世界のテーブルソース図鑑|卓上の1本を体系で読む

世界のテーブルソース図鑑|卓上の1本を体系で読む

テーブルソースは、調理済みの料理に卓上で追加する液状調味料の総称である。本稿では、主原料と製法に着目してトマト系・酢系・乳化系・発酵系の4系統に整理する(この4分類は本稿の整理軸であり、公的な規格区分ではない)。英国のウスターソース[9]、米国のケチャップ[14]、フランスのマヨネーズ、米国ルイジアナ州エイブリー島のタバスコ[3]など、各地域の食文化を反映した定番が存在し、それぞれ多くの派生製品を生んでいる。輸入食材店で見かける「聞いたことはあるが使い方が分からない」1本の正体は、多くの場合この体系のどこかに位置づけられる。製法・組成・地域文化の3軸から、卓上調味の全体像を整理する。

目次

テーブルソースとは(卓上で足す調味の文化)

定義と範囲

テーブルソースは、加熱調理を終えた料理に対し、食卓で各自が味を調整するために用いる液状またはペースト状の調味料を指す。「テーブルソース」という語そのものに公的な定義があるわけではなく、実務上は品目ごとに規格が定められている。たとえば日本のJAS(ウスターソース類の日本農林規格)は、ウスターソース類を「野菜若しくは果実の搾汁、煮出汁、ピューレー又はこれらを濃縮したものに砂糖類(砂糖、糖蜜及び糖類をいう。以下同じ。)、食酢、食塩及び香辛料を加えて調製した」茶色または茶黒色の液体調味料と定義する[1]。米国では、ケチャップ(catsup)が21 CFR §155.194で、マヨネーズが21 CFR §169.140で、それぞれ規格基準(standard of identity)として定義されている[7][8]

本稿が扱う範囲には、ケチャップ・マスタード・マヨネーズ・ウスターソース・醤油・タバスコなどが含まれる一方、デミグラスソースやホワイトソースのような調理工程で使う母材は含まれない。ただし、フランス料理の母ソース(mother sauces)の一部は、派生形がテーブルソースとして卓上に登場する場合もあり、境界は流動的である[13]

卓上調味の歴史的背景

英国の瓶入りテーブルソースのうち、最も早い時期から続いているものの一つがウスターソースである。製造元リー・アンド・ペリンズの社史によれば、1837年にウスターの薬剤師ジョン・ウィーリー・リーとウィリアム・ヘンリー・ペリンズが新しい調味料を調合し、18か月後にそれが美味なソースに熟成していたことを見いだしたため、売り出すことに決めたという[9]。なお「英国で卓上に瓶入りソースを置く習慣が定着した最初の例」という位置づけは本稿の整理であって、同社の社史がそう述べているわけではない。時代の下る英国のブラウンソースとしては、後述のHPソースがある[10]

一方、フランスでは19世紀を通じてソースの階層的な分類が整えられ、20世紀初頭にオーギュスト・エスコフィエが『料理の手引き(Le Guide Culinaire)』で体系として整理した[13]。エスコフィエは温製ソースを「基本ソース(leading sauces、別名 mother sauces)」と、そこから派生する「小ソース(small sauces)」に二分している[13]。ただし基本ソースの顔ぶれは版によって異なる。1903年のフランス語初版が「グランド・ソース・ド・バーズ(基本となる大ソース)」として挙げるのは「エスパニョール、ヴルーテ、ベシャメル、トマト」の4種で、オランデーズは小ソースの側に置かれている[15]。オランデーズを含めて5種とする形は、本稿が典拠とする1907年の英訳版のものである[13]

地域ごとの卓上文化

英国では濃厚なウスター系ソースが肉料理に不可欠であり、米国ではケチャップがフライドポテトやハンバーガーの定番となった。フランスでは乳化系のマヨネーズが冷製料理に多用され、地中海沿岸では唐辛子ベースのホットソースが魚介料理に添えられる。中南米では、トマティーヨやハバネロを使った発酵系ソースが、タコスやセビーチェに欠かせない。

