マジョラムとは|スイートマジョラムの学名と、オレガノとの規格上の違い

マジョラムとは|スイートマジョラムの学名と、オレガノとの規格上の違い

マジョラムはシソ科のOriganum majorana L.という学名を持つハーブで、米国農務省の植物データベースGRINでは異名としてMajorana hortensis Moenchも登録されている[1]。英名にはsweet marjoramとpot marjoramの2つが載り[2]、乾燥させた花付きの茎先や葉・花穂が香辛料として流通する[5][11]。名前が似たオレガノとは、資料によって指す植物が異なる場合があり、ラベルの学名を確認することが実用上の目印になる。

この記事の結論
  • マジョラムはシソ科のハーブで、乾燥させた葉や花穂を香辛料として使う。
  • マジョラムとオレガノは別の品目で、オレガノと呼ばれる植物は一種に決まっていない。
  • 買うときはラベルの学名Origanum majoranaと品名のスイートマジョラムを見る。ポットマジョラムの名は別の植物を指すこともある。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

マジョラムはどの植物か

学名と異名の関係

GRINのOriganum majoranaの頁は、異名(Heterotypic Synonym)としてMajorana hortensis Moenchを挙げている[1]。これは分類学上、同じ植物を指す2通りの呼び方があることを意味する。現在広く使われる属名はOriganumだが、Majoranaという古い属名も文献や規格の中に残っている。この違いを知らずに2つの学名を別の植物だと誤解すると、買い物の場面で不要な混乱を招く。

英名はsweet marjoramとpot marjoramの2つ

GRINのOriganum majoranaの頁には、英名としてsweet marjoramとpot marjoramの両方が記載されている[2]。この時点では両者は同じ植物の異なる呼び名として扱われている。一方で、米国の連邦規則21 CFR 182.10の一覧は、次のように別の行を立てている。

  • Marjoram, pot=Majorana onites (L.) Benth.
  • Marjoram, sweet=Majorana hortensis Moench.[4]

連邦規則が使うMajoranaという属名は、GRINではOriganum majoranaの異名に当たる[1]。ただし連邦規則のpot marjoram(Majorana onites)は、GRINがOriganum majoranaの英名の1つとして挙げるpot marjoramとは異なる学名が割り当てられている[2][4]。つまりpot marjoramという英名1つに対して、資料によって指す植物の学名が食い違う状態になっている。この食い違いを「どちらかが正しい」と一本化せず、資料ごとの表記として扱う。

香辛料として使う部位

欧州医薬品庁(EMA)のOrigani majoranae herbaの頁は、マジョラムをOriganum majorana L.の花のついた茎先(flowering shoots)の通称と説明している[5]。インドの香辛料局(Spices Board)のMarjoram品目頁も、商業的に使う部位をleaf & Flower top(葉と花穂)と記載し、乾燥させた葉と花穂が香辛料を構成すると書いている[11]。両者の表現は完全に同一ではないが、花の付いた茎や穂先を含む部分を乾燥させて使うという点では一致している。

原産地と広がり

自生地はキプロスとトルコ南部、栽培の範囲はそれより広いマジョラム(Origanum majorana L.)の分布を、自生地、栽培、野生化の3つの状態に分けて示した図。構造自生地はキプロスとトルコ南部、栽培の範囲はそれより広いGRINは、自生・栽培・野生化という3つの状態を分けて記している。Origanum majorana L. の広がり自生Nativeキプロストルコ南部西アジア(WESTERN ASIA)。地域フロラの文献を根拠にした記載栽培広く栽培されるwidely cult.野生化時に野生化するとくに地中海地域で見られる出典: USDA ARS GRIN-Global「Origanum majorana L.」(自生地)図解:ajimuse.com

キプロスとトルコ南部が自生地

GRINの自生地(Native)の欄は、Origanum majoranaの自生域を西アジア(WESTERN ASIA)のキプロスとトルコ南部(s.)としている[3]。この記載はFlora of TurkeyやFlora of Cyprusといった地域フロラの文献を根拠にしている[3]。自生地として挙がるのはこの2つの地域であるという点が、GRINの頁から確認できる範囲である。

栽培と野生化の範囲

同じ頁は、栽培状況について「widely cult.」(広く栽培される)、野生化の状況について「sometimes natzd., especially in Mediterranean region」(時に野生化し、とくに地中海地域で見られる)と記している[3]。つまり自生地として挙がるのはキプロスとトルコ南部である一方、栽培の範囲はそれより広く、地中海沿岸では栽培を離れて野生化する例もあるという構造になっている。自生・栽培・野生化という3つの異なる分布の状態を区別して読むことが、この植物の広がりを理解する手がかりになる。

