ディルの種と葉の違い|シードとウィードを規格と成分で読む

ディルの種と葉の違い|シードとウィードを規格と成分で読む

ディルシードとディルウィードは、同じ Anethum graveolens の果実と葉という部位の違いである[3]。米国の調達規格は葉(Dill Weed)だけに水分10.0%以下・精油0.2%以上の基準を置き[6]、種の基準は欧州の業界団体 ESA が精油1.0ml/100g以上として別に示す[7]。輸入食材店で二つの瓶を見比べるとき、この部位の差を知っていると、同じ「dill」でもラベルの数字が指す対象が違う理由が分かる。

この記事の結論
  • ディルシードとディルウィードは同じディルの果実(俗に種)と葉の違いで、葉はハーブ、果実はスパイスとして使われる。
  • 瓶のラベルの英語表記(seed、weed、tops)を見れば、中身が果実なのか葉なのかを見分けられる。
  • ディルピクルスは、米国の基準ではディルのハーブなどと塩水で漬けるものと、塩水漬けのあと風味料入りの酢液に詰めるものに分かれる。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

ディルとは — 部位と精油の系統

ディルの「種」と「葉」は、一つの植物の果実と先端部ディル(Anethum graveolens L.)が、乾燥させてハーブにする先端部と、スパイスにする果実に分かれ、精油もそれぞれ別の系統になることを示した図。構造ディルの「種」と「葉」は、一つの植物の果実と先端部葉はハーブ、果実はスパイス。精油も部位ごとに二つの系統に分かれる。ディル(Anethum graveolens L.)ディルシードもディルウィードも、この一つの種から採れる部位の名称。先端部(葉)ディルウィード乾燥させてハーブに植物の先端部(apical parts)を使う葉と茎から作る精油ディルハーブ油果実ディルシードスパイスに「紛らわしく種と呼ばれている」と注記される。種子ではなく果実果実だけから作る精油Dill seed oil精油を読むとき葉由来の精油と果実由来の精油は、規格上は別の原料を指している可能性がある。どちらの系統の精油かを区別して読む。出典: EFSA FEEDAP パネル「Safety and efficacy of a feed additive consisting of an essential oil from the aerial parts ofAnethum graveolens L. (dill herb oil) for use in dogs and cats (FEFANA asbl)」(EFSA Journal 2022;20(12):e07689)図解:ajimuse.com

世界に広がった栽培地

EFSAの飼料添加物評価書は、ディル(Anethum graveolens L.)について、いまでは世界各地で育っていると記す[3]。ハーブ専門店や輸入食材店で見かけるディルシードとディルウィードは、植物学的にはどちらも一つの種から採れる部位の名称である[3]。この評価書自体は犬猫用飼料添加物としてのディルハーブ油を審査する文書だが、原料の由来を述べる節(3.1 Origin and extraction)が植物の部位の区分に触れている[3]。

葉はハーブ、果実はスパイスという区分

同じ評価書は、植物の先端部(apical parts)は乾燥させてハーブに、果実はスパイスに使われると説明し、その果実に misleadingly called seeds(紛らわしく種と呼ばれている)と注記する[3]。つまりこの評価書の書き方では、英語で dill seed と呼ばれているものは種子ではなく果実である[3]。家庭でディルシードとディルウィードを使い分けるときは、まず「葉はハーブ、果実(俗称の種)はスパイス」という区分を起点にするとラベルの英語表記が理解しやすくなる。

精油にも二つの系統がある

EFSAの評価書は、精油についても、果実だけから作るもの(Dill seed oil)と、葉と茎から作るものの二系統があると書く[3]。本記事で後述する香り成分の規格値は、このうち葉と茎から採る精油(ディルハーブ油)についての数値であり、果実だけから採る精油(Dill seed oil)の成分値は、本記事が参照した資料の範囲では確認できない。葉由来の精油と果実由来の精油を同じ「ディルの精油」として一括で語ると、規格上は別の原料を指している可能性があるため、どちらの系統の精油かを区別して読む必要がある。

「種」と「葉」、名前の線引き

米国の連邦規則が書く二つの dill

米国の連邦規則集 21 CFR §184.1282 は、”dill” を “the herb and seeds” と定義し、American or European の dill を Anethum graveolens L.、Indian の dill を Anethum sowa, D.C. と書き分ける[1]。条文の見出しは Dill and its derivatives で、派生物として、これらのディルから得る精油(essential oils)・オレオレジン(oleoresins)・天然抽出物(natural extractives)を挙げる[1]。American/European 系と Indian 系を別の学名で示している点が特徴である[1]。本記事はこの条文のうち (a) 項の定義部分に限って引用する。

