DOP・AOP・IGPとは|ラベルでわかるEU原産地呼称の読み方

DOP・AOP・IGPとは|ラベルでわかるEU原産地呼称の読み方

DOP(保護原産地呼称)は生産全工程が特定地域で行われる製品に、IGP(保護地理的表示)は少なくとも一工程が当該地域で行われる製品に与えられるEUの認証制度である[1]。AOPはDOPのフランス語表記に過ぎず、制度上は同一である。輸入食材店でパルミジャーノ・レッジャーノやバルサミコ酢のラベルに見かけるこれらのマークは、単なる高級品の証ではなく、原料・製法・熟成期間まで仕様書で定められた地理的な品質保証を意味する。ラベルを読み分けることで、同じ名前の製品でも製法の厳格さや価格帯の違いを購入前に見極められる。

目次

結論:3つのマークの違い早見表

DOP・AOP・IGPは、いずれもEU規則1151/2012に基づく地理的表示保護制度の認証マークである[1]。次の表に、制度上の要件と実際の製品への影響をまとめた。

マーク正式名称生産工程の地域要件原料の産地要件代表例(調味料)
DOP / PDO保護原産地呼称(Protected Designation of Origin)全工程が指定地域内原則として指定地域産Aceto Balsamico Tradizionale di Modena(モデナ伝統バルサミコ酢)[3]
AOPAppellation d’Origine ProtégéeDOPと同一(フランス語表記)DOPと同一Huile d’olive de Nyons(ニヨンのオリーブオイル)
IGP / PGI保護地理的表示(Protected Geographical Indication)少なくとも一工程が指定地域内域外産の原料使用可Aceto Balsamico di Modena(モデナのバルサミコ酢)[3]

AOPは制度上DOPと完全に同一であり、フランス語圏の製品に多く見られる表記に過ぎない。実質的な違いはDOPとIGPの二択である。DOPは原料調達から最終製品まで地域に紐付く一方、IGPは「地域との結びつき」が一工程でも認められれば登録できるため、製法の自由度が高い。

この違いは価格にも直結する。モデナ伝統バルサミコ酢(DOP)は100mlで1万円を超える製品も珍しくないが、モデナのバルサミコ酢(IGP)は250mlで1000円前後から入手できる。ラベルの文字列一つで製法と価格帯が変わる以上、購入前の確認は欠かせない。

DOP/AOP(保護原産地呼称)の意味

DOPは Protected Designation of Origin の略であり、日本語では「保護原産地呼称」と訳される[1]。フランス語では Appellation d’Origine Protégée(AOP)と表記されるが、制度内容は同一である。EU規則1151/2012第5条は、DOP登録の要件として「製品の品質または特性が、本質的にまたは専ら特定の地理的環境に由来すること」「生産、加工、調製のすべてが定められた地理的地域内で行われること」を定めている[1]

全工程が地域内で完結する厳格さ

DOPの核心は「全工程の地域内完結」にある。原料の栽培・収穫から、加工、熟成、瓶詰めに至るまで、仕様書で指定された地域の外に出ることは原則として許されない。たとえばパルミジャーノ・レッジャーノDOPの場合、乳牛の飼育地域、生乳の産地、チーズ製造工房、熟成庫のすべてがエミリア=ロマーニャ州とロンバルディア州の指定5県内に限定される。飼料の種類や搾乳後の冷却温度、熟成期間(最低12カ月)まで仕様書に明記されており、違反すれば名称の使用権を失う。

この厳格さは、風土と製法が不可分であるという思想に基づく。土壌、気候、微生物相、伝統的な道具や技術が組み合わさって初めて再現できない品質が生まれる、という考え方である。DOPは単なる産地ブランドではなく、地理的環境そのものを製法の一部とみなす制度だと言える。

AOPとの表記の違いと実質的な同一性

フランス語圏の製品にはAOPの表記が多いが、EU法上の定義・要件はDOPと完全に一致する。1992年のEU規則2081/92で初めて導入された際、英語圏ではPDO(DOPの英語表記)、フランス語圏ではAOPと呼ばれたが、2012年の規則改正後も両表記が併存している。ラベルに「AOP」と書かれていても、それは単に製造国の言語習慣を反映しているに過ぎず、認証の厳格さに差はない。

実務上は、フランス産のワインビネガーやオリーブオイルにAOP表記が、イタリア産のチーズやバルサミコ酢にDOP表記が多い傾向がある。購入時にはAOPとDOPを同一視し、IGPとの違いに注意を向けるほうが実用的である。

IGP(保護地理的表示)の意味

IGPは Protected Geographical Indication の略であり、日本語では「保護地理的表示」と訳される[1]。EU規則1151/2012第5条は、IGP登録の要件として「製品の特定の品質、評判、その他の特性が地理的起源に帰せられること」「生産、加工、調製の少なくとも一段階が定められた地理的地域内で行われること」を定めている[1]

