味噌の表面が黒くなるのは、味噌そのものを構成する成分同士が起こす着色であって、腐敗ではない。日本醸造協会誌の論考は味噌の色を、成因・表面色の測定と表示法・醸造工程における着色・表面変色とその防止に分けて整理しており[1]、表面の変色は独立した項目として扱われてきた。表面に白く現れる物質は、これとは成因の異なる別の現象として切り分ける必要がある。冷蔵庫で見つけた味噌の色や白いものを見分ける際の起点になる。
- 味噌が保存中に黒ずむのは、味噌に含まれるアミノ酸と糖が反応して褐色の物質ができるためである。
- 白い点や膜は黒ずみとは成因が別の現象で、見た目だけでは正体を決められないため、色の変化と切り分けて扱う。
- 置き場所は冷蔵・冷凍など温度の低い所を選び、直射日光を避け、表面が空気に触れる時間や面積を必要以上に増やさない。
この記事は「「醤(ひしお・ジャン)」とは何か|東アジア調味料の母体を知る」の各論です。
味噌の変化を「色」と「表面に出るもの」に分けて考える
色が濃くなることと、物質が新たに現れることは別の現象
味噌を長く保存していると、表面の色が黒っぽく沈んでいく場合と、白っぽいものが点在したり膜のように広がったりする場合がある。この二つは見た目こそ似た「変化」として語られやすいが、成因を分けて考える必要がある。色の変化は味噌そのものを構成する成分同士の反応によって進むのに対し、表面に新たに現れる物質は、味噌内部の反応とは別に、表面という条件のもとで生じるものである。日本醸造協会誌に掲載された「味噌の色」という論考も、色の成因と表面変色を並べて整理しており[1]、学術的にも両者は別のテーマとして扱われてきた。
読者がまず切り分けるべき二つの視点
家庭で味噌の状態に迷ったとき、最初に立てる問いは「色が変わったのか、それとも何かが新たに出てきたのか」という点である。色が黒っぽく沈む変化は時間の経過とともに徐々に進む性質のもので、急に現れるものではない。一方、白いものは比較的短い期間でも目に付くことがあり、見え方も点状か面状かで異なる。この違いを最初に切り分けておくと、以降に説明する成因の整理が読みやすくなる。
保存中の味噌は、色が変わっただけなのか何かが生えてきたのか、見た目では区別がつきにくい。学術資料の整理に沿って現象を分けて見れば、無用な廃棄を減らせる。
味噌の色の成因と醸造工程中の着色、そして経時的な黒変化
醸造工程で決まる色の土台
味噌の色は、仕込みの段階ですでに方向性が決まり始めている。日本醸造協会誌の論考は、食品の色を感覚的にではなく数値的に表そうという試みの中で、味噌がその最初の対象であったかもしれないと紹介している[1]。同論考は色の成因、表面色の測定と表示法、醸造工程における着色までを一つの中で整理しており、色は熟成が進む前の工程からすでに形成され始めていることがうかがえる。原料の大豆や米に含まれる成分の組み合わせや、麹による分解の進み方が、その後の色の濃さに関わってくる。
メイラード反応による経時的な黒変化
出荷後、保存期間中に進む色の濃化は、味噌に含まれるアミノ酸と糖が反応して褐色の物質を生じることによる。日本醸造協会誌の論考は、味噌の色について成因から表面変色の防止までを通して整理した解説であり、戦後の多くの研究をまとめたものとして書かれている[1]。なお、この反応の一般的な呼び名やその由来については、本記事が参考にした範囲には記述が無いため触れない。
黒変化を促す要因
この反応の進み方には、いくつかの条件が関わっている。
- 着色は醸造工程の中でも進むが、それとは別に「表面変色」が独立した項目として整理されている[1]
- 進行の速さを温度・保存期間・光の条件ごとに数値で比較した記述は、本記事が参考にした範囲には見当たらない
黒くなった味噌自体は、味噌由来の成分同士が起こす現象であり、日本醸造協会誌の論考が「表面変色とその防止」を研究対象として扱ってきたことも[1]、これが異物混入のような異常事態ではなく、品質として管理されてきたテーマであることを裏付けている。
表面変色は独立した研究領域として測定・防止まで整理されてきた
日本醸造協会誌における体系化
