食用油は製法と脂肪酸組成で大きく性質が変わる。脱臭まで済ませた精製油は発煙点が230℃前後に達して揚げ物に耐える一方、圧搾しただけの未精製油は遊離脂肪酸が多く残るぶん発煙点が下がる[5][6]。脂肪酸は飽和・一価不飽和・多価不飽和の3種に分かれ、飽和脂肪酸を多く含むココナッツ油(やし油)やパーム油は常温で固まり、多価不飽和脂肪酸が豊富な亜麻仁油やくるみ油は酸化しやすい(この2つはCXS 210が品目として収載していない油である)[2]。日本のJAS規格は製法そのものではなく、酸価や冷却試験などの品質基準で「精製〇〇油」「〇〇サラダ油」といった等級を定めている[1]。この構造を知れば、店頭で見かける輸入油を料理の温度帯と風味の要求に合わせて選べるようになる。
油脂とは──脂肪酸の構造が決める性質
油脂は脂肪酸とグリセリンが結合したトリグリセリドを主成分とする。脂肪酸は炭素鎖の長さと二重結合の数で飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸の3種に分類され、この比率が油の融点・酸化速度・風味を左右する。
飽和脂肪酸──常温で固まる油脂の正体
飽和脂肪酸は炭素鎖に二重結合を持たず、分子が密に並ぶため融点が高い。ココナッツ油(やし油)はラウリン酸が全脂肪酸の45.1〜53.2%、ミリスチン酸が16.8〜21.0%を占める[2]。飽和脂肪酸が9割近くを占めるものの炭素鎖が短く融点の低い脂肪酸が多いため、ISEOの解説では80°F(約27℃)で澄んだ液体とされており、室温がそれを下回ると白く固まる[6]。パーム油もパルミチン酸が39.3〜47.5%を占める[2]。Codex規格はパーム油そのものの融点を定めていないが、その液状画分パームオレインの滑り融点を24℃以下、固形画分パームステアリンを44℃以上と規定しており[2]、パーム油はその中間の性質で熱帯では液体、温帯の室温では半固形になる。動物性脂肪の代表であるバターやラードも飽和脂肪酸が主体で、冷蔵庫から出すと固い。
飽和脂肪酸は二重結合が無いため酸化されにくく、開封後も比較的長持ちする。一方で過剰摂取は血中LDLコレステロールを上げる可能性が指摘されており、摂取量については各国の食事摂取基準で上限の目安が示されている。
不飽和脂肪酸──液体油の主役
不飽和脂肪酸は炭素鎖に1つ以上の二重結合を持ち、分子の折れ曲がりで密に詰まれないため常温で液体になる。オリーブ油の主成分オレイン酸は二重結合が1つの一価不飽和脂肪酸で、国際オリーブ協会(IOC)の貿易規格ではオリーブ油のオレイン酸は全脂肪酸の55.0〜85.0%と定められている[7]。菜種油やアーモンド油もオレイン酸を多く含む。
多価不飽和脂肪酸は二重結合を2つ以上持ち、リノール酸(n-6系)とα-リノレン酸(n-3系)が代表例だ。大豆油はリノール酸が48.0〜59.0%を占める[2]。亜麻仁油やえごま油はα-リノレン酸が主体だが、この2つはCXS 210が品目として収載していない。二重結合が多いほど酸化されやすく、亜麻仁油やえごま油は開封後1〜2か月で風味が劣化する。
脂肪酸組成の比較表
Codex規格「Named Vegetable Oils(CXS 210-1999)」は、主要な植物油について全脂肪酸に占める各脂肪酸の範囲を定めている。オリーブ油はCodexの本規格ではなくIOC貿易規格の値を示した。
| 油脂名 | 主要な脂肪酸と含有率(全脂肪酸に占める%) |
|---|---|
| ココナッツ油(やし油) | ラウリン酸 45.1〜53.2、ミリスチン酸 16.8〜21.0[2] |
