オールスパイスは単一の植物に由来するスパイスで、フトモモ科ピメンタ属の乾燥果実(学名Pimenta dioica)を指す[1][9]。クローブ・胡椒・シナモン・ナツメグを思わせる複合的な香りから、英国人によって「オールスパイス」と名付けられたとする総説がある[8]。ジャマイカでは「ピメント」と呼ばれ、実はジャークシーズニングに使われる[3]。
- オールスパイスはフトモモ科ピメンタ属の乾燥果実で、複数のスパイスの混合ではなく単一の植物に由来する。
- 名前は、クローブ・胡椒・シナモン・ナツメグを合わせたような香りに由来するとされる。
- ジャマイカでは「ピメント」と呼ばれ、その実がジャークシーズニングに使われる。
この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。
オールスパイスの正体 — 単一種の乾燥果実
ISO・Codexにおける位置づけ
ISO 973:2026「Pimento [Pimenta dioica (L.) Merr.], whole or ground — Specification」は、ホールまたは粉末状のピメント(オールスパイス)について要件を定める規格である[1]。この規格の対象物の表記からわかる通り、オールスパイスは複数のスパイスを混ぜ合わせた調合品ではなく、単一の植物種に由来する果実である。Codex(国際食品規格委員会)香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)の情報文書に付属する分類表でも、「Dried fruits and berries(乾燥果実・ベリー類)」という植物部位別のグループの1番目にAllspice(Pimenta dioica (L.) Merr.)が置かれている[2]。同じ群には、スターアニスやカルダモン類が続いて並んでいる[2]。
エスビー食品による科名・形状の説明
エスビー食品のスパイス&ハーブ検索は、オールスパイスの科名をフトモモ科、原産地を西インド諸島、利用部位を果実と説明している[9]。形状については、5〜8mmの暗褐色をした球状の乾燥果実で、6〜9m程度に生長する木につく房状の果実を未熟なうちに収穫して乾燥させたものをスパイスとして利用するとされる[9]。別名として百味胡椒(ひゃくみこしょう)・三香子(さんこうし)・ジャマイカンペッパー・ピメントなどが挙げられている[9]。
名前の由来 — 複数の香りが重なる香気
英国での命名(クローブ・胡椒・シナモン・ナツメグ)
ヨーロッパへもたらされた後、その強い芳香がクローブ・胡椒・シナモン・ナツメグの香りを組み合わせたように感じられたことから、英国人によって「Allspice(オールスパイス)」と名付けられたとする総説がある[8]。この総説(Zhang & Lokeshwar, 2012)は、ジャマイカ胡椒植物(Pimenta dioica)の薬効と非薬効利用を扱った学術論考であり、名称の由来を複数の香りの合成という観点から説明している。
挙げる香りの数は出典によって異なる
一方、エスビー食品の解説では、クローブ・ナツメッグ・シナモンをミックスしたような深みのある香りだと説明されており、挙げられている香りは3種にとどまる[9]。同社の「適した料理」の解説でも、シナモン・クローブ・ナツメッグを合わせたような香りという表現が重ねて使われている[10]。総説が4種(クローブ・胡椒・シナモン・ナツメグ)を挙げるのに対し、エスビー食品は3種(クローブ・ナツメッグ・シナモン)を挙げており、どちらが正しいかを一方に決める根拠は両出典の記述からは得られない。
ジャマイカでは「ピメント」と呼ばれる
葉・実・樹皮の利用(ジャマイカ政府広報)
ジャマイカ政府広報(Jamaica Information Service)の記事によれば、ピメントの葉・実・樹皮は民間療法や料理に用いられ、一般に「allspice」と呼ばれている[3]。実はジャークシーズニングに使われ、木材は肉の香り付けに利用されるとされる[3]。同記事はさらに、若木が杖(walking stick)やヤム芋を支える支柱、傘の柄の材料としても使われてきたことを記録している[3]。
ジャマイカ現地でのピメントの用途は、記事の記述をまとめると次の通りである。
- 葉・実・樹皮:民間療法と料理の両方に利用される[3]
- 実:ジャークシーズニングに使われる[3]
- 木:肉の香り付けに使われる[3]
- 若木:杖・ヤムの支柱・傘の柄の材料になる[3]
規制対象としての主産地(JACRA)
ジャマイカ農産品規制庁(JACRA、Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority)は、規制対象となる主な農業スパイスとしてピメント・ナツメグ・生姜・ターメリックなどを挙げている[4]。このうちピメントの主産地は、St. Elizabeth・Westmoreland・St. Ann・Portland・St. Maryの5教区とされる[4]。ナツメグの主産地(St. Mary・St. Catherine・St. Thomas・Portland)とは、St. MaryとPortlandの2教区が重なっている[4]。世界生産量に占めるジャマイカのシェアについては、確認できた資料の範囲では数値が示されていない。
