種子油は、菜種・ひまわり・グレープシード・米など植物の種子を圧搾または溶剤抽出して得られる食用油脂の総称である。USDAが集計する主要植物油9品目の世界生産量(2025/26年度、2億3848万トン)のうち、菜種油は3627万トンで約15%、ひまわり油は2112万トンで約9%を占めており[3]、加熱調理から生食まで幅広く使われる。同じ「種子由来」でも、菜種油は1970年代の品種改良でエルカ酸を大幅に削減した歴史を持ち、ひまわり油は高オレイック種の登場で揚げ物適性を高め、グレープシード油と米油は軽い風味で仕上げ油として重宝される。製法も精製度も異なるこれらの油を使い分けるには、脂肪酸組成と製法の違いを押さえる必要がある。
種子油とは――種を搾る/抽出する汎用油
種子油は、油糧作物の種子に含まれる脂質を取り出した植物油脂である。大豆・菜種・ひまわり・綿実・ゴマ・グレープシード・米ぬかなどが主な原料となり、圧搾法または溶剤抽出法で油分を分離する。圧搾法は物理的に種子を押し潰して油を絞り出す方法である。国際規格であるCodex規格CXS 210は、圧搾や搾出などの機械的手段と加熱のみで得た油を「バージン油(virgin oils)」、加熱を加えず機械的手段だけで得た油を「コールドプレス油(cold pressed oils)」と定義しており、いずれも水洗・静置・ろ過・遠心分離による精製までしか認めていない[1]。溶剤抽出法はヘキサンなどの有機溶剤で油分を溶かし出し、その後溶剤を蒸発させて回収する方法で、工業的には抽出効率が高く大量生産に向く。
日本農林規格(JAS 0523:2024)は、食用サフラワー油・食用ぶどう油・食用大豆油・食用ひまわり油・食用とうもろこし油・食用綿実油・食用ごま油・食用なたね油・食用こめ油・食用落花生油・食用オリーブ油・食用パーム油・食用パームオレイン・食用パームステアリン・食用パーム核油・食用やし油・食用調合油・香味食用油の18品目について品質を規定している[2]。ここで注意したいのは、JASが定めているのは「原料が何か」と「等級ごとの品質基準」であって、圧搾か溶剤抽出かという製法の区分ではない点だ。告示本体に「圧搾」という語は一度も登場しない。例えば食用なたね油の定義は「あぶらな又はからしなの種子から採取した油であって,食用に適するよう処理したもの」であり、等級は「なたね油」「精製なたね油」「なたねサラダ油」の3段階に分かれる[2]。等級を分けるのは製法ではなく、一般状態・色・水分及びきょう雑物・比重・屈折率・冷却試験・酸価・けん化価・よう素価・不けん化物といった測定値である。なお複数の植物油を混ぜた製品は「なたね油」の下位区分ではなく、「食用調合油」という独立した品目として扱われる[2]。
種子油の特徴は、果実油(オリーブ油など)に比べて風味が穏やかで、加熱調理に使いやすい点にある。脂肪酸組成は原料種子によって大きく異なり、菜種油とひまわり油はオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)を主体とし、大豆油はリノール酸(多価不飽和脂肪酸)の割合が高い。この組成の違いが、加熱安定性と風味の個性を決める。
圧搾法と溶剤抽出法の違い
圧搾法は、種子を機械的に押し潰して油を搾り取る方法である。Codex規格の定義に従えば、コールドプレスは加熱を一切加えずに機械的手段のみで搾る方法を指す[1]。「〇〇℃以下」といった温度の数値基準は国際規格にもJASにも置かれていないため、市販品が掲げる低温圧搾の温度はメーカーの自主基準と理解しておくのが正確だ。加熱を伴わない分だけ熱による酸化や風味の劣化を抑えられるが、種子に油分が残りやすい。高温圧搾は種子を事前に加熱してから圧搾する方法で、搾油効率は上がるが熱による酸化リスクも高まる。
溶剤抽出法は、圧搾後の残渣や種子全体をヘキサンに浸して油分を溶かし出し、その後ヘキサンを蒸発・回収する。工業的にはコストと効率の面で優れるが、溶剤の残留を避けるため脱溶剤処理を徹底する必要がある。ここを規制しているのはJASではなく食品衛生法側である。ヘキサンは食品添加物(抽出溶剤)として食用油脂の製造に用いられる。厚生労働省の通知は、使用基準にいう「抽出」には特定油脂を取り出す「溶剤分別」も含まれると解したうえで、最終製品からヘキサンが除去されている限り使用基準違反とならない、という解釈を示している[5]。つまり「残留量が一定値以下ならよい」という数値基準ではなく、完成前に除去することが条件になっている。JAS告示にヘキサンや溶剤の残留基準は置かれていない。告示中で「ヘキサン」が現れるのは脂肪酸組成やよう素価を測る試験の試薬としてであり、「溶剤」は食用パームオレイン・食用パームステアリンの分別工程の定義に現れるにとどまる[2]。
