マーガオ(馬告)とは|台湾の山胡椒、レモンの香りの実を現地資料で読む

マーガオ(馬告)とは|台湾の山胡椒、レモンの香りの実を現地資料で読む

マーガオ(馬告)はクスノキ科ハマビワ属の落葉性低木 Litsea cubeba の果実で、台湾の公的機関の資料には「山胡椒」の名で載り、「馬告」はタイヤル族の呼び名である[1][6]。果実はレモン・胡椒・松柏の香りを帯び[1]、果実の精油の主成分はシトラール(檸檬醛)とされる[5]。輸入食材店でホール状の実を見かけたとき、それが肉の下処理やスープの香り付けに使われてきた台湾原住民族の調味料だと分かれば、使い方の見当がつきやすくなる。

この記事の結論
  • マーガオ(馬告)は台湾や中国などが原産のクスノキ科の低木の果実で、山胡椒の名でも呼ばれる調味料だ。
  • 果実は胡椒・レモン・松柏の香りを帯び、味は胡椒とレモンと生姜を合わせたようだ。
  • 台湾原住民族は乾燥した実を肉の臭み消しやスープに使い、塩が得にくい山地では塩の代わりにもした。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

マーガオとは―クスノキ科ハマビワ属の低木とその呼び名

分類学上の位置づけ

マーガオの学名はLitsea cubeba (Lour.) Persで、樟科(クスノキ科)木薑子屬(ハマビワ属)に属する多年生の落葉性灌木または小喬木である[1]。農業部花蓮區農業改良場の解説によれば、全株に刺激的な辛味香りがあり、茎や枝葉には樟脳のような気息があるとされる[1]。台湾原生樹木推廣及媒合平臺の樹木頁では、樹高3〜5メートル、葉は互生・暗緑色、花は小型の繖形花序で黄色、果実は漿果で熟果の大きさは0.5センチメートル、熟すと黒くなると記されている[7]。「山胡椒」という名で呼ばれるが、花蓮區農業改良場と農業知識入口網が示す分類はクスノキ科ハマビワ属である[1][6]。

呼び名の違い―馬告・山胡椒・タイヤル語・タロコ語

マーガオという呼称はタイヤル族の言葉に由来するが、その綴りは資料によって異なる。花蓮區農業改良場はMakauyと表記し[1]、農業部の農業知識入口網はMakaoと表記する[6]。タロコ族(太魯閣族)はこれをMqrigと呼び、この表記は両方の資料で一致している[1][6]。農業知識入口網はさらに、別名として山雞椒・賽樟樹・豆豉薑・木薑子という漢語名や、賽夏族の呼び名Mae’aewも挙げている[6]。三つの資料はいずれも植物名を「山胡椒」として載せており[1][6][7]、「馬告」は花蓮區農業改良場と農業知識入口網がタイヤル族の呼び名として挙げている[1][6]。

香りと味の中身―レモン・胡椒・松柏・生姜

果実の香りの表現

花蓮區農業改良場は、マーガオの果実がレモン・胡椒・松柏の香り(原文の表記は檸檬、胡椒及松柏香氣)を帯びると説明する一方[1]、全体の味については「味道類似胡椒、檸檬與薑的綜合體」、つまり胡椒とレモンと生姜を合わせたような味だと記している[3]。農業知識入口網も同様に、全株が特殊な香りを発し、その味は「類似胡椒與薑的綜合」であると述べる[6]。両者とも具体的な成分含有率の数値までは示していないため、香りの強弱や配合比を数字で語ることはできない。実際に調理で使う際は、こうした定性的な記述を手がかりに、少量から香りの立ち方を確認する使い方が現実的である。

精油の主成分とレモングラスとの違い

花蓮區農業改良場は、果実の精油の主成分がシトラール(檸檬醛)であり、次いでリモネン(檸檬烯)が多いと記す[5]。一方で葉の精油は果実とは異なる成分が主体で、桉葉油醇(シネオール)が中心、次いで檜烯(サビネン)が多いとされる[5]。同じ木でも、果実と葉では精油の主成分が違うということになる。日本で販売されているハウス食品のGABAN「馬告(マーガオ)」のホール袋では、同社がこの香りを「レモングラスのようなさわやかな香りとほろ苦さ」と説明している[8]。

