減塩醤油とうすくち醤油は、名称が指している軸がそもそも違う。うすくちは色沢の濃化を抑えた製法による分類であり[1]、塩分の高低を示す名称ではない。色の薄さだけで塩分を判断すると、表示上の食塩相当量と印象が食い違うことがある。
- うすくちは色を抑える製法の呼び名で塩分を示さないため、減塩醤油との塩分差は食塩相当量の表示で比べる。
- しょうゆ業界の規約で「減塩」を名乗れるのは、食塩量が100g中9g以下で、他の品と比べて減らした旨も表示したものに限る。
- 「うす塩」「あま塩」は、標準品より2割以上減らしても100g中9gを超える。「減塩」より塩分は高い側だ。
この記事は「「醤(ひしお・ジャン)」とは何か|東アジア調味料の母体を知る」の各論です。
「色が薄い=塩分が低い」という思い込みをまず外す
色の印象と塩分は別の軸にある
うすくち醤油の色は薄く、見た目の印象から「味も薄い」「塩分も控えめ」と連想されやすい。しかし色の淡さと塩分量を結び付ける規定は、食品表示基準のうすくちしょうゆの定義には置かれていない[1]。色の淡さは仕上がりの色合いに関わる特性であり、塩分量とは別の軸で決まっている。家庭で煮物や吸い物の色を薄く仕上げたいときにうすくちを選ぶ判断と、塩分そのものを抑えたいときの判断は、本来は切り分けて考える必要がある。
家庭でありがちな取り違え
輸入食材店や大型スーパーの和食材コーナーには、うすくち醤油と減塩醤油がほぼ同じ棚に並ぶことが多い。ラベルのデザインや「あっさり」「まろやか」といった訴求語からは、どちらの塩分が高いかを直感的に判断しにくい。減塩のつもりで置き換えるなら、色の淡さを塩分の低さと結びつけず、栄養成分表示の食塩相当量の数値を確かめたい。世界の調味料を家庭で扱う場面でも、名称の印象と成分表示を分けて読む姿勢は同じように役に立つ。
うすくち醤油の定義は色の話であって塩分の話ではない
色沢の濃化を抑える製法という分類軸
うすくち醤油は、醸造・熟成の過程で色沢が濃くなるのを抑える製法によって特徴づけられる分類とされる(醸造は原料に含まれるでんぷんやたんぱく質を麹菌・酵母・乳酸菌などの微生物の働きで分解し、熟成させて風味を作り出す工程を指す)。この分類は色合いの仕上がりに関する呼び名であり、含まれる食塩の量そのものを規定するものではない。同じ「醤油」という括りの中でも、濃口・うすくちといった呼び分けは色沢という一つの軸に基づいており、塩分濃度という別の軸とは独立して存在する。
塩分の高低は表示ラベルで確認する
したがって、うすくち醤油の塩分が高いか低いかは、名称だけでは判断できない。容器に表示された栄養成分表示の食塩相当量を確認する以外に、確実な確認方法は無い。減塩醤油とうすくち醤油を並べて選ぶ場面では、色の濃淡ではなく、この表示の数値を基準に置き換えを判断する方が、実際の塩分量に近づく。名前に「減塩」と付いているかどうかも、後述するように一定の条件を満たしたうえで初めて名乗れる語であり、単なる印象語ではない。
「減塩」と表示できる条件(食品表示基準の枠組み)
含まない旨・低い旨・低減された旨の三段階
食品の栄養成分表示に関する国内の枠組みでは、ナトリウムなどの成分について「含まない旨」「低い旨」「低減された旨」という三段階の表示が定められている[1]。三段階それぞれの基準値は別表にまとめられており、ナトリウムの場合、食品100g当たりで、含まない旨が五ミリグラム、低い旨が百二十ミリグラム、低減された旨が百二十ミリグラムと定められている[1]。しょうゆのように塩を土台に成り立つ調味料が、絶対量で線を引く「低い旨」の枠に入るのは容易ではない。だからこそ、他の同種の食品との比較で線を引く「低減された旨」の枠が、実務上の入口になる。対象となるのはナトリウムだけに限らず、複数の栄養成分または熱量が想定されている。それぞれの条件を整理すると、次のようになる。
| 表示区分 | 表示できる条件 |
|---|---|
| 含まない旨 | 対象成分の量が別表第十三に定める基準値に満たない場合[1] |
| 低い旨 | 対象成分の量が同表の基準値以下である場合[1] |
| 低減された旨 | 他の同種の食品と比べて低減された量が基準値以上、かつ低減された割合が25%以上である場合[1] |
