アニスシードとは|八角・フェンネルとの違いと、酒の規則が決めるアネトール

アニスシードとは|八角・フェンネルとの違いと、酒の規則が決めるアネトール

アニスシードはPimpinella anisum L.の乾燥した成熟果実で、インドの食品規格ではSaunf(サウンフ)という名が併記されている[2]。精油にはtrans-アネトールが80〜95%含まれ[4]、八角やフェンネルと香りの系統が重なるが、学名はそれぞれ別の植物である。輸入食材店で似た香りのスパイスを前にしたとき、この学名の違いと香り成分の重なりを分けて考えると、代用の可否や使い分けが判断しやすくなる。

この記事の結論
  • アニスシードはアニスの乾燥した成熟果実で、八角(スターアニス)やフェンネルとは学名が別の植物である。
  • アニスの精油の主な香り成分はアネトールで、割合は80〜95%とされる。
  • インドの規格ではアニスもフェンネルも現地の呼び名が同じ「サウンフ」で、名前だけでは区別できず学名で確かめる。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

アニスシードとは

エスビー食品が伝える基本情報

エスビー食品のスパイス&ハーブ事典は、アニスの「適した料理」としてクッキーやケーキ、パンなどを挙げている[1]。同事典はさらに、地中海沿岸地域や北欧ではシチューやスープの風味付けに、インド料理では野菜料理やカレーの香り付けに用いられると説明している[1]。この記述はスパイス専門メーカーによる解説であり、アニスシードが菓子から煮込み料理まで幅広く使われてきたことを示す手がかりになる。使い方の具体例は本記事の後半でもう一度取り上げる。

インドの食品基準が定める学名

インド食品安全基準局(FSSAI)の食品製品規格2.9.21は、Aniseed (Saunf) whole を、Pimpinella anisum L. の乾燥した成熟果実と定義している[2]。同条文は、特徴的な芳香を持ちカビ臭がないこと、カビ・生死を問わず昆虫・昆虫片・げっ歯類による汚染が無いことを求めている[2]。Saunfは規格が品目名に併記している名前であり、学名Pimpinella anisum L.とセットで規格に記載されている点が、後述する八角・フェンネルとの線引きの出発点になる。

香りの正体アネトール

EMA報告書が示す精油の含有率

欧州医薬品庁(EMA)のハーブ医薬品委員会(HMPC)は、Pimpinella anisum L.の果実と精油に関する評価報告書(2013年11月12日付)で、精油含有量を1.5〜6%(v/w)とし、主成分をtrans-アネトール(80〜95%)としている[4]。この報告書は生薬(医薬品の原料となる天然物)としてのアニス果実・精油を評価したものであり、含有率はあくまで成分組成の記述である。この報告書を薬効や摂取量の目安としては扱わない。

フェンネル精油との成分差

同じEMA報告書は、アニス精油がフェンネル精油と対照的に、フェンコンをほとんど含まないと述べている[4]。さらに、エストラゴール・cis-アネトール・p-アニスアルデヒドなどの含有量も、フェンネル精油よりずっと少ないとされる[4]。

八角・フェンネルとは別の植物

香りは重なるが、学名は三つとも別の植物アニス風味の蒸留酒の原料としてEU規則が並べるアニス・スターアニス・フェンネルを、学名とインドFSSAIの品目名で分けた構造図。構造香りは重なるが、学名は三つとも別の植物EUの蒸留酒規則は三つを学名で分けて並べる。インドの規格では、現地名Saunfがアニスとフェンネルの両方に付く。アニス風味の蒸留酒の原料EU規則 2019/787 附属書I・25項が、学名つきで並べて挙げる三つの植物アニスPimpinella anisum L.EU規則が挙げる学名Aniseed (Saunf) wholeインドFSSAI 規格2.9.21の品目名。乾燥した成熟果実スターアニスIllicium verum Hook f.EU規則が挙げる学名フェンネルFoeniculum vulgare Mill.EU規則が挙げる学名Fennel (Saunf) wholeインドFSSAI 規格2.9.9の品目名。乾燥した熟した果実Saunfという名前アニスとフェンネルのどちらの規格にも併記されている。名前だけではどちらを指すのか決まらないので、学名で確かめる。出典: EU規則 (EU) 2019/787(蒸留酒規則・2024-05-13時点の統合版)附属書I 25 Aniseed-flavoured spirit drink/2.9.21 Aniseed(Saunf)/2.9.9 Fennel (Saunf)図解:ajimuse.com

EU蒸留酒規則が学名で区別する三つの植物

EU規則(EU)2019/787(蒸留酒規則、2024年5月13日時点の統合版)の附属書I・25項は、アニス風味の蒸留酒の原料として、スターアニス(Illicium verum Hook f.)、アニス(Pimpinella anisum L.)、フェンネル(Foeniculum vulgare Mill.)を学名つきで並べて挙げている[5]。同項は、これら三種に加えて、同じ主要な芳香成分を含むほかの植物も原料として認めている[5]。つまりこの規則は、三つの植物を別々の学名で区別しながら、主要な芳香成分が共通する植物として並べ、酒の原料に使えると整理している。

