食酢の表示ルールはどこにあるか|旧告示の廃止と、規約が残した部分

食酢の表示ルールはどこにあるか|旧告示の廃止と、規約が残した部分

食酢の名称区分は食品表示基準の別表に定義があり、醸造酢とは穀類や果実などを原料としたもろみを酢酸発酵させたものを指す[2]。かつて個別に存在した食酢の品質表示基準は、同基準の制定にともなう廃止対象の告示群に含まれている[1]。「特選」「本造り」のような優良性を示す表示は、国の基準ではなく食酢の表示に関する公正競争規約が規律する[3]。輸入食材店で酢のラベルを見比べるとき、この二つの文書のどちらが根拠かを分けて読むと理解が早い。

この記事の結論
  • ラベルの「醸造酢」「合成酢」という名前の区分は、国の表示ルール(食品表示基準)に定義がある。
  • 醸造酢は、穀類・果実・野菜・蜂蜜などを原料としたもろみ、またはこれにアルコールや砂糖類を加えたものを酢酸発酵させて作る。
  • 「特選」「本造り」のような言葉は国の等級ではなく、業界の公正競争規約が扱い、協議会の承認が要る。

この記事は「世界の酢 完全ガイド|原料と製法で読む酸味の地図」の各論です。

目次

食酢の名称の使い分けを決めている文書を特定する

「醸造酢」「合成酢」といった名称の使い分けは、感覚や業界の慣習ではなく、特定の府令に根拠を持つ。まず、どの文書が今その根拠になっているかを確認しておく。

表示の基準は内閣府令の別表にある

現在、食酢の区分を定義しているのは食品表示基準という内閣府令である。その別表には「食酢」の項があり、食酢とは醸造酢及び合成酢をいうと定義されている[2]。さらに醸造酢については、穀類(酒かす等の加工品を含む)、果実(果実の搾汁、果実酒等の加工品を含む)、野菜(野菜の搾汁等の加工品を含む)、その他の農産物(さとうきび等及びこれらの搾汁を含む)もしくは蜂蜜を原料としたもろみ、又はこれにアルコールもしくは砂糖類を加えたものを、酢酸発酵させて製造したものとされる[2]。ここまでが今回確認できた条文の範囲であり、この一号に続く号(二号以降)は今回確認した範囲には含まれていない。

「品質表示基準」という言葉が示していたもの

食品表示基準という一つの府令に定義がまとまっている、という現状は、逆に言えば以前は事情が違っていたことを示唆する。実際、食品表示基準の附則には、この府令の制定にともなって廃止された府令・告示の一覧が置かれている[1]。「品質表示基準」という語は、この一覧に出てくる旧来の告示を指す言葉として使われてきたものであり、食酢の名称の根拠を探す際には、まず現行の府令(食品表示基準)を見るべきで、廃止済みの告示名で検索しても実体には行き着かない。古い告示名のまま調べると、条文の現在地を見誤りやすい。

かつての食酢品質表示基準が、廃止対象に列挙されている

食品表示基準の附則第二条は「次に掲げる府令及び告示は、廃止する」という書き出しで始まり、複数の府令・告示を名指しで列挙している[1]。ここで、旧来の個別基準がどのように整理されたのかを見ておく。

附則第二条が廃止した告示群

附則第二条が廃止対象として挙げる府令・告示は一号から五十八号まであり、その冒頭の四点は次のとおりである。

  • 食品衛生法第十九条第一項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令(平成二十三年内閣府令第四十五号)[1]
  • 食品衛生法第十九条第一項の規定に基づく乳及び乳製品並びにこれらを主要原料とする食品の表示の基準に関する内閣府令(平成二十三年内閣府令第四十六号)[1]
  • 容器包装の面積により表示を省略することができる食品を定める件(昭和四十五年厚生省告示第百八十号)[1]
  • 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の一部を改正する法律附則第六条第一項の規定に基づき、加工食品品質表示基準を定める件(平成十二年農林水産省告示第五百十三号)[1]