「低減された旨」に求められる比較対象の明示
「低減された旨」の表示には例外規定も置かれている。ナトリウムの含有量を25%以上低減することで、その食品の保存性や品質を保つことが著しく困難な食品については、この表示の適用から除かれる場合がある[1]。しょうゆのように塩分が保存性に関わる調味料では、この例外規定がどこまで及ぶかが実務上の論点になりやすい。加えて「低減された旨」の表示をする場合には、比較対象となる他の同種食品を特定するための事項に加えて、低減された量または割合を表示することが求められている[1][2]。
「低減された旨」表示に伴って明示が必要な主な事項は次の通りである。
- 比較対象となる他の同種食品を特定するための事項
- 低減された量または割合
公正競争規約が「減塩」の語に課す扱い
しょうゆの表示については、業界団体が定める公正競争規約が、食品表示基準の枠組みに上乗せする形で用語の使用条件を定めている[2]。規約は「減塩」のほかにも複数の用語について、それぞれ使用できる条件を個別に決めている。
しょうゆ業界の自主基準としての規約
規約が個別に使用条件を定める主な用語は次の通りである[2]。
- 「減塩」
- 「醸」
- 「天然」「自然」「純」「純正」その他純粋である旨の用語
- 「生」「生揚げ」または「生引き」の用語
このうち「減塩」の用語は、しょうゆ100g中の食塩量が9g以下のものであって、かつ食品表示基準第7条の低減された旨の表示に基づく表示を行ったしょうゆに表示することができるとされている[2]。単に食塩量が少ないというだけでは足りず、食品表示基準上の手続き(比較対象の特定や低減割合の表示)を満たしていることが「減塩」表示の前提になっている。
「うす塩」「低塩」は「減塩」と別の枠にある
規約の施行規則を読むと、塩分に関わる用語は「減塩」ひとつではない。「うす塩」「あさ塩」「あま塩」と、「低塩」「塩分控えめ」等が、それぞれ別の号として立てられている[2]。
「うす塩」「あさ塩」「あま塩」の三語については、こいくち・うすくち・たまり・さいしこみ・しろ及びその他のしょうゆのうち、食塩分が同種の標準的なしょうゆの食塩分に比べて低減された割合が20%以上で、しょうゆ100g中の食塩量が9gを超えるものであって、かつ食品表示基準第7条の低減された旨の表示に基づく表示を行ったしょうゆに表示することができる、と定められている[2]。三つの条件が同時に満たされて初めて名乗れる言葉である。
ここで効いてくるのが数値の向きである。「減塩」は100g中の食塩量が9g以下、「うす塩」等は9gを超えるもの、と条件が書き分けられている[2]。二つは重ならない。つまり棚で「うす塩」と書かれた瓶を見つけたら、それは標準的なしょうゆより2割以上は塩分を減らしているが、9gという線は超えている側だと読める。言葉の柔らかさとは逆に、「減塩」より塩分が高い側を指す用語ということになる。
「低塩」「塩分控えめ」等については、低減された割合が20%以上であって、かつ同じく食品表示基準第7条の低減された旨の表示を行ったしょうゆに表示することができる、とされている[2]。こちらには9gという線が置かれていない。同じ「塩分が少なそうな言葉」でも、規約が課している条件はそれぞれ違う。
「低」表示と「低減された旨」表示の違い
規約はさらに、比較対象食品や低減量・割合を記載せずに単に「低」などと表示した場合には、低減された旨の表示ではなく低い旨の表示として扱われると定めている[2]。うすくち醤油の側にはこうした「減塩」を名乗るための個別の要件は課されていない。色沢に関する分類名であることと、減塩を名乗る手続きを経ているかどうかは、制度上まったく別の話になる。この切り分けを知っておくと、パッケージの表現に振り回されずに済む。
継続使用で塩味の感じ方が変わるという研究
塩味の感じ方は、使用する醤油の食塩濃度に対して固定されているわけではなく、継続して使う中で変化するという報告がある。日本調理科学会大会で発表された研究では、通常の濃口醤油の半分の食塩含量である減塩醤油を継続的に使用した場合に、鹹味(塩味を指す語)の嗜好にどのような影響が出るかが検討されている[3]。