日本では、明治期に英国式ウスターソースが導入され、関西のソース文化として定着した。JAS(ウスターソース類の日本農林規格)では、ウスターソース・中濃ソース・濃厚ソースの3種が規格化されており、区分の基準は粘度のみである[1]。これらは英国の原型とは異なる独自の進化を遂げ、お好み焼きやとんかつといった日本料理に最適化された。

トマト系・酢系・乳化系・発酵系で分類

製法による4大分類

テーブルソースは、主原料と製法の組み合わせで4つの系統に整理できる。以下は本稿による整理であり、公的な規格上の区分ではない。個々の品目については、後述のとおり日米の規格が別々に定義を置いている[1][7][8]

分類主原料代表例製法の特徴
トマト系トマト・トマトペーストケチャップ・サルサ・マリナーラ加熱濃縮・糖分添加
酢系酢・香辛料ウスターソース・タバスコ・ホットソース発酵・熟成・スパイス抽出
乳化系卵黄・油脂マヨネーズ・タルタルソース卵黄成分(LDL・タンパク質・リン脂質)による乳化
発酵系大豆・穀物・唐辛子醤油・魚醤・コチュジャン麹菌・乳酸菌による発酵

この分類は排他的ではなく、複数の要素を併せ持つソースも多い。例えば英国のHPソースは、ビネガー製造業者(ミッドランズ・ビネガー社)が世に出したブラウンソースであり[10]、酢を軸にしながら果実の甘味・酸味を併せ持つ。ただし原材料の内訳は製品表示で確認すべきもので、公式の社史は組成を示していないため、本稿では系統名以上に踏み込まない。

トマト系の組成と用途

トマト系ソースは、トマトを加熱濃縮することで、うま味成分であるグルタミン酸をはじめとする呈味成分を凝縮させる。米国の連邦規則は、ケチャップ(catsup)をトマト濃縮物や完熟赤トマトの液分を原料とし、皮と種を除いたうえで、食酢・栄養甘味料・香辛料(香料・玉ねぎ・にんにく)・食塩を任意に加えたものと定義している[7]。組成の水準はUSDAの任意等級規格が定めており、総固形分は米国グレードAで「33パーセント以上」、グレードBで「29パーセント以上」、グレードCで「25パーセント以上」とされる[6]。この等級規格は2026年6月12日施行の改定版で、1992年2月26日以来施行されていた旧版「Tomato Catsup」を置き換えたものである[6]。改定の内容は色の判定方法と等級呼称の一本化、および「catsup」から「ketchup」への表記変更が中心で、総固形分の数値は変わっていない[6]。この濃度と甘味が、フライドポテトの塩味との対比を生む。

イタリアのマリナーラソースは、トマト・ニンニク・オリーブオイルを短時間加熱したもので、糖分は添加しない。メキシコでは、生のトマトを刻んでライムと香菜を混ぜた非加熱のピコ・デ・ガヨと、トマトと乾燥唐辛子をローストして煮詰めるサルサ・ロハが使い分けられる。同じトマト系でも、加熱の有無と糖分の量で用途が分かれる。

酢系の発酵と熟成

酢系ソースは、酢酸発酵を経た酢に、スパイス・果実・野菜を漬け込み、熟成させて作る。英国のウスターソースについてリー・アンド・ペリンズの社史が語る「18か月」は、1837年に調合した液体が18か月後に熟成していたという創業時の逸話であり、現在の製造工程の熟成期間として公表されているものではない[9]。同社は現在も創業地ウスターで「最初に売り出した1837年当時とほぼ同じ方法で」製造していると述べている[9]

