八角(スターアニス)とは|甘い香りの正体とシキミとの取り違え

八角(スターアニス)とは|甘い香りの正体とシキミとの取り違え

八角(スターアニス)はトウシキミ(Illicium verum)の果実で、香りを決める成分はtrans-アネトールである[6]。総説が果実を容易には見分けられないとするシキミ(Illicium anisatum)の果実は有毒成分アニサチンを含み、誤って食べると嘔吐、意識障害、けいれんを起こすため、両者の違いを知っておく必要がある[3][5]。

この記事の結論
  • 八角はトウシキミの果実で、甘草に似た甘い香りがあり、豚肉や鴨の料理やデザートの香りづけに使われる。
  • 別種のシキミの果実は有毒成分アニサチンを含み、誤って食べると嘔吐・意識障害・けいれんを起こし、重症では死に至る。
  • 果実の先端の形と香りは手がかりにすぎず見分けにくいため、野外で採った実は使わず食用として売られている八角を使う。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

八角とは何か

トウシキミの果実と複数の呼び名

八角は、トウシキミ(Illicium verum)という植物の果実で、中華料理などの香辛料とされる[3]。東京都健康安全研究センターによれば、トウシキミの果実は八角、ダイウイキョウ(大茴香)、スターアニスと呼ばれる[3]。8つの果実(袋果)が集合しているところから八角と名付けられたと同センターは説明している[3]。

中国の亜熱帯地方が原産

トウシキミは中国の亜熱帯地方に野生または栽培される植物で、日本ではめったに見られない。稀に温室で栽培される例があるにとどまり、東京周辺の野外に植えられている例はないと東京都健康安全研究センターは説明している[4]。エスビー食品も、スターアニスの原産を中国とする点で同じ説明をしている[8]。

トウシキミが日本ではめったに見られないという点は、次に述べるシキミとの取り違えを考えるうえで前提になる。

甘い香りの正体

八角は、アニスに香りが似た別の植物八角とアニスシードを、植物としての違い、精油の香り、16世紀末の欧州での位置づけで並べた図。並記八角は、アニスに香りが似た別の植物欧州には、高級だったアニスの代用品として伝わった。八角(スターアニス)Illicium verumトウシキミの果実精油は甘草に似た甘い香り。風味はアニスシードの精油によく似るが、より強い。香りを決める鍵の成分はtrans-アネトール。16世紀末、イギリスの船乗りが欧州へ伝え、アニスの代用品として使われた。アニスシードPimpinella anisum八角とは別の植物精油の風味は八角によく似る。16世紀末の欧州では大変高級なスパイスだった。もう一つの似た香り八角の精油の風味は、フェンネルの精油にもよく似るとされる。出典: Sharafan et al. (2022) Molecules(PMC8839413)/エスビー食品 スパイス&ハーブ検索「スターアニス/八角/Star anise」図解:ajimuse.com

精油の香りはアニスシードやフェンネルに似て強い

学術総説によれば、八角の精油は甘草に似た甘い香りを持ち、風味はアニスシードやフェンネルの精油によく似るが、より強いとされる[6]。アニスシードは八角とは別の植物(Pimpinella anisum)である。

香りを決めるtrans-アネトールという成分

同じ総説は、八角の香りを決める鍵となる成分はtrans-アネトールであるとする研究を紹介している[6]。総説はこのtrans-アネトールの香りを、芳香性のある草本的な香りと表現している[6]。

16世紀末に欧州へ伝わった経緯

八角は16世紀末、イギリスの船乗りによってヨーロッパへ伝えられたとエスビー食品は説明している[8]。同社によれば、当時は大変高級だった似た香りのスパイスであるアニスの代用品として使われた[8]。

エスビー食品はまた、中国を原産とするスターアニスが漢方では胃弱やかぜ薬に、また歯みがきや石けんなどの香料としても用いられていると説明している[8]。

シキミとの取り違え

シキミの果実に含まれる有毒成分アニサチン

シキミの果実は、有毒成分のアニサチンを含んでいる[3]。誤って食べると嘔吐、意識障害、けいれんを起こし、重症の場合は死に至ると東京都健康安全研究センターは説明している[3]。

