もみじおろしとは、大根の切り口に唐辛子を差し込んで一緒にすりおろしたもの、または大根おろしににんじんのすりおろしを混ぜたものを指す語である[1][2]。参照した三つの辞典はいずれも唐辛子版を先に挙げ、にんじん版を併記している[1][2]。鍋ものや刺身の薬味として使われ[3]、市販のチューブ入り製品もある[6][7]。以下では定義の由来、二つの作り方、学術論文が報告する成分変化、市販品の違いを順に見ていく。
- もみじおろしは、大根に唐辛子を差し込んで一緒におろしたもの、または大根おろしににんじんおろしを混ぜたものを指す。
- 唐辛子版は、種を除いてぬるま湯でもどした赤唐辛子を、菜箸で穴をあけた大根に差し込んで一緒におろす。
- 大根おろしの辛味成分は時間とともに著しく減り、減る速さは作った直後が最大である(大根おろし単体の実験)。
この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。
もみじおろしとは=二つの定義がある
辞書が記す唐辛子版の定義
精選版日本国語大辞典は「紅葉卸」を「大根の切り口に唐辛子をさしこんでいっしょにすりおろしたもの。薬味に用いる」と定義する[1]。同項目は続けて「また、人参のすりおろしを加えたものもいう」とも記しており、一つの見出し語の中に唐辛子版とにんじん版の両方が収められている[1]。デジタル大辞泉も同様に「大根に唐辛子を差し込んで一緒におろしたもの。また、大根おろしとにんじんおろしを合わせたもの」としており、二つの作り方が並記される点で両辞典は一致する[2]。
講談社の料理辞典が記す作り方の違い
講談社『和洋中エスニック 世界の料理がわかる辞典』は「大根ととうがらしを一緒におろしたもの。大根に穴をあけ、とうがらしを差し込んですりおろす」と手順まで踏み込んで説明する[2]。同項目はさらに「大根おろしにすりおろしたにんじんを混ぜたものをいうこともある」と続け、唐辛子を差し込む方式とにんじんを混ぜる方式の両方を同一語の下に置いている[2]。三つの辞典はいずれも唐辛子のほうを先に挙げ、にんじんのほうを後に添える形で、どちらも同じ見出し語のもとに載せている[1][2]。
名前の由来と古さ
赤い色をもみじに見立てた名
ホクレン農業協同組合連合会の解説は、もみじおろしを「赤唐辛子とともにすりおろした大根おろしのこと」とし、「赤い色をもみじにたとえられてこの名がつけられました」と由来を説明する[3]。講談社の料理辞典も「赤く色づく秋のもみじに見立ててこの名がある」と記しており、赤い色を紅葉になぞらえた命名である点で両者の説明は一致する[2][3]。色の由来についてはこの二つの資料以外に数値的な裏付けはなく、彩度や色相に関する計測値は確認できない。
辞典が挙げる1815年の初出例
精選版日本国語大辞典は「紅葉卸」の初出の実例として、狂歌『飲食狂歌合』(1815)にある「紅葉おろしのからきめを見たる状」という一節を挙げている[1]。同辞典が示す範囲では、1815年には「紅葉おろし」という語が使われていたことになる。ただし発祥地や考案者については、本記事が参照した資料の範囲では確認できない。
作り方(唐辛子版)
ホクレンが示す下ごしらえの手順
ホクレンのサイトは、もみじおろしの作り方として「赤唐辛子は種を除き、ぬるま湯につけてもどします」としている[3]。種を除く理由や、もどす時間については同じ頁に説明がなく、本記事でも書かない。
大根に差し込んで一緒におろす工程
続けてホクレンは「大根に菜箸などで穴をあけ、赤唐辛子を差しこんで一緒におろします」と説明している[3]。穴をあけてから唐辛子を差し込むという手順は、講談社の料理辞典が記す「大根に穴をあけ、とうがらしを差し込んですりおろす」という手順とも一致する[2][3]。唐辛子版の作り方は、辞典とホクレンの説明で共通している。
にんじんで作る場合に起きること
アスコルビン酸の酸化とその扱い
