サルサとチミチュリの違い|メキシコと南米のフレッシュソース

サルサとチミチュリの違い|メキシコと南米のフレッシュソース

サルサとチミチュリの違いは、語の階層にある。サルサはスペイン語で、調味のために混ぜ合わせた食品を指す総称語であり[2]、チミチュリはそのうちアルゼンチンとウルグアイに固有の、にんにく・パセリ・アヒ・塩・油・酢を使う一種を指す[3]。輸入食材店で瓶を選ぶとき、この包含関係を知っているかどうかで見え方が変わる。

この記事の結論
  • サルサはソース全般を指す総称で、チミチュリはその中の一種の呼び名である。
  • アルゼンチンとウルグアイのチミチュリは、にんにく・パセリ・辛味のアヒ・塩・油・酢で作り、肉の調味に使う。
  • コスタリカでは同じ名の料理がトマトを角切りにしたソースで、国によって中身がまるで違う。

この記事は「世界のテーブルソース図鑑|卓上の1本を体系で読む」の各論です。

目次

結論:salsa は総称、chimichurri はラプラタ固有の salsa

サルサは「混ぜて調味する食品」を指す総称語

スペイン王立アカデミー(RAE)の『スペイン語辞典』は、salsa の第一義を、調味や味付けのために作られる、複数の食用の物質を溶かし混ぜた組成物と定義している[2]。この定義には特定の地域・材料・調理法の縛りがない。ラテン語の salsa(塩味の、の意)を語源とし、液体状であること、食品を味付けする目的であることの二点だけが条件になる[2]。同じ語がスペイン語では活気や楽しさを与えるものを指す比喩的な用法や、ラテン系ダンス音楽のジャンル名としても使われている点も、salsa が固有の一品を指す語ではないことの裏づけになる[2]。

チミチュリはラプラタ地域に固有の一種

同じRAEの辞典は chimichurri を、アルゼンチンとウルグアイに固有のサルサで、にんにく・パセリ・辛味のアヒ・塩・油・酢を基材とし、肉の調味に使われるものと定義している[3]。見出し語の説明文自体が「Salsa propia de la Argentina y Uruguay」、つまりアルゼンチンとウルグアイに固有のサルサという語で始まっており、chimichurri を salsa の下位概念として扱っていることが分かる[3]。

語の階層——サルサ⊃チミチュリ

以上を踏まえると、サルサとチミチュリを同じ階層で並べて「違いは何か」と問うこと自体が、厳密な語の使い方としてはやや粗い。サルサは調味液体の総称であり、チミチュリはその中でラプラタ地域の材料構成が固定された一種類にすぎない[2][3]。この整理を知っておくと、「サルサ」と書かれた瓶と「チミチュリ」と書かれた瓶を、階層の違う呼び名として見分けやすくなる。サルサが総称である以上、パッケージの「サルサ」表記だけでは中身を絞り込みにくいため、原材料表示もあわせて確認するとよい。

メキシコのサルサ:生の刻みから加熱・すり潰しまで

同じメキシコの「サルサ」でも、生で刻むか、焼いてすり潰すかで分かれるメキシコ文化省の資料にあるサルサ・メヒカーナとサルサ・ベルデ・アサダを、材料・工程・仕上がり・合わせ方の観点で突き合わせた対比図。対比同じメキシコの「サルサ」でも、生で刻むか、焼いてすり潰すかで分かれるsalsaは一つの調理法を指す語ではない。工程が違えば質感も使いどころも変わる。サルサ・メヒカーナサルサ・ベルデ・アサダ材料チレ・セラーノ、シラントロ、白タマネギ、赤トマトトマト、チレ・セラーノ、タマネギ、ニンニク工程すべて生のまま刻むトマトとチレを焼き、生のタマネギ・ニンニクとすり潰す仕上がり刻んだ状態で供する水分が出やすく、液体に近づく合わせ方青トウモロコシのトラコヨに乗せるのが定番家庭では、つけダレやからめる用途に分けて考えやすい瓶で見分けるなら生のものも加熱したものも同じ「サルサ」と呼ばれるので、商品名だけでは中身を絞り込みにくい。原材料欄を見比べる。出典: Secretaría de Cultura(メキシコ文化省)Sistema de Información Cultural「Las salsas」(Gastronomía México)図解:ajimuse.com