| パーム油 | パルミチン酸 39.3〜47.5、オレイン酸 36.0〜44.0[2] |
| オリーブ油 | オレイン酸 55.0〜85.0[7] |
| 大豆油 | リノール酸 48.0〜59.0、オレイン酸 17〜30、α-リノレン酸 4.5〜11.0[2] |
| なたね油(低エルカ酸) | オレイン酸 51.0〜70.0、リノール酸 15.0〜30.0[2] |
| ごま油 | リノール酸 36.9〜47.9、オレイン酸 34.4〜45.5[2] |
| ぶどう油(グレープシード) | リノール酸 58.0〜78.0[2] |
Codex CXS 210-1999 表1およびIOC貿易規格を基に作成[2][7]
製法で分ける──圧搾・抽出・精製の違い
油脂の製法は大きく圧搾と溶剤抽出に分かれ、抽出後に精製工程を加えるかどうかで風味と発煙点が変わる。ここで誤解されやすいのがJAS規格の役割だ。食用植物油脂のJAS規格(JAS 0523:2024)は、圧搾や抽出といった製法そのものを定義してはいない。油種ごとに「ごま油/精製ごま油/ごまサラダ油」のような等級を置き、一般状態・色・水分・比重・屈折率・冷却試験・酸価・けん化価・よう素価・不けん化物といった品質基準で区分するのが本体の中身である[1]。またこのJAS規格の表示規定は食用パームステアリン・食用パーム核油・食用やし油に限られており、一般の食用油のラベル表示は食品表示法に基づく食品表示基準(消費者庁)が根拠になる[1][4]。
圧搾法──種子を搾る伝統製法
圧搾法は種子や果実を物理的に押しつぶして油を搾り出す。スクリュープレスや油圧プレスを使い、加熱せずに搾るコールドプレス(低温圧搾)と、種子を焙煎してから搾る焙煎圧搾がある。EUの販売基準(委員会委任規則(EU)2022/2104 第10条)では、「first cold pressing」の表示は27℃未満で最初の機械的圧搾から得たエキストラバージン/バージンオリーブ油に、「cold extraction」の表示は27℃未満で浸出または遠心分離によって得た同油に限られる[8]。ただしこれはオリーブ油の任意表示に関する規定で、他の油種のコールドプレス表示を直接規律するものではない。ごま油は原料を焙煎してから圧搾し、静置とろ過だけで仕上げるため香ばしい風味が残る[3]。
圧搾法は溶剤を使わないため残留物の心配が無く、種子由来の微量成分(ポリフェノール・ビタミンEなど)が残る。日本植物油協会の整理でも、なたねのように油分の多い原料は圧搾、大豆やこめ糠のように油分の少ない原料は抽出、というように原料の油分量で搾油方式が使い分けられている[3]。
溶剤抽出法──工業的大量生産の主流
溶剤抽出法は種子を砕いてヘキサンなどの有機溶剤に浸し、油を溶かし出す。大豆のように油分の少ない原料はこの方式が中心で、搾油段階で得られた油は「原油」と呼ばれる[3]。抽出後の原油は遊離脂肪酸・リン脂質・色素・臭気成分を含むため、そのままでは風味が粗く酸化も早い。
精製──脱ガム・脱酸・脱色・脱臭で仕上げる
精製は原油に含まれる不純物を除く工程で、日本植物油協会が示す標準的な流れは脱ガム→脱酸→脱色→脱臭であり、工程図には脱ロウを組み込む系統も描かれている[3]。ISEOの解説では、脱ロウ(dewaxing)が一般的に行われる油としてキャノーラ・ひまわり・こめ油・とうもろこし油が挙げられている[6]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 脱ガム | リン脂質などのガム質を水和させて除去する |
| 脱酸(中和) | アルカリで遊離脂肪酸を中和し、石鹸分として除去する |
