醤油の保存|開栓後に色が濃くなる仕組みと、遅らせる置き場所

醤油の保存|開栓後に色が濃くなる仕組みと、遅らせる置き場所

醤油の保存で開栓後に色が濃くなるのは腐敗ではなく酸化褐変で、鉄やマンガンが褐変を促進する一方、金属を除いても増色は止まらないと報告されている[1]。色の濃さは香味の劣化を測る指標としても扱われてきたため[2]、家庭では冷蔵・密閉・小容量での使い切りが実際的な対策になる。

この記事の結論
  • 開栓後に色が濃くなるのは酸素と反応する酸化褐変で腐敗とは別の現象であり、異臭やとろみ、糸引きは腐敗のサインである。
  • 色が濃くなる速さは空気・温度・光で変わり、完全には止められないが、キャップを閉めて冷蔵庫で保管すると緩やかになる。
  • 色は香味の劣化の目安として扱われてきたため、開栓日をメモして時々色を見比べ、香りの変化も併せて確かめる。

この記事は「「醤(ひしお・ジャン)」とは何か|東アジア調味料の母体を知る」の各論です。

目次

開栓後の醤油に起きているのは酸化褐変である

醤油を開栓してしばらく置くと、色が黒っぽく濃くなっていく様子に気づくことがある。これは微生物によって腐っているわけではなく、空気中の酸素と反応して色素が増えていく酸化褐変という化学反応として起きている。日本農芸化学会誌に掲載された報告では、醤油から鉄や銅などの重金属をDowex A-1という処理剤で除いたところ、酸化褐変の速度は遅くなったものの「それでも明らかに増色した」と記されており[1]、金属を取り除くだけでは色の変化を止めきれないことが観察として示されている。腐敗であれば異臭や糸引きといった別の異常が伴うことが多いが、色だけが濃くなる変化は、それとは別の経路で進む反応と考えられる。

腐敗と酸化褐変は別の現象

醤油は塩分を多く含む調味料であり、一般的な生鮮食品に比べて微生物が増殖しにくい環境にあるとされる。開栓後に見られる色の濃色化は、この微生物の増殖とは別の、酸素との化学反応によって進む現象として理解しておく必要がある。異臭やとろみ、糸引きといった腐敗特有のサインが無い限り、色が濃くなったこと自体を「傷んだ」と判断するのは早計である。

「むらさき」という別名が示す色の重み

日本醸造協会雑誌に掲載された論考は、「むらさき」という別名が示すように、しょう油の色はそれ自体が食欲をそそる重要な要素になっていると述べている[2]。色は単なる見た目の問題ではなく、醤油という調味料の価値の一部を担ってきた要素であり、その色が開栓後にどう変化していくかは、風味の受け取り方そのものに関わってくる。

醤油の色が濃くなる様子は「見た目が変わっただけ」と見過ごされやすいが、色の変化そのものが品質管理の観測対象として研究されてきた。

色の変化は香味劣化の指標として使われてきた

色が濃くなることは、見た目の変化にとどまらず、香味の劣化と結びつけて扱われてきた経緯がある。日本醸造協会雑誌の報告は、しょう油の色は香味の劣化の程度をはかるバロメーターになると述べ、色の変化を指標とする品質管理への新しいアプローチを試みたことを記している[2]。色という測りやすい指標を使うことで、風味の劣化を直接評価する手間を減らせるという発想がここにある。

品質管理へのアプローチとしての色の観測

色を指標として使う発想は、香りや味を都度確認するよりも、目視や測色によって劣化の進み方を追いやすいという実用上の利点に基づいている。醤油の色が「むらさき」と呼ばれるほど価値を持つ要素であると同時に、劣化のバロメーターにもなるという二重の役割は、この調味料特有の性質といえる[2]。

家庭で見分けられる変化のサイン

家庭では、専用の測色機器を使わずとも、開栓時の色合いを覚えておき、しばらく経ってから並べて見比べることで色の濃さの違いに気づきやすい。以下のような観察を習慣にすると、風味が落ちてきたタイミングをつかみやすくなる。

  • 開栓直後に小皿へ少量取り、色合いを覚えておく
  • 使うたびに同じ照明・同じ器で色を見比べる
  • 香りの変化も併せて確認し、色だけで判断しない

褐変の原因は金属イオンだけでは説明できない

金属を抜いても色は濃くなり、戻しても元の速さに届かない日本農芸化学会誌の報告にある実験を、未処理の醤油、Dowex A-1で金属を除いた醤油、除いた金属を戻した醤油の3段で示し、それぞれの褐変の様子を添えた流れ図。流れ金属を抜いても色は濃くなり、戻しても元の速さに届かない醤油から金属を除いて戻す実験は、褐変に金属以外の要因が関わることを示した。01未処理の醤油酸素と反応し、開栓後に色が濃くなる(酸化褐変)02金属を除くDowex A-1で処理。褐変は遅くなったが、それでも明らかに増色した03金属を戻す褐変の速度は未処理の約半分にとどまった金属ごとの関与鉄(Fe2+)とマンガン(Mn2+)は褐変を促進したが、極微量で顕著な影響は認められなかった。銅・亜鉛・ニッケル・コバルト・カドミウムはほとんど無関係だった。出典: 醤油の褐変と鉄およびその他微量金属イオンの影響(日本農芸化学会誌)図解:ajimuse.com