収穫量と輸出額の推移
収穫量の増加
ジャマイカ政府広報が農業大臣グリーン氏の発言を伝えた2023年6月付の記事によれば、ピメントの収穫量は234%増加し、338,000キログラムに達したとされる[5]。同じ記事のなかで、生姜の生産については2021年と比べた増加であることが明示されているのに対し、ピメントの増加率については、本記事が確認した箇所に比較対象の年が書かれていない[5]。そのためこのピメント収穫量の増加を特定の年の比較として断定せず、記事が伝えた時点での増加として扱う。
輸出額と国内販売額
同じ記事では、この収穫量が輸出で240万米ドル、国内市場での販売で3,400万ドルを生んだとされている[5]。原文は同じ一文のなかで、輸出額を「US$2.4 million」、国内販売額を「$34 million」と書き分けている。国内販売額のほうは通貨単位が米ドルであると明記されておらず、輸出額と同じ通貨の金額として大小を比べることはできないため、本記事でも通貨の種類を断定せずそのまま引用する。記事によれば、グリーン氏はそれでもなお、やるべきことはまだ多いとの立場を示し、拡大のペースを加速させなければならないと述べている[5]。世界の輸出に占めるジャマイカのシェアについては、確認できた資料の範囲では言及がない。
規格の読み方 — USDAとISO
USDA調達規格A-A-20001Cの数値
米国農務省(USDA)の調達規格「A-A-20001C: Spices and Spice Blends」の表Iは、オールスパイスについて分析上の要件を数値で定めている[6]。オールスパイスの行には、水分・精油・全灰分・酸不溶性灰分・粒度の値が入っている[6]。
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 水分(上限) | 10.0% |
| 精油(下限) | 3.0% |
| 全灰分(上限) | 6.0% |
| 酸不溶性灰分(上限) | 0.5% |
| 粒度(ふるい30番通過率・下限) | 95% |
出典:USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C」表I(Allspice)[6]
このA-A-20001Cは米国政府が物資を調達する際に用いる商品記述(Commercial Item Description)であり、米国内または日本国内で流通するオールスパイス全般に適用される法定の食品基準ではない点に注意がいる。あくまで調達の仕様として読むべき数値である。
ISO 973:2026の位置づけ
ISO 973:2026の規格頁は、この規格のステータスを「Published」、発行日を「2026-05」と表示している[1]。規格の抄録は、ホールまたは粉末状のピメント(オールスパイス)の要件を定めるものであり、保管・輸送条件に関する推奨事項が附属書Aにまとめられていると説明している[1]。ただし規格本文は有償頒布のため、水分や精油含量といった具体的な数値条項を本記事で確認することはできておらず、数値をISO規格に帰属させた記述は避けている。
どんな料理に使われているか
ジャークシーズニングでの役割
USDA調達規格のジャークシーズニング(Jerk Seasoning)の項目は、強いオールスパイスの風味(原文は strong allspice flavor)とともに、甘い赤唐辛子と玉ねぎのニュアンスを併せ持つことを要件に挙げている[7]。含めるべき原材料としては、これらに限らないとしたうえで、砂糖・スパイス(赤唐辛子、タイム、オールスパイス)・塩・玉ねぎ・ターメリックが示されている[7]。見た目については、赤と白の斑点、緑の葉の破片が混じった茶色の粉末であることが規定されている[7]。この項目では、ジャークシーズニングの風味の要件にオールスパイスが名指しされている。
世界各地の料理と菓子
Zhang & Lokeshwar(2012)の総説は、ホールまたは粉末のオールスパイスが世界各地の食料品店で販売され、中東・中米の料理のほか、欧州の焼き菓子にも使われていると述べている[8]。
家庭での使い方(エスビー食品の範囲)
エスビー食品は、オールスパイスが肉料理・スープ・ピクルス・菓子類など幅広い料理に使われると説明している[10]。同社の解説では、複数の香りを併せ持つという特徴を踏まえ、次のような代用の仕方が紹介されている。
- ナツメッグの代わりにハンバーグへ使う[10]
- シナモンの代わりにお菓子へ使う[10]
- クローブの代わりにビーフシチューへ使う[10]
