自家製ケチャップ|トマトの酸で安全に作る保存の要点

自家製ケチャップ|トマトの酸で安全に作る保存の要点

自家製ケチャップは、トマト・酢・砂糖・スパイスの4要素を煮詰めた調味料である。トマトの有機酸(クエン酸・リンゴ酸)と添加する酢でpHを下げれば、ボツリヌス菌が増殖できない酸性側に置ける。米国の21 CFR 114.3は「自然のpHが4.6以下」の食品を酸性食品と定義し[2]、厚生労働省は「pH4.6を超え、かつ水分活性0.94を超えるもの」を容器包装詰低酸性食品として規格基準の対象にしている[1]

ただし、酸性であることと常温で保存できることは別の問題である。 家庭で瓶詰めして常温保存する手順については、CDCが「USDAの家庭缶詰ガイドに沿った検証済みのレシピと料理書だけを使い、それ以外のレシピは使わないこと」を求めている[7]。本記事はその検証済み手順を持たないため、常温保存の手順は示さず、冷蔵・冷凍を前提に書く。市販品が添加する保存料・増粘剤を使わない家庭製法では、pHと糖度の管理が品質を左右する。

目次

ケチャップの構造――トマト・酢・砂糖・スパイスの役割分担

ケチャップは、トマトを主原料とし酢・砂糖・食塩・香辛料を加えて煮詰めたソース状調味料である。トマト加工品の日本農林規格(JAS)は、トマトケチャップの規格を等級別に定めており、可溶性固形分は特級で30%以上、標準で25%以上である[3]。「JASは25%以上」とだけ書くと標準等級の値になる点に注意が要る。

トマトが持つ酸と糖

トマトの果肉には、クエン酸とリンゴ酸という有機酸が含まれる。この酸度が、ボツリヌス菌をはじめとする芽胞菌の増殖を抑える第一の防壁になる。

ここで一つ訂正しておきたいことがある。 本記事が典拠とする21 CFR 114.3は定義のみの条文であり、そこに置かれている数値はpH4.6(酸性食品/低酸性食品の境界)と水分活性0.85(酸性化食品・低酸性食品の定義域)の2つだけである[2]品種別・熟度別のトマトのpH値は、この条文に存在しない。 同条文にあるトマト関連の記述は「最終平衡pHが4.7未満のトマトおよびトマト製品は低酸性食品に分類しない」という分類の例外規定であって、pHの実測データではない[2]。したがって本記事は、生食用・加工用のトマトのpH値を数値では示さない。家庭で判断する際は、品種や熟度で変わることを前提に、最終製品のpHを実測するのが唯一確実な方法である。

酢がもたらすpH低下

食酢(醸造酢)を添加することで、製品全体のpHを下げる。ボツリヌス菌が増殖できなくなるのはpH4.6以下であり[4]、WHOも「酸性条件(pH4.6未満)では増殖せず、したがって酸性食品では毒素は作られない」としている。

酢の添加率についても、公表された推奨値を確認できていない。 21 CFR 114.3は定義条文であって添加率を定めておらず[2]、厚生労働省のページにも記載はない[1]。トマトの酸度は品種や収穫時期でばらつくため、「何%加えればよい」という一律の数値は本来立てられない。加える量ではなく、出来上がりの平衡pHを実測して4.6以下であることを確認するのが筋である。

砂糖と香辛料の機能

砂糖は甘味を付与するだけでなく、濃度を高めて水分活性を下げる役割を担う。ただし「Aw 0.85以下なら細菌は増殖できない」という説明は正確ではない。21 CFR 114.3の0.85は低酸性食品・酸性化食品の区分の定義に使われている値であり、増殖限界の宣言ではない[2]。実際、黄色ブドウ球菌は水分活性0.83でも増殖しうる。香辛料(オールスパイス・クローブ・シナモン・カイエンペッパーなど)は風味を整えるもので、抗菌効果を保存性の根拠にはできない。保存性の主役はpHである。

以下はAJIMUSE Lab が整理した配合例であり、公表された標準値ではない。

成分主な役割配合例(質量%)
トマト酸・糖・うま味の基盤70〜80
食酢pH低下(実測で4.6以下に)5〜10
砂糖糖度上昇・水分活性低下10〜15
食塩味の調整・浸透圧上昇1〜2
香辛料風味付与0.5〜1

