ターメリックはウコン属の植物で、インドの食品基準ではCurcuma longaの根茎(ハルディ)と定義される[2]。日本語の「ウコン」にはキョウオウ(Curcuma aromatica)のように学名の異なる種もあり、厚生労働省の資料は両者を別の種として扱う[7]。輸入食材店の棚で手に取るときは、学名と黄色の濃さの基準をあわせて確認すると、表示を読み分けやすくなる。
- ターメリックはウコン属の一種の根茎で、日本語の「ウコン」には学名の異なる別種も含まれる。
- 黄色の濃さの下限は、国際規格では水分を除いた重さの2%以上の色素(クルクミノイド)で、ホール・カット・粉とも同じだ。
- 黄色い色素のクルクミンは水にほとんど溶けず油に溶けるため、油と合わせて使うときれいに色づくとされる。
この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。
ターメリックとウコンは同じ植物か
「ターメリック」と「ウコン」という二つの呼び名が同じ植物を指しているのかどうかは、最初につまずきやすい点である。インドの食品基準、日本の行政文書、国内の香辛料メーカーの説明を順に突き合わせると、呼び名と学名の対応がどこまで一致し、どこで分かれるかが見えてくる。
インドの食品基準が定義する「ターメリック(ハルディ)」
インド食品安全基準局(FSSAI)の規格は、ホールのターメリック(Haldi)を、Curcuma longa L. の一次または二次の根茎で、商業的にはbulbsまたはfingersと呼ばれるものと定義する[2]。この根茎は、沸騰した湯に浸してから乾燥させる工程(再生を防ぐためのキュアリング)を経るものとされ、自然のままの状態か機械で磨いた状態のいずれかであると規定されている[2]。つまりインドの公的な定義では、ターメリックは単一の植物種であるCurcuma longaの地下茎を加工したものに限られる。
厚生労働省のリストが区別する「キョウオウ」
一方、日本語の「ウコン」という呼び名は、学名の異なる複数の植物を含みうる。厚生労働省の「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」は、キョウオウ(Curcuma aromatica Salisb.、他名ハルウコン/アロマティカ、使用部位は根茎)の備考欄に「中国では本植物を欝金と称するが、日本のウコンはCurcuma longaで、種が異なる」と記している[7]。このリストは医薬品該当性を区分する行政文書であり、効能を認めた資料ではないが、学名と和名の対応関係を確認する根拠にはなる。キョウオウとターメリックの原料種であるCurcuma longaは、同じ「ウコン」という呼び名の範囲に含まれつつも、別の学名を持つ植物として扱われている。
秋うこん・春うこん・紫うこんという呼び方
国内の香辛料メーカーであるエスビー食品は、ターメリックは「秋うこん」とも呼ばれ、晩夏から秋にかけて白い花を咲かせると説明する[8]。同社はまた、通称で「うこん」と名がつくものとして「春うこん」や「紫うこん」があるが、これらはターメリックとは別の、同じショウガ科ウコン属に属する植物であると述べている[8]。整理すると次のようになる。
- 秋うこん:ターメリックの和名の一つ[8]
- 春うこん・紫うこん:秋うこん(ターメリック)とは別のショウガ科ウコン属の植物[8]
- キョウオウ(ハルウコン):Curcuma aromaticaで、日本のウコン(Curcuma longa)とは種が異なるとされる文書上の区分[7]
これらはいずれも「ウコン属の植物である」という共通点を持つが、成分量の比較については本記事が参考にした資料に記載がないため、種の同定にとどめる。
ターメリックはどう作られるか
ターメリックが香辛料として店頭に並ぶまでには、収穫した根茎を加工する工程がある。インドの食品基準は、この加工の方法をホールの定義の一部として書き込んでいる。
根茎を茹でてから乾かす「キュアリング」
FSSAIの定義によれば、ターメリックのホールは、根茎を沸騰した湯に浸してから乾燥させることで作られ、この工程は再生を防ぐ目的を持つとされる[2]。根茎は自然のままの状態、または機械で磨いた状態のいずれかとされる[2]。湯に浸してから乾かすという二段階の工程は、収穫直後の生の根茎と、香辛料として流通するホールのターメリックとを分ける境界線になっている。
ホールと呼ばれる一次・二次根茎
FSSAIの定義は、ホールのターメリックを一次または二次の根茎とし、商業的にはbulbs(塊状の部分)またはfingers(指状の部分)と呼ばれると説明する[2]。この呼び名は、粉末に加工する前の原料がどのような名前で取引されるかを示している。
黄色の濃さを数値で比較する
ターメリックの黄色の濃さは、クルクミノイドの含有量(規格の表では着色力と併記される)として規格に数値化されている。この数値は、コーデックス(国際食品規格委員会)、インドの国内基準、米国の調達規格のそれぞれで定められており、対象(ホール・カット・粉)や測定の呼び方が異なる点に注意が必要である。
コーデックス CXS 359-2024の下限値
2024年に採択されたコーデックスのターメリック規格(Standard for dried or dehydrated roots, rhizomes and bulbs – turmeric、CXS 359-2024)の附属書I表A1は、ホール・カット(ピース)・粉末のいずれについても、乾物基準でのクルクミノイド含有量(着色力)の下限を2%と定める[1]。同じ表は、水分の上限をホールとカットで12%、粉で10%とし、総灰分の上限をホールとカットで8%、粉で9%、酸不溶性灰分の上限をいずれも1.5%と定めている[1]。