醤油の褐変には鉄などの金属イオンが関わっているとされるが、それだけで褐変のすべてを説明できるわけではないと報告されている。日本農芸化学会誌の報告は、複数の金属イオンについて褐変への関与を個別に調べており、金属の種類によって影響の大きさが大きく異なることを示している[1]。

鉄とマンガンには促進効果が見られた

金属を除いた醤油に対して、Fe2+とMn2+は褐変を促進する効果を示したが、「極微量で顕著な影響をあらわすということは認められなかった」と報告には記されている[1]。つまり、鉄やマンガンは褐変を早める方向に働くものの、微量な混入だけで急激に色が濃くなるという単純な関係ではないことがうかがえる。

銅・亜鉛・ニッケル・コバルト・カドミウムは無関係

同じ報告では、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Cd2+については褐変にほとんど無関係であったと述べられている[1]。金属イオンの種類によって関与の有無がはっきり分かれる点は、褐変が金属を触媒とする単純な酸化反応ではない可能性を示す材料の一つになっている。

金属を戻しても元の速度には届かない

Dowex A-1で処理して金属を除いた醤油に、除いた金属を再び戻す実験も行われている。その結果、褐変の速度は未処理の醤油の約半分にとどまったと報告されており[1]、報告はこの結果から、醤油の酸化褐変には金属イオンだけでは説明のつかない要因が関わっていると位置づけている[1]。

金属を抜けば色止まりが期待できそうに思えるが、報告を読むと話はもう少し込み入っている。褐変には金属以外の要因も関わっているらしく、家庭でできる対策は「原因を断つ」よりも「進む速さを緩める」方向で考える方が実際的に見える。

温度・空気・光—家庭で効かせられる要素

酸化褐変は酸素との反応で進む現象であり、温度が高いほど化学反応は進みやすく、光もまた色素の変化を助ける要因になりやすい。家庭で完全に反応を止めることは難しいが、空気・温度・光という三つの要素のそれぞれについて、進み方を緩める工夫は可能である。

空気との接触を減らす

開栓後の醤油瓶に空気が入り込むたびに、液面と空気が触れる機会が増え、酸化が進む条件がそろっていく。使うたびに素早く注ぎ、キャップをしっかり閉め直すという動作の積み重ねが、酸素との接触量を左右する。

温度を下げる

温度が高い環境ほど化学反応の進み方は速くなりやすい。開栓後の醤油を冷蔵庫に置くという選択は、温度を下げることで反応の進み方を緩めるという発想に基づいている。常温の戸棚に置いたままにするより、温度変化の少ない場所を選ぶ方が理屈にかなっている。

光を避ける

直射日光や強い照明が当たる場所は、色素の変化を助ける要因になりやすい。キッチンの窓際やコンロの近くではなく、戸棚の中や冷蔵庫のドアポケットのような、光が当たりにくい場所を選ぶ理由はここにある。

密閉容器・小容量という選択

三つの要素をまとめて家庭で対策するとすれば、密閉性の高い容器、冷蔵での保管、使い切れる小容量の瓶という三つの選択に落ち着く。

要素家庭でできる対策狙い
空気(酸素)使用後すぐにキャップを閉める、注ぎ口を清潔に保つ液面と酸素が触れる機会を減らす
温度開栓後は冷蔵庫で保管する化学反応の進み方を緩める
光戸棚の中や冷蔵庫内など光を避けた場所に置く光による色素変化を避ける
容量使い切れる小容量の瓶を選ぶ開栓後に空気へ触れる期間を短くする

食品衛生法の位置づけと使い切りの目安

食品衛生法の条文は、販売される食品と容器に向いている食品衛生法の第十三条(販売の用に供する食品の基準・規格)と第十八条(器具・容器包装の規格・基準)の対象を示し、開栓後の家庭での保存が家庭の管理に委ねられていることを並べた構造図。構造食品衛生法の条文は、販売される食品と容器に向いている開栓後に台所でどう置くかは、条文の名宛人の外にある。判断の材料は酸化褐変の性質のほう。食品衛生法規格・基準を定める権限の置き場所は、対象ごとに別の条第十三条食品そのもの販売の用に供する食品製造・保存の方法の基準、成分の規格を「定めることができる」基準が定められたときその基準に合わない方法での製造・保存・販売を禁じる第十八条器具・容器包装容器の側の規格・基準中に入っている醤油そのものではない家庭の保存条文の外家庭の管理に委ねられる開栓後の保存期間を数値で定めた条文は、参照した範囲では見当たらないしょうゆの基準しょうゆについて保存の方法の基準が実際に置かれているかどうかは、本記事では確かめていない。出典: 食品衛生法(昭和22年法律第233号)— 規格・基準の定め図解:ajimuse.com

