タラゴンとは|フレンチとロシアンの違いと、香り成分エストラゴールの規則

タラゴンとは|フレンチとロシアンの違いと、香り成分エストラゴールの規則

タラゴンはキク科のハーブで[4]、フランス名はエストラゴンと呼ばれる[1]。エスビー食品の説明によると、フランス系とロシア系は同属変種の別植物で風味が異なるが、どちらも英語名ではタラゴンと呼ばれ、フランス系とロシア系で名前を呼び分ける説明は誤りだという[1]。香り成分エストラゴールについては、EUの香料規則に上限の定めがあり、EMAの医薬品文書に評価の経緯が記されているので、使い方や規格値と合わせて整理する。

この記事の結論
  • タラゴンはキク科のハーブで、フランス系とロシア系は別系統だが、英語名はどちらもタラゴン、仏語名はエストラゴンである。
  • フレンチは甘くリコリスに似た香りでわずかに苦く、ロシアンはより苦く辛みが強く、アニスの風味を欠くとされる。
  • タラゴンは卵・鶏肉・白身魚・乳製品・酢と相性がよいとされ、オムレツやハーブビネガーの定番に使われる。

この記事は「世界のスパイスの種類と産地|ISO命名で読む単一スパイス完全図鑑」の各論です。

目次

タラゴンはどんなハーブか

学名と分類

タラゴンの学名はArtemisia dracunculus L.で、キク科(Asteraceae)に属する[4]。この学名と科名はEMAが公表した文書の表1に記載されている[4]。Ekiertらの総説は、ロシアンタラゴンもフレンチタラゴンも、この一つの種のなかの変種・栽培品種(原文はvariety/cultivar)として書いている。エスビー食品が「同属変種の別植物」と呼ぶ2系統は、総説の書き方では同じ種のなかの違いにあたる[2]。

フレンチとロシアンという呼び分けの誤解

エスビー食品の説明によると、フランス系のものをエストラゴン、ロシア系のものをタラゴンと呼ぶという説明をしている著書があるが、これは誤りである[1]。フランス系とロシア系は同属変種の別植物であり、葉の形や風味は確かに異なるものの、どちらも英語名ではタラゴン、フランス名ではエストラゴンと呼ばれる[1]。同社の説明に従えば、タラゴンとエストラゴンという呼び名の違いは系統の違いではなく、英語名とフランス名の違いである。

  • フランス系とロシア系は同属変種の別植物である(葉の形・風味が異なる)[1]
  • 英語名はどちらも「タラゴン」、フランス名はどちらも「エストラゴン」である[1]
  • 「フランス系=エストラゴン」「ロシア系=タラゴン」という呼び分けは誤りとされる[1]

フレンチとロシアンの違い

増やし方の違い

Ekiertらの総説(2021年、Frontiers in Pharmacology)によると、Artemisia dracunculusは栽培品種によって増やし方が異なる[2]。ロシアンタラゴンは栄養繁殖でも種子からでも増やせるが、フレンチタラゴン(およびジャーマンタラゴン)は根茎の挿し木による栄養繁殖のみで増やされる[2]。

味と香りの違い

同じ総説では、Artemisia dracunculusの味は品種によって異なると述べられている[3]。フレンチタラゴンは甘い味とリコリスに似た香りを持ち、後味にわずかな苦みがあるとされ、別の記述ではアニスやバジルに似た草の風味を持つとも説明されている[3]。一方でロシアンタラゴンはより苦く辛みが強く、アニスの風味を欠くとされている[3]。

比較項目フレンチタラゴンロシアンタラゴン
繁殖方法根茎の挿し木のみ[2]栄養繁殖または種子[2]
風味の記述1甘くリコリスに似た香り、わずかな苦み[3]より苦く辛い[3]
風味の記述2アニスやバジルに似た草の風味という記述もある[3]アニスの風味を欠く[3]

香りの成分エストラゴール

エストラゴールの割合は、何に対する値かで桁が変わるタラゴンの草体から精油、精油中のエストラゴール、草体全体に対するエストラゴールへと、割合の分母が変わっていく順を4段で示した流れ図。流れエストラゴールの割合は、何に対する値かで桁が変わる精油の中では60〜75%、草体そのものに対しては0.7%。01タラゴンの草体利用する部位そのもの02草体の0.25〜1%草体に含まれる精油の割合03精油の60〜75%精油に占めるエストラゴールの割合04草体の0.7%利用部位に占めるエストラゴールの割合数値の性格EMAの表に載る代表的な例で、確定値ではない。表には、主に食品分野に由来する情報をまとめたものだという注が付いている。出典: EMA(欧州医薬品庁)HMPC「Public statement on the use of herbal medicinal products containing estragole」図解:ajimuse.com

