韓国の醤図鑑|カンジャン・テンジャンと味噌・醤油の違い

韓国の醤図鑑|カンジャン・テンジャンと味噌・醤油の違い

カンジャンは韓国の伝統的な醤油で、大豆を煮て固めた「メジュ」という麹玉を塩水に漬けて発酵させ、その液体部分を取り出したものである[1]。日本の醤油(濃口)が小麦と大豆を麹菌で発酵させるのに対し、カンジャンは大豆のみを使い、自然界の微生物による発酵を経る点で製法が異なる。韓国では家庭ごとに冬場に大豆を煮てメジュを作り、軒先に吊るして乾燥させ、翌春に塩水と共に甕に仕込む習慣が続いてきた。この伝統的な醤造りの知識と慣習は2024年にユネスコ無形文化遺産代表一覧表に記載され[2]、韓国料理の根幹を成す調味料として国際的にも認知されている。

韓国の醤(ジャン):メジュから分かれる 韓国の醤が大豆麹玉メジュから、液体のカンジャン(醤油)と固形のテンジャン(味噌様)に分かれる仕組みと、日本の味噌・醤油との違い、ユネスコ無形文化遺産登録を示した図。 韓国の醤(ジャン)文化 大豆の麹玉「メジュ」を塩水に漬け、液体と固形に分けるのが韓国の醤の基本。 メジュ(大豆麹玉) 蒸した大豆を固めて発酵 塩水に漬け込む ↓ カンジャン(液体) 漬け込んだ上澄みの液体=韓国醤油。 ・伝統的な「クッカンジャン」 ・工場醸造の「ヤンジョカンジャン」 スープ・和え物・タレの味つけに テンジャン(固形) 残った固形分=味噌に相当。 大豆のみのメジュから作る点が 米・麦麹を使う日本の味噌と異なる。 チゲ・スープの土台に UNESCO2024 無形文化遺産「韓国の醤(ジャン)造り」 メジュづくりから醤を仕込む知識と技術・家庭の文化が2024年に登録された。 出典: 韓国食品公典(食品医薬品安全処 MFDS)/UNESCO無形文化遺産(韓国の醤造り) 図解:ajimuse.com
目次

韓国のジャン文化とメジュ(大豆麹玉)

韓国の醤文化は「ジャン」と総称される発酵調味料群を中心に発展してきた。ジャンには液体のカンジャン(醤油)、ペースト状のテンジャン(味噌)、唐辛子を加えたコチュジャン(唐辛子味噌)などが含まれる。これらすべての出発点となるのが、大豆を煮て潰して固めた「メジュ」という麹玉である。

メジュの製造と発酵プロセス

メジュは晩秋から初冬にかけて、煮た大豆を石臼や木槌で潰し、手のひら大の直方体または球形に成形して作る。成形したメジュは稲藁で縛り、風通しの良い軒先や室内に吊るして1〜2か月間乾燥させる。この間、成形器具や空気中の枯草菌(バチルス属)などの細菌と、稲藁などに由来するカビ(糸状菌)がメジュの表面に付着し、内部まで繁殖する。表面には白い菌糸が生え、やがて黄色や緑がかった胞子層が形成される。

乾燥が進むと、メジュは硬く締まり独特の発酵臭を放つようになる。この状態のメジュを翌年の立春前後に取り込み、表面を軽く洗ってから塩水と共に大きな甕(オンギ)に仕込む。塩分濃度は18〜20%程度に調整し、メジュが完全に塩水に浸かるようにする。甕は日当たりの良い庭先や屋上に並べられ、数か月から数年にわたって発酵・熟成させる。

ジャン造りの季節性と共同体文化

ジャン造りは韓国の農村社会において、単なる調味料製造を超えた文化的意味を持っていた。メジュ作りは家族総出の年中行事であり、近隣の家々が助け合いながら大豆を煮る作業を行った。甕の管理も共同体の知識として共有され、塩加減や発酵の進み具合を見極める技術は母から娘へと受け継がれた。

2024年のユネスコ無形文化遺産登録は、こうした伝統的な醤造りの知識・信仰・慣習が評価された結果である[2]。登録名称は「大韓民国における醤(ジャン)造りに関する知識・信仰・慣習」(Knowledge, beliefs and practices related to jang making in the Republic of Korea)で、単なる製法だけでなく、季節の巡りや自然への畏敬、共同体の絆といった無形の価値が含まれている。

