だし醤油は、商品名に「しょうゆ」とあっても、パッケージの一括表示欄の「名称」には「しょうゆ」と書けない[1]。これは食品表示基準が定める「しょうゆ」の定義が、もろみを発酵・熟成させて得た清澄な液体調味料に限られ、だしを加えた時点でその枠から外れるためである[1][2]。「しょうゆ加工品」は業界で使われる呼び名で、食品表示基準ができる前の平成23年に日本醤油技術センターらがまとめた『テキスト つゆ類の表示』は、だし醤油をこの中に含めて「だししょうゆなどのしょうゆ加工品」と書いている[3]。輸入食材店や量販店でだし醤油を手に取ったとき、ラベルのどこを見れば正体が分かるのかを、条文と規約の役割分担から整理する。
- だし醤油は商品名に「しょうゆ」とあっても、一括表示の名称欄には「しょうゆ」と書けない。
- しょうゆの定義はもろみを発酵・熟成させた清澄な液体調味料で、だしを加えたものはこの枠に当てはまらない。
- 名称欄が「しょうゆ」でなければ、だしなどを加えた調味料の目安で、「しょうゆ加工品」は食品表示基準の条文でなく業界ルール側の語である。
この記事は「「醤(ひしお・ジャン)」とは何か|東アジア調味料の母体を知る」の各論です。
だし醤油の「名称」欄はしょうゆではない
だし醤油は商品名として「だし醤油」「〇〇しょうゆ」と大きく印字されていても、義務表示である一括表示枠の「名称」欄に「しょうゆ」と書くことはできない[1]。商品名と名称欄が一致しないという事実だけを見ると誤表示のように感じるが、これは商品名(ブランド名)と法令上の名称表示が別の役割を持つために起きる現象である。
一括表示欄で見る「名称」
パッケージ前面の商品名は、購買時の識別のために事業者が自由に付けられる呼称である。一方、一括表示枠の「名称」欄は食品表示基準に基づく義務表示であり、原材料や製法が定義に合致するかどうかで機械的に決まる[1]。だし醤油の場合、鰹節・昆布・煮干しなどのだしや、牡蠣などの動物性の原料が加わっているため、この定義に当てはまらず、名称欄に「しょうゆ」とは書けない[1]。なお、定義には「砂糖類(砂糖、糖蜜及び糖類をいう。)、アルコール等を補助的に加えたものを含む」という括弧書きがあり、砂糖を補助的に加えただけでは「しょうゆ」の定義から外れない[1]。
商品名と名称表示のズレ
パッケージの目立つ位置に「〇〇しょうゆ」という商品名が印字されていても、しょうゆの定義に当てはまらない食品の名称欄に「しょうゆ」と表示することは、食品表示基準が禁じている(第3条の表「名称」の2と別表第五)[1]。この二重構造を知らずに買うと、成分表示欄を見て初めて「しょうゆではなかったのか」と戸惑う場面が生まれる。一般に家庭で調味料を選ぶ際は、商品名ではなく名称欄の文字列を先に確認する習慣を持つと、この種の戸惑いを避けやすい。
だし醤油は決して「まがい物のしょうゆ」ではなく、しょうゆに別の原材料を加えて設計し直した加工品であるというだけの話であり、この線引きを知っておくと表示への違和感が減る。
食品表示基準における「しょうゆ」の定義
食品表示基準の別表は、「しょうゆ」を、大豆または大豆及び麦・米等の穀類にこうじ菌を培養したしょうゆこうじ、あるいはこれに米の加工物を加えたものに、食塩水または生揚げを加えた「もろみ」を発酵させ、熟成させて得られた清澄な液体調味料と定めている[1]。この条文には、製造工程でセルラーゼ等の酵素を補助的に使用したものを含む「本醸造方式によるもの」という語も併記されている[1]。
もろみを発酵・熟成させた清澄な液体調味料という条件
条文の骨格は、原料(大豆・麦・米等の穀類・食塩水)、工程(こうじ菌による培養、もろみの発酵・熟成)、性状(清澄な液体調味料であること)の三点に集約される[1]。この三点をすべて満たすものだけが「しょうゆ」と名乗れる。だしを加える工程は、この条文のどこにも規定されていない(砂糖類・アルコール等は、補助的に加える範囲なら括弧書きで定義に含まれる)[1]。
だしを加えると定義から外れる理由
だし醤油は、しょうゆをベースにしつつ、鰹節・昆布・煮干しなどのだし成分や、牡蠣などの動物性原料、みりん、砂糖といった調味料を加えて作られる。食品表示基準の定義は、もろみを「発酵させ、及び熟成させて得られた清澄な液体調味料」という工程までしか書いておらず、完成後にだしを加える工程は含まれていない[1]。したがって、だしを加えた時点で条文上の「しょうゆ」からは外れ、名称欄の表記も変わる。
