黒胡椒と白胡椒の違い|同じ実を、収穫の熟度と皮を外す工程で分ける

黒胡椒と白胡椒の違い|同じ実を、収穫の熟度と皮を外す工程で分ける

黒胡椒と白胡椒は、どちらも同じ種ピパー・ニグルムの果実から作られる[1]。分かれ目は収穫時の熟度と、果皮を外すかどうかの2点である。黒は未熟な緑の実を天日乾燥し、白は完熟した赤い実を水に浸して果皮を除く[8]。エスビー食品は、この工程の差を香りの強さや色、料理での使い分けと結びつけて説明している[8]。

この記事の結論
  • 黒胡椒と白胡椒は同じ種の実で、未熟な緑の実を乾かすと黒、完熟した赤い実の果皮を外すと白になる。
  • 黒胡椒の黒は、乾燥のあいだに実の成分が酵素の働きと空気中の酸素で酸化して生じる色である。
  • 黒胡椒は表皮が残る分香りが強く、白胡椒は風味がマイルドで、クリーム系の料理や白身魚に向く。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

結論:黒胡椒と白胡椒を分けるのは収穫の熟度と果皮の扱い

同じ学名、同じ種の実

Codex(国連食糧農業機関と世界保健機関が共同で運営する国際食品規格の委員会)の香辛料・料理用ハーブ部会が作成した分類一覧は、黒・白・緑の胡椒をまとめて1行でピパー・ニグルムという種に置いている[1]。つまり黒胡椒と白胡椒は別の植物ではなく、同じ種の果実である。エスビー食品の解説は、こしょうをコショウ科コショウ属の果実を使ったスパイスとしたうえで、黒胡椒を「完熟していない緑色の果実を天日乾燥させたもの」、白胡椒を「完熟した赤色の実を水に浸して果皮を柔らかくし、その果皮を除去して乾燥したもの」と説明している[8]。

分かれ目は収穫のタイミングと果皮の扱い

黒胡椒は実が熟しきる前の緑色の段階で収穫し、果皮を付けたまま乾燥させる。白胡椒は実を赤く完熟させてから収穫し、水に浸して柔らかくした果皮を取り除いたあとに乾燥させる[8]。収穫時期と果皮の有無という2つの条件がそろって、見た目も香りも異なる2種類の胡椒になる。

黒胡椒の工程

未熟な緑の実をそのまま乾かす

インド農業研究評議会香辛料研究所(ICAR-IISR)の栽培手引は、育った実の緑色はクロロフィル(葉緑素)の色素によるものだとしている[2]。エスビー食品の説明では、完熟していない緑色の果実を天日乾燥させたものが黒胡椒で、表皮も残っている[8]。

乾燥中に進む酵素的褐変

同手引によれば、乾燥の間に酵素的褐変が起こる。フェノール系の化合物が、フェノラーゼという酵素の働きを受けて大気中の酸素によって酸化され、最終的に黒く変化する[2]。黒胡椒の黒は、乾燥のあいだに進むこの酸化によるものと説明されている。

天日乾燥と水分10%という目安

ICAR-IISRの栽培手引は、十分な乾燥によって水分を10%という安全な水準まで下げるとしている[2]。乾燥方法としては天日乾燥が慣行的な方法であると同手引は記している[2]。乾燥に要する日数や収穫時点の水分量は、この記事の対象外とする。

白胡椒の工程

白胡椒は、水に浸して果皮を外してから乾かす白胡椒の水浸法の工程を、完熟した赤い実の収穫から、浸水、外皮の除去と洗浄、乾燥までの4段で示した流れ図。流れ白胡椒は、水に浸して果皮を外してから乾かす黒胡椒には無い「浸す・外す・洗う」の工程が入る。浸す日数は資料によって違う。01赤い実を収穫実を赤く完熟させてから02水に浸す7〜8日間、または最長14日間03外皮を除いて洗う柔らかくなった果皮を外す04乾かす水分12%まで浸す日数の2つの記載インドの栽培手引は、水を頻繁に替えながら7〜8日間。国際胡椒共同体の文書は、清浄な流水で最長14日間、または果皮が柔らかくなって洗い流せるまで。栽培手引は、発酵によって白胡椒を作る別の方法もあると記している。出典: ICAR-Indian Institute of Spices Research「Black pepper」栽培手引 — White pepper/International Pepper Community「Good Agricultural Practices for Pepper」(品質委員会第13回会合報告 Annex 09・2007-10-29)— 7.3.2 Soaking/エスビー食品「いろいろな『こしょう』『ペッパー』~どう違う?どう使い分ける?~」図解:ajimuse.com