カンジャン(韓国醤油)の種類と特徴

カンジャンは大きく、伝統的な製法による「クッカンジャン(韓国醤油)」と、近代以降の「ヤンジョカンジャン(醸造醤油)」に分けて語られることが多い。ただしこの二分は慣用的なもので、韓国食品公典(食品医薬品安全処)は醤類(장류)の간장を한식간장・양조간장・산분해간장・효소분해간장・혼합간장の5類型に区分している[1]。クッカンジャンは公典上の한식간장にあたる。

クッカンジャン(韓国醤油)

クッカンジャンは前述のメジュを塩水で発酵させ、その上澄み液を取り出したものである。「クッ」は漢字の「国」ではなく、汁物(クッ)の味を調えるのに使うことに由来する固有語である。発酵期間は数か月から数年に及ぶ。色は淡い琥珀色から濃い褐色まで熟成度によって変化し、塩分濃度は成分表のナトリウム値から換算すると17〜23%程度と非常に高い。

味わいは日本の濃口醤油よりも塩気が強く、大豆由来のうま味成分(グルタミン酸)が豊富に含まれる。小麦を使わないため、醤油特有の甘みや香ばしさは控えめで、その分大豆の風味がストレートに感じられる。スープや煮物の味付けに使われることが多く、特にミヨックク(わかめスープ)やコムタン(牛骨スープ)など、素材の味を生かす料理に欠かせない。

ヤンジョカンジャン(醸造醤油・改良醤油)

ヤンジョカンジャンは開化期以降に日本式の醤油製法が伝わり、1930年代に醸造醤油の製造会社が設立されて広まったものである。ただし韓国語の「양조간장」は醸造法による醤油全般を指し在来式も含む語で、日本式を特に指すのは개량간장や왜간장である。脱脂大豆や小麦を麹菌(アスペルギルス・オリゼ)で発酵させ、塩水と混ぜて熟成させる。製法は日本の濃口醤油に近いが、韓国の嗜好に合わせて塩分濃度をやや高めに調整したものが多い。

現代の韓国家庭では、クッカンジャンとヤンジョカンジャンを用途別に使い分けることが一般的である。クッカンジャンは汁物や煮物に、ヤンジョカンジャンは炒め物やタレ、卓上調味料として使われる。市販の醤油には「진간장(ジンカンジャン)」の表記も多いが、これは양조간장の下位区分ではない。現在の市販진간장の多くは、酸分解醤油を配合した혼합간장(混合醤油)に分類される。

カンジャンと日本の醤油の比較

項目クッカンジャンヤンジョカンジャン日本の濃口醤油
主原料大豆のみ大豆・小麦大豆・小麦
麹菌自然付着菌(枯草菌等)麹菌(A.オリゼ)麹菌(A.オリゼ)
塩分濃度約17〜23%約12%約14.5%
淡褐色〜褐色濃褐色濃褐色
主な用途汁物・煮物炒め物・タレ万能調味料
韓国側の塩分は食品成分表のナトリウム値からの食塩相当量換算値(日本の濃口は成分表の食塩相当量14.5 g/100g)。韓国食品公典は醤類に食塩の規格値を定めていない。

テンジャンと日本の味噌の違い

テンジャンは、伝統的にはメジュを塩水に漬けてカンジャン(上澄み液)を分離した後の固形分から作られる。ただし現在の食品公典は、こうした分離を経ずに大豆などを発酵させる製法も並列で認めている。つまり、カンジャンとテンジャンは同じ甕から生まれる兄弟のような関係にある。これに対し、日本の味噌は大豆と麹(米麹・麦麹・豆麹)を最初から混ぜ合わせて発酵させるため、製法の出発点が異なる。

製法と発酵の違い

テンジャンの製造工程は次の通りである。メジュを塩水に3〜6か月漬け込み、液体部分(カンジャン)を濾し取る。残った固形物を取り出し、さらに塩を加えて練り直し、再び甕で熟成させる。この二段階発酵がテンジャン独特の風味を生む。

日本の味噌は、蒸した大豆に米麹または麦麹と塩を混ぜ、一度に仕込んで発酵させる。米麹を使う場合は「米味噌」、麦麹なら「麦味噌」、大豆のみで作る場合は「豆味噌」と呼ばれる。発酵期間は種類によって異なり、白味噌は数週間、赤味噌や豆味噌は1年以上熟成させることもある。

味と香りの特徴

テンジャンは日本の豆味噌(八丁味噌など)に近い濃厚な大豆の風味を持つが、発酵臭がより強く、塩気も鋭い。これは自然界の多様な微生物が関与する発酵プロセスに由来する。枯草菌が生成する酵素が大豆タンパク質を分解し、アミノ酸やペプチドを大量に生成するため、うま味が強く複雑な味わいになる。