家庭用として流通する種子油の多くは、溶剤抽出後に精製を施した製品である。精製工程には脱ガム(リン脂質の除去)、脱酸(遊離脂肪酸の中和)、脱色(色素の吸着除去)、脱臭(高温真空下での揮発成分除去)が含まれ、これによって色・香り・雑味を抑えた透明な油が得られる。
世界の種子油生産と用途
USDAの需給推計によれば、2025/26年度の主要植物油9品目の世界生産量は2億3848万トンで、内訳はパーム油8146万トン、大豆油7236万トン、菜種油3627万トン、ひまわり油2112万トンとなっている[3]。最大の植物油はパーム油で、大豆油が第二位、菜種油が第三位、ひまわり油が第四位という順序だ。菜種油はEU(1067万トン)・中国(757万トン)・カナダ(530万トン)が主産地で、ひまわり油はロシア(690万トン)・ウクライナ(473万トン)・EU(317万トン)が生産の中心である[3]。
種子油の用途は、家庭用調理油・業務用フライ油・マーガリンやマヨネーズなどの加工油脂・バイオディーゼル燃料と多岐にわたる。日本国内では、菜種油と大豆油を主原料とする「サラダ油」が広く普及している。ただしJASの「サラダ油」は独立した商品カテゴリーではなく、油種ごとに置かれた最上位の等級名である。告示には「なたねサラダ油」「大豆サラダ油」「ひまわりサラダ油」「ぶどうサラダ油」「こめサラダ油」「調合サラダ油」といった形で、油種名とセットでしか現れない[2]。その要件も「精製度が高い」という抽象的な文言ではなく、冷却試験(試料を0℃の氷水中に保つ試験)で5時間30分にわたり清澄であること、という具体的な測定条件で定義されている[2]。低温で濁らないという特性は、この試験に通ることの結果として担保されているわけだ。市販のサラダ油は複数の種子油をブレンドした「調合サラダ油」が多く、風味の中立性と価格の安定性を両立している。
菜種油/キャノーラ――エルカ酸と品種改良の歴史
菜種油は、アブラナ属の種子を原料とする植物油である。Codex規格CXS 210は、通常の「なたね油(rapeseed oil)」を Brassica napus、Brassica rapa、Brassica juncea、Brassica tournefortii の種子由来と定義し、これとは別に「低エルカ酸なたね油(rapeseed oil – low erucic acid)」を立て、その別名として「canola oil」を明示している[1]。つまりキャノーラ油とは、国際規格上は低エルカ酸なたね油そのものを指す呼称である。
古くから灯火用・食用として利用されてきたが、在来種にはエルカ酸(炭素数22の一価不飽和脂肪酸)が多く含まれ、食用適性に疑問が持たれた。カナダの育種家が低エルカ酸・低グルコシノレート品種の開発に着手したのは1950年代半ばで、この条件を満たす実用品種が最初にカナダで発表されたのは1974年、「キャノーラ(canola)」という名称(”Canadian oil” に由来)が正式に採用されたのは1978年である[6]。カナダの公的定義では、キャノーラはエルカ酸2%未満、かつ乾燥・脱脂した粕1gあたりグルコシノレート30μmol未満とされる[6]。Codex規格も、低エルカ酸なたね油のエルカ酸を全脂肪酸の2%以下と定めている[1]。
日本が輸入する菜種も、現在は低エルカ酸品種が中心である。ここで一点補足しておくと、「キャノーラ油」という表示の根拠はJASにはない。JAS 0523の告示本体に「キャノーラ」という語は一度も現れず、告示が定める等級名はあくまで「なたね油」「精製なたね油」「なたねサラダ油」である[2]。また同規格の表示に関する規定は食用パームステアリン・食用パーム核油・食用やし油の3品目に限定されており、一般の食用油のラベル表示は消費者庁が所管する食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)に基づく[2][7]。同基準の別表第二十二(食用植物油脂)が現行版で掲げる表示禁止事項は、「「精製」その他等級を示す用語と紛らわしい用語」と「原料食用油脂の一部の油脂名を特に表示する用語」の2項目である[7]。店頭で見る「キャノーラ油」は、低エルカ酸品種由来であることを示す商品名として定着したもので、JAS等級名ではない。
