ハリッサは天日で乾かした唐辛子を種抜き・洗浄したうえで塩・にんにく・コリアンダーとともに挽き、ガラスや陶器の容器に蓄えるまでが一続きの工程として記されている[1]。一方サンバルは、刻む・すり潰すという調製法の違いに加え、加熱して食べるか生で食べるかという幅を持つ薬味の総称であり[2]、インドネシアでは sambal terasi のような個別品目が国家規格の対象にもなっている[3]。この2つは見た目こそ似た赤い唐辛子ペーストだが、成り立ちの記述され方がまるで違う。
- ハリッサは天日で乾かした唐辛子を塩・にんにく・コリアンダーと挽いて容器に蓄える調味料で、サンバルは調製法に幅がある薬味の総称だ。
- サンバルは刻む型とすり潰す型があり、加熱する場合も生で食べる場合もある薬味の総称で、テラシ入りのような個別品目もある。
- ハリッサも挽いて作るので「すり潰すか」では見分けられず、瓶なら原材料の乾燥唐辛子や魚介系のテラシが手がかりになる。
この記事は「世界のホットソース完全ガイド|スコヴィル値で巡る辛さの地図」の各論です。
結論:ハリッサは一続きの工程、サンバルは幅のある調製法の総称
UNESCOが記述する「工程」としてのハリッサ
ハリッサについては、UNESCOの無形文化遺産登録の記述が具体的な手順を示している。天日で乾燥させた唐辛子を割って軸を取り、種を抜き、洗浄し、それから塩・にんにく・コリアンダーとともに乳鉢と乳棒(pestle and mortar)または手回しのミンサーで挽く、という順序である[1]。挽き終えたものはガラスや陶器の容器に保存される、というのがこの記述の終着点だ[1]。つまりハリッサは「唐辛子を乾かして挽いて容器に蓄える」という一つながりの動作として書かれている。
学術論文が記述する「調製法の総称」としてのサンバル
対してサンバルは、インドネシアの食文化研究の論文で「preparation methods」(調製法)という言葉そのものが使われ、刻む(slicing)とすり潰す(mashing)という2つの型があると整理される[2]。さらに、いくつかの唐辛子ソースは加熱調理されることもあれば、生で食べられることもあると書かれている[2]。この論文はサンバルの多様性を、資源・地理的要因・歴史・文化という複数の要素によって生じるものだと位置づけている[2]。ハリッサが単一の工程として記述されるのに対し、サンバルは最初から「幅」を前提にした薬味として扱われている点が対照的である。
資料を読み比べると、ハリッサの記述には手順書のような一本の線があり、サンバルの記述には、資源や地理、歴史、文化によって幅が生じるという前提がある。この違いは調味料そのものの複雑さの差ではなく、記述のされ方の差として読むほうが資料に忠実である。
ハリッサの工程を分解する
天日乾燥から種抜き・洗浄まで
UNESCOの記述をそのまま追うと、最初の工程は唐辛子を天日で乾燥させることである[1]。乾燥した唐辛子は割られて軸が取られ、種が抜かれる[1]。その後、唐辛子は洗浄される、という順序が示されている[1]。この一連の作業は、通常チュニジア社会の女性たちによって、和気あいあいとした家族や近隣の集まりの場で行われると記述されている[1]。
挽く・調味する・容器に蓄える
洗浄後の唐辛子は、塩・にんにく・コリアンダーとともに挽かれる。使う道具は乳鉢と乳棒、あるいは手回しの肉用ミンサーのどちらでもよいとされている[1]。挽き上がったハリッサは、ガラスまたは陶器の容器に保存される、というところまでがUNESCOの記述の範囲である[1]。ここで注意したいのは、「つぶす」という工程がハリッサにも明確に存在することだ。乳鉢と乳棒を使う以上、ハリッサもすり潰す作業を経ており、「サンバルだけがすり潰す調味料」という区別は資料の記述と合わない。
- 天日乾燥→軸取り・種抜き→洗浄という下処理の順序[1]
- 塩・にんにく・コリアンダーとの調味を、挽く工程と同時に行う点[1]
- 保存容器がガラスまたは陶器に限定されて記述されている点[1]
ハリッサの文化的背景(無形文化遺産としての社会的な位置づけの詳しい経緯)は、この記事では工程の記述に留め、別の記事の主題として委ねる。
サンバルの調製法とその幅
刻む・すり潰すという2つの型
論文が示す調製法の分類は、刻む(slicing)とすり潰す(mashing)の2種類である[2]。どちらの型を選ぶかは地域や家庭の慣習によって分かれると考えられ、論文はこの多様性の要因として資源・地理・歴史・文化を挙げている[2]。ここで扱われている調製法の区分は工程の名称であって、唐辛子そのものが生か乾燥かを区別する記述ではない点に注意したい。
加熱するか、生で食べるか
論文はさらに、唐辛子ソース(chili sauces)が加熱調理される場合と生で食べられる場合の両方があると述べている[2]。この raw(生)という語は、ソースそのものを加熱せずに食べる、という食べ方を指した記述であり、原料の唐辛子が生の状態か乾燥した状態かを説明したものではない。したがって「サンバルは生の唐辛子を使う」という言い方は、この論文の記述からは導けない一般化になる。サンバルの多様性は、この2つの軸(調製法の型と、食べ方の加熱・生)が組み合わさって生まれるものだと資料からは読める。
- 調製法の型:刻む/すり潰す[2]
- 食べ方:加熱調理/生(ソースとして生食)[2]
サンバルの地域ごとの具体的な種類(インドネシア各地の呼び名や材料の違い)は、この記事では触れず、別の記事のテーマとして扱う範囲になる。
インドネシアの国家規格に見るサンバルの位置づけ
SNI 01-4865.1-1998「Sambal terasi」の書誌情報
インドネシア国家標準化庁(Badan Standardisasi Nasional)は、sambal terasi(テラシ入りサンバル)について国家規格SNI 01-4865.1-1998を定めている[3]。この規格は現在も有効(Berlaku)というステータスで登録されており、規格自体は7頁の文書として頒布されている[3]。制定日は1998年12月31日、制定に関する決定番号は1219/BSN-I/HK.24/12/1998と記録されている[3]。
