きび砂糖と黒糖はどちらもさとうきび由来だが、違いは原料ではなく糖蜜を分離するかどうかという工程の位置にある。食品表示基準は黒糖及び黒糖加工品を原料原産地表示の対象品目に個別に挙げ、黒糖の原材料の重量割合が最も高く50%以上のとき表示義務が生じる[1]。棚できび砂糖と黒糖を見比べる際は、この表示の有無がまず手がかりになる。
- 分蜜糖は結晶から糖蜜を遠心分離で除いた砂糖、含蜜糖は糖蜜を分けずに固めた砂糖で、原料の違いではない。
- 黒糖は含蜜糖の代表で、きび砂糖は糖蜜の多くを取り除くのが一般的なため、上白糖と黒糖の間に位置づけられることが多い。
- 黒糖や黒糖加工品は、黒糖の原材料が重量で最も多く50%以上のとき、原料原産地の表示義務が生じる。
この記事は「甘味料の図鑑|砂糖・糖アルコール・高甘味度をJECFA ADIで読む」(「世界の調味料 完全地図|分類・地域・味の科学で全体像をつかむ」の一部)の各論です。
分蜜糖と含蜜糖 — 砂糖を分ける軸
遠心分離で糖蜜を分ける分蜜糖
砂糖の製造は、さとうきびや甜菜から搾った汁を煮詰め、結晶化させるところから始まる。この結晶に付着した糖蜜(糖分とミネラルを含む茶色い液体)を遠心分離機にかけて分離したものが分蜜糖である。上白糖やグラニュー糖など、白く乾いた砂糖の多くはこの分蜜糖に分類される。糖蜜を取り除く工程が入るため、結晶は純度が上がり、色もほぼ透明に近づく。
糖蜜を残したまま固める含蜜糖
一方、搾り汁を煮詰めたあと、糖蜜を分離せずにそのまま冷やし固めたものが含蜜糖である。糖蜜にはミネラルや色素、香気成分が溶け込んでおり、これを取り除かないため、含蜜糖は褐色から黒褐色を帯び、独特の風味とコクを持つ。黒糖はこの含蜜糖の代表格であり、さとうきびの搾り汁をそのまま煮詰めて固めた砂糖として知られる。
分類を決めるのは原料ではなく工程
分蜜糖と含蜜糖という区分は、さとうきび由来か甜菜由来かという原料の違いではなく、糖蜜を分けるか残すかという工程上の選択で決まる。同じさとうきびを原料にしても、糖蜜を遠心分離すれば分蜜糖寄りの製品になり、分離しなければ含蜜糖になる。きび砂糖と黒糖の違いを考えるときも、まずこの軸で位置を確認すると整理しやすい。
含蜜糖と分蜜糖という言葉は専門書でしか見ない印象があるが、パッケージ裏の原材料表示を読み比べるだけでも、糖蜜を残しているかどうかの手がかりはつかめる。原料原産地表示のように法令が絡む場面ではなおさら、この軸を知っておくと表示の意味を読み違えにくい。この記事が追うのは糖蜜を分けるか残すかという工程と、そこに乗る表示制度のほうで、上白糖・グラニュー糖・三温糖まで並べた砂糖の種類の見取り図は別記事の側にある。
きび砂糖と黒糖、精製度のどこに位置するか
きび砂糖はさとうきび由来で精製度が高い側にある
きび砂糖は、さとうきびの搾り汁を煮詰めて作る点では黒糖と同じ原料から出発する。ただし煮詰める工程や結晶化のさせ方が異なり、糖蜜の多くを取り除いたうえで乾いた粒状に仕上げる製法が一般的とされる。見た目は薄茶色から茶色で、上白糖より色が濃いものの、黒糖ほど黒くはならない。精製度でいえば、上白糖と黒糖のあいだに位置する砂糖として扱われることが多い。
黒糖は糖蜜を分離しない工程で作られる
黒糖は、さとうきびの搾り汁を煮詰めたあと、糖蜜を分離する工程を経ずにそのまま型に流し込んで固める。搾り汁に含まれるミネラルや有機酸、香気成分がほぼそのまま残るため、黒褐色で粘り気のある質感になり、加熱による焦げの風味も加わる。きび砂糖と比べたときの色の濃さや風味の強さは、この糖蜜を残す工程の違いに由来する。
色や風味の違いは工程の途中経過を映す
きび砂糖と黒糖の色や風味の差は、原料の善し悪しではなく、煮詰めと結晶化のどの段階で製品として取り出すかという工程上の選択を映している。糖蜜を早い段階で分離すれば軽い甘さの砂糖になり、最後まで分離しなければ黒糖になる。両者のあいだにきび砂糖のような含みのある砂糖が位置すると理解すると、店頭で並ぶ茶色い砂糖の違いを整理しやすい。
食品表示基準が黒糖と黒糖加工品を書き分ける理由
原料原産地表示の対象品目としての黒糖及び黒糖加工品