| 脱色 | 活性白土などで色素を吸着し、淡色に近づける |
| 脱臭 | 高温・高真空下で揮発性の臭気成分を飛ばし、風味を淡白に仕上げる |
ISEOが発煙点を測定した市販試料はいずれも脱臭後で遊離脂肪酸が0.05%以下であり、その発煙点は多くの油種で230℃前後に達している[5]。一方で微量成分も失われ、風味は平坦になる。市販のサラダ油・キャノーラ油・大豆白絞油はすべて精製油である。なお日本植物油協会は、オリーブ油やごま油は風味保持のためほとんど精製せずに出荷されると整理している[3]。
未精製油(バージン油)──風味と発煙点のトレードオフ
圧搾後にろ過だけで仕上げた油を未精製油またはバージン油と呼ぶ。エキストラバージンオリーブ油・ごま油(焙煎圧搾)・アボカド油・くるみ油などが該当する。ISEOの技術資料は、油を長時間使うなどして遊離脂肪酸が増えると発煙点・引火点・発火点はいずれも下がると明記しており、遊離脂肪酸が残る未精製油は同じ油種の精製品より発煙点が低くなる[6]。日本のJAS規格でも、ごま油の酸価上限は4.0以下であるのに対し精製ごま油は0.20以下、ごまサラダ油は0.15以下と、精製度が上がるほど遊離脂肪酸が絞り込まれる[1]。一方で未精製油には種子由来のポリフェノールやビタミンEが残り、風味と抗酸化力は高い。
発煙点と加熱調理の適性早見表
発煙点はISEOの定義では「風を遮り特殊な照明を備えた試験装置で、初めて煙が検知される温度」であり、油が盛んに煙を出す温度はこれより高い[6]。測定はAOCS Cc 9a-48法(クリーブランド開放式)による[5]。
発煙点の決定要因
最も効くのは遊離脂肪酸の量で、使い込んで遊離脂肪酸が増えた油は発煙点が下がり、新しい油を継ぎ足すと上がる[6]。一方で誤解が多いのが不飽和度との関係で、ISEOは「油の不飽和度は発煙点・引火点・発火点にほとんど、あるいはまったく影響しない」と明記している[6]。飽和脂肪酸が多ければ発煙点が高い、多価不飽和脂肪酸が多ければ低い、という単純な対応関係は成り立たない。むしろラウリン酸のように分子量の小さい脂肪酸を多く含むココナッツ油は、同程度の遊離脂肪酸を持つ他の動植物油脂より発煙点が低くなる[6]。実測値でもココナッツ油は196℃で、パーム油の254℃や大豆油の240℃を大きく下回る[5]。
油脂別の発煙点と推奨調理法
以下はISEOが市販の食用油脂について公表している実測値である。いずれも脱臭後・遊離脂肪酸0.05%以下の試料を油種ごとに1回測定した値で、統計的に妥当な平均値ではない。同じ油種でも加工方法や季節変動、さらに分析者の主観によってばらつく点は同資料自身が注意を促している[5]。
| 油脂名 | 発煙点 (℃) | 推奨調理法 |
|---|---|---|
| パーム油 | 254 | 揚げ物、加工食品 |
| ひまわり油(ハイオレイック) | 244 | 揚げ物、炒め物 |
| 大豆油 | 240 | 揚げ物、炒め物 |
| なたね油(ハイオレイック) | 240 | 揚げ物、炒め物 |
| なたね油(キャノーラ) | 236 | 揚げ物、炒め物 |
| とうもろこし油 | 235 | 揚げ物、炒め物 |
| 綿実油 | 232 | 揚げ物、炒め物 |
| 落花生油 | 230 | 揚げ物、炒め物 |
| パームオレイン | 230 | 揚げ物 |
| こめ油 | 229 | 揚げ物、炒め物 |
| ひまわり油(ミッドオレイック) | 211 | 炒め物、ソテー |
| ココナッツ油(やし油) | 196 | 製菓、中温以下の調理 |
| ラード | 240 | 炒め物 |