ICS分類が示す「魚と魚製品」という位置
この規格に付されたICS(国際規格分類)は67.120.30であり、これは「Ikan dan produk ikan」(魚と魚製品)というカテゴリーに対応する[3]。唐辛子ベースの薬味であるsambal terasiが、規格上は調味料一般ではなく魚介製品の分類に置かれている点には留意したい。これはテラシ(発酵エビペースト)を主要な構成要素とするsambal terasiという個別品目の分類であり、サンバル全体がすべて魚介製品として規格化されているという意味ではない。なお、この規格の書誌頁からは規格の中身(成分基準や試験方法などの条文)までは確認できておらず、この記事では規格の存在とその分類にとどめて記述する。
| 確認できた項目 | 内容 |
|---|---|
| 規格番号 | SNI 01-4865.1-1998[3] |
| 題名 | Sambal terasi[3] |
| ステータス | Berlaku(有効)[3] |
| ICS分類 | 67.120.30 Ikan dan produk ikan(魚と魚製品)[3] |
| 制定日 | 1998年12月31日[3] |
| 頁数 | 7頁[3] |
比較表で見るハリッサとサンバルの違い
唐辛子の扱いと保存
ハリッサは唐辛子を天日で乾燥させてから使う工程が明記されている[1]のに対し、サンバルの調製法の記述は乾燥・生の区別ではなく刻む・すり潰すという処理の違いを軸にしている[2]。ハリッサの保存についてはガラスや陶器の容器という記述があるが[1]、サンバルの保存方法については本記事の参考資料のなかに記述が見当たらない。
規格化の有無という視点
サンバルについては、少なくともsambal terasiという個別品目がインドネシアの国家規格として存在することが確認できる[3]。
| 観点 | ハリッサ | サンバル |
|---|---|---|
| 唐辛子の下処理 | 天日乾燥→種抜き→洗浄[1] | 記述の軸は調製法(刻む/すり潰す)[2] |
| つぶし方 | 乳鉢と乳棒、または手回しミンサーで挽く[1] | 刻む、またはすり潰す[2] |
| 食べ方の幅 | 記述上は挽いて保存するまでが一続き[1] | 加熱調理/生(ソースとして)の両方が記述される[2] |
| 保存 | ガラスまたは陶器の容器[1] | — |
| 規格上の位置 | — | sambal terasiがSNI規格の対象、ICSは「魚と魚製品」[3] |
使い分け:出典で言える範囲まで
「つぶす」を境界線にしない
ハリッサとサンバルを比べるとき、「すり潰すのがサンバルで、刻むだけなのがハリッサ」という区別を思い浮かべる人がいるかもしれないが、これは資料の記述と合わない。UNESCOの記述によれば、ハリッサも乳鉢と乳棒でしっかり挽く工程を持っており[1]、サンバルの刻む・すり潰すという2型のうち「すり潰す」の型と工程としては近い動作になる。つぶすという動作の有無ではなく、乾燥という下処理の有無や、保存を前提とした容器への記述の有無で見たほうが、出典に基づいた区別になる。
家庭での使い分けの手がかり
本記事の参考資料で言えることは限られるが、ハリッサは天日乾燥から保存容器まで一続きの工程として記述される調味料であり、家庭で作る場合もこの順序(乾燥・種抜き・洗浄・挽く・保存)を踏襲する形になりやすいと考えられる[1]。サンバルは刻むかすり潰すか、加熱するか生で使うかという選択肢そのものが多様性の一部として記述されているため、料理や場面に応じてその場で調製法を選ぶ薬味として使うのが、資料の記述に沿った理解になる[2]。瓶を手に取ったときは、原材料表示に乾燥唐辛子とあればハリッサの工程との近さを考える手がかりになり、テラシなどの魚介系材料があればsambal terasiのような個別品目の系譜だと見当がつく[1][3]。
- ハリッサ:乾燥・種抜き・洗浄・挽く・容器保存という工程の記述に沿って使う[1]
- サンバル:刻む/すり潰す、加熱/生という選択の幅を前提に、料理ごとに調製法を選ぶ[2]
資料の記述を並べてみると、ハリッサとサンバルは同じ唐辛子ペーストとしてひとまとめにしやすいが、資料が答えている問いの粒度がそもそも違う。ハリッサの資料は工程を、サンバルの資料は分類の幅を答えており、この記事で書けるのはその範囲までである。選ぶ場面では、原材料表示と保存方法の記述が、乾燥唐辛子を挽いて容器に詰めたものか、刻む・すり潰すという調製の選択が前提の薬味かを見分ける手がかりになる。
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参考文献
- UNESCO「Harissa, knowledge, skills and culinary and social practices」
https://ich.unesco.org/en/RL/harissa-knowledge-skills-and-culinary-and-social-practices-01710 - L. L. Rahmah, A. N. M. Ansori「Diversity of sambal types in Indonesia」Food Systems 6(3), 2023(doi:10.21323/2618-9771-2023-6-3-288-297)
https://www.fsjour.com/jour/article/view/297 - Badan Standardisasi Nasional「SNI 01-4865.1-1998 Sambal terasi」書誌頁
https://pesta.bsn.go.id/produk/detail/5271-sni01-48651-1998
