フェヌグリークとは|メープルに似た香りと苦み、種子と葉の使い分け

フェヌグリークとは|メープルに似た香りと苦み、種子と葉の使い分け

フェヌグリークは、マメ科の植物トリゴネラ・フェヌム・グラエクムの成熟した種子を乾燥させたスパイスで、インドの食品規格はこれをFenugreek (Methi) Wholeの名で定義する[1]。エスビー食品は、種子がメイプルシロップに似た甘い香りと強い苦みをもつとしており[7]、学術レビューは、嗅覚測定で検出された香気物質のうちソトロンが主要な物質だと報告している[6]。種子のほかに葉(カスリメティ)も風味付けに使われ、若いさや・葉・芽は野菜として食べられる[4][7]。

この記事の結論
  • フェヌグリークはマメ科の植物の成熟した種子を乾燥させたスパイスで、カレー粉の主要な原料の一つとされる。
  • 種子はメイプルシロップに似た甘い香りと強い苦みをもつとされ、葉(カスリメティと呼ばれる)も種子と同じく苦みがある。
  • 若いさや・葉・芽は野菜として食べられ、葉は風味付けに、乾燥した葉の粉は飾りと香りづけに使われる。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

フェヌグリークとは

原産は東南ヨーロッパと西アジア、栽培はインドからアルゼンチンまでフェヌグリークの原産地(東南ヨーロッパと西アジア)と現在の栽培地(インド、アルゼンチン、エジプト、地中海諸国)を地域別に並べた図。地域原産は東南ヨーロッパと西アジア、栽培はインドからアルゼンチンまでインドの香辛料局が挙げる原産地と、現在の栽培地。欧州・中東・アフリカアジア米州原産東南ヨーロッパ西アジア栽培エジプト栽培(地中海諸国)南フランスモロッコレバノン栽培(インド)ラージャスターングジャラートマディヤ・プラデーシュウッタル・プラデーシュマハーラーシュトラパンジャーブ栽培アルゼンチン出典: Spices Board India(インド商工省 香辛料局)「Spice Catalogue: Fenugreek」— 形状・原産と産地図解:ajimuse.com

定義と学名

インド食品安全基準局(FSSAI)の規格では、Fenugreek (Methi) Whole は Trigonella foenum graecum L. の成熟した種子を乾燥させたものと定義される[1]。同規格は、種子が異臭・カビ臭・酸化臭を帯びていないこと、カビや害虫(生死を問わず)、ネズミによる汚染が無いことも求めている[1]。つまり定義の部分が書いているのは、植物種と乾燥という加工の段階、そして異臭や汚染が無いことである。

原産地と産地

インド商工省香辛料局(Spices Board India)によれば、フェヌグリークの原産は東南ヨーロッパと西アジアである[3]。現在はインドに加えてアルゼンチン、エジプト、地中海諸国(南フランス、モロッコ、レバノン)で栽培されている[3]。インド国内では、ラージャスターン、グジャラート、マディヤ・プラデーシュ、ウッタル・プラデーシュ、マハーラーシュトラ、パンジャーブで広く作られている[3]。

種子の形状

香辛料局の説明では、種子は滑らかで長円形、長さは約3mmあり、一方の角に溝が入っていることで鉤のような形に見える[3]。エスビー食品の記述では、スパイスとして使われるのは約6cmの細長いさやの中で育つ3〜4mm大の多角形で固い豆(種子)の部分を乾燥させたものとされる[7]。大きさの数値と形の言い表し方は二つの資料でわずかに異なるが、いずれも数ミリの小さな種子として説明している。

香りと苦み

甘い香りについて資料が書いていること

エスビー食品は、フェヌグリークの種子を「メイプルシロップに似た甘い香りと強い苦み」をもつスパイスとして紹介している[7]。学術レビュー(Ahmadら、2016年)は、嗅覚測定(オルファクトメトリー)によって検出された香気成分のうち、ソトロンが主要な物質であり、強い金属的、キノコのような、焙煎香、刺激的、バター様、スパイシーな香りを持つと報告している[6]。インド商工省香辛料局は、フェヌグリークの抽出物がイミテーションのメープルシロップの香料として使われると説明する[4]。甘い香りという表現、ソトロンという特定の香気物質、抽出物の香料用途という3つの記述は、それぞれ別の資料に基づくものである。本記事が確認した範囲では、メープルに似た香りの原因をソトロンだと結びつけて述べた記述は見当たらず、三つは並べて読むにとどめる。