米国のタバスコソースは、ルイジアナ州エイブリー島で作られている。製造元マキルヘニー社の社史によれば、最初の商業用の唐辛子を収穫したのが1868年で、その翌年に658本のソースを出荷したという[3]。現在のマッシュの熟成は「ホワイトオークの樽で最長3年」まで長くなっており、仕上げに高品質の蒸留酢を用いると同社は説明している[3]。辛味の指標であるスコヴィル値(SHU)について、同社の製品ページはオリジナルレッド(製品)のスコヴィル値を2,500〜5,000と表示している[4](唐辛子そのものの値としては示されていない)。政府調達の場面での辛さの水準は、米国政府調達仕様(USDA AMS のCommercial Item Description A-A-20097G、2019年7月12日版)が類型ごとに定めており、Type I(ホット)は650 SHU以上、Type V(ハバネロ)は5,000〜8,000 SHUと規定される[5]。酢の酸味が辛味を和らげ、魚介料理やスープへの追加に適する。

乳化系の安定性

乳化系ソースは、卵黄の成分が油と水を結びつける性質を利用する。家庭向けの解説では「卵黄のレシチンが乳化剤として働く」と説明されることが多いが、卵黄の乳化能はリン脂質(レシチン)単独ではなく、低密度リポタンパク質(LDL)やタンパク質の界面への吸着による寄与が大きいことが知られている。米国の連邦規則はマヨネーズを、植物油を重量比65%以上含み、卵黄または全卵(液状・冷凍・乾燥)を乳化成分とし、酢(酢酸として2.5%以上の酸度)またはレモン・ライム果汁で酸度を調整したものと定義している[8]。油の比率が下がると、油滴が分離して乳化が破綻する。

エスコフィエの『料理の手引き』は、マヨネーズ(No.126)、アイオリ(No.121)、レムラード(No.130)をいずれも冷製ソースの章に独立した処方として収載している[13]。うちレムラードは「マヨネーズに加える」形で書かれた派生だが、アイオリはニンニクと生卵黄1個から立てる別立ての処方である[13]。フランスのアイオリは、ニンニクをすり潰してから油を加える地中海のソースで、卵の扱いは典拠によって異なる(後述のとおり、フランス語の辞書はにんにくとオリーブ油の2材料で定義している)。日本で「タルタルソース」と呼ばれるピクルス入りのソースは、原典の系統ではむしろレムラードに近い。乳化系は冷蔵保存が前提となる。

発酵系の微生物

発酵系ソースは、麹菌・乳酸菌・酵母などの微生物が原料を分解し、アミノ酸・有機酸・香気成分を生成する。JAS(しょうゆの日本農林規格)は、こいくちしょうゆを、大豆(脱脂加工大豆を含む)にほぼ等量の麦を加えたもの又はこれに米等の穀類を加えたものを蒸煮処理してこうじ菌を培養した「しょうゆこうじ」を用い、食塩水とともに仕込んで製造するものと定義している[2]。この過程でグルタミン酸が生成され、うま味の主成分となる。

タイの魚醤(ナンプラー)は、小魚を塩とともに漬け込み、長期間自然発酵させた液体を濾過したものである。国際的な規格としてCodex「魚醤の規格」(CXS 302-2011)が存在し、全窒素を1リットルあたり10g以上、アミノ酸態窒素をその全窒素の40%以上と定めている[12]。あわせて食塩は1リットルあたり200g以上(NaCl換算)、pHは5.0〜6.5(発酵を助ける原料を使う場合でも4.5を下回らないこと)とされ、発酵期間は一般に6か月以上とされている[12]。タンパク質がアミノ酸まで分解されていることが品質の要件になっている、と読める。韓国のコチュジャンは、麹・唐辛子・もち米を混ぜて発酵させたペースト状ソースで、甘味・辛味・うま味が共存する。

地域別マップ(英・米・仏・地中海・中南米)

英国:ウスター系とブラウンソース

英国のテーブルソースは、ウスターソースとHPソース(ブラウンソース)の2大系統に集約される。ウスターソースは、1837年にウスター市の薬剤師ジョン・ウィーリー・リーとウィリアム・ヘンリー・ペリンズが調合したものである[9]。同社の社史によれば、1904年に英国王室御用達(Royal Warrant)を受け、1897年に開いたウスターの工場で現在も操業を続けており、当時とほぼ同じ製法で作られているという[9]