「少なくとも一工程」が地域内であればよい柔軟性

IGPの最大の特徴は、全工程ではなく「少なくとも一工程」が指定地域内で行われればよい点にある。原料は域外から調達してもよく、最終的な加工や熟成、あるいは品質検査のいずれかが地域内で実施されれば登録要件を満たす。この柔軟性により、伝統的な製法を維持しつつ、原料調達や生産規模の拡大に対応できる。

たとえば「Aceto Balsamico di Modena」IGPは、ワインビネガーとぶどう果汁を混合し、モデナまたはレッジョ・エミリア県内で熟成・瓶詰めすることで認証される[3]。原料のワインビネガーはイタリア国外から調達してもよく、熟成期間も最短60日と短い。一方、同じモデナでも「Aceto Balsamico Tradizionale di Modena」DOPは、地元産のぶどう果汁のみを使い、最低12年の樽熟成を経なければならない[3]。名称の類似にもかかわらず、製法と価格は大きく異なる。

地域の「評判」も保護対象に含まれる点

IGPはDOPと異なり、「評判(reputation)」を登録要件に含む[1]。製品の品質が地理的環境に本質的に由来しなくとも、長年その地域の名で知られ、消費者がその名称に特定の品質を期待するようになった場合、IGPとして保護される余地がある。この点で、IGPは地理的ブランドの保護に近い性格を持つ。

たとえばスペインのハモン・セラーノIGPは、豚の品種や飼育地に厳格な制限を設けず、スペイン国内で伝統的な塩漬け・乾燥工程を経た生ハム全般を対象とする。品質のばらつきは大きいが、「スペインの生ハム」という評判そのものを保護する制度として機能している。調味料の文脈では、地域名を冠した製品が模倣品や安価な代替品に市場を奪われるのを防ぐ役割をIGPが担う。

eAmbrosiaでの調べ方(誰でも原本を確認できる)

eAmbrosiaは、EU全域で登録された地理的表示(DOP・IGP・伝統的特産品保証など)を検索できる公式データベースである[3]。欧州委員会農業総局が運営し、各製品の仕様書(Product Specification)、生産地域の地図、登録日、管理団体の連絡先まで公開されている。ラベルに記載された名称が本物のDOP/IGPかどうか、どのような製法で作られているかを、誰でも無料で確認できる。

検索方法と仕様書の読み方

eAmbrosiaのトップページ(https://ec.europa.eu/agriculture/eambrosia/)から、製品名または国名で検索できる。たとえば「Aceto Balsamico」と入力すると、モデナ伝統バルサミコ酢(DOP)とモデナのバルサミコ酢(IGP)の両方がヒットする。各エントリーをクリックすると、登録番号、登録日、生産地域、製品カテゴリー(Category 1.8: Other products of animal origin など)、仕様書のPDFリンクが表示される。

仕様書は英語・フランス語・イタリア語など複数言語で提供されることが多い。調味料の場合、次の項目が記載されている:

  • 原料の種類と産地(ぶどう品種、塩の種類、魚の種類など)
  • 製造工程(発酵温度、熟成期間、樽の材質など)
  • 最終製品の物理化学的特性(酸度、糖度、塩分濃度など)
  • 官能特性(色、香り、味わいの記述)
  • ラベル表示の規則(ボトル形状、ロゴの配置など)

仕様書を読むことで、同じ名称の製品でもDOPとIGPでどこまで製法が異なるかを具体的に把握できる。

日本の消費者が活用する意義

日本国内で流通する輸入調味料のラベルには、DOPやIGPのロゴが印刷されていても、詳細な製法や原料は記載されないことが多い。eAmbrosiaで仕様書を確認すれば、購入前に製品の正確なグレードを知ることができる。たとえば「バルサミコ酢」と称する製品が、伝統製法のDOPなのか、ワインビネガー混合のIGPなのか、あるいはEU認証外の単なる「バルサミコ風調味料」なのかを判別できる。

また、仕様書に記載された製法を参考にすることで、家庭での再現や代用品の選定にも役立つ。たとえばシェリービネガーDOPの仕様書には、シェリー酒の酸化熟成とソレラ・システムによるブレンドが必須と明記されている。この情報があれば、他の果実酢で代用する際にも「酸化熟成の風味」を補う工夫(わずかな酸化を許容する保存法など)を検討できる。

調味料での実例(バルサミコ・シェリービネガー・ニョクマム)

DOP・IGPの違いは、調味料の具体例で見るとより明確になる。ここでは、製法と価格帯が大きく異なる3つの事例を取り上げる。

モデナのバルサミコ酢:DOPとIGPの二重登録

モデナのバルサミコ酢は、同じ地域で2つの異なる認証を持つ稀有な例である[3]。「Aceto Balsamico Tradizionale di Modena」DOPは、地元産のぶどう果汁(トレッビアーノ種またはランブルスコ種)のみを煮詰め、木樽で最低12年(エクストラヴェッキオは25年以上)熟成させる。添加物は一切使わず、年月をかけて水分が蒸発し、糖度と酸度が凝縮される。仕様書では樽の材質(オーク、クリ、サクラ、ジュニパーなど)や熟成中の樽の移し替え(トラヴァーゾ)まで規定されている[3]