分類学データベースでの扱い

一方、米国農務省 ARS の分類データベース GRIN Taxonomy は、Anethum sowa Roxb. ex Fleming を Anethum graveolens の Heterotypic Synonym(異名)として扱う[2]。21 CFR が Indian dill を独立した学名で示すのに対し、GRIN は同じ名前を Anethum graveolens の異名の欄に置いている。つまり「種として別か、同じ種の異名として扱うか」という線引きは、食品規制の条文と分類学データベースのあいだで一致していない。輸入食材のラベルに Indian dill や Anethum sowa という表記を見つけた場合、それが米国の連邦規則上の書き分けなのか、分類学上の異名なのかを意識しておくと混同を避けやすい。

乾燥ディルの規格 — 葉と種を並べて読む

ISOが定める範囲

ISO 21803:2019「Dried dill — Specification」は、第1版として2019年9月に発行された規格である[5]。公開されている概要頁から分かるのは、対象が Anethum graveolens L. の乾燥ディルであること、whole(丸のまま)・crushed(破砕)・rubbed (ground)(揉んで粉状にしたもの)の3形態を対象にすること、人工的に乾燥させたもの(dehydrated dill)も「dried dill」という語に含むことである[5]。概要頁だけでは水分率や精油含量といった具体的な数値までは確認できないため、その範囲に限ってISOを引用する。したがって、ISO 21803:2019を根拠に特定の数値を語ることは避け、対象と形態の定義に限って扱う。

米国の調達規格 A-A-20001C(葉のみ)

米国農務省 AMS の商品記述 A-A-20001C(2023年8月28日付)の表Iは、スパイス各品目について、左から Moisture Max %・Volatile Oil Min %・Total Ash Max %・Acid Insoluble Ash Max % の順に列を並べ、その右に粒度などの列が続く[6]。Dill Weed の行は、水分10.0%以下・精油0.2%以上・総灰分16.0%以下・酸不溶性灰分3.0%以下である[6]。この規格の品目一覧と表Iにあるディルは Dill Weed だけであり、Dill Seed の行は無い[6]。つまり、この米国規格では種のほうの数値的な基準を確認することができない。

規格対象水分精油総灰分酸不溶性灰分
A-A-20001C 表I[6]Dill Weed10.0% 以下0.2% 以上16.0% 以下3.0% 以下

欧州ESAの品質基準(葉と種を並べる)

欧州の業界団体 European Spice Association の Quality Minima Document(2015年10月27日採択・2018年3月26日に内容確認)は、DILL TOPS(葉)と DILL SEED(種)を別の行に分けて基準を示す[7]。列の並びは ASH % max・AIA % max・H2O % max・V/O ml/100g min の順である[7]。この文書では米国規格と違い、葉と種の両方に基準値が置かれている。

品目灰分酸不溶性灰分水分精油
DILL TOPS(葉)[7]15% 以下2.0% 以下8.0% 以下Traces
DILL SEED(種)[7]10% 以下2.5% 以下12% 以下1.0 ml/100g 以上

葉と種を並べると、精油の基準に下限値が置かれているのは種(DILL SEED)の側である[7]。なお米国 A-A-20001C の精油は%表記、ESAの精油はml/100g表記であり、単位が異なるため、この二つの数値をそのまま大小比較することはできない[6][7]。規格を見比べる際は、同じ「精油」という語でも、どの単位で測っているかをまず確認する必要がある。

Tracesという表記の意味

ESAの表でDILL TOPSの精油欄に置かれた「Traces」は、数値が無いという意味ではない。同じ文書の4.3項は、Traces を、低いレベルの揮発成分(一般に0.5%未満)で、ISO 6571 を使った分析定量が正確で信頼できるとはいえないものと定義し、感覚的な香りの特性は買い手と売り手の間で合意すべきものと記す[9]。つまりDILL TOPSの精油は、規定が無いのではなく、定量が難しい低いレベルにあり、香りは当事者の合意で扱うという位置づけである[9]。ESAの表で、葉の精油に下限の数値が置かれていないのはこのためである[7][9]。

香りの成分 — ディルハーブ油の主要4成分

ディルハーブ油はカルボンの割合が最も大きいディルハーブ油の主要4成分(カルボン・リモネン・α-フェランドレン・ディルエーテル)の規格幅を帯で、平均値を数字で示した図。段階ディルハーブ油はカルボンの割合が最も大きい葉と茎から採る精油の主要4成分。帯は規格幅、右の数字は平均値(GC分析の面積比)。カルボン(28〜45%)平均42.2%リモネン(16〜35%)平均21.5%α-フェランドレン(16〜31%)平均20.7%ディルエーテル(4〜9%)平均6.89%0%9%16%28%35%45%この数字が指すもの4成分の合計は平均で91.2%。葉と茎から採る精油の規格値であり、乾燥させた葉そのものや果実(種)に含まれる成分量ではない。出典: EFSA FEEDAP パネル 同意見書(EFSA Journal 2022;20(12):e07689)Table 2図解:ajimuse.com

主要4成分の規格値

EFSAの飼料添加物評価書に添付された成分表(Table 2)は、犬猫用飼料添加物として申請されたディルハーブ油(葉と茎から採る精油)について、主要4成分の規格幅と平均値をGC分析の面積比(% GC area)で示す[4]。