HPソースは、1899年にノッティンガムの食料品商フレデリック・ギブソン・ガートンが考案したブラウンソースである[10]。ガートンは借金の返済のため、レシピを150ポンドでミッドランズ・ビネガー社の創業者エドウィン・サムソン・ムーアに売却し、1903年に現在の形で発売された[10]。ウスターソースよりも濃厚で甘味が強く、ソーセージやベーコンに合う。英国の朝食文化(フル・イングリッシュ・ブレックファスト)では、HPソースが卓上に常備される。

米国:ケチャップとマスタードの二大巨頭

米国の卓上を代表するのは、ケチャップとマスタードである。ハインツ社の社史によれば、同社のトマトケチャップが米国の店頭に現れたのは1876年で、当初は「Catsup」と呼ばれ、太陽で完熟させたトマトを含む5つの簡素な原料から作られていたという[14]。連邦規則上のケチャップは、トマト濃縮物などのトマト原料に食酢・栄養甘味料・香辛料・食塩を任意に加えたものと定義され[7]、任意等級規格では総固形分がグレードAで33パーセント以上と定められている[6]

イエローマスタードは、マスタードシード(黄芥子)を酢・ターメリック・砂糖で練ったもので、ホットドッグやハンバーガーに不可欠である。フレンチマスタード(ディジョンマスタード)は、白ワインと黒芥子・褐色芥子を使い、辛味が強い。両者の消費量の比較については、公的な統計を確認できなかったため本稿では数値を示さない。

フランス:母ソースと卓上派生形

フランスでは、母ソース(mother sauces)とその派生という階層構造が、調理現場と食卓の双方に影響を与えた。エスコフィエ『料理の手引き』の1907年英訳版は、基本ソースとしてエスパニョール、ヴルーテ、ベシャメル、トマト、オランデーズの5種を挙げ、そこから派生する多数の「小ソース」を体系的に収載している[13]

このうち、オランデーズとその派生形(ベアルネーズ・ムースリーヌ)は卓上ソースとしても使われる。ベアルネーズソースは、オランデーズにタラゴン・シャロット・白ワインビネガーを加えたもので、ステーキに添えられる。マヨネーズは母ソースには含まれないが、フランス料理の冷製ソースとして独自の系統を形成し、アイオリ・レムラード・タルタルなどの派生形を生んだ。

地中海:オリーブオイルと唐辛子

地中海沿岸では、オリーブオイルと唐辛子を基調としたソースが卓上に並ぶ。イタリアのペスト・ジェノベーゼは、バジル・松の実・パルミジャーノ・レッジャーノ・ニンニク・オリーブオイルをすり潰したペーストで、パスタやパンに塗る。ここで注意したいのは、DOP(原産地名称保護)を受けているのはペスト(ソース)そのものではなく、原料のバジルだという点である。EUは2005年の委員会規則(EC) No 1623/2005によって「Basilico Genovese(ジェノヴァ・バジル)」をPDO(DOP)として登録しており、対象は「果実・野菜・穀物(加工の有無を問わない)」の区分に属する[11]。つまり「ペスト・ジェノベーゼDOP」という登録は存在せず、DOPを名乗れるのはバジルの側である。

スペインのロメスコソースは、焼いた赤ピーマン・トマト・アーモンド・ニンニク・パプリカ・オリーブオイルを混ぜたカタルーニャ地方の伝統ソースである。魚介のグリルやカルソッツ(焼きネギ)に添えられる。ギリシャのツァジキは、ヨーグルト・キュウリ・ニンニク・オリーブオイルを混ぜた冷製ソースで、ケバブやピタパンに合う。

