フェンネルシードはセリ科ういきょうの果実を乾燥させた香辛料で、欧州薬局方は甘種と苦種の2変種を記載し、精油中のアネトールの下限を甘種は80.0%、苦種は60.0%としている、と欧州医薬品庁(EMA)の報告書は書いている[2]。米国農務省とインドFSSAIはそれぞれ独自の数値で品位を定め、用途は魚料理からカレー粉の原料まで幅広い[1][3][4]。
- フェンネルシードはセリ科ういきょうの果実を乾燥させた香辛料で、魚料理やパン、焼き菓子、五香粉、カレー粉に使われる。
- 薬の原料としての欧州の基準は甘種と苦種を分け、香りの油に含まれるアネトールの割合を甘種80.0%以上、苦種60.0%以上とする。
- 米国の政府調達規格とインドの食品規格は水分・香りの油の量・虫害粒などを別に定め、薬の基準の数値は市販の香辛料にそのまま当てはまらない。
この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。
フェンネルシードとは
エスビー食品による説明
調味料・香辛料メーカーのエスビー食品は、「スパイス&ハーブ検索」でフェンネルシードの解説を公開している[1]。同社の説明によると、フェンネルシードは魚料理との相性が良いことで知られ、種子と葉の両方が魚のスープやソースに使われる[1]。種子はパンや焼き菓子、ハーブティー、リキュールの原料としても利用され、イタリアでは豚肉料理に、中国では五香粉というミックススパイスの原料に使われるという[1]。インドでは食後の口直しとして種子を噛む習慣があり、同社は消化を助け口臭を消す効果があると考えられると説明している[1]。
インドの食品規格における定義
インド食品安全基準局(FSSAI)の食品規格集 Version 4(2025年8月1日付)2.9.9項は、フェンネルを現地名「Saunf(サウンフ)」と併記して扱う[4]。同項は粉末について、Foeniculum Vulgare P. Miller Var Vulgare の熟した果実(種子)を挽いて得られるものと定義する[4]。科名については、EMAの文書の表がフェンネルをセリ科(Apiaceae)としている[5]。
甘種と苦種(欧州薬局方が定める2変種)
欧州医薬品庁(EMA)のハーブ医薬品委員会(HMPC)が公表した評価報告書(EMA/HMPC/240553/2016、Final-Revision 1、2024年1月31日付)は、フェンネルの果実を生薬として評価した文書である[2]。同報告書は、欧州薬局方がフェンネルの果実について甘種(var. dulce)と苦種(var. vulgare)という2つの変種を記載していると説明する[2]。この2変種の区別は、医薬品原料としての生薬の規定であり、食品として売られる香辛料そのものの等級付けではない。
甘種(var. dulce)の基準
EMAの報告書によると、欧州薬局方は甘種の果実を、Foeniculum vulgare Mill. subsp. vulgare var. dulce (Mill.) Batt. & Trab.の乾燥した双懸果・分果と定義する[2]。基準値は無水物1kgあたり精油20 mL以上で、精油中のアネトール含有率は80.0%以上とされる[2]。同報告書は甘種の色を淡い緑から淡い黄褐色としている[2]。
苦種(var. vulgare)の基準
同じ報告書は苦種の果実を、Foeniculum vulgare Mill. subsp. vulgare var. vulgareの乾燥した双懸果・分果と定義する[2]。基準値は無水物1kgあたり精油40 mL以上で、精油中のアネトール含有率は60.0%以上、フェンコン含有率は15.0%以上とされる[2]。これらの数値は生薬としての基準であり、市販の香辛料フェンネルシードに同じ数値がそのまま当てはまるわけではない。
香辛料としての規格値(米国)
USDA AMS の調達規格 A-A-20001C
米国農務省農業マーケティングサービス(AMS)は、香辛料とスパイスブレンドの商業品目規格 A-A-20001C(2023年8月28日付)を公表している[3]。この規格は表I「分析要件」で、品目ごとに水分・揮発油・全灰分・酸不溶性灰分・ふるい通過率・ふるい番号の基準値を一覧にしている[3]。この規格は連邦政府機関が香辛料を調達する際の基準であり、市販されるフェンネルシード全般に適用される基準ではない。
フェンネルシードの基準値
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 水分(上限) | 8.0% |
