ギーはバターから水分と乳固形分を加熱で取り除いた油であり、EUの規則ではバターは乳脂肪80%以上90%未満・水分16%以下と定義される[1]。ギーの製法に共通する工程は白バターを110〜120℃で10〜20分加熱する熱処理で、この加熱で生じる揮発性の香気がギー特有の風味を生む[2]。輸入食材店でギーを見かけて普通のバターとの違いが分からない人、あるいはレシピにギーとあるが手元にバターしかない人にとって、この違いを知ることは選択と代用の判断に直結する。
- ギーは、バターを加熱して水分と乳固形分を取り除いた油で、同じ乳脂肪から出発しながら別の食品として扱われる。
- 使い分けは、焼き菓子のしっとり感やパンに塗る用途ならバター、香りづけの仕上げ油ならギーである。
- ギーの製法に共通する加熱は110〜120℃で10〜20分で、この加熱で生じる香気がギー特有の風味を生むとされる。
この記事は「世界の食用油脂図鑑|圧搾・精製・発煙点で油を読む」の各論です。
結論:ギーはバターから水分と乳固形分を加熱で飛ばした油
バターとギーは同じ乳脂肪から出発する
バターとギーはどちらも牛乳由来の乳脂肪を主成分とする点で共通する。バターは乳脂肪の粒を練り上げて固めたものである一方、ギーはそのバターをさらに加熱し、水分と乳固形分を取り除いた最終形態にあたる。原料は同じでも、製造工程の終着点が異なることで別の食品として扱われている。
バターの定義(EU規則が定める成分規格)
EU 1308/2013号が定める数値
EUの共通市場機構規則(Regulation (EU) No 1308/2013)附属書VII第VII部は、バターを、乳脂肪含有量が80%以上90%未満、水分含有量が最大16%、無脂乳固形分含有量が最大2%の製品と定義している[1]。同附属書は同時に、四分の三脂肪バター(乳脂肪60%以上62%以下)や半脂肪バター(乳脂肪39%以上41%以下)といった低脂肪タイプの規格も並べて定めている[1]。
日本の乳等省令における位置づけ
日本の乳及び乳製品の成分規格等に関する命令(乳等省令)第二条では、バターを「生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳から得られた脂肪粒を練圧したもの」と定義している[3]。同条はさらに「バターオイル」を「バター又はクリームからほとんどすべての乳脂肪以外の成分を除去したもの」と定義しており[3]、乳脂肪分や水分の具体的な数値については、本記事の参考資料の範囲では確認できない。
バターオイルとギーは同じではない
乳等省令の定義するバターオイルは、バターまたはクリームから乳脂肪以外の成分をほとんど除去したものという点でギーと似た方向性を持つ[3]。ただし、この条文には加熱の有無や加熱温度についての規定は見当たらない。ギーの製法として知られる110〜120℃での加熱処理[2]が乳等省令上のバターオイルの要件になっているとは、本記事の参考資料からは言えない。
| 項目 | EU規則のバター[1] | 乳等省令のバター[3] | 乳等省令のバターオイル[3] |
|---|---|---|---|
| 定義の要点 | 乳脂肪80%以上90%未満、水分16%以下、無脂乳固形分2%以下 | 脂肪粒を練圧したもの | バター・クリームから乳脂肪以外をほぼ除去したもの |
ギーの作り方と香りの出どころ
白バターからの加熱工程
インドのICAR-National Dairy Research Instituteによるレビュー(Journal of Food Science and Technology)は、すべての製法に共通する工程として、白バターを110〜120℃で10〜20分加熱する熱処理を挙げている[2]。この加熱によって熱触媒反応が起こり、ギー特有の揮発性香気成分が生成されるとされる[2]。
香りの正体は加熱反応の産物
同レビューは、この加熱工程で生じる熱触媒反応がギーの独特で豊かな風味の起点になっていると説明する[2]。バターにはない香りがギーに生まれるのは、単に水分と乳固形分が抜けるからではなく、加熱そのものが化学反応を起こしているためである。この点は、単なる「バターの乾燥版」という理解では説明がつかない部分である。
家庭での再現に伴う難しさ
製法に共通する工程の条件は110〜120℃・10〜20分という比較的狭い範囲で示されている[2]が、家庭のコンロや鍋でこの温度帯を正確に保つのは容易ではない。少量ずつ弱火で様子を見ながら進める必要がある。本記事の参考資料には家庭調理向けの具体的な目安時間の記載はなく、あくまで製法に共通する工程として示された条件として理解しておくのが妥当である。
日本の法令での位置(乳等省令:バターとバターオイル)
条文上の分類は2種類
乳等省令第二条は、乳製品としてバターとバターオイルを別項目で定義している[3]。バターは「脂肪粒を練圧したもの」、バターオイルは「ほとんどすべての乳脂肪以外の成分を除去したもの」という記述の違いから、両者が別の製品として法令上扱われていることが分かる[3]。
ギーという言葉自体は条文に現れない
本記事が参照した乳等省令の条文にはギーという語や、澄ましバターに対応する法令上の分類は見当たらない。日本の輸入食材店で売られているギーが、法令上どちらに分類されて流通しているかは、本記事の参考資料の範囲では判断できない。分類の詳細を確認したい場合は、個別の輸入業者や販売者の表示に基づく必要がある。
クリームとバターミルクの関係も条文にある
同条では「クリーム」を生乳等から乳脂肪以外の成分を除去したものと定義し、「バターミルク」をバター製造時に生じる脂肪粒以外の部分と定義している[3]。バター、クリーム、バターミルクという乳製品群の中に、バターオイルという乳脂肪をさらに純化した項目が並んでいる構造が読み取れる。
使い分け(香り)
香りの方向性の違い
ギーは加熱工程で生成された揮発性の香気による独特の豊かな風味を持つとされる[2]。料理に加える香りの方向性が異なるため、レシピ上で単純に置き換えると仕上がりの印象が変わることがある。
- バターを使う場面: 焼き菓子のしっとりした質感、パンに塗るなどの用途
- ギーを使う場面: 香りづけとしての仕上げ油
代用の考え方
代用を考える場合、ギーが手元になくバターで代用するときは、火加減を弱めに調整する工夫が実用的である。
使い分けを考えるときは、両者を同じ油脂として一括りにせず、乳固形分の有無という一点に注目すると整理しやすい。
結論
ギーとバターの違いは、乳脂肪80%以上90%未満・水分16%以下という規格を持つバター[1]から、加熱によって水分と乳固形分をさらに取り除いた点に尽きる。この加熱工程(110〜120℃・10〜20分)[2]が香りの生成源であり、日本の乳等省令が定めるバターオイルの定義[3]とも重なる部分はあるが、加熱の有無まで条文が規定しているとは言えない。手元にある調味料をまず観察し、どちらに近いかを確かめることが、次に取るべき具体的な一歩になる。
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参考文献
- Regulation (EU) No 1308/2013 establishing a common organisation of the markets in agricultural products, Annex VII Part VII
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32013R1308 - Kumbhare S. et al., “Recent innovations in functionality and shelf life enhancement of ghee, clarified butter fat”, J Food Sci Technol 60(1), 2023, PMC9813307
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9813307/ - 乳及び乳製品の成分規格等に関する命令(昭和二十六年厚生省令第五十二号)第二条
https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000100052