サルサ・メヒカーナ——生のまま刻む

メキシコ文化省の文化情報システムは、サルサ・メヒカーナを、緑のチレ・セラーノとシラントロ(コリアンダー)、白いタマネギ、赤いトマトのすべての材料を生のまま刻んだものとして説明している[1]。青トウモロコシのトラコヨ(豆やソラマメを詰めた薄焼き)に乗せるのが定番の合わせ方とされ、オリーブオイルを加えて仕立てを変えたり、他の食材と混ぜてサラダ状にしたりする作り方も紹介されている[1]。加熱の工程がなく、材料をすべて刻んだ状態で供する点が、この後に見る加熱系のサルサとの分かれ目になる。

サルサ・ベルデ・アサダ——焼いてすり潰す

同資料はサルサ・ベルデ・アサダについて、皮をむいたトマトとチレ・セラーノを焼き、生のタマネギとニンニクと一緒にすり潰すと説明している[1]。トマトとチレを先に焼く工程が入る点、最終的にすり潰して液体に近い状態にする点が、刻んで供するサルサ・メヒカーナとの違いになる。同じ「サルサ」という語の下に、生の刻みと加熱後のすり潰しという、質感も工程も異なる二つの調理法が並立していることになる。

すり潰す調理と使い分け

すり潰す系統のサルサは、刻む系統に比べて水分が出やすく液体に近づく。家庭では、刻む系統をタコスやトスターダの上に足す薬味として、すり潰す系統をつけダレやからめる用途として分けて考えやすい。個々の種類を網羅した分類は本記事の主題ではないため、ここではメキシコの salsa が単一の調理法に収まらないという点にとどめておく。生のサルサと加熱したサルサが同じ語で呼ばれている以上、商品名だけで中身を判断するのは難しい。原材料欄を見比べる習慣をつけると、同じ「サルサ」でも中身の差に気づきやすくなる。

チミチュリの辞書定義:にんにく・パセリ・唐辛子・塩・油・酢、肉用

材料は六つ——にんにく・パセリ・アヒ・塩・油・酢

RAEの定義に列挙されている材料は、にんにく(ajos)、パセリ(perejil)、辛味のあるアヒ(ají picante)、塩(sal)、油(aceite)、酢(vinagre)の六つである[3]。油と酢の両方が材料として明記されている点は、メキシコのサルサ・メヒカーナやサルサ・ベルデ・アサダの説明には出てこない要素であり、チミチュリを特徴づける構成要素になっている[1][3]。

用途は肉の調味に限定される

RAEの定義は用途についても「que se emplea para aderezar la carne」、つまり肉を調味するために使われると明記している[3]。サルサ・メヒカーナがトラコヨという特定の主食に合わせて説明されているのに対し、チミチュリは食材ではなく料理カテゴリー(肉)に紐づけて定義されている点が対照的である[1][3]。

地域はアルゼンチンとウルグアイに限定される

辞典の定義文にある「propia de la Argentina y Uruguay」という一節は、chimichurri という語の中核的な意味がアルゼンチンとウルグアイという二国に紐づいていることを示している[3]。起源に関する人名由来説などが語られることもあるが、本記事の参考資料の範囲では確認できないため、取り上げない。地域内での材料の作り分けや、アヒとの関係を掘るのであれば、辞典の定義以上の資料が必要になる。

同じ名前で別物:コスタリカの chimichurri はトマトの刻みソース

chimichurriという語は、国によって指すものがまったく違うchimichurriという語が、アルゼンチン・ウルグアイ、コスタリカ、ドミニカ共和国でそれぞれ何を指すかを、辞書の定義に沿って分けた構造図。構造chimichurriという語は、国によって指すものがまったく違うラプラタでは肉用の調味液、コスタリカではトマトの刻みソース、ドミニカ共和国では屋台の料理と店の名前。chimichurri という語同じ綴りでも、地域を確かめないと実物を取り違えるアルゼンチン・ウルグアイ肉を調味するサルサにんにく・パセリ・アヒ・塩・油・酢コスタリカ角切りトマトのサルサトマト・タマネギ・chile dulce・クラントロ・limón。多くの料理に添えるドミニカ共和国豚肉のサンドイッチ豚のさまざまな部位を使うボカディージョそれを売るキオスク屋外の小さな売店の通称にもなる油と酢で見分ける油と酢の両方を材料に含むのはラプラタ式だけ。原材料に両方あればラプラタ式に近く、無ければメキシコのサルサかコスタリカ式のトマトソースに近い。出典: Real Academia Española / ASALE『Diccionario de la lengua española』「chimichurri」/Asociación de Academias de laLengua Española『Diccionario de americanismos』「chimichurri」図解:ajimuse.com