完熟した赤い実を水に浸す

白胡椒は、実を水に浸す工程(レッティング)から始まる。ICAR-IISRの手引は、完熟した赤い実を、水を頻繁に取り替えながら7〜8日間浸け、その後に外皮を除去し、洗浄して水分12%まで乾燥させると説明している[3]。一方、国際胡椒共同体(IPC)が2007年にまとめた農業生産工程管理(GAP)の文書は、清浄な流水で最長14日間、あるいは果皮(ペリカープ)が柔らかくなって洗い流せる状態になるまで浸けるとしている[4]。浸水の日数は出典によって異なり、どちらかに統一できる記述ではない。

浸水日数の2つの記載

2つの資料の日数の記載を並べると、次のとおりである。

  • ICAR-IISRの手引: 水を頻繁に替えながら7〜8日間浸ける方法を記載[3]
  • IPCのGAP: 清浄な流水で最長14日間、または果皮が柔らかくなって洗い流せるまで浸けるとする記載[4]

IPCの文書は日数の上限とあわせて果皮の柔らかさを目安に挙げている[4]。本記事はどちらかを代表値として採用しない。

発酵による別の製法

ICAR-IISRの手引は、水浸法のほかに、十分に熟した緑の実や黒胡椒そのものを使い、発酵によって白胡椒を作る方法もあると記している[3]。同手引の範囲でも、白胡椒の作り方は水に浸す方法の1つに限られていない。

品質と規格の数値で見る差

品質を見る基準そのものが違う

IPCのGAP文書は、品質を判断する着眼点を黒胡椒と白胡椒で分けて挙げている。黒胡椒では水分量、かさ密度(1リットルあたりの重量)、かび粒の有無、異物の含有量が主な判断材料になる[5]。白胡椒では色、黒や灰色の粒の混入量、水分量、異物の含有量が判断材料になるとされている[5]。

  • 黒胡椒の品質を左右する項目: 水分量/かさ密度/かび粒の有無/異物の含有量[5]
  • 白胡椒の品質を左右する項目: 色/黒や灰色の粒の混入量/水分量/異物の含有量[5]

色と、黒や灰色の粒の混入という項目が白胡椒側にだけ現れているのは、果皮を外す工程と結びつけて読める、というのが本記事の読みである。IPCの文書がそう説明しているわけではない。

USDAの調達規格に見る数値

米国農務省農業販売促進局(USDA AMS)が定める商業品目記述A-A-20001C(2023年8月28日付)の表Iには、黒胡椒と白胡椒それぞれの数値が示されている[6][7]。この規格は米国政府が物品を調達する際の仕様書であり、食品一般に適用される法定基準ではなく、日本の基準でもない。

項目黒胡椒白胡椒
水分上限12.0%15.0%
精油下限1.5%1.0%
全灰分上限7.0%3.0%
酸不溶性灰分上限1.5%0.3%

(出典: USDA AMS A-A-20001C 表I[6][7]。表中の粒度・ふるい番号の列は黒と白で書式が異なるため扱わない)

数値の読み方に注意すべき点

水分の上限は黒が12.0%、白が15.0%で数値に差がある[6][7]。本記事は、この差を果皮を除く工程の結果だとは書かない。規格の表が示しているのは数値だけである。全灰分・酸不溶性灰分の上限と精油の下限は、いずれも白のほうが低い[6][7]。果皮を外すという白胡椒の工程と並べると、この差を等級の上下ではなく工程の違いと結びつけて読むこともできるが、これは本記事の読みであり、規格も産地の手引もその因果を書いてはいない。なお、胡椒の辛味成分であるピペリンの含有量については、本記事が参照した資料の確認した範囲に数値がなく、黒と白のどちらが多いかは比較しない。