いずれも、食品衛生法系統とJAS法系統に分かれて存在していた表示ルールを一本化する対象として名前が挙がっている。

食酢の個別基準は、三十四号として名指しされている

附則第二条の列挙は上の四点で終わらない。五号以降も品目別の告示が続き、最後は五十八号の「即席めん類品質表示基準の全部を改正する件」(平成二十一年農林水産省告示第四百八十七号)まで並ぶ[1]。

食酢の個別基準は、この一覧の三十四号に置かれている。条文には「三十四 食酢品質表示基準を定めた件(平成十二年農林水産省告示第千六百六十八号)」とあり[1]、食酢の表示を定めていた告示が名指しで廃止対象に並べられていることが確認できる。つまり「食酢品質表示基準」という独立した文書は現在存在せず、その内容にあたる名称区分は食品表示基準の別表へ移された[2]。品目横断的な加工食品品質表示基準(平成十二年農林水産省告示第五百十三号)が同じ一覧に入っていることと合わせると[1]、横断的な基準と品目専用の基準の両方が同時に畳まれたことになる。

前後の号をたどると、調味料の個別基準がひと固まりで並んでいるのが分かる。三十一号がみそ(平成十二年農林水産省告示第千六百六十四号)、三十二号がウスターソース類(同第千六百六十六号)、三十三号がドレッシング及びドレッシングタイプ調味料(同第千六百六十七号)、そして三十四号の食酢を挟んで、三十五号が風味調味料(同第千六百六十九号)、三十六号がめん類等用つゆ(同第千六百七十号)である[1]。いずれも平成十二年の農林水産省告示で番号もほぼ連続しており、調味料の品目別基準が同じ時期に整えられ、同じ府令によってまとめて畳まれた経緯が読み取れる。

しょうゆの品質表示基準は、少し離れた五十六号に「しょうゆ品質表示基準の全部を改正する件(平成十六年農林水産省告示第千七百四号)」として並んでいる[1]。番号が飛んでいるのは扱いの軽重ではなく、平成十六年に全部改正されたぶん、制定年の順に並ぶ一覧の後ろへ回っただけである。

この並びを知っておくと、検索で古い告示名に行き当たったときの判断がつく。「食酢品質表示基準」を現行の根拠として示している解説は、食品表示基準の施行前に書かれたものか、施行後に引用を更新していないもののどちらかであり、いま酢のラベルを読むための根拠としては使えない。名称の定義を確かめたいときは、告示名ではなく食品表示基準の別表に当たるのが確実である[2]。

現行の定義は府令の別表のどこにあり、何で線を引くか

「食酢」は総称。醸造酢は三つの要素で決まる食品表示基準の別表に沿って、食酢を醸造酢と合成酢に分け、醸造酢の定義を原料・工程・加えてよいものの三つの要素に分解した構造図。構造「食酢」は総称。醸造酢は三つの要素で決まる酢酸発酵という工程を経ているかどうかが、合成酢との分かれ目になる。食酢食品表示基準の別表「醸造酢及び合成酢をいう」醸造酢原料穀類・果実・野菜・その他の農産物・蜂蜜を原料としたもろみ工程もろみを酢酸発酵させる加えてよいものアルコールもしくは砂糖類合成酢醸造酢と並ぶもう一つの系統。本記事で確認した条文は醸造酢の一号までで、合成酢の中身は確認範囲の外下位区分は未確認穀物酢・果実酢・米酢・米黒酢を、原料の使用量でどこまで区切るかという条文は、今回確認した範囲に含まれていない。数値は示さない。出典: 食品表示基準 — 食酢の区分の定義(別表)図解:ajimuse.com

