ピンクペッパーは胡椒ではなく、ウルシ科Schinus属の果実である[1][7]。Codexの部会の一覧には、Schinus molleとS. terebinthifoliusの2種が「Pink pepper/Brazilian pepper」の行に並ぶ[1]。ブラジルのエスピリトサント州では約4,000tが収穫され、選別・調製を経た1,200tが毎年販売・輸出されており[5]、辛味の有無は出典により説明が分かれる[8][9]。
- ピンクペッパーは胡椒ではなく、ウルシ科の果実で、胡椒のコショウ科とは別の植物だ。
- 辛みの有無は説明が分かれ、辛みはなく彩り用とする解説もあれば、胡椒に似た刺激のある風味とする説明もある。
- 同じウルシ科のカシューナッツなどにアレルギーのある人が反応するという仮説が有力で、重いアナフィラキシーの報告がある。
この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。
ピンクペッパーは胡椒ではない:Codexの分類と2つの種
Codex香辛料部会の一覧における位置づけ
Codex香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)がまとめた香辛料のグルーピング文書は、一般名「Pepper (Black, White, Green)」の行に学名Piper nigrumを挙げ、別の行に「Pink pepper/Brazilian pepper」としてSchinus molleとSchinus terebinthifolius(文書内の表記)を挙げている[1]。両者は同じ一覧表の中で異なる行に置かれており、ピンクペッパーはPiper nigrumとは別の種として扱われている[1]。胡椒そのものの黒・白・青・赤の分類や精製方法については、胡椒ガイドに譲ることとし、ピンクペッパーという「胡椒ではない赤い実」の正体と種の区別、取り扱い上の注意点に範囲を絞る。
Schinus terebinthifolia(GRIN記載)
USDA ARSのGRIN-Globalデータベースは、Schinus terebinthifoliaについて文献注記を付けている。その内容は、ブラジルに広く分布し、果実は香辛料として使われるが、その多くは栽培品ではなく自生集団から採取されたものであり、エスピリトサント州では栽培もされているというものである[2]。自生集団からの採取と、エスピリトサント州での栽培の両方が、この注記に書かれている。
Schinus molle(GRIN記載)
同じGRINのデータベースで、Schinus molleは別の種として扱われており、Common namesの項目にはCalifornia peppertree、peppertree、Peruvian peppertreeといった英名が列記されている[3]。GRINでは、Schinus terebinthifoliaとは別の種として、別の項目が立てられている[2][3]。
学名表記のゆれ
Schinus terebinthifolia Raddi(GRINの表記)に揃えて種名を書くが、出典によって語尾の表記が異なる点は断っておく必要がある。GRIN[2]とIncaperの資料[4]は「terebinthifolia」と綴り、Codexの部会文書[1]は「terebinthifolius」と綴る。GRINの文献注記にも、「terebinthifolius」の綴りで記録している文献があることが示されている[2]。本記事はGRINの表記に統一した上で、別の綴りが出典に存在することをここに明記する。
産地ブラジルの実像
アロエイラの分布とエスピリトサント州
ブラジルの現地ではSchinus terebinthifolia Raddiは「アロエイラ」と呼ばれる。エスピリトサント州農業研究・技術支援・普及機構(Incaper)が2024年に公開した手引によると、アロエイラは南米原産の植物であり、ブラジル沿岸に沿って、主にペルナンブーコ州からリオグランデ・ド・スル州にかけて分布する[4]。同じ手引は、この植物がブラジルの料理に利用されていることも記している[4]。大西洋沿岸森林(マタ・アトランチカ)の影響を受ける地域で天然の分散・再生力を持つ植物という記述も、この手引には含まれている[4]。
収穫量と選別・調製、収穫期
Incaperの手引はさらに、果実の形態と市場での扱いについて具体的に記述している。果実は核果(ドゥルーパ)であり、ピンク~赤みを帯びた色合いから、市場では「pimenta-rosa」という名で呼ばれている[5]。エスピリトサント州では年間およそ4,000tのpimenta-rosaが収穫され、そのうち選別・調製(beneficiamento)の工程を経た1,200tが、毎年販売・輸出されている[5]。果実の収穫期は4月から6月にかけてであると、同じ手引に記されている[5]。