| 揮発油(下限) | 1.0% |
| 全灰分(上限) | 11.0% |
| 酸不溶性灰分(上限) | 1.0% |
| ふるい通過(下限) | 95% |
| ふるい番号 | (25) |
上の表はA-A-20001C表Iのうちフェンネルシードの行の数値である[3]。ふるい通過は、ふるい番号(25)のふるいを95%以上が通過することを求める項目である。同じ表にはクミン、ディルウィード、フェヌグリーク、ジンジャーなど複数の香辛料の行が並んでいるが、ここではフェンネルシードの行の数値のみを示した[3]。
香辛料としての規格値(インド)
ホール(丸ごと)の基準
FSSAIの2.9.9項は、ホールのフェンネル(Saunf)について複数の品質基準を定めている[4]。確認できる範囲では、次の3項目が該当する。
- 揮発油含有率(乾物基準):1.0% v/w以上
- フェンネル以外の食用種子:Absent(含まないこと)
- 虫害粒:1.0%以下(重量)
v/wは、重量に対する体積の割合を示す表記である。
粉末(Saunf powder)の定義
同じ2.9.9項の後半は、ホールとは別に粉末(Fennel (Saunf) powder)を定義している[4]。定義によると、Saunf粉末は Foeniculum Vulgare P. Miller Var Vulgare の熟した果実(種子)を挽いて得られる粉末である[4]。ホールの基準値と粉末の定義は条項として分かれており、ホールの数値を粉末にそのまま当てはめて読むことはできない。
エストラゴールという成分
苦種の精油に含まれる割合
EMAが公表した、エストラゴールを含む生薬製剤の使用についての声明(Public statement on the use of herbal medicinal products containing estragole、EMA/HMPC/137212/2005 Rev 1 Corr 1、2023年5月12日付)の表1は、複数のハーブについてエストラゴールの含有割合をまとめている[5]。同表の苦種(Bitter fennel, Common fennel)の行によると、果実中の精油含有率は2〜6%、精油中のエストラゴール含有率は3.5〜12.0%とされる[5]。同じ行は、利用部位(果実)全体に対するエストラゴール含有率を0.3%としている[5]。この文書は生薬製剤、つまり医薬品としてのフェンネル製剤を対象にしたものであり、食品として摂取した場合の健康影響を直接述べたものではない。
既存情報との幅の違い
セリ科の香辛料5種を扱う別記事では、別の研究にもとづく、より広い幅の値を紹介している。本記事が参照したEMAの表は、苦種について3.5〜12.0%という幅を示している[5]。出典が違う値なので、どちらかを誤りとして扱うことはできない。
EUの食品規則はどこに線を引いているか
複合食品中の上限値
EU規則(EC) No 1334/2008(香料規則)の2026年2月16日時点の統合版は、附属書III B部で、香料などを加えた複合食品について、物質ごとに、その存在が制限される食品と上限値を定めている[6]。エストラゴール(1-Allyl-4-methoxybenzene)の行は、次の上限値を示す[6]。
| 複合食品 | 上限(mg/kg) |
|---|---|
| 乳製品 | 50 |
| 加工した果実と野菜(きのこ・根菜・豆類を含む)、ナッツと種子 | 50 |
| 魚製品 | 50 |
| ノンアルコール飲料 | 10 |
この規則は香料についての規則であり、フェンネルシードという香辛料そのものの販売や使用を禁じる記述は、確認できる範囲には無い。
ハーブ・スパイスだけの食品への例外
附属書III B部には注(*1)が付されている[6]。注によると、複合食品に香料が添加されておらず、香りを付ける食品原料として加えられたものが生・乾燥・冷凍のハーブとスパイスだけである場合、この上限値は適用されない[6]。つまり、香料を加えず、香り付けに加えたのが乾燥フェンネルシードのようなハーブ・スパイスだけの複合食品には上限値は適用されず、香料を加えた複合食品には上限値が適用されるという条件つきの規定である[6]。「ハーブなら規制なし」「エストラゴールは禁止」という単純な図式ではなく、何をどう添加したかによって扱いが変わる規定として読む必要がある。
使い方と合わせ方
魚料理との相性
エスビー食品の説明によると、フェンネルシードは魚料理との相性が良く、種子と葉のどちらも魚のスープやソースに使われる[1]。
