濃口醤油と薄口醤油の違いは色の濃淡だけではない。日本食品標準成分表によれば食塩相当量は、こいくちしょうゆが100gあたり14.5g、うすくちしょうゆは16.0gで、色が淡い薄口の方が高い数値になっている[2][3]。ラベルの「薄口」を色の薄さだけで判断して選ぶと、料理の塩加減が想定より濃くなる場合がある。
- 成分表の食塩相当量は100gあたりこいくち14.5g、うすくち16.0gで、色の淡い薄口のほうが高い。
- うすくちは色を淡く保つため、仕込みの食塩を多めに使い、発酵と熟成をゆるやかにする。
- 「薄口」は色の淡さを表す名で、塩分の少なさは意味しないため、同じ量を使うと塩味が強く出る場合がある。
この記事は「「醤(ひしお・ジャン)」とは何か|東アジア調味料の母体を知る」の各論です。
名前の読み違い―「薄口」は色の話であって塩の話ではない
「淡口」と書いて「うすくち」と読む
薄口醤油は本来「淡口」と表記し、「うすくち」と読む[4]。関西で生まれた色の淡いしょうゆで、しょうゆ出荷量の約13%を占める[4]。日本醤油協会(しょうゆ情報センター)の資料でも表記は「淡口」であり、「薄口」という書き方とは字が異なる。
関西で生まれた色の淡いしょうゆ
もともと関西で生まれた色の淡いしょうゆは、関西料理の普及とともに全国的に需要が伸び、現在では日本の各地で生産されている[1]。色を抑えたしょうゆが関西の煮物文化とともに広まった経緯があり、この生まれの経緯は、後述する製法の話とつながっている。
「薄い」という字面が生む誤解
「薄口」の「薄い」は色の淡さを指す語であって、塩分の少なさを保証する語ではない。しょうゆ情報センターの資料は、うすくちしょうゆを「素材の持ち味を生かすために、色や香りを抑えたしょうゆ」と説明しており[4]、塩分の多寡についてはこの説明の対象外である。
- 表記は「淡口」、読みは「うすくち」[4]
- 関西で生まれた色の淡いしょうゆ[1][4]
- 全国的に生産が広がった経緯を持つ[1]
ラベルの「薄口」は色の淡さを表す名前なので、色だけを見て塩分が控えめだと判断しないようにしたい。名前の由来を知っておくと、棚での選び方の基準が一つ増える。
製法の差―仕込みの食塩を約1割多くし、発酵・熟成をゆるやかにする
こいくちと同じ製法がベース
うすくちしょうゆの基本的な製法はこいくちしょうゆと同じである[1]。原料や工程の骨格を大きく変えるわけではなく、仕込みの段階での調整によって色と香りの出方を抑えている。
食塩を多く使う理由
製品の色を淡くするために、仕込みの段階で食塩を1割ほど多く使う[1]。別の資料でも、発酵と熟成をゆるやかにさせる食塩を、こいくちより約1割多く使用すると説明されている[4]。食塩の量を増やすことで発酵・熟成の進み方を抑え、色づきを遅くする仕組みだと読める。
甘酒でまろやかさを補う
味をまろやかにするため、米を糖化させた甘酒(米のでんぷんを糖に変えたもの)を使う[1]。食塩を増やして発酵を抑えると味の輪郭が硬くなりやすい分を、甘酒の甘味で補っていると理解できる。
塩分の実測―食品成分表に見るこいくち14.5g/うすくち16.0g
食品成分表とは何を示す資料か
文部科学省の食品成分データベースは、日本食品標準成分表(八訂)の増補版に基づき、食品100gあたりの各成分量を示す資料である[2][3]。しょうゆについては、こいくちしょうゆとうすくちしょうゆがそれぞれ別の食品番号で収録されている。
100gあたりの食塩相当量を比較する
| 種類 | 食塩相当量(100gあたり) | 出典 |
|---|---|---|
| こいくちしょうゆ | 14.5 g | [2] |
| うすくちしょうゆ | 16.0 g | [3] |
同データベースによれば、こいくちしょうゆの食塩相当量は100gあたり14.5gである[2]。うすくちしょうゆの食塩相当量は100gあたり16.0gであり[3]、表のとおりこいくちより高い数値になっている。
数字が語ること、語らないこと
この二つの数値は、それぞれの資料が示す製品の分析値であって、仕込みで使う食塩の配合量を直接示したものではない。成分表の食塩相当量と、しょうゆ情報センターが説明する仕込み時の食塩量は、指している対象が異なる情報として分けて読む必要がある。