インドの食品基準(粉)の基準値
FSSAIの規格は、ターメリックの粉(powder)について、着色力をクルクミノイド含有量として乾物基準で2.0%以上と定めている[3]。同じ項目では、総灰分を9.0%以下、酸不溶性灰分を1.5%以下、総でんぷんを60.0%以下とし、クロム酸鉛の試験は陰性であることを求めている[3]。これらの数値は粉の項目に限定されたものであり、ホールの定義に書かれた湯通し乾燥の工程とは別の基準として読む必要がある[2][3]。
米国農務省の調達規格 A-A-20001C
米国農務省(USDA)の商品調達規格A-A-20001C(2023年8月28日付)の表Iは、ターメリックの行について、水分10.0%以下、精油3.5%以上、総灰分8.0%以下、酸不溶性灰分0.6%以下、45号ふるいを95%以上通過することを定め、色の欄には「5% or more Curcumin」と記している[4]。この表は列の並びが「水分上限・精油下限・総灰分上限・酸不溶性灰分上限・通過粒度下限・ふるい番号・色(ASTA値)・スコヴィル値」の順になっており、「5% or more Curcumin」は色の列に入っている数値である[4]。
三つの規格を同じ表にまとめると、対象範囲と下限値の違いが確認できる。
| 規格 | 対象 | クルクミノイド/クルクミンの下限 | 水分上限 | 総灰分上限 | 酸不溶性灰分上限 |
|---|---|---|---|---|---|
| コーデックス CXS 359-2024(ホール)[1] | ホール | 2%(乾物) | 12% | 8% | 1.5% |
| コーデックス CXS 359-2024(カット)[1] | カット(ピース) | 2%(乾物) | 12% | 8% | 1.5% |
| コーデックス CXS 359-2024(粉)[1] | 粉 | 2%(乾物) | 10% | 9% | 1.5% |
| インド食品基準(粉)[3] | 粉 | 2.0%以上(乾物) | 本記事が参照した範囲では確認できない | 9.0%以下 | 1.5%以下 |
| 米国調達規格 A-A-20001C[4] | ターメリック | 5% or more Curcumin | 10.0%以下 | 8.0%以下 | 0.6%以下 |
コーデックスとインドの基準はいずれも「クルクミノイド」という語を使い、米国の規格は「Curcumin」と表記している。クルクミノイドとクルクミンは規格上の呼び方が違い、同じ測り方の値だとは本記事が参照した資料からは確認できない。そのため、2%と5%を同じ物差しの数値として並べて大小や優劣を決めることはできない。コーデックスは国際的な取引の最低線を示す規格であり、米国の調達規格は政府機関などの買い手が調達時に用いる仕様であるという違いもある。
スパイスと色素製剤は別物
ターメリックという言葉は、香辛料としての根茎・粉そのものを指す場合と、そこから抽出した色素製剤を指す場合とがある。この二つは原料こそ共通するが、規格上は別の製品として扱われている。
JECFAが定めるクルクミン(INS 100(i))の規格
FAOとWHOが共同で運営する食品添加物専門家会議(JECFA)の規格モノグラフは、クルクミン(別名Turmeric yellow、Kurkum、INS番号100(i))について、ターメリック、すなわちCurcuma longa L.(Curcuma domestica Valeton)の挽いた根茎を溶媒で抽出して得られるものと定義している[5]。さらに、濃縮したクルクミン粉末を得るために、抽出物を結晶化によって精製すると説明されている[5]。このモノグラフは2003年の第61回会議のものである[5]。本記事は安全性の評価には立ち入らず、色素製剤として香辛料とは別に規格が定められているという事実にとどめる。
インド香辛料局が示す色素とオレオレジンの用途
インド商工省の香辛料局(Spices Board India)は、ターメリックの用途として、食品の風味づけと色づけに使われ、カレー粉の主要原料の一つであると説明している[6]。同局はまた、ターメリックのオレオレジンが塩水漬けのピクルスに使われ、マヨネーズやレリッシュの配合、ノンアルコール飲料、ゼラチン、バター、チーズなどにもある程度使われること、ターメリックから抽出した色素であるクルクミンは着色料として使われることを、分けて述べている[6]。つまり同局の説明では、香辛料としてのターメリック、加工食品に使われるオレオレジン、着色料としてのクルクミンが、同じ植物に由来しながら用途の異なるものとして書き分けられている。
ターメリックの使い方
ここまでの定義と規格を踏まえたうえで、家庭でターメリックを扱うときの実際の使い方を確認する。
油と合わせて加熱する
エスビー食品は、ターメリックに含まれる黄色い色素成分クルクミンについて、水にはほとんど溶けない油溶性の性質を持つと説明している[8]。この性質により、油と合わせて使うときれいに色づけができるとされる[8]。同社はまた、加熱すると香りが弱まり、料理の味に厚みを与えると述べている[8]。油を使い、加熱する料理に向くスパイスだというのが、同社の説明から読み取れる使い方の手がかりである。
カレー粉の主要原料として
ターメリックはカレーやターメリックライスをはじめ、肉・魚・野菜料理など幅広い料理に使われるとエスビー食品は説明している[8]。インド香辛料局もターメリックをカレー粉の主要原料の一つと位置づけている[6]。カレー粉という配合香辛料そのものの成り立ちや、カレー粉の黄色がターメリックに由来するという配合上の話については、カレー粉の歴史やガラムマサラとカレー粉の違いで扱われており、本記事はターメリック単体の同定と規格、使い方に絞って述べる。