苦みの強さ

エスビー食品の記述は、種子の特徴として甘い香りと並んで「強い苦み」を挙げている[7]。同出典は、楕円形の葉(カスリメティ)についても、種子と同様に苦みがあると説明している[7]。苦みの強さを数値で示す規定は、本記事が参照した資料の範囲では見当たらない。

種子の中身

種子の中身は粘質の多糖が中心で、精油はごくわずかフェヌグリークの種子に含まれるガラクトマンナン、サポニン、トリゴネリン、コリン、精油の割合を棒の長さで比べた図。段階種子の中身は粘質の多糖が中心で、精油はごくわずか欧州医薬品庁(EMA)の評価報告が記す成分の割合。量としては桁が大きく違う。種子に含まれる割合(幅や上限で示される成分は、大きいほうの値で棒を描く)ガラクトマンナン25〜45%(粘質の多糖の主成分)サポニン0.6〜1.7%トリゴネリン最大0.37%コリン0.05%精油0.015%ここから分かること量の面で種子の中心にあるのは、香りの成分ではなく粘質の多糖である。出典: European Medicines Agency(HMPC)「Assessment report on Trigonella foenum-graecum L., semen」Final – Revision 1(EMA/HMPC/179590/2018)図解:ajimuse.com

多糖の割合

欧州医薬品庁(EMA)のハーブ薬用評価報告は、フェヌグリークの種子が粘質の多糖(ムシレージ)に富み、その主成分はガラクトマンナンで含有率は25〜45%であると記している[5]。同報告はこのほか、プロトアルカロイド、トリゴネリン(最大0.37%)、コリン(0.05%)、サポニン(0.6〜1.7%)といった二次代謝産物についても触れている[5]。この報告は医薬品としての評価を目的とした文書だが、種子の組成を示す根拠としてのみ用いる。

精油はわずか

同じEMAの報告は、種子に含まれる精油(エッセンシャルオイル)の量がごく少量で、0.015%であると記す[5]。粘質の多糖の主成分であるガラクトマンナンが25〜45%とされるのに対し、精油は0.015%で、量としては桁が大きく違う[5]。精油量に関する米国の調達規格やISOの数値は、本記事が参照した資料には含まれていない。

インドの基準が見ているもの

冷水可溶性エキスという指標

FSSAIの規格は、Fenugreek (Methi) Whole について、乾物基準での冷水可溶性エキスを30.0%以上と定めている[2]。名前のとおり、冷水に溶け出す分の割合に下限を置く項目である。規格はこのほか、酸不溶性灰分(希塩酸に溶けない灰分)を乾物基準で1.5%以下と定めている[2]。

不純物の上限

同じ規格は、フェヌグリーク以外の食用種子の混入を2.0%以下、虫害を受けた粒(insect damaged matter)を1.0%以下に制限している[2]。いずれも混入物と虫害の上限であり、香りの強さを量る項目ではない。以下はFSSAIのFenugreek (Methi) Wholeに関する基準値のうち、本記事が参照した資料で確認できたものである。

項目基準値出典
冷水可溶性エキス(乾物基準)30.0%以上[2]
酸不溶性灰分(乾物基準)1.5%以下[2]
フェヌグリーク以外の食用種子2.0%以下[2]
虫害粒1.0%以下[2]

水分含量や総灰分といった項目については、本記事が確認した範囲では数値を示せない。

種子と葉の使い分け

若い葉とさや

インド商工省香辛料局は、若く柔らかいさや・葉・芽が野菜としてカレーに調理されて食べられると説明している[4]。種子が乾燥させたものであるのに対し、若いさやや葉は新鮮なうちに野菜として調理される点が異なる。香辛料局はまた、乾燥した葉の粉が料理の飾りと香りづけに使われると述べている[4]。

乾燥葉カスリメティと種子の役割

エスビー食品は、楕円形の葉がカスリメティと呼ばれ、種子と同じく苦みを持つこと、インドや中近東で風味付けに用いられることを説明している[7]。香辛料局はフェヌグリークについて、カレー粉を構成する主要な原料の一つであると述べている[4]。スパイスとしてカレー粉のような合わせ調味料に入る使い方と、葉を野菜や風味付け、乾燥した粉を飾りや香りづけにする使い方とが、二つの資料から読み取れる使い分けの軸になっている[4][7]。