日本家政学会誌38巻10号(1987年)に掲載された調理時のアスコルビン酸変化に関する抄録は、「大根と人参の“もみじおろし”の場合も酸化型になってしまうが、総アスコルビン酸量には変化はなかった」と報告している[4]。アスコルビン酸とはビタミンCの化学名である。酸化型にはなるが、総アスコルビン酸量は変わらなかったというのが、もみじおろしについての抄録の記述である[4]。同抄録は未加熱調理一般についても「一部の食品を除いては、総アスコルビン酸量はほとんど変化がなかった」と述べており、大根と人参のもみじおろしはその一例として位置づけられている[4]。
抄録に数値がない部分は書けない
この記事が確認した抄録の範囲には、もみじおろしについて、酸化の進む速さや酸化型アスコルビン酸の割合といった数値は記載されていない。そのため、本記事でも「何パーセントが酸化型になる」といった数値を示すことはできず、酸化は起きるが総量は保たれるという定性的な結論にとどめる[4]。にんじんを加えるもみじおろしの栄養面での特徴を調べる場合、この抄録が示す範囲を超える数値は確認が取れていない事項として扱う必要がある。
辛味は時間で抜ける
大根おろし一般のイソチオシアナートの減少
家政学雑誌33巻10号(1982年)の抄録は、大根おろし(もみじおろしそのものではなく大根おろし単体の実験)について、「イソチオシアナート量は時間の経過とともに著しく減少し、その減少速度は大根おろしを調製した直後が最大であった」と報告している[5]。イソチオシアナート類とは、大根に含まれる辛子油配糖体がミロシナーゼという酵素によって分解されて生じる辛味成分である[5]。同抄録はさらに、大根を上部・中部・下部に分けて比較した結果、「イソチオシアナート量が最も多い下部においてその減少速度も最大であり、大根おろし調製後30分で半減した」としている[5]。
三杯酢を加えると減少が抑えられる
同じ抄録は「大根おろし中のイソチオシアナートの減少は、三杯酢を添加することによりやや抑制されたが、その原因は三杯酢の中の酢酸によることがわかった」とも報告している[5]。この実験は大根おろし単体を対象としたものであり、唐辛子やにんじんを混ぜたもみじおろしの辛味成分を直接測定したものではない点に注意が必要である。下部ほど辛味成分が多く、かつ減少も速いという性質を踏まえると、もみじおろしを作る際に大根の部位を選んだり、早めに食卓に出したりする判断には一定の参考になる。
市販のチューブ入りもみじおろし
エスビー食品の商品情報
エスビー食品はチューブ入り香辛料「もみじおろし」(品番17637、内容量38g)について、「大根おろしの爽やかさに、赤唐辛子の刺激的な辛味と鮮やかな赤色が加わったもみじおろし。国産大根100%使用」と説明している[6]。同社サイトに記載された原材料名は、大根おろし(大根(国産))、醸造酢、塩蔵赤唐辛子、赤唐辛子、砂糖、食塩、加工デンプン、酒精、酸化防止剤(ビタミンC)、増粘多糖類、酸味料である[6]。賞味期間は開封前で13ヶ月とされ、用途として「しゃぶしゃぶや寄せ鍋、揚げだし豆腐などに」が挙げられている[6]。希望小売価格は140円(税別)と記載されているが、実売価格は販売店によって変動するため、この数値を購入時の目安として断定的に扱うことはできない[6]。
ハウス食品の商品情報
ハウス食品もチューブ入り「もみじおろし」(内容量40g)を扱っており、同社は「すりおろした大根おろしの食感、赤唐辛子のピリッとした辛さと色合いが楽しめるもみじおろしです。国産大根原料100%使用」と説明している[7]。賞味期間は製造後1年1ヵ月(未開封)とされ、希望小売価格はエスビー食品と同じく140円(税別)と記載されている[7]。両社とも国産大根を原料とうたう点は共通している[6][7]。ハウス食品の原材料名は、この記事が確認した範囲では拾えていないため、パッケージの表示で確かめることになる。
二社の商品情報を比較する
| 項目 | エスビー食品[6] | ハウス食品[7] |
|---|---|---|
| 内容量 | 38g | 40g |
| 希望小売価格(税別) | 140円 | 140円 |
| 賞味期間 | 開封前13ヶ月 | 製造後1年1ヵ月(未開封) |