食品表示基準の別表第十五は、原材料及び添加物に占める重量の割合が最も高い生鮮食品の割合が50%以上であるものを、原料原産地表示の対象として列挙している[1]。この別表のなかに黒糖及び黒糖加工品が個別の品目として挙げられており、対象となる原材料は黒糖の原材料と定められている[1]。加工食品の原材料表示のなかで、原産地まで書く義務がある品目として黒糖が名指しされていることになる。
表示義務を分ける重量割合の線引き
別表第十五の規定は、対象品目ごとに定められた原材料の重量割合が最も高く、かつその割合が50%以上であるときに原料原産地の表示義務を生じさせる仕組みになっている[1]。黒糖及び黒糖加工品の場合、この基準となる原材料は黒糖の原材料であり、黒糖の原材料が重量の半分以上を占める製品かどうかが表示義務の有無を分ける境界線になる[1]。逆にいえば、黒糖の原材料の比率がこの線を下回る配合の製品では、同じ基準による表示義務は生じない。
黒糖以外にも並ぶ対象品目
別表第十五が対象とする品目は黒糖及び黒糖加工品だけではない。乾燥きのこ類・乾燥野菜・乾燥果実(フレーク状又は粉末状にしたものを除く)、塩蔵したきのこ類・塩蔵野菜・塩蔵果実(農産物漬物を除く)、ゆで又は蒸したきのこ類・野菜・豆類及びあん(缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品を除く)、異種混合したカット野菜なども同じ別表に並ぶ[1]。列挙は(1)から(22)まで続き、緑茶及び緑茶飲料、もち、いり落花生、こんにゃく、素干魚介類や塩干魚介類、こんぶ巻といった品目が入っている[1]。黒糖はその八番目に置かれている[1]。
ここで見落としたくないのが、柱書の括弧の中身である。判定に使う原材料は原則として「重量の割合が最も高い生鮮食品」だが、いくつかの品目については何で判定するかが個別に名指しされている[1]。緑茶及び緑茶飲料は荒茶の原材料、もちは米穀、黒糖及び黒糖加工品は黒糖の原材料、こんにゃくはこんにゃくいも、こんぶ巻はこんぶ、という五つである[1]。二十二の品目のうち五つだけが特記されている形で、黒糖はその一つに数えられている。加工の段階を一つ遡ったところに判定の軸を置かないと、原産地を書く意味が薄れてしまう品目だと整理されたのだと読める。
なお別表第十五は、この一の項のほかに、農産物漬物、野菜冷凍食品、うなぎ加工品、かつお削りぶし、そして米飯類を巻く目的でのりを使ったおにぎりを、別の項として並べている[1]。五十パーセント以上という割合の条件が付いているのは一の項であり、これらは一とは別の項として置かれている[1]。
| 品目 | 対象となる範囲 | 割合の基準 |
|---|---|---|
| 乾燥きのこ類・乾燥野菜・乾燥果実 | フレーク状又は粉末状にしたものを除く | 重量割合が最も高く50%以上[1] |
| 塩蔵きのこ類・塩蔵野菜・塩蔵果実 | 農産物漬物を除く | 重量割合が最も高く50%以上[1] |
| ゆで又は蒸したきのこ類・野菜・豆類、あん | 缶詰・瓶詰・レトルトパウチ食品を除く | 重量割合が最も高く50%以上[1] |
| 異種混合したカット野菜 | ― | 重量割合が最も高く50%以上[1] |
| 黒糖及び黒糖加工品 | 対象原材料は黒糖の原材料 | 黒糖の原材料が最も高く50%以上[1] |
売り場でこの書き分けが意味すること
「黒糖」という表記の商品と「黒糖加工品」という表記の商品が並んでいるとき、後者は黒糖に他の原材料を加えて作られた加工食品を指す表記であり、原料原産地表示の対象という点では両方とも別表第十五に含まれる[1]。ただし黒糖の原材料が重量の半分に満たない配合の製品であれば、この規定による表示義務そのものが生じない[1]。パッケージの原材料表示欄を確認すれば、黒糖がどの位置にどれだけ使われている製品かを読み取る手がかりになる。
原料原産地表示というと輸入品を想像しがちだが、黒糖のように国内で作られる品目も対象に含まれている。表示の対象になるかどうかは海外産・国内産という区分ではなく、重量割合という数字で機械的に決まる制度だとわかる。
黒糖の微量成分は工程でどう残るか
アク引き処理という精製工程