中南米:サルサとモレ

メキシコのサルサは、トマトまたはトマティーヨを基調とした非加熱ソースで、ハラペーニョ・セラーノ・ハバネロなどの唐辛子を刻んで混ぜる。サルサ・ロハ(赤)はトマト、サルサ・ベルデ(緑)はトマティーヨを使う。サルサ・マチャは、唐辛子を焼いてからすり潰し、油を加えた濃厚タイプである。なお米国政府調達仕様では、緑(Type III)のホットソースを600〜1,200 SHU、ハバネロ(Type V)を5,000〜8,000 SHUと類型化しており、同じ「唐辛子ソース」でも辛さの幅が大きいことが分かる[5]

モレは、唐辛子・チョコレート・スパイス・ナッツを混ぜた複雑なソースで、オアハカ州とプエブラ州が本場である。モレ・ポブラーノは、チョコレート・唐辛子・シナモン・アーモンド・レーズンを煮込んだもので、七面鳥やチキンにかける。調理工程で使う場合が多いが、卓上で追加することもある。

ペルーのアヒ・アマリージョソースは、黄色唐辛子(アヒ・アマリージョ)をニンニク・ライム・香菜と混ぜたもので、セビーチェやロモ・サルタードに添えられる。アルゼンチンのチミチュリは、パセリ・ニンニク・オレガノ・酢・オリーブオイルを混ぜた緑色ソースで、アサード(焼肉)に不可欠である。

母ソースと派生の関係

5大母ソースの構造

1907年の英訳版に従えば、フランス料理の母ソースは基本となる5種のソース(ベシャメル・ヴルーテ・エスパニョール・トマト・オランデーズ)と、そこから派生する多数の小ソース(small sauces)で構成される[13]。エスコフィエは温製ソースを「基本ソース(別名 mother sauces)」と「小ソース」の2種に分け、後者は基本ソースから派生した変形であると明言している[13]。前述のとおり、1903年のフランス語初版の基本ソースは4種でオランデーズを含まない[15]

ベシャメルは、バター・小麦粉・牛乳を煮た白色ソースで、モルネー(チーズ追加)・スビーズ(玉ねぎ追加)などの派生形を生む。ヴルーテは、白色ストック(鶏・魚・仔牛)をベースとし、アルマンド(卵黄・クリーム追加)・シュプレーム(鶏ストック)などに派生する。エスパニョールは、茶色ストック・トマト・ミルポワ(香味野菜)を煮詰めた濃厚ソースで、デミグラス・シャスール(きのこ・白ワイン)などに派生する。

派生の原理

派生ソースは、母ソースに副材料(香辛料・酒・野菜・卵黄・クリーム)を追加することで生まれる。この原理は、テーブルソースにも適用される。エスコフィエの原典で「マヨネーズ(No.126)に加える」形で立てられている冷製ソースは、次のとおりである[13]

  • レムラードソース(No.130):マヨネーズ1パイントにマスタード・ガーキン・刻んだケッパー・フィーヌゼルブ(パセリ、チャービル、タラゴン)各大さじ1とアンチョビエッセンス小さじ1
  • アンダルーズソース(No.122):マヨネーズにその4分の1量の濃縮した真っ赤なトマトピュレ、ソース1パイントあたりピーマン2オンス
  • グリーンソース(No.131):濃いマヨネーズ1パイントに香草の絞り汁3分の1パイント

ここで注意が必要な点が二つある。第一に、アイオリ(No.121)はマヨネーズの派生としては書かれていない。原典はニンニク1オンスをすり潰し、生卵黄1個・塩・油1/2パイントで立てる独立した処方として収載している[13]。第二に、日本で「タルタル」と呼ばれるピクルス入りのソースは、原典のソース・タルタールではなくレムラードに近い。原典のソース・タルタールは固ゆで卵黄で立てるマヨネーズである。またカクテルソースは原典の冷製ソースの章に対応項目がないため、上の列挙には含めていない。

同様に、ウスターソースに副材料を加えると、ステーキソースやバーベキューソースといった製品群が派生するが、これらの配合を定めた規格はなく、本稿では具体的な配合を挙げない。