同社はさらに、深みのある香りがフライドチキンの下味付けに活躍するほか、ホール粒はピクルスやザワークラウトなど酢漬け料理の香り付けにも使われると説明している[10]。これらはいずれもエスビー食品が示す料理例であり、特定の配合や分量を推奨する記述ではない。ナツメグ・クローブ・シナモンそのものの特徴や使い分けについてはナツメグとメース・クローブの解説記事、シナモンとカシアの違いについてはシナモン・カシアの解説記事、複数のスパイスを組み合わせたブレンド全般の考え方についてはスパイスブレンドの解説記事に、それぞれ説明が譲られている。
結論
オールスパイスは、クローブ・胡椒・シナモン・ナツメグを思わせる複合的な香りを持つ単一種の乾燥果実であり、ISO 973やCodexの分類表でも一つの品目として扱われている[1][2]。ジャマイカでは「ピメント」と呼ばれ、JACRAの規制対象としてSt. Elizabeth・Westmoreland・St. Ann・Portland・St. Maryの5教区が主産地に挙げられ、2023年6月付の政府広報の記事では収穫量の増加と輸出・国内販売での金額が示されている[3][4][5]。品質面では、USDAの調達規格A-A-20001Cが水分10.0%以下・精油3.0%以上などの数値を示す一方、これは米国政府の調達基準であって食品全般の法定基準ではない[6]。家庭での使い方としては、エスビー食品が、ナツメッグ・シナモン・クローブの代わりに使う例と、肉料理・スープ・ピクルス・菓子類といった用途を挙げている[10]。
関連記事
参考文献
- ISO 973:2026 Pimento [Pimenta dioica (L.) Merr.], whole or ground — Specification
https://www.iso.org/standard/90588.html - Codex 香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)情報文書「Standard template」付録I Part I: Grouping of spices and culinary herbs
https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/codexalimentarius/committee/docs/CCSCH_InfDoc_ST_e.pdf - Jamaica Information Service「NEPA Calls On Jamaicans To Protect Pimento And Bitterwood Trees」
https://jis.gov.jm/features/nepa-calls-on-jamaicans-to-protect-pimento-and-bitterwood-trees/ - Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority(JACRA)「About Spices」
https://jacra.org/divisions/spices/about-spices/ - Jamaica Information Service「Jamaica Must Re-establish Its Prominence in the Global Spice Industry – Minister Green」
https://jis.gov.jm/jamaica-must-re-establish-its-prominence-in-the-global-spice-industry-minister-green/ - USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」表I
https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf - USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」6.2.9 Jerk Seasoning
https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf - Zhang L, Lokeshwar BL「Medicinal Properties of the Jamaican Pepper Plant Pimenta dioica and Allspice」Curr Drug Targets 2012;13(14):1900–1906
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3891794/ - エスビー食品 スパイス&ハーブ検索「オールスパイス/Allspice」科名・特徴・形状
https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00004.html - エスビー食品 スパイス&ハーブ検索「オールスパイス/Allspice」適した料理
https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00004.html