適した料理

エスビー食品は、フェヌグリークに適した料理として以下を挙げている[8]。

  • カレー、サブジ(蒸し炒め)、チャツネ(インドの料理)
  • ベンガル地方の代表的なミックススパイスであるパンチフォロンの材料
  • トルコのパスティルマ(牛肉の塩漬け)で肉の表面に塗るスパイスペーストの材料
  • 中近東地域の肉のソースやディップソースの材料
  • コーカサス地域でくるみと合わせて使う用法

これらはいずれもインドから中近東、コーカサスにかけての地域に広がっており、フェヌグリークが単一の料理文化に閉じたスパイスではないことがわかる。

使うときの手がかり

じっくり炒める理由

エスビー食品はフェヌグリークの紹介見出しに「じっくりと炒めて甘い香りを楽しむ」という表現を用いている[7]。種子に含まれる精油はEMAの報告によれば0.015%とごく少量である[5]。同社の見出しに沿えば、時間をかけて炒めて香りを出すことが、この種子を使うときの手がかりになる。

水に溶ける性質との関係

FSSAIの規格が冷水可溶性エキスを30.0%以上と定めていること[2]、EMAの報告が粘質の多糖(ガラクトマンナン25〜45%)を主成分として挙げていること[5]は、量の面で種子の中心にあるのが香りの成分ではなく、水に溶ける分や粘質の多糖であることを示す。油の量や加熱時間、使用する分量についての具体的な数値は、本記事が参照した資料には含まれていない。

結論

フェヌグリークは、トリゴネラ・フェヌム・グラエクムの成熟種子を指す語であり[1]、インドの食品規格はその純度や水溶性エキスの量を数値で定めている[2]。嗅覚測定で検出された香気物質のうち主要なものはソトロンだという学術レビューの報告、メイプルシロップに似た甘い香りというエスビー食品の形容、抽出物がイミテーションのメープルシロップの香料に使われるというインド香辛料局の説明は、それぞれ異なる資料に基づく記述として並記できる[4][6][7]。フェヌグリークはカレー粉の主要な原料の一つとされ、若いさや・葉・芽は野菜として、葉(カスリメティ)は風味付けに、乾燥した葉の粉は飾りと香りづけに使われるという区別があり[4][7]、適した料理はインドのカレーやサブジから、ベンガルのパンチフォロン、トルコのパスティルマ、コーカサスでくるみと合わせる使い方まで広がっている[8]。購入したフェヌグリークを使う際は、種子と葉のどちらを手元に持っているかを確認し、種子であれば、じっくりと炒めるというエスビー食品の見出しを手がかりにするとよい[7]。

参考文献

  1. FSSAI(インド食品安全基準局)「Food Safety and Standards (Food Products Standards and Food Additives) Regulations, 2011」コンペンディウム 第2章 2.9 Salt, Spices, Condiments and Related Products — 2.9.10 Fenugreek (Methi) Whole の定義
    https://www.fssai.gov.in/docs/food-law/regulations/compendium/food-products-standards/Chapter 2_9_Salt_Spices_Condiments and related products.pdf
  2. FSSAI(インド食品安全基準局)「Food Safety and Standards (Food Products Standards and Food Additives) Regulations, 2011」コンペンディウム 第2章 2.9 Salt, Spices, Condiments and Related Products — 2.9.10 Fenugreek (Methi) Whole の基準値
    https://www.fssai.gov.in/docs/food-law/regulations/compendium/food-products-standards/Chapter 2_9_Salt_Spices_Condiments and related products.pdf
  3. Spices Board India(インド商工省 香辛料局)「Spice Catalogue: Fenugreek」— 形状・原産と産地
    https://www.indianspices.com/spice-catalog/fenugreek.html
  4. Spices Board India(インド商工省 香辛料局)「Spice Catalogue: Fenugreek」— 用途
    https://www.indianspices.com/spice-catalog/fenugreek.html
  5. European Medicines Agency(HMPC)「Assessment report on Trigonella foenum-graecum L., semen」Final – Revision 1(EMA/HMPC/179590/2018)
    https://www.ema.europa.eu/en/documents/herbal-report/assessment-report-trigonella-foenum-graecum-l-semen-revision-1_en.pdf
  6. Ahmad A. ほか「Fenugreek a multipurpose crop: Potentialities and improvements」Saudi Journal of Biological Sciences 23(2):300–310(2016)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4894452/
  7. エスビー食品「スパイス&ハーブ検索:フェネグリーク/Fenugreek seed」— 特徴
    https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00040.html
  8. エスビー食品「スパイス&ハーブ検索:フェネグリーク/Fenugreek seed」— 適した料理
    https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00040.html

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

目次