日本の派生構造

日本では、ウスターソース・中濃ソース・濃厚ソースの3種が母ソースとして機能する。JAS(ウスターソース類の日本農林規格)における3者の区分基準は、固形分ではなく粘度のみである[1]

  • ウスターソース:粘度0.2Pa・s未満
  • 中濃ソース:粘度0.2Pa・s以上2.0Pa・s未満
  • 濃厚ソース:粘度2.0Pa・s以上

固形分は種類の区分ではなく、等級(特級・標準)の判定に使われる。無塩可溶性固形分は、第3条のウスターソースの規格で特級26%以上・標準21%以上、第4条の中濃ソース及び濃厚ソースの規格で特級28%以上・標準23%以上と定められている(いずれも原文は「…%以上であること」)[1]。同じ表は野菜及び果実の含有率と食塩分にも基準を置いており、食塩分は第3条で11%以下、第4条で10%以下(濃厚ソースは9%以下)とされている[1]

これらから、お好み焼きソース(濃厚ソース + 糖類 + だし)、とんかつソース(中濃ソース + 果実ピューレ)、焼きそばソース(ウスターソース + カラメル + スパイス)などが派生する。この派生構造は、フランス料理の母ソースとは独立に発展した日本独自の体系である。

図鑑への案内

代表的なテーブルソース一覧

以下に、世界の主要なテーブルソースを分類別に示す。

トマト系

  • ケチャップ(米国):トマト・酢・砂糖・スパイス
  • サルサ・ロハ(メキシコ):トマト・唐辛子・玉ねぎ・香菜
  • マリナーラソース(イタリア):トマト・ニンニク・オリーブオイル

酢系

  • ウスターソース(英国):モルトビネガー・タマリンド・アンチョビ
  • タバスコソース(米国):タバスコペッパー・塩・ビネガー
  • HPソース(英国):トマト・デーツ・タマリンド・スパイス

乳化系

  • マヨネーズ(フランス):卵黄・植物油・酢
  • アイオリ(フランス):卵黄・オリーブオイル・ニンニク
  • タルタルソース(フランス):マヨネーズ・ピクルス・ケッパー

発酵系

  • 醤油(日本):大豆・小麦・麹・食塩水
  • ナンプラー(タイ):小魚・塩
  • コチュジャン(韓国):麹・唐辛子・もち米

選択の基準

テーブルソースを選ぶ際の基準は、料理との相性・保存性・入手性の3点である。保存性はおおむね、酸と塩分が高いもの(酢系・発酵系)が強く、油脂と卵を含む乳化系が弱いという順になる。ただし開封後にどれだけ持つかは製品の設計(酸度・塩分・保存料の有無・容器)によって大きく変わるため、日数の目安は容器の表示に従うこと。本稿では具体的な日数を挙げない。

料理との相性は、ソースの主成分と料理の主材料の組み合わせで決まる。肉料理には酢系(ウスターソース・HPソース)、魚料理には乳化系(タルタルソース・アイオリ)、揚げ物にはトマト系(ケチャップ)、生野菜には発酵系(醤油・ナンプラー)が基本である。ただし、地域文化によって例外も多く、英国では魚にモルトビネガー、メキシコでは肉にサルサを合わせる。

代用の原則

テーブルソースが入手できない場合、同じ分類内のソースで代用できる。ウスターソースが無ければ、醤油 + 酢 + 砂糖を混ぜて近似できる。タバスコソースが無ければ、ハラペーニョ + 酢で代用できる。マヨネーズが無ければ、卵黄 + 油 + レモン汁を撹拌して自作できる。

ただし、発酵系ソースは微生物の働きによる複雑な香気成分を含むため、完全な代用は難しい。醤油の代わりに塩水では、塩味は補えてもうま味は再現できない。ナンプラーの代わりにアンチョビペーストでは、発酵臭の深みが異なる。代用は「無いよりはマシ」の範囲と考えるべきである。