| ヘット(牛脂) | 230 | 鉄板焼き、炒め物 |
ISEO “Typical Smoke, Flash & Fire Points” を基に作成[5]
エキストラバージンオリーブ油・焙煎ごま油・アボカド油・くるみ油といった未精製油は、この一覧に相当する一次実測値が公表されていない。遊離脂肪酸が残るぶん同油種の精製品より発煙点が低いことは確かだが[6]、流通品ごとのばらつきが大きいため、具体的な温度はメーカーの公表値を確認したい。
調理温度帯との対応
揚げ物(天ぷら・フライ)は油温を170〜180℃前後に保つため、発煙点が230℃以上の精製油が適する。炒め物も鍋底の温度が上がるので精製油が無難だ。ソテーやコンフィのように低めの温度で仕上げる調理なら、エキストラバージンオリーブ油やアボカド油でも煙は出にくい。ドレッシングや仕上げの香り付けは加熱しないため、発煙点を気にせず風味で選べる。なおISEOは、発煙点を上限として使うのではなく、値より十分に低い温度で運用するよう勧めている[5]。
世界の油脂マップ──原料と地域で分ける
油脂は原料の種類と栽培地域で風味と用途が決まる。オリーブ・ごま・ナッツ・種子・熱帯果実・動物性の6カテゴリに分けると、それぞれの特徴が見えてくる。
オリーブ油──地中海の液体黄金
オリーブ油はオリーブ果実から機械的・物理的手段だけで採油する。IOCの貿易規格では、バージンオリーブ油は油に変化をもたらさない温度条件のもとで採油し、洗浄・デカンテーション・遠心分離・ろ過以外の処理を受けていないものと定義される。そのうちエキストラバージンオリーブ油は遊離酸度(オレイン酸換算)0.80g/100g以下、バージンオリーブ油は2.0g/100g以下、オーディナリーバージンは3.3g/100g以下、それを超えるものはランパンテとして精製用に回される[7]。スペイン・イタリア・ギリシャが主産地で、品種(ピクアル・コラティーナ・アルベキーナなど)と収穫時期で風味が変わり、早摘みは青草のような辛みとポリフェノールが強く、完熟果は甘くまろやかになる。
精製オリーブ油は遊離酸度0.30g/100g以下、これに食用可能なバージンオリーブ油をブレンドした「オリーブ油(精製オリーブ油とバージンオリーブ油の混合)」は1.00g/100g以下と規定されている[7]。日本で「ピュアオリーブ油」の名で流通する商品は、おおむねこの混合区分にあたる。DOP(イタリア)やAOP(フランス)の原産地呼称付き製品は、産地・品種・製法が管理される。
ごま油──焙煎度で変わる香り
ごま油は白ごままたは黒ごまを原料とし、焙煎の有無で2種類に分かれる。焙煎ごま油は種子を煎ってから圧搾し、静置・ろ過だけで仕上げるため琥珀色と香ばしい香りが残る[3]。中華・韓国料理の仕上げ香り付けに使われ、加熱すると香りが飛ぶため炒め油には向かない。太白ごま油は生の種子を圧搾し、色が淡く香りが穏やかなため、天ぷら油などに使われる。
JAS規格ではごま油は「ごま油」「精製ごま油」「ごまサラダ油」の3等級に分かれ、香りを残した「ごま油」だけ酸価4.0以下と緩い基準が置かれている[1]。韓国では참기름(チャムギルム)、中国では麻油または香油と呼ばれ、地域で焙煎度と風味が微妙に異なる。
ナッツ油──風味特化型の高級油
ナッツ油はアーモンド・くるみ・ヘーゼルナッツ・マカダミアナッツを圧搾して作る。くるみ油はα-リノレン酸を含み、ナッツの甘い香りとほのかな苦みがある。フランス料理のサラダやデザートに使われ、未精製で流通するため加熱調理には向かない。アーモンド油はオレイン酸が主体で酸化しにくく、製菓やスキンケアに使われる。ヘーゼルナッツ油はイタリア・ピエモンテ州の特産で、トリュフ料理の仕上げに垂らす。