草体と精油に占める割合

EMAが公表した文書の表1には、タラゴン(Artemisia dracunculus L.、キク科)の行に成分データが記載されている[4]。この行では、草体における精油含有率が0.25〜1%、その精油中に占めるエストラゴールの割合が60〜75%とされている[4]。この行の数値では、精油の半分以上をエストラゴールが占めることになる。

利用部位中の割合

同じ表の続く列には、利用部位(草体そのもの)に占めるエストラゴールの割合として0.7%という数値が記載されている[4]。この表にはチャービルやスイートフェンネルなど他の植物の行も並んでおり、数値を読む際にはタラゴンの行だけを参照する必要がある[4]。またこの表には、主に食品分野に由来する情報をまとめたものだという注が付いている[4]。本記事でも、個々の数値は確定値ではなく、EMAの表に載っている代表的な例として扱う。

エストラゴールがなぜ規則の対象になったか

SCFによる2001年の結論

EMAが公表した文書の「Regulatory status」の節によると、食品科学委員会(Scientific Committee on Food、SCF)は2001年に、エストラゴールには遺伝毒性と発がん性があると結論した[5]。この結論を受けて、SCFは曝露レベルの低減と使用の制限を勧告している[5]。

FEMAによる2002年の結論

一方、香料業界団体であるFlavour and Extract Manufacturers Association(FEMA)の専門家パネルは2002年に、香辛料の摂取によるエストラゴールの曝露は人に重大ながんリスクをもたらさないと結論している[5]。SCFとFEMAという異なる立場の機関が、同じ成分について異なる結論を示した状態がそのまま文書に記載されている[5]。なおこのEMA文書自体は、生薬を原料とする医薬品(herbal medicinal products)についての声明であり、食品としての摂取を直接対象とした文書ではない[5]。

  • SCF(2001年): エストラゴールは遺伝毒性・発がん性があると結論し、曝露低減と使用制限を勧告した[5]
  • FEMA専門家パネル(2002年): 香辛料からの摂取は人に重大ながんリスクをもたらさないと結論した[5]

EUの食品の規則はどこに線を引いているか

複合食品における上限値

EU規則(EC)No 1334/2008(香料規則)の附属書III B部には、香料などを加えた複合食品について、物質ごとの上限値を定めた表がある[6]。この表はエストラゴールについて、乳製品50mg/kg、加工した果実と野菜(きのこ・根菜・豆類を含む)およびナッツと種子50mg/kg、魚製品50mg/kg、ノンアルコール飲料10mg/kgという上限を定めている[6]。この表には注記(*1)が付されており、単独では完結しない条件付きの規定になっている[6]。

注記が定める除外条件

この注記(*1)によると、複合食品に香料が加えられておらず、香りを付ける食品原料として加えられたものが生・乾燥・冷凍のハーブとスパイスだけである場合には、上限値は適用されない[7]。つまり、香料を加えた複合食品と、香料を加えずに乾燥タラゴンのようなハーブ・スパイスだけで香りを付けた複合食品とでは、規則上の扱いが分かれている。

  • 上限が定められている複合食品: 乳製品・加工果実野菜・ナッツ種子・魚製品は50mg/kg、ノンアルコール飲料は10mg/kg[6]
  • 香料を加えず、香り付けの原料として加えたのが生・乾燥・冷凍のハーブとスパイスだけの複合食品: 上記の上限は適用されない[7]

この規則は香料についての規則であり、タラゴンというハーブそのものの販売を禁じる記述は、この記事が確認した範囲には見当たらない。

乾燥タラゴンの規格値

USDA調達規格における数値

米国農務省(USDA)の調達規格A-A-20001Cの表Iには、タラゴンの行として分析上の要件が示されている[8]。この行によると、水分は上限10.0%、揮発油は下限0.3%、全灰分は上限15%、酸不溶性灰分は上限1.5%、ふるい通過は下限95%(ふるい番号(40)-Ground)とされている[8]。この表には前後にセイボリー、ゴマ、タイム、ターメリック、バニラビーンの行も並んでおり、タラゴンの数値として扱えるのはこの行に記載された値だけである[8]。