結論

テーブルソースは、調理後の料理に卓上で追加する液状調味料であり、本稿ではトマト系・酢系・乳化系・発酵系の4系統に整理した。英国のウスターソース、米国のケチャップとタバスコ、フランスのマヨネーズ、地中海のペスト、中南米のサルサは、それぞれ地域の食文化を反映した定番として機能し、多くの派生製品を生んでいる。

この体系を理解することで、輸入食材店で見かける未知のソースも、分類・原料・用途の見当がつく。ウスター系なら肉料理、乳化系なら冷製料理、発酵系ならうま味補強、と大まかな方向性が定まる。ソースのラベルに記載された原材料リストを見れば、どの分類に属するかは判別できる。

家庭のキッチンで世界の味を再現する際、テーブルソースは調理技術の不足を補う強力な道具となる。フランス料理の複雑な母ソースを一から作らなくても、市販のマヨネーズにニンニクを加えればアイオリになる。メキシコ料理の長時間煮込みを省略しても、サルサを添えれば本場の風味に近づく。卓上の1本を体系で読む力は、料理の幅を広げる最初の一歩である。

参考文献

  1. 農林水産省「ウスターソース類の日本農林規格」(昭和49年農林省告示第565号、最終改正 平成27年農林水産省告示第1387号)
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/04_kikaku_usuta_soosu_150528.pdf
  2. 農林水産省「しょうゆの日本農林規格」(平成16年農林水産省告示第1703号)
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_syoyu_151203.pdf
  3. McIlhenny Company「TABASCO® History」
    https://www.tabasco.com/tabasco-history/
  4. McIlhenny Company「TABASCO® Brand Original Red Sauce」
    https://www.tabasco.com/products/hot-sauces/original-red-sauce/
  5. USDA Agricultural Marketing Service, Commercial Item Description A-A-20097G “Hot Sauce”(2019-07-12)
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/AA20097GHotSauce.pdf
  6. USDA Agricultural Marketing Service “United States Standards for Grades of Tomato Ketchup”(2026年6月12日施行・91 FR 26985。1992年2月26日施行の旧版「Tomato Catsup」を置き換え)
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/Tomato_Ketchup_Standard.pdf
  7. U.S. Food and Drug Administration, 21 CFR §155.194 Catsup(連邦規則集2025年版・2025年4月1日改訂)
    https://www.govinfo.gov/content/pkg/CFR-2025-title21-vol2/xml/CFR-2025-title21-vol2-sec155-194.xml
  8. U.S. Food and Drug Administration, 21 CFR §169.140 Mayonnaise(連邦規則集2025年版・2025年4月1日改訂)
    https://www.govinfo.gov/content/pkg/CFR-2025-title21-vol2/xml/CFR-2025-title21-vol2-sec169-140.xml
  9. Lea & Perrins「Our Story」(Kraft Heinz UK 公式)
    https://www.kraftheinz.com/en-GB/lea-and-perrins/our-story
  10. HP Sauce「Our Story」(Kraft Heinz UK 公式)
    https://www.kraftheinz.com/en-GB/hp-sauce/our-story
  11. Commission Regulation (EC) No 1623/2005(「Basilico Genovese」をPDOとして登録)
    https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32005R1623
  12. FAO/WHO Codex Alimentarius「Standard for Fish Sauce」CXS 302-2011
    https://www.fao.org/input/download/standards/11796/CXS_302e.pdf
  13. A. Escoffier, A Guide to Modern Cookery(Le Guide Culinaire 英訳、Project Gutenberg)
    https://www.gutenberg.org/files/71395/71395-h/71395-h.htm
  14. Heinz「Our Story」(Kraft Heinz 公式)
    https://www.heinz.com/our-story
  15. A. Escoffier『Le guide culinaire : aide-mémoire de cuisine pratique』第1章「Sauces」(Émile Colin et Cie, 1903年フランス語初版・全文/Wikisource)
    https://fr.wikisource.org/wiki/Le_guide_culinaire/Sauces

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世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く編集部です。数字と固有名詞は本国の公的機関や規格で裏を取り、家庭で「あの国の味」を再現したい人に役立つ形にまとめます。

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