オレガノとの名前の整理

同じ英名でも、資料によって当てる学名が違うsweet marjoram、pot marjoram、オレガノという3つの名前に、GRIN、米国連邦規則21 CFR 182.10、Codexの情報文書がそれぞれどの学名を当てているかを並べた表。表同じ英名でも、資料によって当てる学名が違うsweet marjoramの2つの学名は異名の関係。pot marjoramとオレガノは資料ごとに学名が食い違う。名前ある資料では別の資料ではsweet marjoramGRIN:Origanum majorana L.の英名21 CFR 182.10:Majorana hortensisMoench.(GRINでは異名)pot marjoramGRIN:Origanum majorana L.の英名の1つ21 CFR 182.10:Majorana onites (L.)Benth.オレガノ21 CFR 182.10:Lippia spp.Codexの情報文書:Origanum vulgare L.ラベルでは「pot marjoram=◯◯」と単一の植物に決めることはできない。どちらの資料を参照しているかで指す対象が変わるので、学名を確かめる。出典: USDA ARS GRIN-Global「Origanum majorana L.」/米国連邦規則集21 CFR 182.10「Spices and other natural seasonings andflavorings」/Codex香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)情報文書「規格の標準レイアウト」付録I図解:ajimuse.com

マジョラムと名前の近いオレガノについて、規格や法令が「オレガノ」という語に当てる植物は一つではない。

米国連邦規則ではオレガノはLippia spp.

21 CFR 182.10の一覧は、Marjoram, potとMarjoram, sweetの2行とは別に、Oregano(oreganum, Mexican oregano, Mexican sage, origanとも呼ばれる)という行を設け、その学名をLippia spp.としている[4]。この一覧の中では、マジョラムとオレガノは属からして異なる植物として扱われている。

Codexの情報文書では4つの品目が別番号で並ぶ

Codexの香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)が作成した規格レイアウトの情報文書は、付録の品目一覧で次のように番号を振っている。

90. Marjoram(Majorana hortensis Moench)

91. Sweet marjoram(Origanum majorana L.)

92. Oregano(Origanum vulgare L.)

93. Mexican oregano(Lippia graveolens Kunth)[6]

この一覧では、オレガノの学名はOriganum vulgare L.とされており、21 CFR 182.10のLippia spp.とは異なる植物が「オレガノ」に当てられている[4][6]。なおこの情報文書はCodex規格の書式を定めるための資料であり、付録の品目一覧自体はCodex規格そのものではない[6]。マジョラムについても、MarjoramとSweet marjoramが90番・91番として別の番号で並んでおり、同じ種が2つの学名で2行に分かれている状態になっている[6]。

pot marjoramの呼び方も資料で違う

前章で述べたとおり、pot marjoramという英名もGRINと連邦規則とで指す植物の学名が異なる[2][4]。GRINではOriganum majoranaの英名の1つとして登場し、連邦規則ではMajorana onites (L.) Benth.という別の学名が当てられている。したがって「pot marjoram=◯◯」と単一の植物に決めて書くことはできず、どちらの資料を参照しているかによって指示対象が変わる点を踏まえて読む必要がある。

規格の数値で見る違い

名前の整理だけでなく、品質の規格でもマジョラムとオレガノは別の数値で管理されている。ここで扱う数値は米国農務省(USDA)の商品調達規格A-A-20001Cに限られ、市販品一般の法定基準ではなく政府調達のための仕様である点に注意する必要がある[7][8]。

USDA調達規格A-A-20001Cの数値

A-A-20001Cの表Iは、品目ごとに水分・精油・総灰分・酸不溶性灰分・ふるい通過率の基準を並べている。Marjoram, SweetとOreganoの行を抜き出すと次のようになる。

品目水分 上限%精油 下限%総灰分 上限%酸不溶性灰分 上限%ふるい通過 下限%(ふるい番号)
Marjoram, Sweet10.00.615.04.095(35)-Ground[7]
Oregano11.02.09.5―95(35)-Ground[8]

Oreganoの行の酸不溶性灰分の欄は横線になっており、値が設定されていない[8]。この表から確認できるのは、両品目が求める精油の下限値が異なるという事実であり、Marjoram, Sweetの実際の精油含量がOreganoの何分の1になるという成分量の比較ではない。

表の列の見出しは、水分(Moisture)の上限%、精油(Volatile Oil)の下限%、総灰分(Total Ash)の上限%、酸不溶性灰分(Acid Insoluble Ash)の上限%、ふるい通過(Pass Through Particle Size)の下限%とふるいの番号(Sieve Number)である[7][8]。精油の単位も表の見出しどおり%で読む。