この規格の位置づけ

A-A-20001Cは米国政府の調達(Commercial Item Description)のために定められた規格であり、市販されているすべてのタラゴン製品が満たすべき基準というわけではない[8]。家庭で購入する乾燥タラゴンがこの数値をそのまま満たしているかどうかは、この記事が確認した範囲からは分からない。購入時にこの数値を基準として製品を評価したい場合は、あくまで政府調達向けの目安として参照するのが妥当である。

使い方と合わせ方

相性のよい食材

エスビー食品の説明によると、タラゴンは卵・鶏肉・白身魚・乳製品・酢との相性がよいとされている[1]。具体的な料理としては、オムレツ、ローストチキン、ムニエル、バターソース、マリネ、ピクルスが挙げられている[1]。

代表的な使われ方

タラゴンは生のミックスハーブ「フィーヌゼルブ」の材料としても使われ、ハーブビネガーに使われる定番のハーブでもある[1]。ベアルネーズソースなどタラゴンを使うソースの具体的な作り方や、ハーブビネガーの仕込み方、乾燥ハーブ全般の保存と代用については、それぞれの料理法を扱う別の記事で確認するのが適している。

  • 卵・鶏肉・白身魚・乳製品・酢と相性がよい[1]
  • 代表的な料理: オムレツ、ローストチキン、ムニエル、バターソース、マリネ、ピクルス[1]
  • 生のミックスハーブ「フィーヌゼルブ」とハーブビネガーの定番材料[1]

結論

タラゴンはフランス系とロシア系が同属変種の別植物でありながら、どちらも英語名ではタラゴン、フランス名ではエストラゴンと呼ばれる、とエスビー食品は説明している[1]。Ekiertらの総説によれば、フレンチは根茎の挿し木による栄養繁殖だけで増やされ、甘くリコリスに似た香りを持つのに対し、ロシアンは種子からも増やせて、より苦く辛い風味を持つ[2][3]。香り成分エストラゴールについては、EMAの文書が示すSCFとFEMAの異なる評価[5]、EUの香料規則が定める複合食品での上限値と、香料を加えずハーブとスパイスだけで香りを付けた複合食品にはその上限を適用しないとする注記[6][7]という、立場や対象ごとに異なる線引きが存在する。購入した乾燥タラゴンの品質を確認したい場合は、USDAの調達規格に示された水分や揮発油の数値を一つの目安としつつ、それが政府調達向けの基準であり市販品全般の基準ではない点を踏まえて判断するのが適切である[8]。

参考文献

  1. エスビー食品「スパイス&ハーブ検索 タラゴン/Tarragon」
    https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00066.html
  2. Ekiert H. ほか「Artemisia dracunculus (Tarragon): A Review of Its Traditional Uses, Phytochemistry and Pharmacology」Frontiers in Pharmacology 12:653993(2021) — 増やし方
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8076785/
  3. Ekiert H. ほか「Artemisia dracunculus (Tarragon): A Review of Its Traditional Uses, Phytochemistry and Pharmacology」Frontiers in Pharmacology 12:653993(2021) — 品種による風味
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8076785/
  4. EMA(欧州医薬品庁)HMPC「Public statement on the use of herbal medicinal products containing estragole」EMA/HMPC/137212/2005 Rev 1 Corr 1(2023-05-12) 表1
    https://www.ema.europa.eu/en/documents/other/public-statement-use-herbal-medicinal-products-containing-estragole-revision-1_en.pdf
  5. EMA(欧州医薬品庁)HMPC「Public statement on the use of herbal medicinal products containing estragole」EMA/HMPC/137212/2005 Rev 1 Corr 1(2023-05-12) 1.3 Regulatory status
    https://www.ema.europa.eu/en/documents/other/public-statement-use-herbal-medicinal-products-containing-estragole-revision-1_en.pdf
  6. EU 規則 (EC) No 1334/2008(香料規則・2026-02-16 時点の統合版) 附属書III B部(エストラゴールの行)
    https://publications.europa.eu/resource/celex/02008R1334-20260216
  7. EU 規則 (EC) No 1334/2008(香料規則・2026-02-16 時点の統合版) 附属書III B部の注
    https://publications.europa.eu/resource/celex/02008R1334-20260216
  8. USDA AMS「Commercial Item Description A-A-20001C: Spices and Spice Blends」(2023-08-28)
    https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/CID Spices and Spice Blends.pdf

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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