脂肪酸組成と加熱安定性
Codex規格CXS 210が定める低エルカ酸なたね油(キャノーラ油)の脂肪酸組成レンジは、オレイン酸51.0~70.0%、リノール酸15.0~30.0%、α-リノレン酸5.0~14.0%、パルミチン酸2.5~7.0%、ステアリン酸0.8~3.0%である[1]。オレイン酸は一価不飽和脂肪酸で、加熱による酸化に比較的強く、揚げ物や炒め物に適する。リノール酸とα-リノレン酸は多価不飽和脂肪酸で、必須脂肪酸として体内で合成できないため食事から摂取する必要があるが、加熱すると酸化しやすい。同じCodex規格で大豆油のリノール酸は48.0~59.0%、オレイン酸は17~30%とされており[1]、キャノーラ油はオレイン酸主体である分だけ加熱安定性が高い。
発煙点は油が加熱されて分解し、煙を発し始める温度である。ここで一つ、広く流布している誤解を正しておきたい。米国の油脂業界団体ISEOが公表する解説書は、「油の不飽和度は発煙点・引火点・発火点にほとんど、あるいはまったく影響しない」と明記している(同書の発煙点表はAOCS Cc 9a-48法=クリーブランド開放式による単発試験である)[4]。多価不飽和脂肪酸が多いから発煙点が低い、という因果関係は成り立たない。発煙点を実際に左右するのは遊離脂肪酸の量で、ISEOは遊離脂肪酸0.05%程度の非ラウリン系油であれば発煙点はおおむね420°F(約216℃)、引火点620°F、発火点670°F前後になるとしている[4]。使い込んで遊離脂肪酸が増えた油は発煙点が下がり、新しい油を継ぎ足すと戻る。精製キャノーラ油の発煙点が高いのは、脱酸工程を経て遊離脂肪酸が少ないためであり、家庭用フライ(180~190℃)や炒め物(200℃前後)には十分対応できる。
未精製(コールドプレス)菜種油の特徴
未精製の菜種油は、低温圧搾後に簡易なろ過のみを施した製品で、黄金色を帯び、菜種特有の青臭さと苦味を持つ。脂肪酸組成は精製油と同じだが、トコフェロール(ビタミンE)やフィトステロール(植物ステロール)などの微量成分が残るため、抗酸化性は高い。ただし脱酸工程を経ていない分だけ遊離脂肪酸が多く残るため、精製油に比べて発煙点は低くなる[4]。加熱調理よりも、ドレッシングやマリネなど生食用途に向く。
欧州では、未精製菜種油を「ラプシードオイル(rapeseed oil)」として流通させる例が多い。ドイツやフランスでは、地域の在来種菜種を低温圧搾した製品が農家直売所や専門店で販売され、風味の個性を活かしたサラダ油として使われる。日本でも北海道産の未精製キャノーラ油が一部流通しており、国産志向の消費者に支持されている。
ひまわり・紅花――オレイック種の登場
ひまわり油は、ヒマワリ(Helianthus annuus)の種子を圧搾または抽出して得られる植物油である。Codex規格CXS 210は、通常の「ひまわり油」に加えて「高オレイック酸ひまわり油」と「中オレイック酸ひまわり油」を独立した品目として立てている[1]。通常のひまわり油のリノール酸レンジは48.3~74.0%、オレイン酸は14.0~39.4%で、リノール酸主体の組成だ。リノール酸は必須脂肪酸だが、加熱すると酸化しやすく、揚げ物には不向きとされてきた。この問題を解決するために育種されたのが高オレイック種で、Codexは高オレイック酸ひまわり油をオレイン酸75%以上と定義している[1]。高オレイック種ひまわり油は加熱耐性を持ちながら風味が穏やかで、業務用フライ油として広く採用されている。
紅花油(サフラワー油)も同様に、Codexは通常のサフラワー油と高オレイック酸サフラワー油を分けて規定する。通常種はリノール酸67.8~83.2%、オレイン酸8.4~21.3%のリノール酸型で、高オレイック種はオレイン酸70%以上と定義される[1]。リノール酸型紅花油はドレッシングやマヨネーズの原料に、高オレイック種は加熱調理用に使い分けられる。
高オレイック種の脂肪酸組成と発煙点
Codexが定める高オレイック酸ひまわり油の脂肪酸組成レンジは、オレイン酸75.0~90.7%、リノール酸2.1~17.0%、パルミチン酸2.6~5.0%、ステアリン酸2.9~6.2%である[1]。オレイン酸主体という点でオリーブ油に近い組成で、加熱による酸化に強い。