黄色いシミの落とし方
ターメリックやカレー粉で衣類や調理器具に黄色いシミがついた場合について、エスビー食品は、シミの部分を水洗いまたは石けんで軽く洗ってからよく日光に当てて干すと、紫外線によって色素成分が分解されて消失すると説明している[8]。同社の説明では、色素成分が紫外線で分解されることを利用した対処法である[8]。
結論
ターメリックとウコンの関係を整理すると、ターメリックはウコン属の植物であるCurcuma longaの根茎を指し、インドの食品基準はこれを湯通し乾燥させたホールとして定義している[2]。日本語の「ウコン」にはキョウオウ(Curcuma aromatica)のように学名の異なる種も含まれ、厚生労働省の資料はこれを別の種として区別している[7]。黄色の濃さはコーデックス、インド、米国の各規格でクルクミノイドまたはクルクミンの下限として数値化されているが、対象(ホール・カット・粉)や測定の呼び方が異なるため、数値だけを単純比較することはできない[1][3][4]。棚でターメリックを選ぶときは、次の三点を確認すると判断がしやすくなる。
学名を確認する
パッケージや商品説明にCurcuma longaという学名が明記されているかを確認する。学名の記載がない場合、エスビー食品が区別する「秋うこん」「春うこん」「紫うこん」のような和名だけでは、どの植物を指しているかが判別しにくい[8]。
形状を選ぶ(ホールか粉か)
FSSAIの定義にあるように、ホールは一次または二次の根茎(bulbsまたはfingers)の状態である[2]。粉については、インドの基準が粉の項目に総でんぷんの上限やクロム酸鉛の試験を置いている[3]。
色の基準を読む
コーデックスの表A1、インドの粉の基準、米国の調達規格はいずれもクルクミノイドまたはクルクミンの下限値を定めているが、これらは取引や調達の最低線を示す数値であり、家庭での選び方そのものを保証する数値ではない[1][3][4]。色素製剤としてのクルクミンやオレオレジンは、香辛料としてのターメリックとは別の規格で扱われる製品であることも、購入時に区別しておく点である[5][6]。
関連記事
参考文献
- Codex Alimentarius「Standard for dried or dehydrated roots, rhizomes and bulbs – turmeric(CXS 359-2024)」
https://openknowledge.fao.org/server/api/core/bitstreams/0c9596dc-d4cb-4ee6-8c80-42c6547c808b/content - FSSAI(インド食品安全基準局)「Food Safety and Standards (Food Products Standards and Food Additives) Regulations, 2011」コンペンディウム 第2章 2.9.18 Turmeric (Haldi) whole
https://www.fssai.gov.in/docs/food-law/regulations/compendium/food-products-standards/Chapter 2_9_Salt_Spices_Condiments and related products.pdf - FSSAI(インド食品安全基準局)「Food Safety and Standards (Food Products Standards and Food Additives) Regulations, 2011」コンペンディウム 第2章 2.9.18 Turmeric (Haldi) powder
https://www.fssai.gov.in/docs/food-law/regulations/compendium/food-products-standards/Chapter 2_9_Salt_Spices_Condiments and related products.pdf - USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」
https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf - JECFA(FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議)規格モノグラフ「CURCUMIN」
https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/jecfa_additives/docs/Monograph1/Additive-140.pdf - Spices Board India(インド商工省 香辛料局)「Spice Catalogue: Turmeric」
https://www.indianspices.com/spice-catalog/turmeric-1.html - 厚生労働省「(別添2)医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」
https://www.mhlw.go.jp/content/001734639.pdf - エスビー食品「スパイス&ハーブ検索:ターメリック/うこん/Turmeric」
https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00031.html