現行の定義がどのような要素の組み合わせで成り立っているかを、確認できる範囲で分解しておく。

「食酢」は醸造酢と合成酢の総称

食品表示基準の別表では、食酢という項の中に「食酢 醸造酢及び合成酢をいう」という定義が置かれている[2]。つまり「食酢」は単一の製品名ではなく、製法の異なる二つの系統(醸造酢と合成酢)を束ねる上位の分類名である。ラベルに「食酢」とだけ書かれている製品を見たとき、それは醸造酢か合成酢のどちらかに分類される、という前提を持っておくと読み方が安定する。

醸造酢を作る三つの要素

醸造酢の定義を分解すると、原料(穀類、果実、野菜、その他の農産物、蜂蜜のいずれか、またはこれらの組み合わせ)、工程(もろみを酢酸発酵させる)、そして任意の追加原料(アルコールもしくは砂糖類を加えてよい)という三つの要素で構成されている[2]。線引きの軸は原料の種類そのものであり、酢酸発酵という工程を経ているかどうかが合成酢との分岐点になっている。

穀物酢・果実酢・米酢・米黒酢の下位区分について

補助キーワードに挙がる穀物酢、果実酢、米酢、米黒酢といった下位区分は、原料の使用量によって線引きされる、という説明を家庭料理の文脈でよく見かける。今回確認した範囲には、醸造酢の一号にあたる原料の列挙までは含まれているものの、穀類や米の使用量を具体的な数量でどこまで区切るかという条文は含まれていない。もっともらしい数値をここで示すことは避け、下位区分ごとの使い分けは原料使用量に関する条文を別途確認したうえで扱うべき論点として位置づけておく。

業界の公正競争規約が担う、優良性表示の規律

「特選」「本造り」は、協議会の承認を経て使う言葉食酢の公正競争規約が「特選」「本造り」等の優良性表示を、規約本体での禁止、施行規則での承認の義務づけ、承認を経た表示という3段で扱う流れを示した図。流れ「特選」「本造り」は、協議会の承認を経て使う言葉原料比率や熟成期間の数値ではなく、根拠を示して承認を得る手続で規律される。01規約が禁じる根拠なく用いて、品質が特に優良と誤認されるおそれのある表示02施行規則が求める公正取引協議会の承認を受けなければならない03承認を経て表示法令上の等級ではなく、業界の規約に基づく言葉国の基準との関係「特選」「本造り」の語は、食品表示基準の食酢の規定には無く、公正競争規約と施行規則の側で扱われている。出典: 食酢の表示に関する公正競争規約および施行規則(全国公正取引協議会連合会)/食品表示基準 — 食酢の区分の定義(別表)・食酢の表示禁止事項(別表第二十二)図解:ajimuse.com

名称そのものの根拠が府令にあるとしても、それだけでは「特選」や「本造り」といった言葉の扱いは説明できない。ここで登場するのが業界団体による自主規約である。

規約の目的と対象

食酢の表示に関する公正競争規約は、不当景品類及び不当表示防止法の規定に基づき、食酢並びに粉末醸造酢及び粉末合成酢(規約上「食酢等」と総称される)の表示に関する事項を定める規約である[3]。目的として、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択と、事業者間の公正な競争を確保することが掲げられている[3]。規約における「食酢」「醸造酢」の定義も、穀類・果実・野菜・その他の農産物もしくは蜂蜜を原料としたもろみを酢酸発酵させる、という食品表示基準の定義と同じ骨格を共有している[3][2]。

「特選」「本造り」のような言葉がどちらの管轄か

食品表示基準が名称区分(醸造酢・合成酢)を定めるのに対し、「特選」「本造り」の語は食品表示基準が食酢に定める表示禁止事項(別表第二十二)には無く[2]、これらの言葉は公正競争規約の第7条第7号と施行規則の第5条が扱っている[3]。規約は「特選」「本造り」「本醸造」等の文言について、根拠なく用いることで品質が特に優良であると誤認されるおそれのある表示を禁止したうえで、施行規則の側で「公正取引協議会の承認を受けなければならない」と定めている[3]。ここで効いているのは原料比率や熟成期間のような数値の線引きではなく、根拠を示して承認を得るという手続そのものである。調味酢のラベルでは「特選」の文字だけで品質を判断しがちだが、その言葉の根拠が法令の等級ではないと分かると、見る場所が変わってくる。