保存方法を考えるとき、法令がどこまで具体的に定めているかを確認しておく意味がある。食品衛生法第十八条は、内閣総理大臣が公衆衛生の見地から、器具や容器包装、またこれらの原材料について規格を定め、又はこれらの製造方法について基準を定めることができると規定している[3]。ただしこの条が見ているのは容器の側であり、中に入っている醤油そのものではない。

条文を引くなら、食品そのものを対象にしているのは第十三条である。第一項は、内閣総理大臣が公衆衛生の見地から、食品衛生基準審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又はその成分につき規格を定めることができる、と述べている[3]。

この一文には、読み手にとって大事な条件が二つ入っている。一つは名宛人で、対象は「販売の用に供する食品」である[3]。流通に乗せる段階に向けられた条文であって、買ってきたものを家庭の台所でどう置くかを縛るものではない。もう一つは語尾で、「定めることができる」と書かれている[3]。基準や規格を置く権限を与えた規定であり、すべての食品について必ず基準があるという意味ではない。

第二項は、前項の規定により基準又は規格が定められたときは、その基準に合わない方法により食品を製造し、加工し、使用し、調理し、若しくは保存し、販売してはならない、という形になっている[3]。禁止が働くのは基準が定められている場合であって、条文がいきなり保存の方法を縛っているわけではない。なお、既に触れた器具や容器包装に関する規格は第十八条の側にあり[3]、食品そのものを対象にした第十三条とは別の条に置かれている。

しょうゆについて保存の方法の基準が実際に置かれているかどうかは、本記事では確かめていない。確かめずに断定はできないので、条文の構えを示すところまでにとどめる。いずれにせよ、開栓してからの置き方を決めるのは家庭の側であり、その判断の材料になるのは、ここまで見てきた酸化褐変という現象の性質のほうである。

食品衛生法が定める規格・基準の範囲

条文で扱われているのは主に容器包装の材質や製造方法に関する規格であり、規格に合わない容器包装を販売・製造・輸入・使用してはならないという規定も置かれている[3]。参照した範囲では、醤油そのものの保存温度や開栓後の保存期間を具体的な数値で定めた条文は見当たらない。

保存方法の判断は家庭の管理に委ねられている

法令が容器包装の規格や基準を扱う一方で、開栓後に何日で使い切るべきかという具体的な期間は、参照した範囲では規定されていない。したがって、開栓後の保存方法は、パッケージの表示や家庭ごとの管理に委ねられている部分が大きいと考えるのが実際的である。

使い切りの目安を立てる考え方

数値の目安が法令で定まっていない以上、色や香りの変化を自分で観察しながら、使い切る期間を組み立てていく必要がある。

  • 開栓した日付を瓶やラベルにメモしておき、色の変化を定期的に見比べる
  • 使用頻度に応じて容量を選び、大容量の瓶を長期間開けたままにしない
  • 冷蔵庫の中でも、ドアポケットのような取り出しやすい場所に固定して、光と温度の変化を抑える

法令の条文を読むと、容器包装の規格は定められているが、開栓後の使用期限を示す数値は見当たらない。だからこそ、色の変化という目に見える手がかりを自分で観察する習慣が、家庭での判断材料として意味を持つように感じられる。

結論

醤油の色が濃くなる変化は、腐敗ではなく酸化褐変という化学反応として進む[1]。金属イオンの中でも鉄とマンガンには促進効果が見られたが、金属を除いても増色は止まらず、金属を戻しても速度は未処理の約半分にしか戻らないという報告があり[1]、褐変の仕組みは金属イオンだけでは説明がつかない。色の変化は香味の劣化を映す指標として研究の対象になってきた経緯もあり[2]、家庭で色の変化を気にする習慣には根拠がある。食品衛生法は容器包装の規格や基準を定めるが、参照した範囲では、醤油の開栓後の保存期間を具体的な数値で定める条文は見当たらない[3]。数値の目安が定まっていない以上、開栓日をメモし、冷蔵庫の中で光と温度の変化が少ない場所に置き、使い切れる容量を選ぶのが実際的である。

参考文献

  1. 醤油の褐変と鉄およびその他微量金属イオンの影響(日本農芸化学会誌)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/nogeikagaku1924/44/7/44_7_312/_article/-char/ja
  2. しょう油の色と品質管理(日本醸造協会雑誌)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/72/1/72_1_18/_article/-char/ja
  3. 食品衛生法(昭和22年法律第233号)— 規格・基準の定め
    https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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