日本調理科学会誌に掲載された沖縄産黒糖のシロップ調製に関する研究では、黒糖から良質なシロップを作る目的で、雑味やアクを取り除く卵白によるアク引き処理の条件が検討されている[2]。この研究によれば、アク引き処理に適正な糖液濃度は25%、卵白の添加量は2%であった[2]。処理によって糖液の雑質や濁りが取り除かれ、透明度が増したことも報告されている[2]。
研究では次の点が示されている。
- 適正な糖液濃度は25%、卵白添加量は2%[2]
- 処理後は雑質や濁りが減り、透明度が増す[2]
- 鉄・亜鉛は卵白側に比較的多く吸着される[2]
- 微量栄養成分は適度に糖液側に残存する[2]
- 産地の異なる試料間でも無機成分含量に大差はない[2]
鉄・亜鉛は卵白に、微量成分は糖液に残る
アク引き処理後の糖液と、卵白が凝固してできた残渣について無機成分を分析した結果、卵白への吸着量は試料によって差があったが、鉄や亜鉛は比較的多く卵白側に吸着される一方、微量栄養成分は適度に糖液側に残存したと報告されている[2]。アクを引く工程は、鉄や亜鉛のような特定のミネラルを選択的に取り除きながら、他の微量成分は糖液に残す働きを持つことになる。
産地が違っても保持傾向はほぼ同じ
産地の異なる黒糖試料でアク引き処理後の糖液を比較したところ、無機成分含量に大きな差はなく、有用な微量栄養成分が保持されていたことも確認されている[2]。官能検査では、アク引き処理によって苦味やアクが減り、なめらかな舌触りになったという結果も出ている[2]。黒糖に含まれる微量成分がどの程度残るかは、産地そのものよりも、シロップ調製のような後工程の扱い方に左右される側面があるとうかがえる。
料理での使い分け方
きび砂糖が向く場面
きび砂糖は黒糖ほど風味に癖がなく、上白糖に近い感覚で置き換えやすい砂糖である。焼き菓子やクッキー生地、煮物の下味など、砂糖の甘さは欲しいが素材の色や風味を大きく変えたくない料理に向く。含蜜糖特有のコクをほのかに加えたいときにも扱いやすい。
黒糖が向く場面
黒糖は加熱すると独特の香ばしさとコクが際立つため、黒糖蜜や黒糖ゼリー、豚肉の煮込みのような黒糖そのものの風味を主役にしたい料理に向く。糖蜜由来の色と香りが強いため、素材の色を生かしたい料理や淡い味付けの料理には不向きになりやすい。
代用するときの目安
きび砂糖を黒糖に、あるいはその逆に置き換えるときは、甘さだけでなく色と香りの強さが変わる点を考えておく必要がある。一般的には、黒糖をきび砂糖に置き換えると仕上がりの色は薄くなり、風味も穏やかになりやすい。逆にきび砂糖を黒糖に置き換えると、想定より色濃く、香りの強い仕上がりになりやすい。
- 甘さの強さよりも色と香りの変化を優先して考える
- 焼き菓子は色の変化が仕上がりに直結しやすい
- 煮込み料理は風味の強さより煮詰め時間で調整しやすい
結論
きび砂糖と黒糖の違いは、原料ではなく糖蜜を分離するかどうかという工程上の位置に集約される。きび砂糖は糖蜜の多くを取り除いた含みの少ない砂糖であり、黒糖は糖蜜を残したまま固めた含蜜糖の代表である。食品表示基準は黒糖及び黒糖加工品を原料原産地表示の対象品目として個別に挙げており、黒糖の原材料が重量の半分以上を占めるかどうかが表示義務の境界線になる[1]。黒糖に含まれる微量成分がどの程度残るかは、産地そのものよりもシロップ調製のような後工程の扱い方に左右される側面があり、アク引き処理では鉄や亜鉛が卵白側に移る一方で他の微量成分は糖液に残ることが報告されている[2]。棚の砂糖を選ぶときは、原材料表示にある黒糖の位置と割合、そして「黒糖」か「黒糖加工品」かの表記を確かめれば、風味と用途を見極めやすい。
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参考文献
- 食品表示基準 — 原料原産地表示の対象(黒糖及び黒糖加工品)
https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010 - 沖縄産の黒糖シロップに関する研究(日本調理科学会誌)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/37/1/37_15/_article/-char/ja