自生地と開花・結果期―資料ごとに揺れる数字

開花期は資料で揃わず、結果期は6〜8月で一致するマーガオの開花期について3機関の記述がずれていることと、結果期が3機関とも6〜8月で一致することを、月の軸の上の帯で示した図。段階開花期は資料で揃わず、結果期は6〜8月で一致する台湾の3機関の記述を月の帯で並べた。開花期は、重なる月が無い組み合わせもある。開花期 花蓮區農業改良場1〜3月開花期 農業知識入口網2〜4月開花期 林業署 樹木頁4〜6月結果期 3機関とも6〜8月1月2月3月4月5月6月7月8月実がなる株マーガオは雌雄異株で、雌株と雄株のどちらも花を咲かせるが、実をつけるのは雌株だけ。隔年結果になりやすいとされる。出典: 農業部花蓮區農業改良場「原鄉特色香辛料─山胡椒的栽培與利用」/農業部 農業知識入口網 原住民族農産業主題館「山胡椒」/農業部林業及自然保育署 臺灣原生樹木推廣及媒合平臺 樹木查詢「山胡椒 Litsea cubeba (Lour.) Pers.」図解:ajimuse.com

原産地と台湾での分布

マーガオの原産地は中国東部・南部、日本、琉球、台湾、東南アジア(インド、マレーシア、インドネシアなど)とされる[6][7]。台湾国内では宜蘭の大同・南澳地区、花蓮の萬榮紅葉・卓溪立山などに自生の群落が分布していると花蓮區農業改良場は報告している[2]。林業署の樹木頁では、台湾国内の分布地区を北・中・南・東とし、環境の類型を中低海抜の開けた土地、路傍、河床の裸地としている[7]。

標高のばらつき

マーガオが自生する標高について、資料ごとに幅がある。農業知識入口網は「1000m上下的中低海拔山區」の開墾地や林道沿いの日当たりの良い場所と記す[6]。一方、林業署の樹木頁は「100~1500公尺」という範囲を示している[7]。花蓮區農業改良場の解説については、この記事が確認した範囲では標高の数値を拾えておらず、分布地として地名が挙げられている[2]。3機関の記述を並べると次のようになる。

項目花蓮區農業改良場[2]農業知識入口網[6]林業署 樹木頁[7]
標高確認した範囲に数値なし(地名を挙げる)1000m前後の中低海抜100~1500公尺
開花期1-3月2-4月4~6月
結果期6-8月6-8月6-8月

開花期のずれと結果期の一致

表の通り、開花期の記述は3機関で揃わない。花蓮區農業改良場は1〜3月[2]、農業知識入口網は2〜4月[6]、林業署の樹木頁は4〜6月[7]としており、花蓮區農業改良場と林業署の樹木頁とでは重なる月が無い。これに対して結果期は3機関とも6〜8月で一致している[2][6][7]。マーガオは雌雄異株で、雌株と雄株のどちらも花を咲かせるが、実をつけるのは雌株だけである[2]。野生のマーガオは自然繁殖率が低く(農業知識入口網は約10%と記す[6])、隔年結果になりやすいという特徴も花蓮區農業改良場と農業知識入口網の双方が指摘している[2][6]。

青いうちに摘む―収穫のタイミングと方法

マーガオは青いうちに枝ごと切り、手で実を外すマーガオの収穫を、青熟期の採収、側枝の切り取り、小枝集め、麻袋での運び出し、人の手による脱粒の5段で示した流れ図。流れマーガオは青いうちに枝ごと切り、手で実を外す色が変わると鳥に食べられ、黒く熟すと落ちる。だから青熟期に採る。01青熟期に採る色が変わる前の青く熟した時期02側枝を切る果実のついた側枝を切り取る03小枝を集める整枝剪で枝を整える04山から運ぶ小枝を麻袋に入れる05手で脱粒する柄が付かない状態にして保存・加工へ長く保たせる工夫果実は年に一度しか収穫できないため、乾燥または塩漬けにして長期保存する工夫がなされてきた。出典: 農業部花蓮區農業改良場「原鄉特色香辛料─山胡椒的栽培與利用」図解:ajimuse.com