一方、発煙点そのものは高オレイック種とリノール酸型でそれほど変わらない。前述のとおり、ISEOは不飽和度が発煙点にほとんど影響しないと明記しており[4]、精製工程を同じように経た油であれば、脂肪酸組成の違いだけで発煙点が大きく動くわけではないからだ。両者を分けるのは発煙点ではなく酸化速度である。リノール酸型は加熱中の酸化が速いため、繰り返し使用する業務用フライ油には不向きだ。家庭用としては、リノール酸型は生食用、高オレイック種は加熱用と使い分けるのが合理的である。
紅花油の用途と市場
紅花油は、ひまわり油に比べて生産量が少なく、世界市場ではニッチな位置にある。USDAが需給を追う主要植物油9品目(ヤシ・綿実・オリーブ・パーム・パーム核・落花生・菜種・大豆・ひまわり)にも、少量油脂を扱う「Minor Vegetable Oils」表にも紅花油は立項されておらず、統計上は個別に把握されにくい規模にとどまる[3]。主産地は限られ、統計上も個別に把握しにくい。日本では、リノール酸型紅花油が「ベニバナ油」として健康食品市場で流通し、必須脂肪酸の補給を訴求する製品が多い。
高オレイック種紅花油は、業務用フライ油としても使われる。風味が中立的で、揚げ物の素材の味を邪魔しないため、ポテトチップスやドーナツの製造に使われる。ただし価格は高オレイック種ひまわり油よりやや高く、コスト重視の用途では後者が選ばれることが多い。
グレープシード・米油――軽さと発煙点
グレープシード油は、ワイン醸造の副産物であるブドウの種子を原料とする植物油である。Codex規格CXS 210は「Grapeseed oil」を Vitis vinifera L. の種子由来と定義しており、日本のJASでも「食用ぶどう油」として品目が立っている[1][2]。種子の油分が少なく圧搾だけでは採算が合いにくいため、工業的には溶剤抽出が主流である。Codexが定める脂肪酸組成レンジはリノール酸58.0~78.0%、オレイン酸12.0~28.0%、パルミチン酸5.5~11.0%、ステアリン酸3.0~6.5%で、明確なリノール酸型に分類される[1]。風味は非常に軽く、ほぼ無味無臭に近いため、ドレッシングやマリネで素材の味を引き立てる用途に向く。
米油(米ぬか油)は、玄米を精米する際に出る米ぬかを原料とする。CodexもJASも米ぬか由来であることを定義に明記しており、Codexは Oryza sativa L. のぬかから得られる油、JASは「こめぬかから採取した油」と規定する[1][2]。Codexの脂肪酸組成レンジはオレイン酸38~48%、リノール酸21~42%、パルミチン酸14~23%、ステアリン酸0.9~4.0%で、一価不飽和と多価不飽和がおおむね拮抗するバランス型と言える[1]。米油の特徴は、γ-オリザノール(米ぬか特有のフェルラ酸エステル)を含む点にあり、Codexは粗製米油中のγ-オリザノール量を0.9~2.1%の範囲と規定している[1]。
グレープシード油の用途と風味
グレープシード油は、リノール酸が多いため発煙点も低いはずだと思われがちだが、これも前述の誤解にあたる。ISEOによれば不飽和度は発煙点をほとんど左右せず、脱臭まで済ませて遊離脂肪酸を0.05%程度に抑えた非ラウリン系の精製油であれば、発煙点はおおむね同水準に収まる(ヤシ油のように低分子量の脂肪酸を含む油はこれより低い)[4]。したがって精製グレープシード油は短時間の炒め物や揚げ物には問題なく使える。ただし発煙点とは別に、リノール酸が多い分だけ加熱中の酸化は進みやすいため、繰り返し使う業務用フライ油には向かない。家庭では、生食用に使うか、一度きりの揚げ物に使う形が一般的である。
風味の軽さは、オリーブ油やゴマ油のような個性的な香りを避けたい料理に有利である。例えば、白身魚のカルパッチョやフルーツサラダのドレッシングでは、グレープシード油の無味無臭性が素材を引き立てる。また、マヨネーズの自家製では、オリーブ油の苦味を嫌う場合にグレープシード油を代用する例がある。
米油の抗酸化性と揚げ物適性
米油は、γ-オリザノールとトコトリエノール(ビタミンEの一種)を含むため、他の種子油に比べて酸化安定性が高い。揚げ物を繰り返しても油の劣化が遅く、業務用フライ油として天ぷら店や惣菜店で採用される例が多い。家庭用でも、揚げ物後の油を濾して再利用する場合、米油は劣化が遅いため経済的である。
風味は菜種油よりやや香ばしく、ゴマ油ほど強くない。天ぷらや唐揚げでは、米油特有の軽い香ばしさが衣に移り、素材の味を引き立てる。ドレッシングに使うと、わずかに穀物様の香りが残るため、和風サラダや酢の物に合う。