学術総説は、Illicium verum(八角)の果実はIllicium anisatum(シキミ)の果実と容易には見分けられないと指摘している[5]。同じ総説によれば、シキミの種子はアニサチン、シキミン、シキミトキシンを含むため毒性が強く、腎臓・尿路・消化管に炎症を起こしうる[5]。

果実の先端の形と香りで見分ける

東京都健康安全研究センターが挙げる見分け方の手がかりは、果実(袋果)の先端の形と香りの2点である[3][4]。八角の果実は先端が鋭く尖らず、徐々に細くなっていくのに対し、シキミの果実は先端が針のように鋭く尖る[3][4]。香りについては、八角が甘い香りを持つのに対し、シキミの果実は仏事で使われる抹香のようなツンとする香りがする[4]。

下の表は、この2点を中心に両者の違いを整理したものである。

項目トウシキミ(八角)シキミ
学名Illicium verum[5]Illicium anisatum[5]
果実の先端鋭く尖らず徐々に細くなる[3][4]針のように鋭く尖る[4]
香り甘い香り[3][4]抹香のようなツンとする香り[4]
食用としての扱い中華料理などの香辛料とされる[3]果実にアニサチンを含み有毒[3]
日本での分布めったに見られない[4]山地に自生し寺や墓地に植えられる[4]

ただし、前述のとおり総説は両者の果実は容易には見分けられないとしている[5]。この2点は手がかりであって、形と香りだけで確実に判別できるという前提には立てない。袋果の先端が針のように尖っている実や、香りが抹香のようにツンとする実は使わない。

EUが2002年に輸入条件を定めた経緯

EUは見分けを目視に任せず、荷ごとの分析に委ねた八角の荷へのシキミの混入、食中毒の事例との結び付き、2002年の欧州委員会決定、荷ごとの分析報告と証明書という条件までを4段で示した流れ図。流れEUは見分けを目視に任せず、荷ごとの分析に委ねたシキミの混入が見つかり、2002年に八角の輸入条件が定められた。01荷にシキミが混入一部の第三国からの八角の荷の分析で見つかった02食中毒と結び付く欧州共同体域内のいくつかの事例03決定2002/75/EC2002年2月1日に特別な輸入条件を定めた04荷ごとに書類を添付公的なサンプリングと分析の結果報告、証明書条件の対象CNコード0909 10 00に分類される食用の八角(Illicium verum)を、食品または食品の原材料として使う場合。2002年という時点の条文の内容。出典: 欧州委員会決定 2002/75/EC(2002年2月1日・第三国からの八角の輸入に関する特別条件)前文/欧州委員会決定 2002/75/EC 第1条(輸入を認める条件)図解:ajimuse.com

シキミの混入と食中毒の懸念

欧州委員会は2002年2月1日、決定2002/75/ECにおいて、第三国から輸入される八角についての特別な輸入条件を定めた。この決定の前文は、シキミ(前文は Illicium japonicum、shikimmi、skimmi といった別名を挙げている)が科学的に強い毒性を持つと認められており、食用には適さないとしている[1]。

また前文には、一部の第三国からの八角の荷を分析した結果、シキミ(英文では Japanese star anise)の混入も見つかり、その混入が欧州共同体域内の食中毒のいくつかの事例と結び付けられたと記されている[1]。前文はこれを受けて、衛生上の問題があると続けている[1]。

荷ごとの分析報告と証明書を条件に輸入を認めた

決定の第1条は、CNコード0909 10 00に分類される食用の八角(Illicium verum)について、加盟国が第三国からの輸入を認めてよいとする条件を定めている[2]。その条件は、食品として使用する場合や食品の原材料として使用する場合に、各々の輸入荷に公的なサンプリングおよび分析の結果報告と、証明書が添付されていることである[2]。

この決定は2002年という時点でこのように定められたものであり、本記事で紹介できるのはこの時点の条文の内容にとどまる。当時の欧州委員会は、八角とシキミの区別を目視に任せるのではなく、荷ごとの公的な分析結果と証明書に委ねる形をとったと読める。