日本の米味噌は麹菌由来の甘みと穏やかな香りが特徴で、塩分濃度は甘口の6%程度から辛口の13%程度までと幅があり、多くはテンジャンより低い。豆味噌はテンジャンに近い濃厚さを持つが、発酵臭は控えめで、長期熟成による深いコクが前面に出る。

料理での使い分け

テンジャンは「テンジャンチゲ(味噌チゲ)」や「サムジャン(焼肉用味噌ダレ)」の主役として使われる。テンジャンチゲは豆腐・ズッキーニ・じゃがいも・唐辛子などを入れた味噌汁で、韓国の食卓に欠かせない汁物である。サムジャンはテンジャンにコチュジャン・ごま油・にんにくなどを混ぜたもので、サムギョプサル(豚バラ焼肉)をサンチュで包む際に添える。

日本の味噌は味噌汁が代表的だが、煮物の隠し味や田楽、西京漬けなど用途が広い。米味噌の甘みと穏やかな風味は和食全般に調和しやすく、テンジャンのような強い主張は避けられる傾向にある。

ユネスコ無形文化遺産「韓国の醤造り」

2024年、韓国の伝統的な醤(ジャン)造りの知識・信仰・慣習がユネスコ無形文化遺産代表一覧表に記載された[2]。この登録は、単なる調味料製造技術ではなく、韓国社会に根付いた文化的実践全体を評価したものである。

登録の背景と意義

ユネスコの評価では、ジャン造りが韓国の農村共同体における社会的結束を強化し、世代間の知識伝達を促進してきた点が重視された。メジュ作りや甕の管理には家族や近隣住民の協力が不可欠であり、この共同作業を通じて共同体意識が育まれてきた。

また、ジャン造りには自然への畏敬の念が込められている。発酵の成否は気温・湿度・微生物の働きに左右されるため、人間の完全なコントロールが及ばない。そのため、甕を仕込む際には家内安全や豊作を祈る儀礼が行われ、甕のある場所を神聖視する習慣もあった。

現代における伝承と課題

都市化と生活様式の変化により、家庭でメジュを作りジャンを仕込む世帯は減少している。しかし、農村部や伝統を重んじる家庭では今も冬のメジュ作りが続けられており、体験プログラムや教育活動も各地で行われている。

韓国政府は無形文化遺産登録を契機に、伝統的なジャン造りの記録・保存・普及に力を入れている。農村振興庁や地方自治体が主催するワークショップでは、若い世代にメジュ作りや甕の管理技術を教え、伝統食文化の継承を図っている。

市販のカンジャンやテンジャンが広く流通する現代においても、「ジプジャン(家醤・自家製醤)」は特別な価値を持つ。祖母や母が仕込んだジャンは家族の味の記憶と結びつき、贈答品としても珍重される。この感覚は日本の「手前味噌」に通じるものがある。

結論

カンジャンとテンジャンは、メジュという大豆麹玉を起点とする韓国独自の発酵調味料である。日本の醤油・味噌が麹菌による管理された発酵を基本とするのに対し、韓国のジャンは自然界の微生物に委ねる発酵を特徴とする。この違いが、それぞれの調味料の風味と料理文化を形作ってきた。

2024年のユネスコ無形文化遺産登録は、ジャン造りが単なる製法ではなく、季節の巡り・共同体の絆・自然への畏敬を含む文化的実践であることを国際社会に示した。現代の食卓では市販品が主流となっても、この伝統的な知識と技術は次世代へと受け継がれている。

家庭で韓国料理を作る際、カンジャンとテンジャンの背景にあるこうした文化を知ることは、単なる代用品探しを超えた理解につながる。輸入食材店で手に取るボトルや容器の向こうに、冬の軒先に吊るされたメジュと、春の陽光を浴びる甕の風景を思い浮かべてみてほしい。その想像が、一皿の料理に深みを加えるはずである。

参考文献

  1. 韓国食品公典(食品医薬品安全処)第5. 12. 장류(제2026-40호)
    https://various.foodsafetykorea.go.kr/fsd/#/ext/Document/FC
  2. UNESCO無形文化遺産「Knowledge, beliefs and practices related to jang making in the Republic of Korea」(2024年登録・代表一覧表)
    https://ich.unesco.org/en/RL/knowledge-beliefs-and-practices-related-to-jang-making-in-the-republic-of-korea-01975

この記事を書いた人

世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く編集部です。数字と固有名詞は本国の公的機関や規格で裏を取り、家庭で「あの国の味」を再現したい人に役立つ形にまとめます。

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