色が変わると鳥に食われ、黒くなると落ちる

マーガオの果実は樹上で熟す過程で、青色から褐黒色へと色が変わっていく[3]。花蓮區農業改良場によれば、果実は色が変わる段階で鳥に食べられやすく、完全に黒く熟すと落下しやすいため、一般には青く熟した時期(青熟期)に採収が行われるとされる[3]。この説明は、マーガオの収穫が「できるだけ長く樹上で熟させる」方向ではなく、むしろ色づく前に摘み取る方向に動く理由を示している。

枝ごと切って人の手で脱粒する

採収の具体的な工程についても花蓮區農業改良場は詳しく記している。まず果実のついた側枝を切り取り、整枝剪(剪定用のはさみ)で枝を整え、果実のついた小枝を集める[3]。集めた小枝は麻袋に入れて山から運び出し、その後人の手で脱粒して枝から果実だけを外し、柄が付かない状態まで処理してから保存や加工に回すという手順である[3]。

台湾原住民族の使い方―塩の代わりとしての山胡椒

肉の臭み消しとスープの風味付け

花蓮區農業改良場は、乾燥させた果実には調味機能があり、風味を増し食欲を高めるほか、肉類の臭みを取る働きがあるとし、滷肉(醤油煮込み)・醃肉(肉の漬け込み)・スープに使われると説明する[4]。農業知識入口網も同様に、種子は臭み消しの香料や塩の代替として使われ、滷肉・醃肉・炒小魚乾(小魚の乾物の炒め物)・スープに用いられると記している[6]。新鮮な果実はそのままおやつとして食べられることもあるという[3]。

  • 新鮮な果実:そのまま食用にできる[3]
  • 乾燥させた果実:滷肉・醃肉・スープの風味付け、肉の臭み消し[3][4][6]
  • 花:茶として利用[4]
  • 新鮮な若葉:料理に加えて利用[4]

花・葉の利用

果実以外の部位も利用される。花蓮區農業改良場によれば、マーガオの花は茶として飲むことができ、新鮮な若葉は料理に用いられるとされている[4]。同場は、全株が利用でき、原住民族の祖先は山胡椒を余すところなく使ってきたと書いている[4]。

塩が貴重だった時代の保存法

花蓮區農業改良場は、かつて山地では塩が得にくかったため、原住民族がマーガオを塩の代わりに食物の風味付けや臭み消しに使っていたと説明する[4]。また、マーガオの果実は年に一度しか収穫できないため、乾燥または塩漬けにして長期保存する工夫がなされてきたとも記している[4]。農業知識入口網も、種子が塩の代替品として用いられてきたという点で同様の記述をしている[6]。

伝承として紹介される二日酔い・頭痛への利用

花蓮區農業改良場の解説には、賽夏族やタイヤル族が新鮮な果実を搗き砕いて水に浸し、二日酔いのあとの頭痛や身体の痛みを和らげるために飲んできたという記述がある[4]。同じ資料には、かつてタロコ族が根を煎じて飲んだり額に貼ったりし、頭痛を和らげる効果があると言われている(原文は「據說」)、という記述もある[4][5]。これらは原住民族の習わしとして紹介されている記述であり、マーガオに鎮痛や二日酔い解消の効能があると確かめたものではない。本記事も効能としては扱わない。

日本で買える形と、野外採集に頼る生産の現状

ハウス食品のGABANシリーズ

日本国内では、ハウス食品がGABANブランドで「馬告(マーガオ)」のホールタイプを3グラムの袋入りで販売している[8]。同社の商品説明では、肉料理や煮込み料理、デザートなど幅広い料理にレモングラスのようなさわやかな香りとほろ苦さを加えるとされ、カルパッチョ・スープ・台湾料理への利用も挙げられている[8]。価格はオープン価格(メーカーが希望小売価格を定めない販売方式)であり、賞味期間は製造後2年1か月(未開封)とされる[8]。

野生採集が大半を占める生産構造

マーガオの生産は現在も野外の自生株からの採集に大きく依存している。花蓮區農業改良場は、マーガオ生産の大部分が野外植株の採集によるもので、人工栽培による専業生産はごく少数の農家に限られると述べている[1][5]。同資料はさらに、需要の増加とともに過剰採集が生じていること、野外で自然に繁殖した山胡椒の生存率が1割にとどまることを挙げ、野外の個体群が減っていると指摘する[1]。