ナッツ油は少量生産で流通量が小さく、一般の種子油に比べて容量あたりの単価はかなり高い。開封後は冷暗所で保存し、1〜2か月で使い切る。この保存期間はAJIMUSE Lab の目安であり、実際は容器の表示に従ってほしい。
種子油──大量生産の主力
種子油は大豆・菜種・ひまわり・綿実・とうもろこしを搾油し、精製して作る。大豆油は世界的にも流通量の大きい植物油で、サラダ油・マヨネーズ・マーガリンの主原料になる。菜種油は品種改良でエルカ酸を減らした低エルカ酸(キャノーラ)品種が主流で、Codex規格でもオレイン酸51.0〜70.0%と定められている[2]。ひまわり油はリノール酸主体の従来種(リノール酸48.3〜74.0%)とオレイン酸主体の高オレイン酸種(オレイン酸75.0〜90.7%)に分かれ、後者は酸化しにくく揚げ油に向く[2]。
種子油は精製で風味が淡白に仕上がり、料理の味を邪魔しない。発煙点は230〜240℃台で、揚げ物・炒め物・製菓に幅広く使える[5]。
熱帯油脂──飽和脂肪酸の塊
ココナッツ油(JAS上は「食用やし油」でコプラを原料とする[1])はラウリン酸を45.1〜53.2%含む[2]。25℃以下で固まり、甘い香りと軽い口当たりが特徴だ。バージンココナッツ油は香りが強く、精製ココナッツ油は風味が淡白で製菓などに使う。ただし発煙点は精製品でも196℃と食用油のなかでは低い部類で、高温の揚げ物向きではない[5]。パーム油はアブラヤシの果肉から採油し、パルミチン酸を39.3〜47.5%含む[2]。常温で半固形になり、マーガリン・ショートニング・インスタント麺の揚げ油に使われる。発煙点は254℃と一覧中で最も高い[5]。
熱帯油脂は酸化しにくく常温保存できるが、飽和脂肪酸の過剰摂取が懸念される。環境面では、アブラヤシ農園の拡大が熱帯雨林破壊を招いているとして、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証が普及しつつある。
動物性脂肪──バター・ラード・ヘット
バターは牛乳の脂肪分を固めたもので、飽和脂肪酸が主体である。発酵バターは乳酸菌で発酵させて酸味と香りを強め、フランス・ドイツで主流だ。ラードは豚の脂肪を精製したもので、中華料理の炒め油や餃子の皮に練り込む。発煙点は240℃と精製植物油と同水準にある[5]。ヘット(牛脂)は牛の脂肪で発煙点230℃、すき焼きや鉄板焼きに使われる[5]。
動物性脂肪は常温で固まり、冷蔵保存が基本だ。風味が強いため、料理の味を左右する。
酸化と保存の基本──油を長持ちさせる条件
油脂は光・熱・酸素で酸化が進み、過酸化物価(POV)が上がると風味が劣化し、加熱時に刺激臭を放つ。酸化速度は脂肪酸組成と保存条件で決まる。
酸化のメカニズム
多価不飽和脂肪酸は二重結合に酸素が付きやすく、ラジカル連鎖反応で過酸化脂質を生む。α-リノレン酸を多く含む亜麻仁油やえごま油は開封後1〜2か月で風味が変わる。一価不飽和脂肪酸主体のオリーブ油は相対的に酸化が遅い。飽和脂肪酸は二重結合が無いため酸化されにくく、ココナッツ油は常温でも比較的長く持つ。酸化とは別に、加水分解が進むと遊離脂肪酸が増え、発煙点も下がっていく[6]。JAS規格が油種ごとに酸価の上限を置いているのも、この劣化を品質基準として押さえるためである[1]。
保存条件の3原則
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 遮光 | 紫外線は酸化を加速するため、暗色瓶または不透明容器に入れ、冷暗所で保管する |