使い分け

果皮を残すか外すかが、香りと向く料理を分ける黒胡椒と白胡椒を、収穫する実、果皮の扱い、香りと色、向く場面の4つの観点で突き合わせた対比図。対比果皮を残すか外すかが、香りと向く料理を分ける同じ種の実。黒は果皮つきで香りが強く、白は果皮がないぶん色が白くマイルド。黒胡椒白胡椒収穫する実完熟していない緑色の果実完熟した赤色の実果皮の扱い付けたまま天日乾燥させる水に浸して柔らかくし、除去してから乾燥する香りと色表皮が残っているため香りが強い果皮がない分色が白く、風味もマイルド向く場面素材の臭みを抑えたいとき。シャープな香りと辛みを活かしたいとき粒を目立たせたくないクリーム系の料理。白身魚や鶏むね肉など淡泊な素材出典: エスビー食品「いろいろな『こしょう』『ペッパー』~どう違う?どう使い分ける?~」図解:ajimuse.com

黒胡椒が向く場面

エスビー食品は、黒胡椒は表皮が残っているため香りが強いとし、素材の臭みを抑えたいときや、胡椒特有のシャープな香りと辛みを活かしたいときに使うと効果的だと説明している[8]。

  • 素材の臭みを抑えたいとき[8]
  • 胡椒独特のシャープな香りや辛みを活かしたいとき[8]

白胡椒が向く場面

同じ解説は、白胡椒は果皮がない分色が白く、風味もマイルドだとしている。粒を目立たせたくないクリーム系の料理や、白身魚、鶏むね肉のような淡泊な味わいの素材に向くと説明している[8]。

  • 胡椒の粒を目立たせたくないクリーム系の料理[8]
  • 白身魚や鶏むね肉など、淡泊な味わいの素材に使うとき[8]

いずれもエスビー食品による説明の範囲であり、他の使い方を排除する断定ではない。

規格の現在地

ISO 959-2:2026の対象範囲

国際標準化機構(ISO)は、白胡椒(ホール・粉)の規格をISO 959-2:2026として公開している。規格頁の概要は、半加工の白胡椒(SP)と加工済みの白胡椒(P)の2つの商業段階を対象とし、「light」と呼ばれる区分には適用しないとしている[9]。

本記事で確認できる範囲の限界

ISO 959-2:2026の本文は有償であり、具体的な数値を確認できていない。そのため、水分や灰分などの数値をこの規格に帰属させる記述は行っていない。青胡椒や赤胡椒、産地ごとの特徴、胡椒の歴史といった総論的な内容は、別記事の胡椒の総論に委ねる。

参考文献

  1. Codex 香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)情報文書「Standard template」付録I Part I: Grouping of spices and culinary herbs(REP17/SCH Appendix XII)
    https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/codexalimentarius/committee/docs/CCSCH_InfDoc_ST_e.pdf
  2. ICAR-Indian Institute of Spices Research「Black pepper」栽培手引 — Drying
    https://spices.res.in/storage/app/public/pdfs/PEPPER/3ENG.pdf
  3. ICAR-Indian Institute of Spices Research「Black pepper」栽培手引 — White pepper
    https://spices.res.in/storage/app/public/pdfs/PEPPER/3ENG.pdf
  4. International Pepper Community「Good Agricultural Practices for Pepper」(品質委員会第13回会合報告 Annex 09・2007-10-29)— 7.3.2 Soaking
    https://www.ipcnet.org/admin/data/ses/1207625214thumb.pdf
  5. International Pepper Community「Good Agricultural Practices for Pepper」(2007-10-29)— 品質の決め手
    https://www.ipcnet.org/admin/data/ses/1207625214thumb.pdf
  6. USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28)表I — Pepper, Black
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf
  7. USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28)表I — Pepper, White
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf
  8. エスビー食品「いろいろな『こしょう』『ペッパー』~どう違う?どう使い分ける?~」
    https://www.sbfoods.co.jp/spice-herb/trivia/002.html
  9. ISO 959-2:2026 Pepper (Piper nigrum L.), whole or ground — Specification — Part 2: White pepper(規格頁・第3版 2026-05)
    https://www.iso.org/standard/86621.html

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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