| 区分 | 定義される場所 | 名称欄の表記 |
|---|---|---|
| しょうゆ | 食品表示基準 別表(もろみの発酵・熟成)[1] | しょうゆ |
| だし醤油等の「しょうゆ加工品」 | 食品表示基準の定義には該当しない(だし等を加えたもの)[1] | 「しょうゆ」とは書けない[1] |
だしを加えるという一手間が、法令上はしょうゆの定義域を出る操作にあたるという構造を知ると、原材料表示を読む視点が一段変わる。
「しょうゆ加工品」という語はどこにあるのか
ここで確認しておきたいのは、「しょうゆ加工品」という語そのものの所在である。今回参照した食品表示基準の別表の該当箇所には、「しょうゆ加工品」という文言は現れない[1]。一方、しょうゆの表示に関する公正競争規約及び施行規則の該当箇所には、「しょうゆ、しょうゆ加工品及びめん類等用つゆに関する容器包装識別表示業界ガイドライン」という形で「しょうゆ加工品」の語が明記されている[2]。
府令ではなく業界の公正競争規約の語
「しょうゆ加工品」という呼称は、食品表示基準(内閣府令)の条文そのものではなく、公正競争規約という業界の自主ルールの側で使われている語である[2]。公正競争規約は、日本醤油協会や全国醤油工業協同組合連合会が関わる業界ガイドラインと連動して運用される仕組みであり[2]、法令の定義とは別の階層に位置づけられる。
実測すると府令側には出てこない
今回参照した食品表示基準の別表の該当箇所を通読しても、「しょうゆ加工品」という語は一度も出てこず、条文が定義しているのはあくまで「しょうゆ」という語だけである[1]。食品表示基準が決めているのは、だしを加えたものが「しょうゆ」の定義に当てはまらず、名称に「しょうゆ」と書けないところまでであり、「しょうゆ加工品」という呼び名そのものを定めているわけではない[1]。この語を府令由来と説明する記述を見かけたら、条文そのものを一度確認する価値がある。
めんつゆ・白だしとの境目
だし醤油とめんつゆ、白だしはいずれも「しょうゆ+だし」という組み合わせを持つ調味料であり、店頭でも並べて売られていることが多い。食品表示基準の別表には、めんつゆや白だしという名称区分は置かれていない。ただしこれは、最初から存在しなかったという話ではない。
府令の中で「めん類等用つゆ」という語が現れるのは一箇所だけで、それは別表ではなく附則第二条の廃止対象の一覧である[1]。条文には「三十六 めん類等用つゆ品質表示基準を定めた件(平成十二年農林水産省告示第千六百七十号)」とあり[1]、かつては品目専用の告示が存在し、食品表示基準の制定にともなって名指しで廃止されたことが確認できる。つまり、めん類等用つゆは旧告示としては在ったが、府令の別表へは引き継がれなかった。
この扱いは一律ではない。同じ附則第二条の一つ前、三十五号で廃止された「風味調味料品質表示基準」(平成十二年農林水産省告示第千六百六十九号)のほうは[1]、内容が府令の別表へ移されている。別表には風味調味料の定義が置かれ、名称表示の側には、風味原料の配合率が算式で八・三パーセント以上と算出されるものについては種類名を括弧書きで添える、という手順まで書き込まれている[1]。
同じ一覧で同じように廃止された二つの告示のうち、片方は定義も算式ごと府令へ移り、もう片方は移されなかった。めんつゆや白だしの境目を条文で線引きしようとしても行き着かないのは、規定が抜け落ちているからではなく、統合のときに引き継がれなかったからである。両者の境目を数値や条文で示す記述は、本記事の参考資料の範囲では見当たらない。
規定が無い部分は「無い」と書く
だし醤油とめんつゆ・白だしの違いを、しょうゆとだしの配合比率や希釈倍率といった数値で説明したくなるが、今回の一次情報の範囲にはその種の規格値は含まれていない。区別の手がかりとして確認できるのは、公正競争規約の側で「しょうゆ、しょうゆ加工品及びめん類等用つゆ」という三つのカテゴリーが並列に扱われているという事実だけである[2]。つまり業界の枠組み上、しょうゆ加工品とめん類等用つゆは隣接しつつも別区分として扱われている。
だし醤油 めんつゆ 違いをどう捉えるか