FSSAIが示す名前の重なりと学名の違い

FSSAIの食品製品規格2.9.9は、Fennel (Saunf) whole を、Foeniculum vulgare P. Miller Var. Vulgare の乾燥した熟した果実と定義している[3]。ここで注目すべきは、フェンネルの現地名も「Saunf」と表記されている点であり、アニスの規格(2.9.21)と同じ現地名が使われている[2][3]。現地名が重なっていても、学名はそれぞれPimpinella anisum L.とFoeniculum vulgare P. Miller Var. Vulgareであり、規格上は別の品目として扱われている。Saunfという名前だけではどちらを指すのか決まらないので、学名で確かめることが取り違えを避ける手がかりになる。

見分け方・配合の詳細は別記事に委ねる

セリ科に属する複数のスパイスの見分け方や炒り方の違いは、扱わず、セリ科のスパイスを横断的に扱う記事に譲る(参照: セリ科スパイス図鑑)。八角を使った五香粉などの配合例についても、本記事の範囲外とし、五香粉を扱う記事に委ねる(参照: 五香粉図鑑と使い方)。スターアニスそのものの産地や規格値も、深入りしない。本記事はあくまでアネトールという成分を軸に、植物としての線引きと酒・規格の条文を整理することに絞っている。

酒の規則に書かれたアネトール

パスティスはアネトールの量で定義されているEU蒸留酒規則が定めるパスティスとパスティス・ド・マルセイユのアネトール含有量の範囲を、同じ軸の上の帯で示した図。段階パスティスはアネトールの量で定義されているEUの蒸留酒規則が定める、1リットルあたりのアネトール含有量の幅。パスティス最低1.5g・最高2gパスティス・ド・マルセイユ1.9〜2.1g1.5g1.9g2g2.1gアニス(anis/janeževec)こちらの定義にあるのは最低アルコール度数35%と、風味がアニス・スターアニス・フェンネルのいずれか、またはその組み合わせだけに由来すること。いずれも蒸留酒の品目規格で、家庭でのアニスシードの使用量の目安ではない。出典: EU規則 (EU) 2019/787(蒸留酒規則・2024-05-13時点の統合版)附属書I 26 Pastis・27 Pastis de Marseille/附属書I 28 Anis orjaneževec図解:ajimuse.com

パスティスとパスティス・ド・マルセイユのアネトール濃度

EU規則(EU)2019/787の附属書I・26項は、パスティスについて、甘味料を転化糖換算で1リットルあたり100g未満とし、アネトール含有量を1リットルあたり最低1.5g、最高2gとすると定めている[6]。同27項は、パスティス・ド・マルセイユを、アニスの味が際立ち、アネトール含有量が1リットルあたり1.9〜2.1gのパスティスと定義している[6]。上限だけを比べると、パスティス・ド・マルセイユ(2.1g)のほうがパスティス(2g)より高い。これは誤記ではなく条文どおりの数値である。原文の数値はコンマ表記(例: 1,5)だが、日本語表記の慣例に合わせて小数点(1.5)で示している。これらの数値は蒸留酒の品目規格であり、家庭で扱う食品としてのアニスシードの使用量の目安ではない。

アニス(anis/janeževec)の定義

同規則の附属書I・28項は、anis または janeževec という蒸留酒を、特徴的な風味がアニス(Pimpinella anisum L.)、スターアニス(Illicium verum Hook f.)、フェンネル(Foeniculum vulgare Mill.)のいずれか、またはその組み合わせだけに由来するアニス風味の蒸留酒と定義している[7]。同項はさらに、この蒸留酒の最低アルコール度数を35%と定めている[7]。ウゾやラクといった地域ごとの個別銘柄については、本記事が参照した条文の範囲には定義が見当たらないため、ここでは扱わない。

EU蒸留酒規則が定めるアネトール・アルコール度数の要件を整理すると、次のようになる。

  • パスティス: 甘味料1リットルあたり100g未満、アネトール1リットルあたり1.5〜2g[6]
  • パスティス・ド・マルセイユ: アネトール1リットルあたり1.9〜2.1g[6]
  • アニス(anis/janeževec): 最低アルコール度数35%、風味はアニス・スターアニス・フェンネルのいずれかまたは組み合わせに限定[7]

酒そのものの選び方や飲み方を勧める内容ではなく、アネトールという成分の量が酒の規則の定義に書き込まれている事実を示すものである。

スパイスとしての規格値

USDAの調達規格が定める分析値

米国農務省(USDA AMS)が定める商業品目規格A-A-20001C(2023年8月28日付)は、表I「Analytical requirements」にアニスシード(Anise Seed)の行を設けている[8]。この表は、水分の上限、揮発油の下限、全灰分の上限、酸不溶性灰分の上限、ふるい通過率の下限、ふるい番号、ASTA色価、スコヴィル値(辛味の指標)の列で構成されている[8]。アニスシードの行に記載があるのは水分上限11.0%、揮発油下限1.5%、全灰分上限9.5%、酸不溶性灰分上限1.0%の四つの数値であり、ふるい通過率・ふるい番号・ASTA色価・スコヴィル値の列には規定が無い[8]。

