日本農林規格(JAS)は醤油を濃口・淡口・たまり・再仕込・白の5種類に分類し[1]、さらに本醸造・混合醸造・混合の3製法に区分する[1]。この組み合わせは15通りに及び、濃口醤油だけでも製法の違いで味わいが大きく変わる。スーパーの棚で「本醸造」「混合」と表示が分かれているのは、麹菌による発酵期間と添加物の有無を示す法的な区分である。家庭で使い分ける際は、煮物や照り焼きには濃口の本醸造、吸い物の色を抑えたいときは淡口、刺身のつけ醤油にはたまりを選ぶと、素材の持ち味を引き立てやすい。
醤油の5分類(JAS規格)
JAS規格は醤油を濃口・淡口・たまり・再仕込・白の5種類に分ける[1]。この分類は原料配合と製法の違いに基づき、色・香り・塩分濃度が大きく異なる。濃口醤油は国内生産量の約8割を占め、大豆と小麦をほぼ等量用いて赤褐色に仕上げる。淡口醤油は濃口より塩分が1〜2%高く、色を淡く保つために熟成期間を短くする。たまり醤油は大豆主体で小麦をほとんど使わず、とろみと濃厚なうま味が特徴だ。
再仕込醤油は、食塩水の代わりに生揚げ醤油で仕込み直すため、色・香り・味が二重に濃い。白醤油は小麦主体で大豆を少量しか使わず、琥珀色に近い淡さと甘みを持つ。この5分類は1963年(昭和38年)のJAS制定時に定まった[3]。種類名を容器に表示する義務については、本記事の典拠のなかに規定が見当たらない。
濃口・淡口・たまりの原料比率
| 種類 | 大豆:小麦 | 塩分濃度 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 濃口 | 1:1 | 約16% | 煮物・照り焼き・つけ醤油 |
| 淡口 | 1:1 | 約18% | 吸い物・炊き込みご飯・茶碗蒸し |
| たまり | 10:0〜2 | 約16% | 刺身・照り焼き・せんべい |
| 再仕込 | 1:1 | 約13% | 刺身・冷奴・寿司 |
| 白 | 0.2:1 | 約18% | 茶碗蒸し・漬物・うどんつゆ |
濃口と淡口は原料比率がほぼ同じだが、淡口は仕込み水に食塩を多く加えて発酵を抑え、色の濃化を防ぐ。たまりは大豆だけで麹を作るため、小麦由来の香気成分が少なく、グルタミン酸の濃度が高い。再仕込は二段仕込みのため原料コストが倍かかり、価格も濃口の1.5〜2倍になる。白醤油は小麦のデンプンが糖化して甘みを生むが、大豆由来のうま味は控えめだ。
地域による使い分け
関西では淡口醤油の消費量が関東の約3倍に達し、だしの風味を活かす料理文化が背景にある。関東では濃口が主流で、江戸前の濃い味付けに適している。中部地方ではたまり醤油が伝統的に使われ、名古屋の味噌煮込みうどんや味噌カツのたれにも混ぜる。九州では甘口醤油(濃口に糖類を加えた製品)が好まれ、刺身醤油として定着している。沖縄では戦後に普及した濃口が主流だが、泡盛を使った独自の調味醤油も根強い。
本醸造・混合醸造・混合の製法区分
JASは製法を本醸造・混合醸造・混合の3区分に分ける[1][2]。本醸造は大豆と小麦を麹菌で発酵させ、食塩水と混ぜて諸味(もろみ)を作り、6カ月以上熟成させる伝統製法だ。混合醸造は諸味にアミノ酸液(大豆を塩酸で分解した液)または酵素分解調味液を加えて発酵を続ける。混合は、本醸造醤油にアミノ酸液や酵素分解調味液を混ぜて製品化する。本醸造は「丸大豆」「天然醸造」などの表示が可能だが、混合醸造と混合は添加物扱いの原料を含むため、表示に制約がある。
本醸造の工程
本醸造は、蒸した大豆と炒った小麦に種麹(麹菌の胞子)を振りかけ、3日間かけて醤油麹を育てる。麹を食塩水と混ぜて諸味タンクに仕込み、乳酸菌と酵母が順に働いて発酵が進む。乳酸菌は雑菌の繁殖を防ぎ、酵母はアルコールと香気成分を生む。諸味は6カ月〜3年熟成させ、圧搾して生揚げ(きあげ)醤油を得る。生揚げを火入れ(加熱)して酵素を失活させ、濾過して製品にする。
