タマリンドはマメ科(Fabaceae)の木の果実で、キュー植物園の POWO は自生域をコモロとマダガスカルとしている[1]。莢の中の果肉は有機酸と転化糖を含むとされ[3]、インドの食品規格ではパルプや濃縮という酸味の原料として[4]、タイの農業普及局の紹介では莢を割って食べる甘い果実として扱われている[7]。
- タマリンドはマメ科の木の果実で、果肉は酸味の原料になるペーストと、甘い品種の生食の果実の二通りに使われる。
- タマリンドの果肉には、酒石酸・クエン酸・リンゴ酸など複数の有機酸が含まれるとされる。
- 学名の indica は「インドの」の意味だが、自生域はコモロとマダガスカルでインドは含まれない。
この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。
タマリンドとは
学名と分類
タマリンドの学名は Tamarindus indica L. であり、マメ科(Fabaceae)に属する木である[1]。この学名は Species Plantarum の中で1753年に発表された[1]。タイでは甘い系統の品種群を指して Ma-kham Wan というタイ名が使われている[6]。
莢の中の果肉と二つの顔
タマリンドは莢の中に食べられる果肉を持ち、インドのスパイス局は莢の外皮がもろく、簡単に外れると説明している[2]。果肉は水で煮て裏ごししたパルプや濃縮に加工される一方で[4]、甘い品種では莢を割って殻を外し、そのまま食べる果実としても扱われる[7]。同じ学名の植物に、酸味の原料としての加工品と、甘い生食用の果実という二つの扱いがある[6]。この二面性は、後述するインドの食品規格とタイの品種紹介という、二つの別々の資料に分かれて記録されている。
原産はマダガスカル
キュー植物園が示す自生域
キュー植物園の POWO は、タマリンドの自生域をコモロとマダガスカルとしており、季節的に乾燥する熱帯(seasonally dry tropical biome)で主に生育する木だと説明している[1]。POWO はこの木を食用・動物の飼料・薬用・燃料など複数の用途で使われる種として記録している[1]。
インドなど現在の栽培地域
インドのスパイス局(Spices Board India)は、タマリンドがマダガスカルを原産としつつ、現在はインド、ミャンマー、バングラデシュ、マレーシア、スリランカ、タイ、アフリカおよび中南米の複数の国で広く栽培されていると説明している[2]。インド国内の主な産地としては、マディヤ・プラデーシュ州、アーンドラ・プラデーシュ州、タミル・ナードゥ州などが挙げられている[2]。スパイス局の説明のなかでも、起源の地と現在の栽培地は別になっている。
学名「indica」と原産地のずれ
Tamarindus indica という学名の indica は「インドの」を意味する語であるが、キュー植物園の POWO が示す自生域はコモロとマダガスカルであり、インドは含まれていない[1]。インドのスパイス局もタマリンドの起源をマダガスカルとした上で、インドを現在の主要な栽培国の一つとして位置づけている[2]。学名と自生域が一致しない理由については、本記事が参照した資料の範囲では説明が見当たらず、ここでは推測を書かない。確認できるのは、POWO とスパイス局が示す原産の地域と、学名の語が指す地域(インド)が一致しないという点までである。
酸味の中身
含まれる有機酸とアミノ酸
タマリンドの果肉に関する総説(Bhadoriya ら, 2011)は、果肉に酒石酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、リンゴ酸、コハク酸といった複数の有機酸と、アミノ酸が含まれていると記している[3]。総説は酸を一つに絞らず、複数の有機酸を並べて挙げている[3]。
転化糖とペクチン
同じ総説は、果肉に転化糖が25〜30%含まれ、ペクチンも含まれていると記している[3]。総説の記述では、有機酸と25〜30%の転化糖が同じ果肉の成分として並んでいる[3]。
インドの食品規格が定めるパルプと濃縮
FSSAIによる定義
インド食品安全基準局(FSSAI)の Food Product Standards 2.3(Fruit & Vegetable Products)は、2.3.18 Tamarind Pulp/Puree and Concentrate の項で、この品目を、生または乾燥のタマリンドを水で煮て裏ごしし、加熱処理または許可された保存料によって保存した未発酵の製品と定義している[4]。タマリンド・コンセントレート(濃縮)は、このパルプ/ピューレから蒸発によって水分を除いた製品と定義されている[4]。つまりパルプ/ピューレが基礎の製品であり、コンセントレートはそこから水分をさらに抜いた製品という位置づけになる。
基準値
FSSAI の同じ規格は、パルプ/ピューレとコンセントレートそれぞれについて、最低可溶性固形分(TSS)、最低酸度、希塩酸に不溶な灰分の上限を数値で定めている[5]。以下はその基準値である。
| 区分 | 最低TSS | 最低酸度 | 希塩酸不溶性灰分(上限) |
|---|---|---|---|
| Tamarind Pulp/Puree | 32% | 4.5% | 0.4% |
| Tamarind Concentrate | 65% | 9.0% | 0.8% |
この表の数値は FSSAI の規格書に記載された値そのものであり[5]、単位はいずれもパーセントである。酸度を何の酸に換算して表すかは、この記事が確認した範囲では書かれていない。濃縮(Concentrate)はパルプ/ピューレよりも TSS・酸度・灰分の上限のいずれも高い値になっている[5]。
タイの甘いタマリンドと料理での使い方
品種と見分け方
タイ農業・協同組合省の農業普及局(DOAE)は、甘いタマリンド(Sweet Tamarind、タイ語名 Ma-kham Wan)の品種として Prakai Thong、Sri Chomphu、Si Thong の三つを挙げている[6][7]。それぞれの特徴は次のとおりである。
