが油と酢をつなぐ 本来混ざらない油と酢を、卵黄のレシチンが微細な油滴にして安定させる。 酢(水相) 油滴 ● 親水基→水 | 棒 親油基→油 レシチンの働き 卵黄のレシチンは親水基と親油基を併せ持つ リン脂質。油滴の表面を覆い、水との境界を 安定させて分離を防ぐ。 製法のポイント 油は少しずつ加え高速撹拌/工業は高圧で油滴1〜5μmに 保存 冷蔵で安定(油の粘度が上がる)/冷凍は乳化が壊れNG 出典: ドレッシングのJAS(農林水産省)/乳化に関する食品科学の知見に基づきAJIMUSE Lab が整理。 図解:ajimuse.com

乳化とは何か

乳化とは、本来混ざり合わない二つの液体(油と水)を、微細な粒子として分散させて安定させる現象を指す。マヨネーズでは、卵黄に含まれるレシチンが乳化剤として働き、油滴を酢の中に均一に分散させる[2]。この乳化状態が崩れると、油と酢が分離して元の液体に戻ってしまう。

レシチンは親水基(水になじむ部分)と親油基(油になじむ部分)を持つリン脂質で、油滴の表面を覆って水分との境界を安定化させる。この分子構造が、マヨネーズの滑らかな質感と長期保存を可能にする。

製造工程での乳化技術

マヨネーズの製造では、卵黄と酢を先に混ぜ合わせ、そこに油を少しずつ加えながら高速で撹拌する。油を一度に加えると乳化が追いつかず分離するため、段階的に加えて油滴を細かく分散させることが重要だ[2]。工業生産では高圧ホモジナイザーを使い、油滴を1〜5マイクロメートルの微細な粒子に砕いて安定性を高める。

家庭でマヨネーズを手作りする場合も、同じ原理が適用される。卵黄と酢を泡立て器でよく混ぜ、油を数滴ずつ垂らしながら絶えず撹拌し続けることで、乳化状態を維持できる。温度が低すぎると油が固まりやすく、高すぎると卵黄のタンパク質が変性して乳化力が落ちるため、室温(20〜25℃)での作業が推奨される。

乳化の安定性と保存

乳化状態は温度変化や振動で崩れやすい。冷蔵保存が推奨されるのは、低温で油の粘度が上がり、油滴の移動が抑えられて分離しにくくなるためだ[2]。逆に、冷凍すると油滴が凝集して乳化が破壊されるため、マヨネーズは冷凍保存に向かない。

開封後のマヨネーズは空気に触れると酸化が進み、風味が劣化する。酢の酸性環境が微生物の繁殖を抑えるため、常温での短期保存も可能だが、品質維持の観点からは冷蔵が望ましい。JAS規格のマヨネーズは使用できる原材料と添加物が限定列挙されており、保存料はその列挙に含まれない[1]

世界のマヨネーズ文化――ベルギーのフリッツからロシアのオリヴィエまで

ベルギー――フリッツとマヨネーズ

ベルギーでは、フライドポテト(フリッツ)にマヨネーズを添えて食べる文化が根付いている。街角の専門店(フリトゥール)では、揚げたてのポテトに好みのソースを選べるが、最も人気があるのがマヨネーズだ。ベルギーのマヨネーズは全卵型で、酸味が控えめでクリーミーな味わいが特徴となる。

この食べ方は隣国フランスやオランダにも広がり、欧州全体でポテトとマヨネーズの組み合わせが定着した。日本でケチャップが主流なのと対照的に、欧州ではマヨネーズがファストフードの定番ソースとして機能している。

ロシア――オリヴィエサラダ

ロシアの国民的料理「オリヴィエサラダ」は、茹でたジャガイモ・ニンジン・卵・ピクルス・ハム(または鶏肉)をマヨネーズで和えたサラダだ。19世紀にモスクワのレストラン「エルミタージュ」のシェフ、リュシアン・オリヴィエが考案したとされる。当初はキャビアや高級食材を使った贅沢な一品だったが、ソビエト時代に庶民向けにアレンジされ、現在の形になった。

ロシアでは新年の食卓に欠かせない料理として、家庭ごとに独自のレシピが受け継がれている。マヨネーズは単なる調味料ではなく、料理の主役として大量に使われ、野菜と具材を一体化させる役割を担う。

日本――調味料としての多用途化

日本では、マヨネーズをサラダに限らず、お好み焼き・たこ焼き・焼き魚・揚げ物など幅広い料理に使う文化が発達した。卵黄型の濃厚な味わいが、醤油や味噌といった和風調味料と調和しやすく、戦後の食生活の洋風化と共に普及した。

キユーピーが1925年に日本初のマヨネーズを発売して以来[4]、マヨネーズは「洋食の調味料」から「和洋折衷の万能ソース」へと進化した。現在では、マヨネーズを使った創作料理や、マヨネーズ専用の調味料(マヨラー向け製品)も登場し、独自の食文化を形成している。

結論――規格と文化が作る多様性

マヨネーズは卵・油・酢という単純な三要素から成るが、卵黄型と全卵型の違い、各国の規格基準、乳化技術の応用により、多様な製品と食文化を生み出してきた。日本のJAS規格が油脂含有率65%以上を求める背景には、濃厚な味わいを好む国内市場の需要があり[1]、欧米の全卵型が普及した背景には、軽やかなドレッシングとしての用途がある。

輸入食材店で海外製マヨネーズを見かけたとき、色の違いや味の軽さに戸惑うかもしれないが、それは卵の使い分けと各国規格の反映だと理解すれば、料理に応じた使い分けが可能になる。濃厚な卵黄型は和風料理や揚げ物に、あっさりした全卵型は生野菜やサンドイッチに向く。レシチンの乳化作用という科学的な仕組み[2]を知れば、家庭での手作りマヨネーズも失敗しにくくなる。

マヨネーズを選ぶ際は、パッケージのJAS表示や原材料欄を確認し、油脂含有率と卵の種類を見極めることが第一歩となる。規格と文化の違いを理解すれば、世界のマヨネーズをより深く味わえるだろう。

参考文献

  1. ドレッシングの日本農林規格(JAS、昭和50年農林省告示第955号、最終改正 平成28年農林水産省告示第489号)(農林水産省)
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_02_doressi_160224.pdf
  2. キユーピー「卵黄素材(卵黄レシチン)とは」(ファインケミカル)(レシチンは分子内に疎水基と親水基を持ち、天然の乳化剤として用いられる)
    https://www.kewpie.co.jp/finechemical/egg/lecithin.html
  3. 米国連邦規則 21 CFR 169.140(Mayonnaise)(卵黄含有原料に全卵を明示的に許容・植物油65%以上)
    https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-169/subpart-B/section-169.140
  4. キユーピー「100年のあゆみ」(1925年 日本初 キユーピー マヨネーズ)
    https://www.kewpie.co.jp/100th/history/

この記事を書いた人

世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く編集部です。数字と固有名詞は本国の公的機関や規格で裏を取り、家庭で「あの国の味」を再現したい人に役立つ形にまとめます。

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