| 低温 | 高温ほど酸化は速く進むため、開封後は涼しい場所に置く。ただしオリーブ油は低温で白濁するため、冷蔵する場合は使う前に常温に戻す |
| 密閉 | 空気との接触を減らすため、使用後は速やかにキャップを閉める。窒素ガス充填や真空パックは酸化を大幅に遅らせる |
抗酸化成分の役割
ビタミンE(トコフェロール)は油脂の天然抗酸化剤で、ラジカルを捕捉して酸化連鎖を止める。ひまわり油・アーモンド油・小麦胚芽油は天然のビタミンEを比較的多く含む。精製油には酸化防止目的でビタミンEなどの添加物が使われることがあり、JAS規格でも添加物の使用条件が定められている[1]。オリーブ油のポリフェノール(オレオカンタール・オレウロペインなど)も抗酸化性をもつ成分として知られる。
開封後の使用期限目安
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 未精製油(エキストラバージンオリーブ油・ごま油・ナッツ油) | 開封後1〜2か月を目安に、風味が落ちる前に使い切る |
| 精製油(サラダ油・キャノーラ油・大豆油) | 開封後6〜12か月 |
| 高α-リノレン酸油(亜麻仁油・えごま油) | 開封後1〜2か月、冷蔵保存必須 |
| 飽和脂肪酸主体油(ココナッツ油・パーム油) | 開封後12か月以上、常温保存可 |
上表の期間はAJIMUSE Lab の目安であり、規格や一次資料に基づく値ではない。賞味期限は未開封時の目安なので、開封後は上表を参考に、容器の表示も確かめながら早めに使い切ってほしい。
結論──油脂選びは製法・脂肪酸・温度の三角形
油脂の性質は製法(圧搾/抽出/精製)・脂肪酸組成(飽和/不飽和)・調理温度(発煙点)の3要素で決まる。揚げ物には発煙点230℃以上の精製種子油、低温ソテーやドレッシングには風味豊かな未精製油、製菓には飽和脂肪酸主体のココナッツ油やバターを選ぶと、素材と調理法が噛み合う。ここで注意したいのは、発煙点は脂肪酸の飽和/不飽和ではなく主に遊離脂肪酸の量で決まる点である。ココナッツ油の発煙点が196℃と低いのは飽和脂肪酸が多いためではなく、ISEOがラウリン系の油脂を、遊離脂肪酸量が同程度の他の動植物油脂より発煙点・引火点・発火点が低い例外として切り分けているためである[5][6]。輸入食材店で見かけるDOP認証オリーブ油や焙煎ごま油も、この枠組みで読めば用途が見えてくる。
油脂は開封後に酸化が始まる消耗品であり、多価不飽和脂肪酸が多い油ほど劣化は早い。冷暗所保存と早期使用が基本だが、亜麻仁油やえごま油は冷蔵庫に入れても1〜2か月で風味が変わるため(AJIMUSE Lab の目安)、小瓶を選んで使い切る計画を立てたい。一方で飽和脂肪酸主体のココナッツ油は常温で1年持ち、ストック向きだ。
編集者として複数の油を試した実感では、エキストラバージンオリーブ油1本と精製キャノーラ油1本があれば大半の料理をカバーでき、そこに焙煎ごま油を加えれば和洋中の風味付けが揃う。ナッツ油や亜麻仁油は特定の料理や栄養目的で使う嗜好品と割り切り、少量ずつ買う方が無駄が少ない。油脂は調味料の中で最も酸化しやすく、賞味期限内でも開封後の劣化は避けられない。選ぶ基準を持ち、使い切る習慣を作ることが、結局は最もコストパフォーマンスの高い油脂活用法になる。
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参考文献
- 食用植物油脂の日本農林規格(JAS 0523:2024), 農林水産省
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