- Prakai Thong:大きくわずかに曲がった莢、重さ70〜80g、茶色くほこりっぽい殻、淡い茶色の果肉、甘い味[6]
- Sri Chomphu:まっすぐな莢、重さ70〜80g、淡い茶色の殻、赤みを帯びた茶色で種を取りやすい果肉、甘みに少し酸味を伴う味[6][7]
- Si Thong:大きく曲がった莢、重さ70〜80g、茶色の殻、柔らかく赤みを帯びた茶色の果肉、甘い味[7]
三品種とも莢の重さは70〜80gという共通の範囲にあり、違いは主に莢の形・殻の色・果肉の色と味に表れている[6][7]。
食べ方
DOAE は甘いタマリンドの食べ方として、莢を割って殻を取り除き、果肉に残る筋(側面の繊維)を取り除いてから食べると説明している[7]。この工程は加工済みのペーストとは異なり、生の莢を手に入れた場合に必要になる手順である。
料理での使い方
DOAE はタイの代表的な料理であるパッタイ(Pad Thai)の材料として、タマリンドペーストを挙げている。パッタイの材料にはエシャロット、えび、タマリンドペースト、パームシュガー、もやし、卵、豆腐、米麺、干し唐辛子、刻んだピーナッツ、砂糖、ライム果汁が並ぶ[8]。タマリンドペーストは、パームシュガーやライム果汁と同じ材料の並びに挙がっている[8]。ウスターソースの原料としてのタマリンドはウスターソースの記事に委ねる。
買える形と選び方
パルプ/ピューレと濃縮の違いで選ぶ
料理に使う目的であれば、FSSAI が定義するパルプ/ピューレとコンセントレート(濃縮)という区分が選び方の手がかりになる[4][5]。規格値で見ると、コンセントレートの最低酸度(9.0%)はパルプ/ピューレ(4.5%)の2倍にあたる[5]。市販のタマリンドペーストがどちらの区分に近いかは個々の製品のラベル次第であり、本記事が参照した資料の範囲ではタイのタマリンド規格の数値までは確認できていない。
生食用の甘い莢を選ぶ場合
生の莢を見つけた場合は、DOAE が紹介する Prakai Thong、Sri Chomphu、Si Thong のような甘い系統の品種であれば、莢を割って殻を外し、果肉の筋を取って食べる、というのが DOAE の紹介する食べ方である[6][7]。この生食用の甘い莢と、料理に使うペースト・濃縮とは、同じ植物でも想定している利用方法が異なる製品である。
用途から選ぶときの注意
タマリンドを使ったチャツネのような加工品についてはチャツネ・ピクルスの記事に、酸味そのものの科学的な背景については酸味の科学の記事にそれぞれ委ねる。健康効果や薬理作用は、この記事では扱わない。
結論
タマリンドはマメ科の木(Tamarindus indica L.)の果実で、キュー植物園の POWO が示す自生域はコモロとマダガスカルである[1]。インドのスパイス局もマダガスカルを起源とし、現在はインドやタイなど複数の国で栽培されていると説明している[2]。総説によれば、果肉には酒石酸をはじめとする複数の有機酸と、25〜30%の転化糖、ペクチンが含まれる[3]。インドの FSSAI はパルプ/ピューレと濃縮それぞれにTSS・酸度・灰分の基準値を定めており[4][5]、タイの DOAE は甘い品種として Prakai Thong、Sri Chomphu、Si Thong を紹介している[6][7]。料理に使う場合はパルプ・ピューレ・濃縮のどの区分かをラベルで確認し、生食を目的とする場合は甘い系統の莢を選ぶという形で、手元の製品がどちらの用途に向くかを見分けることができる。
関連記事
参考文献
- Royal Botanic Gardens, Kew「Plants of the World Online: Tamarindus indica L.」
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:520167-1 - インド スパイス局(Spices Board India)「Spice Catalogue: Tamarind」
https://www.indianspices.com/spice-catalog/tamarind.html - Bhadoriya SS ほか「Tamarindus indica: Extent of explored potential」Pharmacogn Rev 2011;5(9):73-81(PMC3210002)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3210002/ - インド食品安全基準局(FSSAI)「Food Product Standards 2.3: Fruit & Vegetable Products」Version 3(2025-05-07) — 2.3.18 の定義
https://fssai.gov.in/upload/uploadfiles/files/Chapter 2_3_Fruit_Vegetable_products.pdf - インド食品安全基準局(FSSAI)「Food Product Standards 2.3: Fruit & Vegetable Products」Version 3(2025-05-07) — 2.3.18 の基準値の表
https://fssai.gov.in/upload/uploadfiles/files/Chapter 2_3_Fruit_Vegetable_products.pdf - タイ農業・協同組合省 農業普及局(DOAE)「Sweet Tamarind」 — 名称と品種
https://www.doae.go.th/en/sweet-tamaring/ - タイ農業・協同組合省 農業普及局(DOAE)「Sweet Tamarind」 — 品種と食べ方
https://www.doae.go.th/en/sweet-tamaring/ - タイ農業・協同組合省 農業普及局(DOAE)「Pad Thai (Thai-Style Fried Noodles)」
https://www.doae.go.th/en/pad-thai/