一方「Aceto Balsamico di Modena」IGPは、ワインビネガー(最低10%)とぶどう果汁またはぶどう濃縮果汁(最低20%)を混合し、最短60日の熟成で製品化できる[3]。カラメル色素の添加も認められており、製法の自由度は高い。価格は前者が100mlで1万円以上、後者は250mlで1000円前後と、10倍以上の差がある。

ラベルには「Tradizionale(伝統的)」の有無が決定的な手がかりとなる。この一語があればDOP、なければIGPと判断してよい。輸入食材店で「バルサミコ酢」と表示されている製品の大半はIGPであり、DOPは専門店や百貨店でなければ入手しにくい。

シェリービネガー(Vinagre de Jerez DOP)

シェリービネガーは、スペイン・アンダルシア州ヘレス地方で生産されるワインビネガーである。DOPの仕様書では、原料をヘレス産のシェリー酒(パロミノ、ペドロ・ヒメネス、モスカテルのいずれか)に限定し、ソレラ・システムと呼ばれる樽熟成法で最低6カ月(レゼルバは2年、グラン・レゼルバは10年)熟成させることが義務付けられている。ソレラ・システムは、異なる年代のビネガーを段階的にブレンドする伝統技法であり、複雑な風味と安定した品質を生む。

シェリービネガーDOPは、酸味の奥に甘やかなナッツやドライフルーツの香りが立ち、サラダやマリネだけでなく、煮込み料理の隠し味としても重宝される。日本国内では250mlで2000円前後から入手でき、バルサミコ酢DOPほど高価ではないが、一般的なワインビネガーの2〜3倍の価格帯である。

ニョクマム・フーコック(Nuoc Mam Phu Quoc)とEU・ベトナム間のGI相互承認

ニョクマム・フーコックは、ベトナム・フーコック島で生産される魚醤である。2012年にベトナム国内で地理的表示(GI)として登録され、2020年のEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)発効に伴い、EU域内でも保護対象となった[2]。仕様書では、フーコック島近海で漁獲されたカタクチイワシ科の魚と塩のみを原料とし、木樽で最低12カ月発酵・熟成させることが定められている。

EU・ベトナム間のGI相互承認により、ニョクマム・フーコックはEU市場で「Nuoc Mam Phu Quoc」の名称を独占的に使用でき、模倣品の流通を防げる。逆に、ベトナム市場ではEUのDOP・IGP製品(パルミジャーノ・レッジャーノ、プロシュット・ディ・パルマなど)が同様に保護される。この枠組みは、EU外の伝統食品にも地理的表示保護が拡大していることを示す事例である[2]

日本ではニョクマム・フーコックの流通量は限られるが、輸入食材店で「Phu Quoc」の表記があれば、島産の原料と長期発酵を経た製品と判断できる。一般的なニョクマムとの価格差は1.5〜2倍程度であり、風味の複雑さと塩辛さの柔らかさが際立つ。

まとめ

DOP・AOP・IGPは、EUが1992年以降整備してきた地理的表示保護制度の認証マークであり、製法の厳格さと地域との結びつきの強さを示す指標である[1]。DOPは全工程が地域内で完結し、原料・製法・熟成期間まで仕様書で厳密に定められる。IGPは少なくとも一工程が地域内で行われればよく、原料調達の自由度が高い[1]。AOPはDOPのフランス語表記に過ぎず、制度上の違いはない。

輸入調味料を選ぶ際、ラベルのDOP/IGP表記を確認することで、製法と価格帯をある程度予測できる。モデナのバルサミコ酢のように、同じ地域名でもDOPとIGPで製法が大きく異なる例は珍しくない[3]。eAmbrosiaで仕様書を確認すれば、購入前に原料・熟成期間・添加物の有無を把握でき、用途に応じた製品選びが可能になる[3]

私自身、輸入食材店で「バルサミコ酢」の棚を眺めるたび、価格の幅に戸惑った経験がある。ラベルの「Tradizionale」の有無と、DOP/IGPのマークを読み分けられるようになってから、製法の違いを納得したうえで選べるようになった。地理的表示制度は、消費者が情報に基づいて選択する権利を支える仕組みでもある。次回輸入食材店を訪れる際は、ラベルの小さなマークに目を向け、eAmbrosiaで仕様書を確認してみるとよい。製法の背景を知ることで、調味料の使い方や保存法にも新たな視点が生まれる。

参考文献

  1. EU規則1151/2012(農産物・食品の品質スキーム)
    https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32012R1151
  2. WIPO 地理的表示
    https://www.wipo.int/geo_indications/
  3. EU eAmbrosia: モデナのバルサミコ酢 DOP/IGP登録
    https://ec.europa.eu/agriculture/eambrosia/geographical-indications-register/

この記事を書いた人

世界の調味料を、現地の一次資料から読み解く資料気質の編集部です。ナンプラーならタイの国家規格、バルサミコ酢ならEUの原産地呼称の登録簿——本国の公的機関や規格に当たり、数字と固有名詞は出典で裏を取ってから書きます。家庭で「あの国の味」を再現したい人の役に立つことを第一に。

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