種苗繁殖の難しさ

花蓮區農業改良場は、種苗繁殖の難しさにも触れている。同場によれば、マーガオの種子は種仁に脂肪酸を多く含み、呼吸代謝に使える炭水化物が少ないため発芽が非常に困難で、一般には低温層積処理(種子を低温下に一定期間置いて発芽を促す処理)が必要になるとされる[2]。挿し木繁殖も可能だが育苗の成功率は高くなく、現状では野生採集が主な供給源になっているという[2]。雌雄異株であるため、人工栽培した苗であっても開花結果するまでの2〜3年を待たなければ雌株か雄株かを正確には見分けられないとも書かれている[1]。

本記事が扱う範囲

本記事は台湾由来のマーガオという植物と、その香り・自生環境・利用法を台湾の行政機関の解説に基づいて読み解くことに絞っている。コショウ属のコショウそのものの特徴や、スパイスを料理に加えるタイミングに関する一般論は対象としていない。同様に、マーガオの香気成分の含有率を示す数値、台湾国内での現在の生産量、市場での取引価格についても、参照した資料の範囲では確認できる記述がないため扱っていない。

結論

マーガオ(馬告)はクスノキ科ハマビワ属の落葉性低木Litsea cubebaの果実で、台湾の公的機関の資料には山胡椒の名で載り、「馬告」はタイヤル族の呼び名(綴りはMakauyまたはMakao)である[1][6]。味は胡椒・レモン・生姜を合わせたようだと花蓮區農業改良場が記し、果実の精油の主成分はシトラール、次いでリモネンとされる[3][5]。開花期や自生標高は資料によって数字が異なるものの、結果期が6〜8月であることは3機関で一致しており、収穫は果実が青いうちに行われる[2][3][6][7]。日本で入手する場合はハウス食品のGABANブランドのホールタイプが選択肢の一つであり、同社が挙げる肉料理・煮込み料理・スープ・台湾料理などが使い道の手がかりになる[8]。

参考文献

  1. 農業部花蓮區農業改良場「原鄉特色香辛料─山胡椒的栽培與利用」 — 野生山胡椒特性與分佈(名称・香り)
    https://web.archive.org/web/20260513051948/https://www.hdares.gov.tw/i_theme_data.php?theme=highlights_news&id=12
  2. 農業部花蓮區農業改良場「原鄉特色香辛料─山胡椒的栽培與利用」 — 生育特性(開花期・結果期・雌雄)
    https://web.archive.org/web/20260513051948/https://www.hdares.gov.tw/i_theme_data.php?theme=highlights_news&id=12
  3. 農業部花蓮區農業改良場「原鄉特色香辛料─山胡椒的栽培與利用」 — 採收
    https://web.archive.org/web/20260513051948/https://www.hdares.gov.tw/i_theme_data.php?theme=highlights_news&id=12
  4. 農業部花蓮區農業改良場「原鄉特色香辛料─山胡椒的栽培與利用」 — 山胡椒利用(料理での使い方)
    https://web.archive.org/web/20260513051948/https://www.hdares.gov.tw/i_theme_data.php?theme=highlights_news&id=12
  5. 農業部花蓮區農業改良場「原鄉特色香辛料─山胡椒的栽培與利用」 — 精油の主成分・結語
    https://web.archive.org/web/20260513051948/https://www.hdares.gov.tw/i_theme_data.php?theme=highlights_news&id=12
  6. 農業部 農業知識入口網 原住民族農産業主題館「山胡椒」
    https://web.archive.org/web/20230923222359/https:/kmweb.moa.gov.tw/subject/subject.php?id=39505
  7. 農業部林業及自然保育署 臺灣原生樹木推廣及媒合平臺 樹木查詢「山胡椒 Litsea cubeba (Lour.) Pers.」
    https://web.archive.org/web/20260511053950/https://nativetree.forest.gov.tw/Tree/Info/91e53cd3d24f4e63add01f4b472f61b2
  8. ハウス食品 商品カタログ「馬告(マーガオ)=GABAN 3g 馬告(マーガオ)ホール 袋」
    https://housefoods.jp/products/catalog/cat_1,spice2,youfu,maqaw.html

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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