味噌の表面に生じる変色は、単発の報告ではなく体系立てて整理されてきたテーマである。「味噌の色」という論考は、色の成因、表面色の測定と表示法、醸造工程における着色、表面変色とその防止までを一つの論考の中でまとめており[1]、これは戦後に積み重ねられてきた研究を著者が読者のために整理し直したものとされる[1]。
表面色の測定と表示法という視点
同論考が扱う範囲には、色を感覚的にではなく数値的に表す測定・表示法が含まれている[1]。ただし抄録の段階では、具体的な測定値や基準値そのものは示されていない。数値化がテーマとして成立してきたこと自体に、色の管理が経験則だけにとどまらない領域だったことがうかがえる。
「防止」という研究の視点が意味すること
この論考が「表面変色とその防止」までを扱っている点から、変色が単なる見た目の問題ではなく、品質管理の対象として位置づけられてきたことがわかる。防止法が研究対象になるということと、変色イコール食用不可ということは別の話である。抄録からは具体的にどのような防止法が示されているかまでは確認できないため、防止法の内容そのものを断定しない。
白いつぶつぶと膜状のもの、見分け方の限界
点在するものと面で広がるもの
保存中の味噌の表面には、点在する粒状のものが見られる場合と、膜のように面を覆う場合がある。見た目の違いは家庭でも比較的わかりやすく、点状か面状かという観点は判断の手掛かりになりやすい。ただし、それぞれの化学的な成因やどの成分・微生物に由来するかについて、今回参照した学術資料の抄録では詳細が示されていない。
参照した学術資料が扱う範囲と扱わない範囲
日本醸造協会誌の論考は、色の成因や表面変色の測定・防止までを扱う一方[1]、色以外の白色の物質について具体的な成因を述べた部分は抄録からは確認できない。「みその商品知識 (I)」も、全国1,600以上の工場から供給される銘柄の品質特性とその成因を整理しているが[3]、白色物質そのものの同定には触れていない。断定できない事柄を断定しないことも、正確さを保つうえでは必要な態度である。
白いものを見つけても、見た目だけでは結論を出せない。参照した資料で言えることと言えないことを分けて扱う。
冷蔵・冷凍・空気を断つ保存と、食品衛生法上の位置づけ
温度を下げることの効果
冷蔵や冷凍のように温度を下げる保存が色の濃化を抑える方向に働く、という説明は広く行われている。ただし本記事が参考にした範囲には、温度帯ごとの進行速度も、冷蔵と冷凍の差を数値で比較したデータも示されていない。ここでは向きだけを述べ、どの程度効くかは書かない。
光を遮ることの効果
光を避ける扱いも同じように広く行われているが、その効果を示した記述は本記事の参考資料のなかには見当たらない。温度と同様、ここでも程度の大きさには踏み込まない。
空気との接触を減らすことについて分かっている範囲
味噌の表面にラップを密着させる、あるいは容器の空気を抜くといった方法は、家庭で広く行われている。ただし、今回参照した一次情報の抄録には、空気との接触そのものが黒変化や表面に出る物質にどの程度影響するかという具体的な記述は見当たらない。日本醸造協会誌の論考が「表面変色とその防止」を研究対象としていることから[1]、表面という空気に接する部分が変化の起こりやすい場所であること自体は、研究の前提になっていると考えられる。
| 保存条件 | メイラード反応の進み方(出典に基づく整理) |
|---|---|
| 温度が高い環境 | 一般に進行が早まる方向とされる(本記事の参考資料に数値の記述なし) |
| 保存期間が長い | 一般に進行が早まる方向とされる(同上) |
| 直射日光が当たる環境 | 一般に進行を促すとされる(同上) |
| 温度を下げた保存(冷蔵・冷凍) | 上記の逆として、進行を抑える方向に整理できる |
食品衛生法における規格・基準の位置づけ
保存方法を考えるうえで、法令がどこまで基準を定めているかも整理しておく必要がある。食品衛生法第十八条は、内閣総理大臣が公衆衛生の見地から、器具若しくは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定めることができると規定している[2]。ここで対象になっているのは容器の側であって、中身の食品ではない。