下表に、主要種子油の脂肪酸組成をまとめた。数値はCodex規格CXS 210が定める組成レンジであり、単一製品の実測値ではなく「この範囲に収まっていれば規格に適合する」という幅を示している。
| 油種 | オレイン酸 C18:1(%) | リノール酸 C18:2(%) | パルミチン酸 C16:0(%) | ステアリン酸 C18:0(%) | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| なたね油(低エルカ酸=キャノーラ) | 51.0~70.0 | 15.0~30.0 | 2.5~7.0 | 0.8~3.0 | 揚げ物・炒め物 |
| 高オレイック酸ひまわり油 | 75.0~90.7 | 2.1~17.0 | 2.6~5.0 | 2.9~6.2 | 揚げ物・高温炒め |
| ひまわり油(通常種) | 14.0~39.4 | 48.3~74.0 | 5.0~7.6 | 2.7~6.5 | ドレッシング・生食 |
| ぶどう油(グレープシード) | 12.0~28.0 | 58.0~78.0 | 5.5~11.0 | 3.0~6.5 | ドレッシング・短時間加熱 |
| こめ油 | 38~48 | 21~42 | 14~23 | 0.9~4.0 | 揚げ物・炒め物 |
| サフラワー油(通常種) | 8.4~21.3 | 67.8~83.2 | 5.3~8.0 | 1.9~2.9 | ドレッシング・生食 |
| 高オレイック酸サフラワー油 | 70.0~83.7 | 9.0~19.9 | 3.6~6.0 | 1.5~2.4 | 揚げ物・炒め物 |
出典: Codex Alimentarius, CXS 210-1999, Table 1 [1]
なお発煙点をこの表に併記していないのは、油種ごとの発煙点が脂肪酸組成ではなく主に遊離脂肪酸の量で決まるためである[4]。同じ油種でも精製の程度や使用履歴によって変動するため、「油種=発煙点」という一対一の対応表は誤解を招きやすい。
精製と未精製・使い分けの実際
種子油の精製度は、風味・色・発煙点・保存性に直接影響する。精製油は脱酸・脱色・脱臭を経て、色が透明に近く、香りがほぼ無く、発煙点が高い。未精製油(コールドプレス油)は、圧搾後に簡易なろ過のみを施し、色素・香気成分・微量栄養素を残す。精製度の違いによる使い分けを理解すると、料理の仕上がりと健康面の両立がしやすくなる。
精製油の特徴と用途
精製油は、遊離脂肪酸・リン脂質・色素・揮発性香気成分を除去するため、風味が中立的で加熱安定性が高い。遊離脂肪酸を0.05%程度まで落とした非ラウリン系の精製油であれば、発煙点はおおむね216℃前後に達し[4]、揚げ物・炒め物・焼き物すべてに対応できる。保存性も高く、開封後も酸化が遅いため、常温で数か月保管できる。
業務用では、精製油が圧倒的に主流である。フライヤーで連続使用する場合、未精製油では酸化と発煙が早く、油の交換頻度が上がるためコストが増す。家庭用でも、揚げ物を週に複数回行う場合は精製油が合理的である。
未精製油の特徴と用途
未精製油は、トコフェロール・フィトステロール・カロテノイドなどの微量成分を残すため、抗酸化性と栄養価が高い。ただし脱酸工程を経ていないため遊離脂肪酸が多く残り、その分だけ発煙点は精製油より低くなる[4]。加熱すると香りも強く立つ。ドレッシング・マリネ・冷製パスタなど、生食または低温調理に向く。
風味の個性は、料理によって長所にも短所にもなる。例えば、未精製キャノーラ油の青臭さは、和風ドレッシングでは野菜の香りと調和するが、フルーツサラダでは違和感を生む。未精製ひまわり油のナッツ様の香りは、ロースト野菜のマリネでは香ばしさを増すが、白身魚のカルパッチョでは素材を覆い隠す。
保存と酸化の管理
種子油は空気・光・熱によって酸化する。酸化すると、過酸化物価(POV)が上昇し、油臭さ(酸敗臭)が発生する。精製油は微量成分が少ないため酸化速度が比較的遅いが、未精製油はトコフェロールなどの抗酸化物質を含む一方で、遊離脂肪酸や色素が酸化を促進する要因ともなる。実際には、未精製油の方が酸化しやすい傾向がある。
保存のポイントは、以下の通りである。表中の温度と使い切り期間はAJIMUSE Lab の目安であり、実際は容器の表示に従ってほしい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 遮光 | 透明瓶より暗色瓶、または紙箱入りを選ぶ。 |