名称は府令、優良性の言葉は規約という二層構造

ここまでの内容を並べると、食酢のラベルには性質の異なる二種類の情報が同居していることが見えてくる。

二層を並べて見る

項目規定する文書根拠
醸造酢・合成酢の名称区分食品表示基準(内閣府令)別表[2]
食酢品質表示基準(平成十二年農林水産省告示第千六百六十八号)食品表示基準の附則第二条 三十四号で廃止[1]
「特選」「本造り」等の優良性表示食酢の表示に関する公正競争規約(承認制)[3]

上の表が示す通り、「これは醸造酢か合成酢か」という名称の層は国の府令が担い、「これは特選と呼べるほど良いものか」という優良性の層は業界団体の自主規約が担う。両者は同じラベルの上に並んで印刷されているが、根拠となる文書は別であり、片方が消えても他方の規律は続く。

ラベルの読み方と、今の制度の位置

制度の場所が分かったところで、実際のラベルをどう読めばよいかに戻る。

名称表示と優良性表示を分けて確認する

ラベルを読むときの手順は、次の二段階に分けると整理しやすい。

  • 表示された名称が「醸造酢」か「合成酢」かをまず確認する。この区分は食品表示基準の定義に基づく[2]
  • 「特選」「本造り」等の言葉が添えられている場合は、それが法令上の等級ではなく、業界の公正競争規約に基づき、協議会の承認を経て表示される言葉だと踏まえて読む[3]

この二段階を意識するだけで、法令由来の情報と業界基準由来の情報を混同せずに読める。

結論

食酢のラベルを読み解く出発点は、名称(醸造酢・合成酢)の根拠が食品表示基準という一つの内閣府令にあり[2]、かつて分かれていた個別の品質表示基準はその制定にともなう廃止対象に含まれていた、という経緯を知ることにある[1]。一方で「特選」「本造り」といった言葉は、食品表示基準の食酢の規定には無く[2]、業界団体の公正競争規約の側で扱われている[3]。廃止された個別基準は附則第二条の三十四号「食酢品質表示基準を定めた件(平成十二年農林水産省告示第千六百六十八号)」として名指しされており[1]、みそ・ウスターソース類・ドレッシング・風味調味料といった近い品目の基準が、その前後の号にまとめて並んでいる[1]。調味料の表示ルールが品目ごとにばらばらの告示で置かれていた時代から、一つの府令に集約された時代へ移ったことが、この並びからそのまま読み取れる。この二層を分けて読めるようになると、どの言葉が誰の責任で書かれているかが見えてくる。酢のラベルは、まず名称欄で醸造酢か合成酢かを確認し、その次に優良性の言葉を業界の自主基準として距離を置いて読む、という順序で見るとよい。

参考文献

  1. 食品表示基準 — 附則第二条(次に掲げる府令及び告示は、廃止する)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010
  2. 食品表示基準 — 食酢の区分の定義(別表)・食酢の表示禁止事項(別表第二十二)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010
  3. 食酢の表示に関する公正競争規約および施行規則(全国公正取引協議会連合会)
    https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/d02_H_su.pdf

この記事を書いた人

AJIMUSE Lab は、世界の調味料メディア AJIMUSE をつくっている編集ラボです。Codex(国際食品規格)、EU の規則と原産地呼称の登録簿、国際オリーブ理事会の規格、日本の JAS 規格と食品成分表、米国農務省やインド香辛料庁の資料、査読論文——本国の規格や公的機関の資料を中心に、一次資料を原典で読むことを出発点にしています。現地の言葉で書かれた規格や資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字や固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と記事のつくりかたは運営者情報にまとめています。

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