酢が下げるpHと保存性の関係

pH 4.6という数値は、複数の制度が共通して置いている境界である。21 CFR 114.3は「自然のpHが4.6以下」の食品を酸性食品と定義し[2]、厚生労働省は「pH4.6を超え、かつ水分活性0.94を超えるもの」を容器包装詰低酸性食品として規格基準の対象にしている[1]。食品安全委員会も、Ⅰ群(A型・たん白分解性B/F型)の増殖の最低pHを4.6としている[4]

ボツリヌス菌とpH 4.6の壁

ボツリヌス菌は土壌中に広く存在する偏性嫌気性菌で、酸素のない環境で芽胞から発芽し増殖する。芽胞の耐熱性は高く、食品安全委員会はⅠ群で120℃・4分、Ⅱ群(非たん白分解性)で80℃・6分としている[4]家庭の鍋の沸騰(100℃)ではⅠ群の芽胞は不活化できない。 だからこそ酸性側に置くことに意味がある。

pHが4.6を超える低酸性食品を密封して常温流通させるには、厚生労働省の規格基準が求める120℃4分以上(またはこれと同等以上の効力)の加熱が要る[1]。家庭にこの設備はない。

酢の種類と酸度の選び方

醸造酢の日本農林規格は、酸度(酢酸換算)を4.0%以上と定め、穀物酢は4.2%以上、果実酢は4.5%以上としている[6]。米酢は穀物酢のうち米の使用量が1Lあたり40g以上のもの、りんご酢・ぶどう酢は果実酢のうち搾汁の使用量が1Lあたり300g以上のものと定義されている[6]。ケチャップには、風味の主張が穏やかな穀物酢またはリンゴ酢が向く。

なお、酢の添加率から最終pHを計算で出すことはできない。トマトの緩衝能によって同じ添加率でも到達pHは変わる。レモン果汁で代替することも可能だが、酸度が異なるため置き換え比率は実測で決める。

pH測定の実際

家庭でpHを確認するには、pH試験紙またはデジタルpH計を用いる。煮詰め終了後、室温まで冷ました試料を少量取って測定する。確認すべきは4.6以下であることで、これがボツリヌス菌の増殖を止める境界である[1][2][4]。余裕を持たせて4.2〜4.4を狙う設計は合理的だが、「4.0以下ならリスクが排除できる」という言い方は境界の位置を曖昧にするので本記事では採らない。いずれの場合も、本記事は冷蔵・冷凍保存を前提とする。

煮詰めと濃度――糖度・水分活性が決める日持ち

ケチャップの濃厚なテクスチャーは、長時間の加熱によって水分を蒸発させ、可溶性固形分(糖分・塩分・有機酸)を濃縮した結果である。

Brixにほぼ相当」ではなく、定義上そのものである。 JAS規格の測定方法は「可溶性固形分 20℃において、糖用屈折計の示度を読み取り、その値をパーセントで表わす」となっており[3]、これはBrixの定義そのものだからである。JASの等級条件は特級30%以上・標準25%以上である[3]

糖度(Brix)の測定と目標値

糖度計(屈折計)を用いて、煮詰め中の試料を20℃前後まで冷ましてから測定する[3]。市販品に近い濃度を狙うなら、JASの標準等級25%、特級等級30%が目安になる。市販品は増粘剤(キサンタンガム・ペクチンなど)を併用してテクスチャーを安定させるが、家庭製法では増粘剤を使わずに濃度で調整することになる。

なお、「Brixが何%に達すると水分活性がいくつになる」という換算値は、本記事の典拠のいずれにも存在しない。JAS規格は可溶性固形分の限度値と測定方法を定めるだけで、水分活性には触れていない[3]。家庭に水分活性計はないため、糖度を保存性の根拠にすることはできない。

水分活性(Aw)と微生物の増殖限界

水分活性は、食品中の自由水の割合を0〜1の無次元数で表す指標である。純水はAw 1.0、飽和食塩水はAw 0.75である。「これ以下なら安全」という単一の値は存在しない——増殖の最低Awは菌によって違い、黄色ブドウ球菌は0.83、たん白分解性のボツリヌス菌は0.94(食品安全委員会)ないし0.935(FDA)、非たん白分解性は0.97である[4]。21 CFR 114.3の0.85は区分の定義の値であって増殖限界ではない[2]