焼き菓子から五香粉まで
エスビー食品の説明をもとに、フェンネルシードの主な用途を整理すると次のようになる[1]。
- パン、焼き菓子、ハーブティー、リキュールの原料
- イタリアの豚肉料理
- 中国のミックススパイス「五香粉」の原料
- カレー粉の原料
セリ科の香辛料5種の見分け方や炒り方・テンパリングについては別記事で扱っており、五香粉の配合については別記事で扱っている。
インドでの食後の習慣
エスビー食品は、フェンネルシードに消化を助け口臭を消す効果があると考えられるとし、インドでは食後の口直しとして噛む習慣があると説明する[1]。この記述は同社の解説における説明であり、本記事はこの効果を医学的に断定するものではない。
結論
フェンネルシードは、欧州薬局方が甘種と苦種のそれぞれに精油の量とアネトール(苦種はフェンコンも)の下限を定める一方、米国の調達規格は水分・揮発油・灰分・ふるい通過率という別の軸で品位を定め、インドのFSSAIは揮発油含有率や異物混入の有無という軸で基準を定めている[2][3][4]。これらの数値は文書ごとに単位も対象も異なり、医薬品原料としての基準と香辛料としての規格を同じ物差しで比較することはできない。エストラゴールについては、EMAの表が苦種の精油中含有率を3.5〜12.0%とする一方、EUの香料規則は香料などを加えた複合食品でのこの物質の上限を定めており、香料を加えずハーブとスパイスだけで香りを付けた複合食品にはその上限を適用しない[5][6]。使い道は、エスビー食品が挙げる魚料理やパン、焼き菓子から試すと分かりやすい[1]。
関連記事
参考文献
- エスビー食品「スパイス&ハーブ検索 フェンネルシード/Fennel seed」
https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00074.html - EMA(欧州医薬品庁)HMPC「Assessment report on Foeniculum vulgare Miller subsp. vulgare var. vulgare, fructus and var. dulce, fructus」EMA/HMPC/240553/2016 Final – Revision 1(2024-01-31)
https://www.ema.europa.eu/en/documents/herbal-report/final-assessment-report-foeniculum-vulgare-miller-subsp-vulgare-var-vulgare-foeniculum-vulgare-miller-subsp-vulgare-var-dulce-mill-batt-trab-fructus-revision-1_en.pdf - USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28)
https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf - FSSAI(インド食品安全基準局)「Food Product Standards 2.9: Salt, Spices, Condiments and Related Products」Version 4(2025-08-01)
https://www.fssai.gov.in/docs/food-law/regulations/compendium/food-products-standards/Chapter 2_9_Salt_Spices_Condiments and related products.pdf - EMA(欧州医薬品庁)HMPC「Public statement on the use of herbal medicinal products containing estragole」EMA/HMPC/137212/2005 Rev 1 Corr 1(2023-05-12)
https://www.ema.europa.eu/en/documents/other/public-statement-use-herbal-medicinal-products-containing-estragole-revision-1_en.pdf - EU 規則 (EC) No 1334/2008(香料規則・2026-02-16 時点の統合版)
https://publications.europa.eu/resource/celex/02008R1334-20260216