| 密閉 | 開封後は空気接触を最小化するため、小分け瓶に移すか、窒素充填キャップを使う。 |
| 冷暗所 | 常温保存が基本だが、夏季は冷蔵庫の野菜室(10~15℃)に入れると酸化を遅らせられる。ただし冷蔵すると飽和脂肪酸が結晶化して白濁する場合があるが、品質に問題はなく、常温に戻せば透明に戻る。 |
| 早期消費 | 開封後は1~2か月以内に使い切る。未精製油は開封後1か月以内が目安である。 |
結論
種子油は、原料種子・品種・精製度によって脂肪酸組成と風味が大きく異なり、用途に応じた使い分けが求められる。キャノーラ油は1970年代の品種改良でエルカ酸を削減し、オレイン酸主体の加熱安定性を獲得した。高オレイック種ひまわり油と紅花油は、さらにオレイン酸比率を高め、業務用フライ油として揚げ物の酸化を抑える。グレープシード油と米油は、それぞれ風味の軽さとγ-オリザノールによる安定性を武器に、生食用と揚げ物用で棲み分ける。精製油は加熱調理全般に、未精製油は生食と低温調理に向き、保存管理と酸化リスクの理解が使いこなしの鍵となる。
編集者として、種子油の選択は「何を作るか」と「どう加熱するか」の二軸で決めるのが最も実用的だと考える。揚げ物と高温炒めには精製キャノーラ油か米油、ドレッシングには未精製ひまわり油かグレープシード油、という基本パターンを押さえた上で、風味の個性を試しながら自分の定番を見つけるとよい。油は調味料の中で使用量が多く、酸化リスクも高いため、小容量ボトルを複数種類揃え、用途別に使い分ける方が、結果的にコストと品質の両立につながる。
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参考文献
- Codex Alimentarius, Standard for Named Vegetable Oils (CXS 210-1999)
https://www.fao.org/input/download/standards/336/CXS_210e_2015.pdf - 食用植物油脂の日本農林規格(JAS 0523:2024、農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_standard/attach/pdf/index-386.pdf - USDA Foreign Agricultural Service, Oilseeds: World Markets and Trade(2026年7月号。★このURLは毎月最新号で上書きされる。本文の数値は2026年7月号のもので、2026年8月号では主要植物油9品目の世界生産量が238.75百万トンへ改訂されている。号を固定して確認するにはESMISの号別アーカイブを参照: https://esmis.nal.usda.gov/publication/oilseeds-world-markets-and-trade)
https://apps.fas.usda.gov/psdonline/circulars/oilseeds.pdf - Institute of Shortening and Edible Oils (ISEO), Food Fats and Oils (2016)
https://edibleoilproducers.org/wp-content/uploads/2025/03/foodfatsoils2016.pdf - 厚生労働省「ヘキサンの使用上の解釈について」(昭和51年9月10日 環食化第110-2号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0578&dataType=1&pageNo=1 - Canadian Food Inspection Agency, The Biology of Brassica napus L. (Canola/Rapeseed)
https://inspection.canada.ca/en/plant-health/plant-varieties/novel-traits/applicants/directive-94-08/biology-documents/brassica-napus - 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第二十二, 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms101_210317_04.pdf