自家製ケチャップにおいては、水分活性ではなくpHが安全の根拠である。カビは低pHでも生育できるため、開封後は冷蔵保存が必須となる。

加熱時間と焦げ付きの管理

トマトペーストを鍋に入れ、弱火〜中火で煮詰める際、底が焦げ付くと苦味が全体に回る。木べらで絶えず撹拌し、蒸気が立ち始めたら火力を落として表面が軽く沸く程度に保つ。初期容量の50〜60%まで減ったところで糖度を測り、目標値に達していれば火を止める。加熱時間は初期量や火力によって30〜90分と幅があるため、時間ではなく糖度で判断する。

市販品との違い――無添加ゆえの日持ちと風味の変化

市販のトマトケチャップは、保存料を使用できる。使用してよい食品と上限を定めているのは、厚生労働省が所管する食品衛生法に基づく告示370号 第2 添加物 F.使用基準である[5]。たとえばソルビン酸については、使用できる食品を「甘酒……あん類、うに、果実酒、かす漬……ケチャップ……マーガリン並びにみそ以外の食品に使用してはならない」と限定列挙したうえで、使用量を「ソルビン酸として、……ケチャップ、酢漬の漬物、スープ、たれ、つゆ及び干しすももにあってはその1kgにつき0.50g以下」と定めている[5]上限だけでなく「どの食品に使えるか」まで決まっているのがこの制度の骨格である。自家製品はこれらの添加物を使わないため、同じpH・糖度でも保存期間は短くなる。開封後は空気に触れることで酸化・カビの発生リスクが高まる。

保存料の有無と微生物制御

ただし、添加物の作用機序については告示370号にも書かれていない。 告示が定めているのは使用できる食品と使用量の上限であって、「ソルビン酸カリウムはpH何以下で酵母・カビを抑える」といった作用の説明ではない[5]。したがって本記事は、上限値は原本のとおり示す一方、作用機序の数値は示さない。

家庭製法で保存料を使わない場合、開栓後は冷蔵庫内でも表面にカビが生えることがある。小分け保存や冷凍でリスクを下げる工夫が要る。

風味の経時変化

自家製ケチャップは、製造直後はトマトの青臭さと酢の角が立つが、冷蔵庫で数日寝かせると味が馴染み、まろやかになる。香辛料の精油成分が全体に拡散し、酸味と甘味のバランスが整う。一方、保存が長引くほど酸化が進み、トマトの鮮やかな赤色は褐色へ寄り、風味も平板になっていく。市販品は抗酸化剤(ビタミンC・ビタミンE)を添加して色・風味の劣化を遅らせるが、家庭では製造量を調整して早めに使い切る方が現実的である。

増粘剤と食感の違い

市販品は増粘剤(キサンタンガム・ペクチン等)を使うことができ、糖度が低めでもとろみを出せる。自家製では、トマトに含まれるペクチンを長時間加熱で引き出すか、リンゴ(ペクチン豊富)を少量加えて煮詰める方法がある。ただし、家庭の火力では市販品ほど均一な粘度を出すのは難しく、やや水っぽい仕上がりになる場合がある。

保存容器と期間――瓶詰め・冷蔵・冷凍の使い分け

自家製ケチャップを安全に保存するには、容器の選択・殺菌・充填方法が重要である。ガラス瓶は煮沸殺菌が可能で、酸に強く、内容物の変質を防ぐ点で優れる。プラスチック容器は軽量だが、トマトの色素(リコピン)が容器に染み付き、洗浄しても落ちにくい。

瓶詰め・常温保存について(本記事は手順を示さない)

煮沸消毒した瓶に熱いケチャップを注ぎ、瓶を逆さにして冷ませば蓋が密着する——この手順は広く紹介されているが、逆さ置きだけでは確実な脱気・密封の保証にならない。そして、家庭の瓶詰めで常温保存を成立させるには、酸度と加熱条件が検証された手順に従う必要がある。CDCは「家庭での缶詰・瓶詰めは、USDAの家庭缶詰ガイドに沿った手順を踏むレシピと料理書だけを使い、それ以外のレシピは使わないこと」を明示している[7]