天然醸造は、温度管理をせず季節の温度変化に任せて1年以上発酵させる製法で、本醸造の一種だ。加温して発酵を早める速醸法に比べ、香りが複雑で丸みがある。丸大豆仕込みは、脱脂加工大豆ではなく大豆をそのまま使う製法で、油脂由来のコクが残る。
混合醸造と混合の違い
混合醸造は、諸味の発酵途中にアミノ酸液を加える。アミノ酸液は大豆を塩酸で加水分解して得る液体で、グルタミン酸やアスパラギン酸を豊富に含む。諸味に混ぜると、酵母がアミノ酸を代謝して香気成分を生むため、発酵期間を短縮しながらうま味を補える。混合醸造の製品は「混合醸造方式」と表示義務がある。
混合は、完成した本醸造醤油にアミノ酸液や酵素分解調味液を混ぜる。発酵を経ないため、香りは本醸造より単調だが、うま味は強い。混合の製品は「混合方式」と表示し、原材料欄にアミノ酸液を記載する。業務用の大容量ボトルや、低価格帯の製品に多い。
製法別の市場シェア
| 製法 | 国内生産量比率 | 平均熟成期間 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 本醸造 | 約80% | 6カ月〜3年 | 家庭用・高級料理店 |
| 混合醸造 | 約13% | 3〜6カ月 | 業務用・加工食品 |
| 混合 | 約7% | 発酵なし | 業務用・低価格帯 |
本醸造が市場の8割を占めるのは、消費者が「天然」「無添加」を好む傾向と、大手メーカーが本醸造に注力してきた歴史による。混合醸造と混合は、外食チェーンや食品工場で大量に使われるが、家庭用の小瓶では本醸造に押されている。
特級・上級・標準の等級表示
JASは醤油を特級・上級・標準の3等級に分ける[1]。等級は窒素分(全窒素)で決まり、窒素分が高いほどうま味成分(アミノ酸)が多い。濃口醤油の場合、特級は窒素分1.50%以上、上級は1.35%以上、標準は1.20%以上と定められる。淡口・たまり・再仕込・白はそれぞれ異なる基準を持つ。等級表示は任意だが、表示する場合は分析試験が必要だ。
等級と窒素分の関係
窒素分は、醤油に含まれる全窒素量をケルダール法で測定した値だ。大豆タンパク質が麹菌と微生物の酵素で分解されると、アミノ酸とペプチドが生じ、窒素分が上がる。発酵期間が長いほど、また大豆の配合比が高いほど窒素分は増える。たまり醤油は大豆主体のため窒素分が高く、たまりしょうゆの特級基準は全窒素分1.60%(1.60 g/100 mL)以上に設定される。白醤油は小麦主体で窒素分が最も低く、しろしょうゆの特級基準は0.40%(0.40 g/100 mL)以上と、5種類の中で最も低い。
等級表示をしない製品も多い。中小メーカーは分析コストを避け、大手は「特選」「超特選」など独自のブランド名を使うためだ。「特選」は特級の1.2倍以上、「超特選」は1.5倍以上の窒素分を持つ製品に使われる慣習がある。
等級と価格の相関
特級醤油は上級の1.2〜1.5倍、標準の1.5〜2倍の価格で売られる。窒素分が高い醤油は、原料の大豆を多く使い、熟成期間も長いため、製造コストが上がる。ただし、等級が高いほど美味しいとは限らない。窒素分が高すぎると雑味が出るため、料理によっては標準等級の方が素材を引き立てる。吸い物や茶碗蒸しには淡口の標準、刺身には濃口の特級が向く。
世界のSOY SAUCEとの違い