| 原料表示 | 国産大根100%使用 | 国産大根原料100%使用 |
| 挙げられている用途 | しゃぶしゃぶ、寄せ鍋、揚げだし豆腐など | — |
表の内容量・価格・賞味期間はいずれも各社の商品情報に記載された数値であり、どちらか一方を推奨する意図はない。価格は改定される場合があるため、購入時には販売店や公式サイトでの最新表示を確認したほうがよい。
もみじおろしの使い道
鍋ものと刺身の薬味として
ホクレンはもみじおろしについて「ピリッと辛みがあり、鍋ものや刺身の薬味によく使われます」と説明している[3]。
山口県のふく刺しに添える食べ方
農林水産省の「うちの郷土料理」は山口県の「ふく刺し」について、「ふぐをさばき、薄造りにする。あさつきやもみじおろしなどの薬味とともに、柑橘と醤油を合わせたポン酢でいただく」と紹介している[8]。同資料によれば、ポン酢にはポンカンやダイダイ、グリーンダイダイなどが使われ、天然のとらふぐは漁期が9〜3月に限られるため冬の味覚として愛されている[8]。ふぐは毒を持つため、ふぐ調理師の免許を取得した者だけがさばくことができるとも同資料は記している[8]。もみじおろしについて読み取れるのは、あさつきと並ぶ薬味としてポン酢とともに添えられるという点である[8]。
メーカーが挙げる具体的な料理
市販チューブの商品情報では、エスビー食品がしゃぶしゃぶ・寄せ鍋・揚げだし豆腐を用途として挙げている[6]。同社が示す原材料名は大根おろしと赤唐辛子が中心で、にんじんは挙がっていない[6]。
結論
もみじおろしは、大根に唐辛子を差し込んで一緒におろす方式と、大根おろしとにんじんおろしを混ぜる方式の二つが辞典で併記される薬味であり[1][2]、名前は赤い色をもみじに見立てたことに由来し、辞典が挙げる初出例は1815年の狂歌である[1][3]。にんじんを使う場合はアスコルビン酸が酸化型に変わるが総量は保たれ[4]、大根おろしの辛味成分は調製直後に最も速く減り、量の多い下部では30分で半減したと報告されている(三杯酢を加えるとやや抑えられた)[5]。市販品を選ぶ場合はエスビー食品とハウス食品のいずれも国産大根の使用をうたい、内容量は38gと40gである[6][7]。原材料表示と賞味期間を確認したうえで、しゃぶしゃぶや寄せ鍋、刺身の薬味など用途に合わせて選ぶとよい。
関連記事
参考文献
- 精選版 日本国語大辞典「紅葉卸」
https://kotobank.jp/word/紅葉卸-2088331 - デジタル大辞泉・和洋中エスニック 世界の料理がわかる辞典「紅葉卸し」
https://kotobank.jp/word/紅葉卸し-646585 - ホクレン農業協同組合連合会 きたやさい 基本のキ「もみじおろし」
https://www.kitayasai.com/kihon/kihon00058 - 日本家政学会誌 38巻10号(1987)調理時におけるアスコルビン酸の変化
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej1987/38/10/38_10_877/_article/-char/ja/ - 家政学雑誌 33巻10号(1982)大根おろし辛味成分の消長について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej1951/33/10/33_10_513/_article/-char/ja - エスビー食品株式会社 商品情報「もみじおろし」
https://www.sbfoods.co.jp/products/detail/17637.html - ハウス食品 商品カタログ「40g もみじおろし」
https://housefoods.jp/products/catalog/cd_1,091863.html - 農林水産省 うちの郷土料理「ふく刺し 山口県」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/43_16_yamaguchi.html