  • カルボン:規格幅28〜45%、平均42.2%
  • リモネン:規格幅16〜35%、平均21.5%
  • α-フェランドレン:規格幅16〜31%、平均20.7%
  • ディルエーテル(3,6-Dimethyl-2,3,3a,4,5,7a-hexahydrobenzofuran):規格幅4〜9%、平均6.89%

この4成分の合計は平均で91.2%に達する[4]。カルボンの割合が他の3成分より大きい点は、この表の数値だけから読み取れる範囲の事実である。

種の精油については分からないこと

この成分表が対象とするのは、葉と茎から採る精油(dill herb oil)であり、乾燥させた葉そのものや果実(種)そのものに含まれる成分量ではない[4]。果実だけから採る精油(Dill seed oil)の成分値については、本記事が参照した資料の範囲では確認できない。したがって、乾燥ディルウィードの香りをカルボンやリモネンの比率で直接説明することはできず、ここで示せるのは精油として抽出した場合の規格値にとどまる。種と葉で香りの印象が異なると感じられる場面があっても、その差を今回の成分表の数値だけで説明することは避けるべきである。

使い方の入口:ディルピクルス

natural or genuine の作り方

米国農務省 AMS の「United States Standards for Grades of Pickles」(2019年5月20日付)§52.1683は、塩蔵して作るピクルス(cured pickles)の種類を書き分ける[8]。natural or genuine のディルピクルスは、dill herb とその他の風味付けの材料(other flavoring agents)とともに塩水で漬けたきゅうりとされる[8]。

processed の作り方

一方、processed のディルピクルスは、塩水で漬けたあと freshening の工程(freshening process)を経て、dill flavoring などを加えた酢液に詰めたものとされる[8]。同じ dill pickles という名称の中に、dill herb とともに塩水で漬ける作り方と、塩水で漬けたものを freshening の工程に通してから dill flavoring 入りの酢液に詰める作り方の二つが書き分けられている[8]。

  • natural or genuine:dill herb などとともに塩水で漬ける
  • processed:塩水で漬けたあと freshening の工程を経て、dill flavoring などを加えた酢液に詰める

結論

数値が示す範囲

ディルシードとディルウィードは、同じ Anethum graveolens の果実と葉という部位の違いであり[3]、米国の調達規格は葉にだけ水分10.0%以下・精油0.2%以上の基準を置く[6]。欧州ESAは葉(DILL TOPS)と種(DILL SEED)の両方に別の基準値を示し、精油の下限値があるのは種の側である[7]。香りの規格値として確認できるのは葉と茎から採る精油の成分比(カルボン・リモネン・α-フェランドレン・ディルエーテル)であり[4]、果実だけから採る精油の成分値は今回参照した資料には無い。ESAのTracesという表記も、数値が無いわけではなく、定量が難しい低レベルの範囲を指す定義付きの語である[9]。

選ぶときの見方

輸入食材店でディルシードとディルウィードを選ぶときは、まずラベルの英語表記(seed/weed、tops)を確認し、瓶の中身が果実か葉かを見分けることが出発点になる。ピクルスを漬けるときは、natural or genuineのようにdill herbとともに塩水で漬ける作り方と、processedのようにdill flavoringなどを加えた酢液に詰める作り方が規格上は別の区分であることを踏まえておくとよい[8]。規格が無い事項については数値を当てにせず、ラベルや販売者の説明で確認する姿勢が必要であり、特に果実由来の精油(Dill seed oil)の成分値のように資料で確認できない項目は、確認できないまま扱うことが読み間違いを避ける最も確実な方法である。

参考文献

  1. 米国 FDA「21 CFR §184.1282 Dill and its derivatives」(eCFR 現行版)
    https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-184/subpart-B/section-184.1282
  2. USDA ARS「GRIN Taxonomy: Anethum graveolens L.」
    https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxon/taxonomydetail?id=3412
  3. EFSA FEEDAP パネル「Safety and efficacy of a feed additive consisting of an essential oil from the aerial parts of Anethum graveolens L. (dill herb oil) for use in dogs and cats (FEFANA asbl)」(EFSA Journal 2022;20(12):e07689)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9768842/
  4. EFSA FEEDAP パネル 同意見書(EFSA Journal 2022;20(12):e07689)Table 2
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9768842/
  5. ISO「ISO 21803:2019 Dried dill — Specification」
    https://www.iso.org/standard/71714.html
  6. USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28)
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf
  7. European Spice Association「Quality Minima Document Rev. 5」(2015-10-27 採択・2018-03-26 確認)
    https://www.esa-spices.org/media/attachments/2026/02/11/esa-quality-minima-document.pdf
  8. USDA AMS「United States Standards for Grades of Pickles」(2019-05-20)
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/PicklesStandard.pdf
  9. European Spice Association「Quality Minima Document Rev. 5」(2015-10-27 採択・2018-03-26 確認)4.3
    https://www.esa-spices.org/media/attachments/2026/02/11/esa-quality-minima-document.pdf

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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