実験の設計(36日間、食塩含量7.8%)
実験の対象者に課された条件は次の通りである[3]。
- 一人暮らしであること
- 日常的に濃口醤油を使用していること
- 食塩濃度差識別試験に正解すること
条件を満たした女子大学生12名を対象に、まず刺身と高野豆腐含め煮を使った鹹味嗜好試験が実施された。そのうえで36日間にわたり、調理に使う醤油をすべて食塩含量7.8%の減塩醤油(キッコーマン社製)に置き換える生活を送り、その後に同様の鹹味嗜好試験を再度行うという設計になっている[3]。
抄録から確認できる範囲
抄録の時点で確認できるのはここまでの実験デザインである。置き換え後に嗜好がどの方向へどれだけ動いたかという結果の数値そのものは、今回参照した範囲では確認できない。継続使用によって塩味の感じ方に何らかの変化が起こりうるという前提のもとで実験が組まれている点は読み取れるが、変化の大きさを断定する材料は今回の抄録には含まれていない。36日間という期間の長さそのものからは、塩味の感覚が短期間では変わらないという前提がうかがえる。実験の結果を知りたくなる抄録だが、公開されている要旨の範囲では対象者の条件と実施手順までしか追うことができず、嗜好がどちらの方向にどれだけ動いたかは、この記事の範囲では推測にとどまる。
結論 — 台所での置き換え方
棚の前で使える形にすると、塩分に関わる言葉は三つに整理できる。100g中の食塩量を9g以下まで下げたものだけが名乗れる「減塩」、2割以上下げたうえで9gは超えている「うす塩」「あさ塩」「あま塩」、そして9gという線を持たず2割以上の低減で名乗れる「低塩」「塩分控えめ」である[2]。三つとも食品表示基準第7条の低減された旨の表示を伴うことが前提になっている点は共通しており[2]、違いは塩分量そのものの条件のほうにある。言葉の柔らかさや色の濃淡ではなく、この条件の差が実際の塩分量の差に対応している。
ここまでの内容を踏まえると、減塩醤油とうすくち醤油のどちらを選ぶかは、色の濃淡ではなく容器に書かれた情報で判断するべき問題だとわかる。うすくち醤油は色沢の濃化を抑えた製法による分類であり[1]、塩分の高低を示す名称ではない。「減塩」と表示された醤油は、食品表示基準が定める低減された旨または低い旨の要件を満たしたうえで、しょうゆの公正競争規約施行規則が定める、しょうゆ100g中の食塩量が9g以下という条件もクリアしている[2]。
表示のどこを見れば分かるか
置き換えを検討する際に確認しておきたい点は次の通りである。
- パッケージの栄養成分表示にある食塩相当量の数値
- 「減塩」「低塩」などの表示がある場合、比較対象食品や低減割合が併記されているか
- 色を薄く仕上げたいのか、塩分を抑えたいのか、目的をどちらか一方に絞ること
置き換えを試すときの目安
塩味の感じ方は使い続ける中で変わりうるという報告もあり[3]、置き換え直後の「物足りなさ」だけで判断せず、しばらく使ってから味の印象を見直す余地がある。輸入食材店で見慣れない醤油を手に取ったときも、まず食塩相当量の表示を確認し、色の濃淡とは切り離して考える姿勢が、実際の塩分量に近い選択につながる。色の名前(うすくち)と塩分の名前(減塩)が同じ棚に並んでいること自体が誤解の温床であり、調べた範囲では、表示を読む習慣を持つ以外に確実な見分け方は無い。
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参考文献
- 食品表示基準 — 低減された旨・低い旨の表示(栄養強調表示)・うすくちしょうゆの定義(別表第三)
https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010 - しょうゆの表示に関する公正競争規約及び施行規則 — 「減塩」等の用語
https://www.soysauce.or.jp/kousei/hyouji-H31.pdf - 減塩醤油を用いた減塩調理への慣れの評価(日本調理科学会大会研究発表要旨集)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajscs/26/0/26_122/_article/-char/ja