項目アニスシードの規格値[8]
水分(上限)11.0%
揮発油(下限)1.5%
全灰分(上限)9.5%
酸不溶性灰分(上限)1.0%
ふるい通過率(下限)規定なし
ふるい番号規定なし
色(ASTA)規定なし
辛味(スコヴィル)規定なし

政府調達規格という性質

A-A-20001Cは、米国政府機関がスパイスを調達する際の商業品目規格であり、市販されるすべてのアニスシードが満たすべき基準ではない。同じ表Iにはオールスパイスやバジルなど他の品目の行も並んでいるが、本記事で数値を示すのはアニスシードの行に限る[8]。規格に記載が無い項目については、推定値を補わず「規定なし」として扱うのが、条文に沿った読み方になる。

使い方と合わせ方

菓子とパンでの使い方

エスビー食品のスパイス&ハーブ事典は、アニスに適した料理としてクッキーやケーキ、果物の砂糖漬けなどの菓子類、パンを挙げている[1]。同事典によると、地中海沿岸地域や北欧ではシチューやスープの風味付けに用いられることがあり、インド料理では野菜料理やカレーの香り付けに使われるという[1]。同事典の記述を用途別に整理すると、次のようになる。

  • 菓子・パン: クッキー、ケーキ、果物の砂糖漬け、パン[1]
  • 地中海沿岸・北欧: シチュー、スープの風味付け[1]
  • インド料理: 野菜料理、カレーの香り付け[1]

セリ科のスパイスに共通する見分け方や炒り方の違いについては、前述のとおりセリ科のスパイスを扱う記事に譲る。

ロンドン橋の逸話

同事典は、13世紀頃からアニスの栽培が始まったイギリスでは、最初は修道院でしか栽培されていなかったため希少価値が高く、国王エドワード1世が1305年にロンドン橋を通過するアニスに特別税を課し、その税収を橋の修理費に充てた「とか」と伝聞の形で紹介している[1]。この逸話は同事典自身が伝聞として書いており、本記事でも史実として断定はしない。八角を使った配合(五香粉など)での使い方は五香粉を扱う記事に譲り、アニスシード単体の性質と規則上の位置づけに絞って扱った。

結論

アニスシードは、FSSAIの規格ではPimpinella anisum L.の乾燥成熟果実と定義される一方[2]、EU蒸留酒規則ではスターアニス・フェンネルと並べて学名で区別される植物である[5]。EMAの評価報告書によれば、アニスの精油は主にtrans-アネトール(80〜95%)を含み、フェンネルの精油と違ってフェンコンをほとんど含まない[4]。酒の規則ではパスティスのアネトール濃度が1リットルあたり1.5〜2g、パスティス・ド・マルセイユでは1.9〜2.1gと定められており[6]、スパイスとしてのアニスシードにはUSDAの調達規格で水分11.0%以下・揮発油1.5%以上などの数値が示されている[8]。家庭でアニスシードを使う際には、八角やフェンネルと香りの成分が共通していても植物としては別物である点を踏まえて使い分けるとよい。

参考文献

  1. エスビー食品「スパイス&ハーブ検索 アニス/Anise」
    https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00003.html
  2. FSSAI(インド食品安全基準局)「Food Product Standards 2.9: Salt, Spices, Condiments and Related Products」Version 4(2025-08-01)2.9.21 Aniseed (Saunf)
    https://www.fssai.gov.in/docs/food-law/regulations/compendium/food-products-standards/Chapter 2_9_Salt_Spices_Condiments and related products.pdf
  3. FSSAI(インド食品安全基準局)「Food Product Standards 2.9: Salt, Spices, Condiments and Related Products」Version 4(2025-08-01)2.9.9 Fennel (Saunf)
    https://www.fssai.gov.in/docs/food-law/regulations/compendium/food-products-standards/Chapter 2_9_Salt_Spices_Condiments and related products.pdf
  4. EMA(欧州医薬品庁)HMPC「Assessment report on Pimpinella anisum L., fructus and Pimpinella anisum L., aetheroleum」EMA/HMPC/321181/2012 Final(2013-11-12)
    https://www.ema.europa.eu/en/documents/herbal-report/final-assessment-report-pimpinella-anisum-l-fructus-and-pimpinella-anisum-l-aetheroleum_en.pdf
  5. EU規則 (EU) 2019/787(蒸留酒規則・2024-05-13時点の統合版)附属書I 25 Aniseed-flavoured spirit drink
    https://publications.europa.eu/resource/celex/02019R0787-20240513
  6. EU規則 (EU) 2019/787(蒸留酒規則・2024-05-13時点の統合版)附属書I 26 Pastis・27 Pastis de Marseille
    https://publications.europa.eu/resource/celex/02019R0787-20240513
  7. EU規則 (EU) 2019/787(蒸留酒規則・2024-05-13時点の統合版)附属書I 28 Anis or janeževec
    https://publications.europa.eu/resource/celex/02019R0787-20240513
  8. USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28)表I Analytical requirements
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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