家庭で置き換えを考える際は、名称欄の表記を起点に考えるのが実務的である。名称欄が「しょうゆ加工品」であれば、しょうゆに近い塩味の骨格にだしの風味を足したものであり、名称欄が「めんつゆ」「つゆ」であれば、希釈して使う前提の濃縮調味液として設計されている場合が多い。この違いは規格上の数値では確認できないため、パッケージの使用方法欄(希釈の要否)を合わせて読むことが、境目を見極める現実的な手段になる。
だし入りは塩分と糖分の設計が違う
だし醤油は、しょうゆにだしや砂糖・みりんなどを加えて作られているため、しょうゆ単体とは味の骨格が異なる。今回参照した一次情報には具体的な塩分濃度や糖度の数値は含まれていないため、ここでは数値を挙げず、置き換えの考え方だけを整理する。
レシピの置き換えで起きるずれ
しょうゆを指定したレシピにだし醤油をそのまま同量で置き換えると、だしのうま味や副原料の甘みが加わる分、仕上がりの塩味と甘みのバランスが変わりやすい。これは、だし醤油がしょうゆの定義から外れるほどに副原料を加えた調味料である以上、自然に生じる差である[1]。一般的な対処として、まず少なめの分量で置き換えて味を見ながら調整するという進め方が、家庭の調理では取り入れやすい。
家庭で使い切るときの考え方
輸入食材店で買っただし醤油を使い切りたい場合、しょうゆの代わりとして使うよりも、だし醤油そのものの設計(だしと調味料が加わった調味料)を活かせる料理に回す方が、味の破綻が少ない。煮物や卵かけご飯のように、しょうゆ単体では物足りなさを感じやすい場面にだし醤油を充てると、加えられただしや砂糖の存在が活きる。数値化された置き換え比率は今回の一次情報からは確認できないため、味を見ながら調整するという定性的な指針にとどめておく。
買うときに一括表示のどこを見るか
だし醤油を選ぶ際に確認しておきたいのは、名称欄・原材料名欄・添加物欄の三点である。
- 名称欄:「しょうゆ」と書かれているかを確認する。「しょうゆ」以外の名称(「しょうゆ加工品」など)であれば、だしや副原料が加わった調味料だと見当をつける目安になる。
- 原材料名欄: 大豆・小麦・食塩といったしょうゆの基本原料に加えて、かつお節エキス、こんぶだし、砂糖、みりんなどが書かれているかを確認する。
- 添加物欄: 調味料(アミノ酸等)などの記載があるかどうかを確認し、発酵由来の味と添加された呈味成分の違いを意識する。
一括表示欄を確認する習慣があると、商品名だけでは分からない設計の違いを買う前に把握できる。なお、しょうゆの製法におけるこうじ(麹菌を培養したもの)ともろみ(食塩水や生揚げを加えて発酵させる工程の対象物)の配合そのものは、しょうゆの醸造工程に関わる論点であり、だし醤油の表示区分とは別の話として切り分けて考える必要がある[1]。
結論
だし醤油の名称欄に「しょうゆ」と書けないのは、食品表示基準がしょうゆを、もろみを「発酵させ、及び熟成させて得られた清澄な液体調味料」と定義しており、だしを加える工程がこの定義に含まれていないためである[1]。「しょうゆ加工品」という語自体は食品表示基準の条文には現れず、公正競争規約及び施行規則の側で使われている業界用語であり[2]、この所在の違いを取り違えないことが、だし醤油の表示を正しく読むための出発点になる。めんつゆや白だしとの境目、置き換えの分量については、今回確認できた一次情報の範囲では数値的な規定が見当たらず、名称欄の表記と使用方法欄を読み合わせて判断するのが現実的である。だし醤油は、商品名より先に一括表示の名称欄を見て選びたい。
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参考文献
- 食品表示基準 — しょうゆの定義(別表)・名称の表示(第3条・別表第五)
https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010 - しょうゆの表示に関する公正競争規約及び施行規則 — しょうゆ加工品の扱い
https://www.soysauce.or.jp/kousei/hyouji-H31.pdf - テキスト つゆ類の表示(平成23年12月、(仮称)しょうゆ加工品連絡協議会・財団法人日本醤油技術センター) — 問20 だししょうゆなどのしょうゆ加工品
https://www.soysauce.or.jp/wp-content/uploads/2017/11/20130221-01.pdf