次の一覧は、Incaperの手引に書かれている数値をそのまま整理したものである。
- エスピリトサント州での年間収穫量: 約4,000t[5]
- 選別・調製後に販売・輸出される量: 年間1,200t[5]
- 果実の収穫期: 4月から6月[5]
辛いのか―出典で異なる説明
ピサ大学の総説が示す風味の仕組み
学術誌Moleculesに2025年に掲載されたDíaz-Guerreroらの総説(ピサ大学の研究者らによる)は、ピンクペッパーについて、甘い味と、なめらかで刺激のある胡椒様の風味を持つと記述する[8]。さらに同じ総説は、その刺激のある風味がピペリンによるものではなく、テルペン類とフェノール化合物の存在によるものだと説明している[8]。
エスビー食品の説明
一方、スパイス&ハーブマスターの遠藤由美氏による解説を掲載するエスビー食品のページは、「辛みはなく、主に料理の彩りに利用されます」と説明している[9]。総説が刺激のある風味を持つと書く一方で、エスビー食品の解説は辛みはないと説明しており、出典によって書き方が異なる。本記事はどちらかを正しいと判定せず、発言者を明示した上で両方を併記するにとどめる。
ウルシ科であることの注意点と米国の規制
米国FDAによる販売禁止の経緯
ピンクペッパーはウルシ科(Anacardiaceae)の植物であり、Mügge & Morlockの論文は同じ科の例としてカシューナッツやピスタチオを挙げている[7]。Mügge & Morlockによる2023年の論文は、ピンクペッパー製品が米国食品医薬品局(FDA)によって数年間、米国内での販売を禁止されていたことがあると記述している(同論文はBurros 1982を引用している)[7]。本記事はFDAの原本を確認できていないため、この記述は論文によるものとして紹介するにとどめ、禁止が始まった年や解除された年は書かない。
解禁後のアナフィラキシー報告と交差反応仮説
同じ論文は、禁止が解除された後も、重いアナフィラキシー反応の報告が続いたことを記している[7]。そうした反応の一般的な仮説として、同論文はカシューナッツやピスタチオなど、他のウルシ科の食品にアレルギーを持つ人における交差反応が有力であると説明している[7]。あくまで論文が紹介する仮説であり、心配な場合は医師に相談することが望ましい。
21 CFR 182.20のGRASリストにある範囲
米国の連邦規則集21 CFR 182.20は、精油・オレオレジン・溶媒を含まない天然抽出物に関するGRAS(一般に安全と認められる)物質の一覧を定めている条文であり、この条文にはSchinus molle(学名Schinus molle L.)の行が含まれている[6]。確認できるのはSchinus molleがこの一覧に載っているという事実だけであり、Schinus terebinthifoliaについてこの条文がどう扱っているかは、本記事が確認した範囲では判断できない。
家庭での使い方
使い方の具体
エスビー食品のミニ講座のページは、ピンクペッパーについて「ペッパー」という名がついてはいるが、コショウ科のブラックペッパーやホワイトペッパーとは別の植物であると説明している[9]。同じページが紹介する使い方は次の通りである。
- 丸のまま料理に添える[9]
- 軽く指でつぶしてパラパラと振りかける[9]
- カルパッチョ、ステーキ、サラダなど、淡い色合いの料理の彩りとしてトッピングする[9]
2つの種の整理
ここまでの出典情報を、学名・分布・用途の軸で整理すると次の表の通りになる。
| 項目 | Schinus terebinthifolia Raddi | Schinus molle L. |
|---|---|---|
| Codexの部会の一覧[1] | 「Pink pepper/Brazilian pepper」の行に記載(文書内の綴りはSchinus terebinthifolius) | 同じ行に記載 |
| GRINの記載内容[2][3] | ブラジルに広く分布、果実は香辛料として利用。多くは自生集団から採取、エスピリトサント州では栽培 | 英名はCalifornia peppertree、peppertree、Peruvian peppertreeなど |
| Incaperの記載(アロエイラ)[4] | ブラジル沿岸、主にペルナンブーコ州からリオグランデ・ド・スル州に分布 | — |
胡椒(Piper nigrum)そのものの黒・白・青・赤それぞれの製法や等級の違いは、この表の範囲には含まれない。コショウ科の胡椒との違いを知りたい場合は、胡椒ガイドを参照するのが適している。
結論
本記事で確認できた範囲