醤油は英語で “soy sauce” と呼ばれるが、中国の醤油(ジャンヨウ)、韓国の醤油(カンジャン)、東南アジアの魚醤ベース醤油は、日本の醤油と原料・製法が異なる。中国の老抽(ラオチョウ)は濃口に似るが、糖類を加えて甘みを強め、とろみを付ける。生抽(シェンチョウ)は淡口に近いが、日本の淡口より塩分が低く、香りが強い。韓国の醤油は、伝統的な在来式(チェレシク)と、日本式の改良式(ケリャンシク)に大別される。在来式は大豆だけで作るたまり醤油に近く、塩分が高い。
東南アジアの醤油
タイのシーユー・ダム(濃口醤油)とシーユー・カオ(淡口醤油)は、大豆に糖蜜を加えて発酵させる。魚醤(ナンプラー)とは別の調味料だが、魚醤を少量混ぜる製品もある。インドネシアのケチャップ・マニス(甘口醤油)は、醤油に砂糖とスパイスを加えた濃厚なシロップ状の調味料だ。ベトナムのヌックトゥン(醤油)は、大豆と小麦を発酵させるが、魚醤を混ぜて風味を補う製品が多い。
フィリピンのトヨ(醤油)は、アメリカ統治時代に日本式醤油が伝わり、現地で改良された。塩分が日本の濃口より低く、甘みが強い。これらの醤油は、現地の料理に合わせて進化しており、日本の醤油と互換性は低い。
欧米の “soy sauce”
欧米のスーパーで売られる醤油は、日本メーカーの海外工場製か、中国メーカーの輸出品が多い。キッコーマンは1957年にアメリカ進出し、現在は北米市場の約50%を占める。欧米の消費者は、醤油を「アジア料理全般の調味料」として使い、寿司・炒飯・炒め物に幅広く使う。グルテンフリー醤油(小麦を使わず大豆と米で作る)や、減塩醤油(塩分を25〜50%カットした製品)も普及している。
日本の醤油を欧米で使う際は、塩分濃度の違いに注意が要る。欧米の減塩醤油は、日本の標準的な濃口醤油より塩分が低いため、レシピ通りに使うと味が薄くなる。
結論
醤油のJAS5分類(濃口・淡口・たまり・再仕込・白)と3製法区分(本醸造・混合醸造・混合)は、原料配合・発酵期間・添加物の有無を明確に区別し、消費者が用途に応じて選べる仕組みを作った[1][2]。濃口の本醸造が市場の大半を占めるが、吸い物には淡口、刺身にはたまり、冷奴には再仕込と使い分けると、素材の持ち味が際立つ。特級・上級の等級表示は窒素分(うま味成分)の目安になるが、料理によっては標準等級の方が繊細な仕上がりになる。
世界の醤油は日本のJAS規格に縛られず、各地の食文化に合わせて独自に進化している。中国の老抽は甘みとコクを重視し、韓国の在来式は塩分の高さで保存性を確保し、東南アジアの醤油は魚醤や糖蜜を混ぜて複雑な風味を作る。家庭で日本の醤油を使い切るには、煮物・炒め物には濃口、吸い物には淡口、刺身には再仕込かたまりと、料理ごとに瓶を分けると、1本を使い回すより味の完成度が上がる。輸入食材店で見かけた海外の醤油は、ラベルの原材料欄を確認し、大豆・小麦の比率と添加物の有無を見れば、日本のどの分類に近いかが分かる。
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参考文献
- しょうゆの日本農林規格 JAS 1703:2021(農林水産省)(§4で5種類を定義、表1でこいくち特級の全窒素分1.50 g/100 mL以上等の等級基準)
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_standard/attach/pdf/index-470.pdf - しょうゆ情報センター「しょうゆの種類」(こいくち・うすくち・たまり・さいしこみ・しろの5分類。こいくちは出荷量の約84%)
https://www.soysauce.or.jp/knowledge/kinds - しょうゆ情報センター「醤油の歴史」(年表に「1963年 「しょうゆの日本農林規格(JAS)」が制定される。」)
https://www.soysauce.or.jp/knowledge/history