コスタリカのchimichurri——トマトの角切りソース

スペイン語圏の学術団体連合(ASALE)の『アメリカ主義スペイン語辞典』は、コスタリカで chimichurri と呼ばれるものを、角切りにしたトマト、タマネギ、甘味のあるチレ(chile dulce)、クラントロ(コリアンダー系の香草)、limón(柑橘)で作るサルサで、多くの料理に添えて使われるものと説明している[4]。にんにく、パセリ、油、酢というアルゼンチン・ウルグアイの chimichurri の材料は一つも含まれておらず、代わりにトマトとlimón(柑橘)が中心になっている。同じ chimichurri という語でも、ラプラタ地域とコスタリカでは指す実体がまったく異なる。

ドミニカ共和国のchimichurri——豚肉のサンドイッチとキオスクの名前

同じ辞典は、ドミニカ共和国での chimichurri の使われ方も記録している。豚のさまざまな部位を使い、サンドイッチ(ボカディージョ)として食べる料理を chimichurri と呼び、さらに転じてそれを売る屋外の小さなキオスクのことも chimichurri と呼ぶという[4]。ソースの名前ではなく、屋台料理そのものと販売スポットの通称になっている用法であり、サルサ・チミチュリという語の並びから想像される「調味液」の範囲を完全に超えている。同じ chimichurri という単語が、アルゼンチンでは調味液、コスタリカでは刻みソース、ドミニカ共和国では屋台料理やキオスクの通称になる。輸入食材のラベルに chimichurri とだけ書かれていても、地域を確認しないと実物を取り違える可能性がある。

比較表:基材・油と酢の有無・調理法・合わせる料理

表の対象と出典

以下は、これまでに見た四つの「サルサ/chimichurri」を、基材・調理法・油と酢の有無・合わせる料理の四項目で並べたものである。出典に明記のない項目は「明記なし」とし、確認できない値を推測で埋めていない。

四種類の比較

名称地域基材調理法油・酢の有無合わせる料理
サルサ・メヒカーナメキシコチレ・セラーノ、シラントロ、白タマネギ、赤トマト(すべて刻み)[1]生出典に明記なし(オリーブ油を加える仕立てもある)[1]青トウモロコシのトラコヨ[1]
サルサ・ベルデ・アサダメキシコ焼いたトマトとチレ・セラーノ、生タマネギ、生ニンニク(すり潰す)[1]焼いてからすり潰す出典に明記なし出典に明記なし
チミチュリアルゼンチン・ウルグアイにんにく、パセリ、アヒ、塩、油、酢[3]出典に加熱の記載なし油・酢とも使用[3]肉[3]
chimichurri(コスタリカ)コスタリカトマト、タマネギ、chile dulce、クラントロ、limón(柑橘)[4]出典に加熱の記載なし出典に明記なし(limón〈柑橘〉を使用)[4]多くの料理の付け合わせ[4]

表から読み取れる境界線

表を並べると、油と酢の両方を材料に含むのはラプラタ地域のチミチュリだけであり、メキシコのサルサ二種とコスタリカの chimichurri にはその明記がない。手元の瓶がどちらに近いかを見分けるには、原材料表示に油と酢が両方入っているかを確認するのが早い。入っていればラプラタ式のチミチュリに近く、入っていなければメキシコのサルサ、あるいはコスタリカ式のトマトソースに近いと判断できる。ラベルの「salsa」「chimichurri」という表記だけを見て中身を決めるのではなく、原材料欄まで読む習慣が、この語の階層を実際の買い物に落とし込む一番の近道になる。

参考文献

  1. Secretaría de Cultura(メキシコ文化省)Sistema de Información Cultural「Las salsas」(Gastronomía México)
    https://sic.gob.mx/ficha.php?table=gastronomia&table_id=56
  2. Real Academia Española / ASALE『Diccionario de la lengua española』「salsa」
    https://dle.rae.es/salsa
  3. Real Academia Española / ASALE『Diccionario de la lengua española』「chimichurri」
    https://dle.rae.es/chimichurri
  4. Asociación de Academias de la Lengua Española『Diccionario de americanismos』「chimichurri」
    https://www.asale.org/damer/chimichurri

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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