条文を引くなら、食品そのものを対象にしているのは第十三条である。第一項は、内閣総理大臣が公衆衛生の見地から、食品衛生基準審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又はその成分につき規格を定めることができる、と述べている[2]。
この一文には、読み手にとって大事な条件が二つ入っている。一つは名宛人で、対象は「販売の用に供する食品」である[2]。流通に乗せる段階に向けられた条文であって、買ってきたものを家庭の台所でどう置くかを縛るものではない。もう一つは語尾で、「定めることができる」と書かれている[2]。基準や規格を置く権限を与えた規定であり、すべての食品について必ず基準があるという意味ではない。
第二項は、前項の規定により基準又は規格が定められたときは、その基準に合わない方法により食品を製造し、加工し、使用し、調理し、若しくは保存し、販売してはならない、という形になっている[2]。禁止が働くのは基準が定められている場合であって、条文がいきなり保存の方法を縛っているわけではない。なお、既に触れた器具や容器包装に関する規格は第十八条の側にあり[2]、食品そのものを対象にした第十三条とは別の条に置かれている。
みそについて保存の方法の基準が実際に置かれているかどうかは、本記事では確かめていない。確かめずに「基準がある」とも「置かれていない」とも書けないので、ここでは条文がどういう構えになっているかまでを示すにとどめる。家庭での置き方を決めるときに手がかりになるのは、法令の条文よりも、ここまで見てきた色の変化と表面に出るものの区別のほうである。ただし、今回参照した条文の抜粋が対象としているのは「器具又は容器包装」であり、味噌そのものの成分や保存状態について具体的な規格値を定めているかどうかは、この抜粋からは確認できない。規格が無い事項について規格があるかのように書くことは避け、確認できる範囲を確認できる範囲として扱うほかない。
冷蔵と冷凍のどちらが良いかを数字で比較したくなるが、参照した資料に無い数字を当てはめるわけにはいかない。分かっている方向性だけを積み重ねて判断材料にするしかないというのが、今の実感である。
結論 — 家庭での置き方
ここまでの整理から言えることは、まず色の変化と表面に出る物質を別の現象として扱う点、次に色の変化については温度・保存期間・光という三つの促進要因が出典で確認できる点、そして表面に出る物質の化学的な同定や具体的な防止法の細部については、今回参照した一次情報だけでは断定できない点である。家庭での置き方としては、温度の低い場所を選び、直射日光を避け、表面が空気にさらされる時間を短くするという、出典から導ける方向性に沿った対応が現実的である。
- 温度の低い場所(冷蔵・冷凍)で保管し、反応の進みを抑える方向で扱う
- 直射日光の当たらない場所に置く
- 表面が空気に触れる時間や面積を必要以上に増やさない
色が変わった味噌をすぐに廃棄するかどうかは、変色が味噌由来の成分同士の反応であるという整理を踏まえたうえで、見た目や匂いなど個別の状態を見て判断する事柄であり、本記事が一律の基準を示すものではない。出典に書かれている範囲と書かれていない範囲は、分けて扱う。
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参考文献
- 味噌の色(日本醸造協会雑誌)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/67/6/67_6_498/_article/-char/ja - 食品衛生法(昭和22年法律第233号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233 - みその商品知識 (I)(日本醸造協会誌)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/89/10/89_10_762/_article/-char/ja