ピンクペッパーは、Codexの香辛料一覧ではPiper nigrumとは別の行に置かれるウルシ科Schinus属の果実であり、Schinus terebinthifoliaとSchinus molleの2種が該当する[1]。ブラジルのエスピリトサント州では、約4,000tが収穫され、選別・調製後の1,200tが毎年販売・輸出されている[5]。辛味については総説とエスビー食品の説明が異なる[8][9]。ウルシ科であることに関しては、重いアナフィラキシーの報告があり、カシューナッツなど他のウルシ科の食品にアレルギーのある人での交差反応が有力な仮説だと論文が記している[7]。米国の規則21 CFR 182.20にはSchinus molleの行が存在するが、この条文からSchinus terebinthifoliaの扱いまでは分からない[6]。
活用のポイント
エスビー食品が紹介する使い方は、丸のまま添えるか、軽く指でつぶして料理に振りかけるというものである[9]。ウルシ科の食品にアレルギーがあって心配な場合は、医師に相談することが望ましい。エスビー食品は、辛みはなく主に料理の彩りに利用されると説明している[9]。
関連記事
参考文献
- Codex香辛料・料理用ハーブ部会(CCSCH)情報文書「Standard template」付録I Part I: Grouping of spices and culinary herbs(REP17/SCH Appendix XII)
https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/codexalimentarius/committee/docs/CCSCH_InfDoc_ST_e.pdf - USDA ARS GRIN-Global Taxonomy「Schinus terebinthifolia Raddi」
https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxon/taxonomydetail?id=70672 - USDA ARS GRIN-Global Taxonomy「Schinus molle L.」
https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxon/taxonomydetail?id=70668 - Incaper「Boas práticas na colheita para garantir a qualidade da pimenta-rosa」Documentos nº 318(2024-09) — 原産と分布
https://biblioteca.incaper.es.gov.br/digital/bitstream/item/4776/1/Doc318-Pimenta-Rosa-Incaper.pdf - Incaper「Boas práticas na colheita para garantir a qualidade da pimenta-rosa」Documentos nº 318(2024-09) — 果実と州の収穫量
https://biblioteca.incaper.es.gov.br/digital/bitstream/item/4776/1/Doc318-Pimenta-Rosa-Incaper.pdf - 米国 21 CFR 182.20 Essential oils, oleoresins (solvent-free), and natural extractives(eCFR 現行)
https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-182/subpart-A/section-182.20 - Mügge FLB, Morlock GE「Chemical and cytotoxicity profiles of 11 pink pepper (Schinus spp.) samples via non-targeted hyphenated high-performance thin-layer chromatography」Metabolomics 2023;19(5):48(PMC10154279)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10154279/ - Díaz-Guerrero P ほか「”Pepper”: Different Spices, One Name—Analysis of Sensory and Biological Aspects」Molecules 2025;30(9):1891(PMC12073208)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12073208 - エスビー食品「ピンクペッパー 料理に彩りを添える便利なトッピングスパイス」
https://www.sbfoods.co.jp/recipe/pickup/detail/062.html