ISO 10620は数値ではなく形状と状態を規定

ISO 10620:1995「Dried sweet marjoram (Origanum majorana L.) — Specification」の規格頁は、乾燥スイートマジョラムの要件を、束(bunches/bouquets)と揉みほぐした形(rubbed)の両方の形状について規定していると記す[9]。頁から確認できるのは、規格の対象と状態(Status: Published、Stage: Close of review)であり、水分や精油などの数値そのものは頁には記載されていない[9]。Close of reviewは定期見直しの手続きが進んでいる段階を示す表示であり、確認済みという意味ではない[9]。したがってISO 10620について本記事で断定できるのは、束と揉みほぐしの2形態を対象とする規格が存在するという点にとどまる。

香りの成分と使うタイミング

2つの化学型

マジョラムの精油を扱う査読論文のレビューは、研究者がOriganum majoranaの精油を2つの化学型に分類してきたと述べている。1つはテルピネン-4-オール/cis-サビネン水和物型、もう1つはカルバクロール/チモール型である[10]。同じレビューは、テルピネン-4-オールの濃度がカルバクロールの半分、あるいは検出されない例もあるとしている[10]。どちらの化学型が多いかは、この記事が確認した範囲では判断できない。

Spices Boardが書く香味

インドのSpices Boardの品目頁は、マジョラムの香味をfragrant(芳香がある)、slightly sharp(わずかに鋭い)、bitterish(やや苦い)、camphoraceous(樟脳様)と表現している[11]。この表現は化学成分の分析値ではなく、品目の特徴を言葉で説明したものである。

加熱の終わりに加える理由

同じSpices Boardの頁は、マジョラムの用途を調味料・ソーセージ・サラミとし、香りが繊細で加熱中に失われやすいため、調理の終わり近くに加えるのがよいと記している[12]。これはSpices Boardの記述であり、使い方の目安として読める。具体的な配合比やトマト料理との合わせ方は、イタリアンハーブを扱う記事に委ねる。

結論

マジョラムの正体を確かめるには、ラベルに書かれた学名(Origanum majorana)と品名(sweet marjoram)の両方を見るのが実用的な手順である。GRINはMajorana hortensis MoenchをOriganum majoranaの異名とし、21 CFR 182.10はそのMajorana hortensis Moench.をMarjoram, sweetの学名に使っており[1][4]、一方でpot marjoramやオレガノという英名は資料によって異なる植物の学名が当てられている[2][4][6]。品質規格の数値を見るときは、USDA調達規格A-A-20001Cが政府調達向けの仕様であることを踏まえ、Marjoram, SweetとOreganoで精油の下限値や酸不溶性灰分の規定が異なる点を、成分量の優劣ではなく規格の要求値の違いとして読む必要がある[7][8]。買ったマジョラムを使う際は、Spices Boardが示す、調理の終わり近くに加えるという目安を踏まえ、加熱の最後の段階で加える手順を試すことができる[12]。

参考文献

  1. USDA ARS GRIN-Global「Origanum majorana L.」(異名)
    https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxon/taxonomydetail?id=25912
  2. USDA ARS GRIN-Global「Origanum majorana L.」(英名)
    https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxon/taxonomydetail?id=25912
  3. USDA ARS GRIN-Global「Origanum majorana L.」(自生地)
    https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxon/taxonomydetail?id=25912
  4. 米国連邦規則集21 CFR 182.10「Spices and other natural seasonings and flavorings」
    https://www.ecfr.gov/current/title-21/section-182.10
  5. EMA「Origani majoranae herba」生薬の要約頁
    https://www.ema.europa.eu/en/medicines/herbal/origani-majoranae-herba
  6. Codex香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)情報文書「規格の標準レイアウト」付録I
    https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/codexalimentarius/committee/docs/CCSCH_InfDoc_ST_e.pdf
  7. USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28) 表I — Marjoram, Sweet の行
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf
  8. USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28) 表I — Oregano の行
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf
  9. ISO 10620:1995「Dried sweet marjoram (Origanum majorana L.) — Specification」
    https://www.iso.org/standard/18712.html
  10. 「Origanum majorana Essential Oil—A Review of Its Chemical Profile and Pesticide Activity」(2022年、PMC9785525)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9785525/
  11. Spices Board India「Marjoram」品目頁(2015-11-18更新) — 部位と香味
    https://www.indianspices.com/spice-catalog/marjoram.html
  12. Spices Board India「Marjoram」品目頁(2015-11-18更新) — 用途と入れるタイミング
    https://www.indianspices.com/spice-catalog/marjoram.html

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

目次