本記事はその検証済み手順を持たないため、常温保存の手順は示さない。挑戦する場合は、上記のような検証済みガイドを直接参照してほしい。

冷蔵保存の実際

容器を煮沸消毒し、ケチャップを詰めたあと速やかに冷やす。冷蔵温度(4℃以下)では酵母・カビの増殖速度が大幅に低下する。開封後は、スプーンなどで取り分ける際に雑菌を持ち込まないよう注意し、使用後は速やかに冷蔵庫に戻す。

保存期間の目安について。 自家製ケチャップの冷蔵・冷凍での保存期間を数値で定めた公的一次は、本記事の典拠のなかに見当たらない。厚生労働省のページは容器包装詰低酸性食品の規格基準を扱うもので[1]、酸性食品である家庭のケチャップの保存日数を示すものではない。したがって「冷蔵で何週間」という数値は書かず、pH4.6以下であることを実測で確認したうえで、少量ずつ作って早めに使い切る運用をすすめる。

冷凍保存の利点と注意点

ケチャップは糖度が高く、完全には凍らず半固体状になるため、冷凍庫から出してすぐに使える。ジッパー付き保存袋に薄く広げて冷凍すれば、必要量だけ折って取り出せる。解凍・再冷凍を繰り返すと水分が分離し、食感が劣化するため、小分けにして一度で使い切る量ずつ冷凍するのが望ましい。

保存方法温度本記事の扱い
瓶詰め・常温冷暗所手順を示さない(検証済みガイドに従うこと[7]
冷蔵4℃以下推奨。pH4.6以下を実測で確認し、少量ずつ作って早めに使い切る
冷凍-18℃以下推奨。小分けにし、解凍・再冷凍を避ける

結論

自家製ケチャップの安全は、最終製品のpHを実測して4.6以下であることを確認するという一点に尽きる[1][2][4]。糖度(Brix)は品質と食感を決める指標であり、JASの等級条件は特級30%以上・標準25%以上、その測定方法は20℃における糖用屈折計の示度そのものである[3]。ただし糖度は保存性の根拠にはならない——家庭に水分活性を測る手段がない以上、「Brixがいくつなら何週間もつ」という換算は成り立たない。

本記事を書くにあたって最も注意を払ったのは、引用元の条文が「定義」なのか「基準値」なのかを見分けることだった。21 CFR 114.3は定義のみの条文であり、そこにある数値はpH4.6と水分活性0.85の2つだけである[2]。ここに品種別のトマトpHや酵母・カビの増殖限界を読み込むと、原本に存在しない数値が生まれてしまう。同じことは水分活性の0.85にも言える——それは区分の定義であって、「これ以下なら細菌が増えない」という値ではない。

pH試験紙と糖度計を用意し、pHは4.6以下、糖度は好みの濃度、という二本立てで管理すれば、安全性を担保しながら自分好みの酸味・甘味・香辛料のバランスを探ることができる。常温保存の瓶詰めに挑戦したい場合は、検証済みの家庭缶詰ガイドを直接参照してほしい[7]。少量ずつ作って冷蔵・冷凍で早めに使い切ることが、自家製ケチャップを安全に楽しむ最も現実的な方法である。

参考文献

  1. 厚生労働省「真空パック詰食品(容器包装詰低酸性食品)のボツリヌス食中毒対策」
    https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/03-4.html
  2. FDA, 21 CFR 114.3 Definitions(酸性食品・酸性化食品・低酸性食品の区分定義)
    https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-114/subpart-A/section-114.3
  3. 農林水産省「トマト加工品の日本農林規格(JAS, 昭和54年農林水産省告示第1419号)」
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_22.pdf
  4. 食品安全委員会「ファクトシート:ボツリヌス症」
    https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/20210330botulism.pdf
  5. 食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)第2 添加物 F.使用基準(厚生労働省)
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000186616.pdf
  6. 農林水産省「醸造酢の日本農林規格(JAS 0801:2024、最終改正 令和6年8月19日農林水産省告示第1590号)」
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_standard/attach/pdf/index-354.pdf
  7. 米国CDC, Home-Canned Foods(Botulism Prevention)
    https://www.cdc.gov/botulism/prevention/home-canned-foods.html

この記事を書いた人

世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く編集部です。数字と固有名詞は本国の公的機関や規格で裏を取り、家庭で「あの国の味」を再現したい人に役立つ形にまとめます。

目次