日本での扱い

毒物及び劇物取締法上の劇物としての「しきみの実」

厚生労働省の職場のあんぜんサイトが公開するモデルSDS「しきみの実(Anisatinを含有する)」は、適用法令として毒物及び劇物取締法の劇物(指定令第2条)を挙げている[7]。このSDSの対象はシキミの実であり、トウシキミの果実である八角ではない。

野外で採った実を代用しない

東京都健康安全研究センターによれば、シキミは山地に自生する常緑の木で、3〜4月頃に薄黄色の花をたくさん付け、寺や墓地によく植えられて仏事に用いられる[4]。植物全体が有毒だが、特に果実は猛毒とされる[4]。果実は始め緑色で、熟すと黒褐色になり、割れて茶色の種を落とす[4]。

次の点は、八角とシキミの取り違えを避けるうえでの基本的な確認事項である。

  • 八角は、食用の香辛料として売られている製品を使う
  • 庭や寺、墓地などで見かけた実を、香辛料として採取して使わない
  • 袋果の先端が針のように鋭く尖っている、または香りが抹香のようにツンとする実は、八角として扱わない

トウシキミは日本ではめったに見られず、東京周辺の野外に植えられていることはないと同センターは説明している[4]。野外で見つけた実を八角として扱う理由はない。

使い方

中国料理とデザートの香りづけ

エスビー食品は、八角が中国料理で、特に豚肉料理や鴨料理などの香りづけに多用されると説明している[8]。甘い香りを活かして、デザートの香りづけにも用いられるという[8]。同社は適した料理として、豚肉料理や中国・台湾料理、デザートの香りづけを挙げている[8]。

五香粉の原料としての位置づけ

八角は五香粉の原料として使われることもあるとエスビー食品は説明している[8]。

五香粉そのものの配合や具体的な使い方については、五香粉を扱う記事に委ね、本記事は八角単品の香りの成分とシキミとの違いに絞って扱う。

結論

八角(スターアニス)はトウシキミ(Illicium verum)の果実で、香りを決める成分はtrans-アネトールである[6]。シキミ(Illicium anisatum)の果実には有毒成分アニサチンが含まれる[3]。東京都健康安全研究センターは果実の先端の形と香りの2点を見分けの手がかりに挙げるが、総説は両者の果実は容易には見分けられないとしている[4][5]。欧州委員会は2002年、輸入される八角の荷からシキミの混入が見つかったことを受けて、荷ごとの公的な分析結果の報告と証明書を条件とする輸入条件を決定2002/75/ECで定めた[1][2]。日本では、厚生労働省のモデルSDSが「しきみの実」の適用法令に毒物及び劇物取締法の劇物を挙げている[7]。家庭でできるのは、食用として売られている八角を使い、野外で採取した実を代用品にしないことである[4]。使い道としては、エスビー食品が挙げる豚肉料理や鴨料理、デザートの香りづけがある[8]。

参考文献

  1. 欧州委員会決定 2002/75/EC(2002年2月1日・第三国からの八角の輸入に関する特別条件)前文
    https://eur-lex.europa.eu/eli/dec/2002/75(1)/oj/eng
  2. 欧州委員会決定 2002/75/EC 第1条(輸入を認める条件)
    https://eur-lex.europa.eu/eli/dec/2002/75(1)/oj/eng
  3. 東京都健康安全研究センター(東京都薬用植物園)「トウシキミとシキミ」— 果実の説明
    https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_iyaku/plant/yudoku-top/sikimi/
  4. 東京都健康安全研究センター(東京都薬用植物園)「トウシキミとシキミ」— 見分け方
    https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_iyaku/plant/yudoku-top/sikimi/
  5. Sharafan et al. (2022) Illicium verum (Star Anise) and Trans-Anethole as Valuable Raw Materials for Medicinal and Cosmetic Applications, Molecules(PMC8839413)— シキミとの区別
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8839413/
  6. Sharafan et al. (2022) Molecules(PMC8839413)— 精油の香りとtrans-アネトール
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8839413/
  7. 厚生労働省 職場のあんぜんサイト GHSモデルSDS「しきみの実(Anisatinを含有する)」— 適用法令
    https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/5230-87-5.html
  8. エスビー食品 スパイス&ハーブ検索「スターアニス/八角/Star anise」
    https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00029.html

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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