なぜ「色は薄いのに塩は濃い」のか―色を抑える製法の帰結
色を抑えることと塩分の関係
しょうゆ情報センターの資料は、発酵と熟成をゆるやかにさせる食塩を、こいくちより約1割多く使用すると述べている[4]。色を淡く保つ工程で食塩を多く使う点は製法の説明として確認できるが、成分表の14.5gと16.0gという値がその配合比の結果として現れたものかどうかは、成分表の資料からは判断できない。
短絡的に結び付けない理由
製法の記述(仕込みの食塩を1割ほど多く使う)と、成分表の食塩相当量(14.5g・16.0g)は、出典も測定の対象も異なる別々の情報である。二つの数値の比率が近く見えたとしても、それを「1割増がそのまま成分表の数字に表れた」と説明する根拠は、本記事の参考資料のなかには見当たらない。色を抑える製法と、できあがった製品の塩分が高めであることは、どちらも事実として確認できるが、その間を数値で結ぶ説明は資料の射程を超える。
「色が薄い=塩気が弱い」という直感との違い
家庭では「色が薄いものは塩気も弱いはず」という直感が働きやすい。実際にはうすくちしょうゆの食塩相当量はこいくちしょうゆより高いため[2][3]、同じ量をそのまま使うと塩味が強く出る場合がある。
製法の話と成分表の話は、どちらも塩分に関わるため一続きに読まれやすい。しかし出典が異なる以上、両者は別々の事実として扱うしかない。
使い分け―素材の色を生かす料理にうすくちを
炊き合わせ・ふくめ煮に向く理由
うすくちしょうゆは、素材の色を美しく仕上げる炊き合わせ、ふくめ煮などの調理に使われる[4]。色や香りを抑えた性質が、野菜や魚など素材そのものの色を残したい料理に合っている。
こいくちが向く場面
こいくちしょうゆの調理適性について本記事の参考資料のなかには詳しい記述が見当たらないが、成分表上はうすくちより食塩相当量が低い[2]。色づきや照りを重視する煮物や照り焼きのように、色を抑える必要がない料理には、色の濃いこいくちを使う場面が考えられる。
使い切りの視点
- 素材の色を残したい炊き合わせ、ふくめ煮にはうすくちが向く[4]
- 色づきや照りを重視する煮物にはこいくちを検討する
- ラベルの「薄口」という表記だけで塩分の強さを判断しない
結論
濃口醤油と薄口醤油の違いは、色の淡さを目的とした製法上の調整(仕込みの食塩を約1割多く使い、発酵と熟成をゆるやかにする)に由来する[1][4]。一方で、成分表が示すこいくち14.5g・うすくち16.0gという食塩相当量は、製法の記述とは別の資料が示す分析値であり[2][3]、両者を「1割増の結果」として結び付ける根拠は本記事の参考資料のなかには見当たらない。色の淡さと塩分の強さは別の軸で決まる特性として捉えておくと、薄口を選ぶときや使う量を決めるときの判断がしやすくなる。素材の色を残したい煮物にはうすくちを、色づきを気にしない料理にはこいくちを、という区別から使い分けを始めるのが現実的である。
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参考文献
- しょうゆ情報センター(日本醤油協会)「製法」
https://www.soysauce.or.jp/knowledge/process - 文部科学省 食品成分データベース「こいくちしょうゆ」(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 食品番号17007)
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=17_17007_7 - 文部科学省 食品成分データベース「うすくちしょうゆ」(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 食品番号17008)
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=17_17008_7 - しょうゆ情報センター(日本醤油協会)「種類」
https://www.soysauce.or.jp/knowledge/kinds
